大和が師範〜キラーマウンテンと呼ばれた陰陽師〜   作:疾風迅雷の如く

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第4指導 気と魔力

雄山は車で移動して3時間が経過し、ようやく目的地に着いた。

「酷えもんだな。ここは」

そこは弄られた結界の場所であり、周りを見ると結界に亀裂が入りいつ壊れるかわかったものではなかった。

 

「よく来てくれました。大和先生。私は現場の監督をしている滝河(たきがわ)敬一(けいいち)と申します」

現場を監督している陰陽師、滝河は手を前に出し握手を求めると雄山はそれを取った。

「滝河、じゃあどんな状況か教えてくれないか?」

「はい。現時点で判明した被害は認識妨害、情報防御に加え魔法防御、衝撃緩和の4つです」

 

魔法防御の結界は外からの魔法や呪術等の魔力による力を防ぐ為の結界の名称で結界を使う時は絶対に欠かせない分野だ。衝撃緩和の結界は所謂、物理防御の結界であり隕石やそういった物体で魔法防御の結界を乗り越えた攻撃を和らげるものだ。これも同様に結界の基本で対象を守るのに必要なものだ。その二つを失った今、学園都市は丸裸となり外部からの侵入者を容易く入らせてしまう。

 

「おいおい腐りすぎじゃねえか? この学園都市も。そんな状況だってのに結界術を得意としている陰陽師すらもいないって笑っちまうしかねえな。結界が決壊……なんてな」

くだらない親父ギャグで周囲の空気を和まそうとしたが返って凍てつかせてしまい、4月だというのにこの場所は吹雪いていた。

「笑えるような状態ではありませんよ。大和先生!」

その吹雪を溶かし、晴れにする滝河。雄山のペースに付き合わされて誰よりも苦労するのはこの男だろう。

「何にしても面倒なこった。だからあれ程学園都市内に警察を入れろと言ってやったってのに……」

 

 

ブツブツと言いながら雄山は結界の前に立ち、結界に手を突っ込んだ。

結界はガラスや鉄などの物体とは違い魔力、所謂精神エネルギーを元にして作られておりその実態はないに等しい。だが魔力はとある条件を満たすと実態を持つようになる。その条件とは魔法の詠唱や魔法陣等が条件だ。もちろん詠唱や魔法陣を使わなくとも魔力を変質させることも出来るが魔力の消費が多い上に効率は悪い。

 

「あーあー……どんだけ脆いんだこの結界は? これじゃ結界が壊されて当たり前だっての……エセルマセルヤオトリア……ブツブツ……」

雄山は詠唱し、手に魔力を込める…学園都市はあまりにも広くそれを覆う結界となれば使う魔力も膨大であり雄山と言えども詠唱しざるを得ない。

「ま、これでいいだろう。俺は結界術師じゃねえが応急処置くらいの事は出来る」

結界のヒビと歪みがなくなり、より丈夫になったのを確認して手を引っ込めた。

「それじゃ俺はここら辺でお暇させて貰…ん? 失礼…」

雄山は車に乗ってエンジンをかけ、その場を後にしようとしたがカード端末の電話機能が起動し、それを手に取ると見たこともない電話番号からだった。

 

「もしもし大和ですが……どちら様?」

電話に出るとそこから悲鳴が聞こえ、少なくとも雄山は良くない状況だと理解した。

【こちら学園長。雄山先生、緊急事態が発生したので至急……ぎゃぁっ!!】

「おい! くそっ!」

学園長の悲鳴と共に電話が切れ、雄山はカード端末をしまい車に乗った。

「大和先生、一体何が?」

「学園長が襲われた。俺は至急学園の方に戻る。滝河…お前はここで結界を見張っていろ」

「はい。お気をつけて!」

雄山が車を出したのを確認し滝河は敬礼した。

 

 

 

▲▼▲▼☆☆☆☆▼▲▼▲

 

 

 

そして3時間が経過し、学園の校庭に着くとそこには頭から血を流している学園長がいた。

「おい! しっかりしろ!」

「ゆ、雄山先生……」

雄山が声をかけると学園長は震えながらも反応し、雄山の手を握った。

「何があった!?」

「と、東堂君だ……東堂美帆が私達を襲った」

「なんだと!?」

「今、私が東堂君を封印して取り押さえているがそれも時間の問題だ。東堂君を止めてくれ!」

学園長は意識を失い、目を閉ざすと校庭に魔法陣が現れ悪魔の翼と牙を生やした吸血鬼、東堂がそこにおり、雄山と目を合わせた。

 

