大和が師範〜キラーマウンテンと呼ばれた陰陽師〜   作:疾風迅雷の如く

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第5指導 吸血鬼少女の意地

東堂が暴れ、翌日。学園長室に数人の生徒と学園長、そして雄山がいた。

「雄山先生、それで何が原因かわかったのですか?」

全員が沈黙する中、学園長が口を開き雄山のオリエンテーションが始まった。

 

「ここにいる生徒の皆さんはある共通点があります。それは1人暮らしであるということともう一つ…とある外部の弁当屋と契約していることです」

「外部というと確か出入りしているのは鴨川弁当(かもかわべんとう)と定食ナポリーの二つだけですが…それがなんの関係が?」

「ここにいる生徒達は毒を盛られたんですよ…この遅効性の毒を」

学園長の机にその毒の粉が入った袋を置くと学園長が興味深くそれを観察し、鑑定し始めた。

 

「ちょっと待った! だったらなんで俺たちは生きている!? 毒を盛られているならとっくに死んでいてもおかしくないじゃないか!?」

「南田君…これは毒は毒でも死に至るような毒じゃない」

南田が疑問に思い、挙手して意見を述べると鑑定し終えた学園長がそういって南田の口を封じた。

 

「今回用いられたのは興奮剤です」

「興奮剤…?」

「通称オーバー。少し前までは調味料として使われていた物ですがそいつには欠点がありました。人間が使う分には問題はありませんが妖怪やその血を継ぐ者が使うと個人差こそあれ時間が経つと凶暴になり魔力も増します…その点では毒というよりドーピングというべきでしょう」

「しかしオーバーは学園都市に持ち込まれないように厳重に監視しているはず…いったい何故…?」

 

「認識妨害を逆に利用されたんですよ。こんな風に…」

雄山が右腕を振るとそこにはなかった木刀が握られていた。

「!! いつの間に…」

「最初からです。認識妨害を用いればこんなことも可能…というよりか誰でも出来ます。奴らはこうやってオーバーを混入させたんですよ」

そして雄山が木刀をおきオーバーを持つ。すると東堂が手を挙げ質問をする。

「でもユーザン先生が何でオーバーを持っているの?」

「ん? いい質問だな…東堂。これは借り物だ。内部にある外部の弁当屋の倉庫を調べたら塩の代わりにこいつがあったから頂戴したまでだ。今鑑識の方に回している」

「で、では一体どちらなんですか? オーバーを混入させたのは…」

「単刀直入に言いましょう。鴨川弁当です」

「なんだって!?」

「信じられない…!!」

場は騒然として、どよめく。それだけ鴨川弁当の知名度は高く信頼されていた。

「学園長。鴨川弁当の歴史は浅いですよね。」

「その通り…半年くらい前までは宅配業を営んでいた。しかし営業が上手く行っていたにもかかわらず、何故か弁当屋に変更して活動し始めた。だが質の割に安く好評で今じゃ注文殺到…まさか!?」

「そう。オーバーの力によるもの…あるいは認識妨害の力。それとも両方か…ですが外に連絡しても妖怪が暴れるような被害はなかった。つまり学園都市(ココ)だけ狙われた可能性が高いってことです」

「!!!」

「そしてこの事件も、被害者を口封じする為に殺した…と俺は考えています」

雄山は新聞紙を取り出して説明した。

「事件の時、鴨川弁当はいつも通りに弁当を運んでいました。しかし事故を起こし、オーバーの単語を呟いたのを被害者が聞き、金を要求してきた。鴨川弁当は内部の裏切り者に連絡し、情報防御と認識妨害の結界を弄らせて警察に連絡が届かないように工作した後そのまま立ち去った…ってのが俺の推理ですが鴨川弁当が殺ったっていう決定的な証拠がないからなんとも言えませんがね」

どの道鴨川弁当はもう終わりだがな。と呟くと学園長室の電話がかかった。

 

「こちら学園…おいっ! しっかりしろ!」

学園長が電話を取ると何やら只ならぬ雰囲気になり、電話が切れた。

「誰からですか?」

「滝河君からだ。君が修理していた結界の監督だよ」

「あいつか…一応お尋ねしますが何のようでした?」

「わからん。だが電話の様子から何者かに襲われていた。至急近くの応援を…」

学園長は電話をかけようとしたが雄山が声を出した。

「止めておいた方がいいでしょう。滝河の周りには役に立たないとはいえ陰陽師が腐る程いたはずです。滝河がやられた以上そんな奴らに応援をしてもすでにやられているでしょう。偵察にしておきましょう」

「それもそうだ…もしもし!」

「俺は少し出張してくる。お前達はもう教室に戻っていいぞ」

雄山はそれだけいって学園長から出て行った。

「…」

そして1人の少女は何も言わずに見ると教室の方向とは違う方向へと足を運んた。

 

▲▼▲▼☆☆☆☆▼▲▼▲

 

雄山が車を運転していると突如上から重たいものが落ちた音が聞こえた。

「ユーザン先生ーっ!」

「ぬおおおおっ!?」

東堂が運転している車の前ガラスに張り付き、目の前が見えなくなったことに雄山はパニックになり、急ブレーキをかけ車を止めた。

 

「東堂!何でここにいる?!」

「ユーザン先生のお手伝いですよ!ユーザン先生、滝河さんって人のところに行くんですよね?」

「…そうだ」

「私も魔力を封じられているとはいえ世界に名だたる種族の吸血鬼です! 戦力にはなります!」

「てめえは相手がわかっているのか? 東堂…」

「…っ!」

雄山は冷たい声で東堂を突き放し、車に寄りかかった。

「相手は平気で陰陽師や妖怪を利用するような奴だ。…お前は何も言わずに帰れ」

「先生! 私を連れて行かなきゃ先生が私を誘拐して犯したってネットで拡散させます!」

そんなことをすれば雄山の人生はめちゃくちゃなものになり、大きく変わるだろう。

「勝手にしろ。俺は教師だ。教師たる者、生徒を危険な場所には行かせられない。例え俺が退職に追い込まれるような事態を選ぶようなことになってもだ!」

「なら!」

東堂は落とせなくなった食器の油汚れのように車の窓に張り付いた。

「先生が連れて行くと言うまで絶対にこの場を離れません!」

こうなっては意地でも動くまい。雄山はそんな判断をしてため息を吐いた。

「なら一生張り付くか?」

雄山は腕を振ってタクシーを呼び出す仕草をして東堂を車ごと置いていこうとして東堂は慌てた。

「車をここに置いていったら駐車違反になりますよ!?」

「東堂。俺はな…生徒を守る為なら車を失おうが駐車違反をしようがそれで金を払おうがブタ箱に入ろうが構わねえ。むしろそれだけで止められるんなら安い値段だ。人の値段は医学的に言えば数億円するからな」

雄山も東堂に負けず頑固で、東堂を帰らせようとしていた。

「ユーザン先生! なんでそこまでして止めるんですか?! 理由を教えてください!」

「理由を話したら帰るか?」

「納得したら帰ります」

「…その言葉信じるぞ。助手席に乗れ」

雄山と東堂は車に乗り、その場を移動した。

 

▲▼▲▼☆☆☆☆▼▲▼▲

 

雄山がアクセルを踏んで車を発進させた。

「俺は陰陽師を一度引退している…それは知っているな?」

「学園長先生から聞きました」

「だけど引退した理由までは知らねえだろうよ?」

「はい。なんでですか?」

東堂が首を傾げ、尋ねると雄山がゆっくりと口を開き、事情を話した。

「9年前まで俺はマフィアや暴力団(ヤクザ)関係者を相手に取引し、そいつらにとって邪魔な陰陽師や妖怪、超常現象を起こせる超能力者達を殺す…早い話がヒットマンをやっていた。」