 

 

「ひゃぱははははは!」

 

東堂は奇声とも言える笑い声を上げ、雄山に襲いかかり…飛び掛かった。吸血鬼は弱点が多い分、身体能力が妖怪(化け物の類)の中でも高い。更に首と心臓さえ無事かつ環境が良ければ生きられるような生命力を持っている生物でありかつて欧州(ヨーロッパ)の国々を恐れさせた。もっとも数の暴力には敵わず衰退したがそれでも脅威であり、東堂のパンチも然り、大変危険である。

「っ!」

雄山は東堂のパンチを避けると地面が押しつぶされて拳の跡がついた。

「(腐っても吸血鬼ってわけか)」

純粋な吸血鬼ではないとはいえ東堂がパンチするだけでもコンクリートの壁をぶち壊すだけの力があり、人間がまともに喰らえば複雑骨折で済めばまだいい方だろう。

「ピャーッヒヒャハハ!」

そして再び東堂が奇声を挙げながら雄山を殴ろうと左手を降り、雄山の腹に直撃させた。

「これで純粋な吸血鬼じゃねえんだから驚いたぜ」

だが雄山は無事だった。通常の人間であれば内臓がぐちゃぐちゃになって悲惨なことになっていただろうが雄山は精神エネルギーである魔力とは正反対の生命エネルギーの気を纏い、身体を頑丈にさせていた。つまり、雄山は自分の生命エネルギーと引き換えに見えない鎧でガードしたということだ。

 

「ヒヒヒ!」

魔女のような笑い声を上げ、東堂は雄山を殴ったが雄山は気を纏いガードして対処して呟いた。

「少々痛いかもしれないが我慢しろよ」

 

雄山は東堂の華奢な腕を掴み、何が書かれているかわからないくらい達筆な文字が書かれている長方形の紙を取り出した。

「喝!」

そしてそれを東堂の腕に貼り付けると狂気によって目が血走っていた東堂がおとなしく、翼も収納されて普通の人間と同じような外見になり、目を閉ざした。

 

▲▼▲▼☆☆☆☆▼▲▼▲

 

「あれ、ここは?」

東堂が瞬きをし、目に入ったのは学校の天井だった。

「無事か? 東堂」

男の声が聞こえ、そちらを振り向くとそこには雄山がいた。

「えっ!? ユーザン先生?」

東堂はキョロキョロと見渡すとピンクのカーテン、温度計が乗っているテーブル、そして保健室の教諭かつ保健体育の教員佐竹がいた。

「そうだ。それよりも身体の方は大丈夫なのか?」

「はい。でも普段よりも力が出ません」

「当たり前だ。お前は魔力が暴走して理性を失って暴れていたんだ。だから急遽お前の魔力を破魔札で封じ込めた。この事件が解決するまでそれをしていろ」

「でもこれだと剥がれやすいです。どうにか出来ませんか?」

「ちょっと待ってろ。佐竹先生、包帯とテープ持ってきてください」

「了解しました!」

佐竹は雄山の元に包帯とテープを持って来ると雄山をデートに誘ったが雄山はそれを断ると佐竹は明るく振る舞い、包帯とテープだけおいていつもの仕事に戻っていった。

ちなみに東堂が見る限りでもこのやりとりは10回目で日常茶判事となっており、東堂はその光景を見て安心していた。

 

「これでよし。これなら怪我をしたと認識できるし、保健室へ行った理由にもなる」

雄山は包帯を破魔札の上から巻きつけテープで包帯を止め、破魔札が剥がれないように処置した。そうすることで雄山が言ったように誤魔化しも効くし、何よりも怪しまれない。

「ありがとうございます!」

東堂は感動していた。自分が思いつかないようなことをあっさりと雄山は実行し、しかも東堂のことを考えていた。人間の血が混ざっている妖怪が多くなったとはいえ、妖怪の数は元々少なく妖怪と人との混血は外国人と日本人のハーフよりも珍しい。それ故に東堂のことを考えずに無意識に傷つける輩も多かった。その反動故に感動していた。

「それと東堂。明日の朝、学園長室に来い。今回の件で話しがある。絶対に来い」

その言葉を聞いて東堂は頷いた。何せ二回も言っているのだ。これで来ないとなれば何があるかわかったものではない。


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