裏の世界にマフィアや暴力団(ヤクザ)関係者が含まれるのは組長格やその幹部達が妖怪や陰陽師などの存在を知っているからであり、金をちらつかせて組員としても客としても利用しているからだ。雄山がマフィア狩りをしていたのは踏み倒そうとしたマフィア達を見せしめる行為であり同時に代金を回収していたのだ。

 

「ヒットマンって殺し屋みたいなものですか?」

むしろヒットマンは殺し屋そのものであり、裏の世界の中でも表面上しか知らない東堂が疑問に思うのは当たり前だった。

「そうだ。だが9年前、その中に俺を恨んでいる海外マフィアが報復として俺とは関係ない弟を傷つけた」

当然、ヒットマンやマフィア狩りをする以上雄山は恨まれ、その報復にマフィア達は幼い雄山の弟に手を出した。

「先生に弟さんがいたんですか?」

「ああ…幸いなことに弟は顔に刀傷一本、胸に針を縫う程度の軽傷だったがそれでも巻き込んでしまったのは事実だ…」

それで軽傷で済ませるあたり、雄山の基準もおかしいのだが東堂はスルーした

「マフィアに狙われたのによくその程度で済みましたね。弟さん…陰陽師だったんですか?」

「いやそうではないが弟は生まれつき強かった。むしろマフィア達が弟を殺そうとしてムキになって疲弊したくらいだ。その隙を狙って俺はそのマフィアを潰して…というかとどめを刺して引退した。何故かわかるか? …弟がもし普通だったら死んでいたからだよ。俺はそれに気づいてそれ以降は誰も巻き込まれないように陰陽師とは程遠い生活の学校の教師になった」

 

「じゃぁ…ユーザン先生は何故この学園都市に? 陰陽師とは縁を切りたかったんじゃないんですか?」

雄山の弟が規格外なのは置いておいて東堂は当然の疑問を投げかけた。西智学園都市は妖怪と人間が交流する為の都市であり種族だけで否定する偏見をなくすためにある。だが必然的に妖怪と関わる以上裏の世界と関わることになる…

「ここしか教員枠がなかっただけだ…就職に失敗したら親戚共が俺を陰陽師に戻そうとするし、やむなくここで教師をしているって訳だ。来年あたりにはもう学園都市(ここ)から離れる予定だ」

「えっ!? それじゃあ…」

「余程の理由がない限りは陰陽師としての活動はこれで最後だ。お前達とも関わることもないだろうな…」

雄山はどこか切なげに語り、東堂に宣言した。

 

「まあ湿っぽい話になったが要するに俺は誰1人とて巻き込みたくないんだよ。わかったらさっさと降りろ」

そして雄山は駐車場に車を停め、助手席のドアを開け、東堂を帰るように促したが東堂は首を振った。

「先生…本気で言っているんですか? だとしたら先生がこの学園都市以外で赴任出来なかったのが納得します」

「…あ?」

「だって水臭いじゃないですか! 巻き込まれるならともかく自ら首を突っ込んで行こうとする人はただ巻き込まれる人よりも覚悟を決めているんです! そうやって被害者を少なくするのは立派かもしれませんが逆に除け者にされた人の気持ちも考えてください! 生徒は経験を通して成長するんです!!」

「…そうかもな。今思えば弟にも真実を話していないし、俺は水臭いのかもしれねえ」

雄山は助手席のドアを閉め、エンジンをかけた。

「だが俺の信念が邪魔をして俺の守るべきものを守れないならその信念を棄てる。今日から決めた」

「じゃあ…!」

「ああ、お前を連れて行く」

そして雄山の言葉を聞いた東堂は歓喜し、発狂するほど声を出した。

「やぁったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「だがこれだけは言っておくぜ。死ぬな、何が何でも生きろ。それさえ守ってくれればいい」

雄山はそういって高速道路に入り、徐々に加速していった。

「はいっ!」

「だいぶ時間を喰ったから飛ばすぞ! しっかり掴まってろ!」

雄山は車のアクセルを強く踏み込みメーターが振り切る程のスピードを出し、飛ばした。


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