大和が師範〜キラーマウンテンと呼ばれた陰陽師〜   作:疾風迅雷の如く

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第39指導 逆転

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絶体絶命のピンチ。まさしくそれは今の雄山達の状況に相応しい言葉だった。

「(まさか俺の人生がこんな形で終わるとはな。これも人殺しの運命か)」

ここから東堂を脱出させたとしても無理だろう。逃げた先にこの第四世代こと勇姿のクローンが待ち構えている可能性が高い。自分ならばともかく東堂の実力では勇姿のクローン相手では勝ち目はない。それだけならばまだいいが逃げる隙すらも見つけられずに殺されてしまう。

「(守るべきものを守ろうとしても人を殺したら不幸になるってのは本当みてえだ。最高に俺は不幸だぜ)」

雄山はそう思い詰め、サバイバルナイフを取り出し目の前にいる100人の第四世代達に向けた。

「東堂、てめえは外に出ろ」

「え? まさか、ユーザン先生。この数相手に一人で挑むんですか!? 無理ですよ!」

「無理なことは百も承知だ。こいつらの数が百だけにな」

「笑えませんよ、ユーザン先生!」

「どの道この状況じゃ俺は助からねえ。だがお前は違う。東堂、お前にはやるべきことがある。この現状を大兄貴達に伝える。ただそれだけをしろ。俺はそれまでの間時間稼ぎをする」

それは東堂をここから脱出させることだった。確かに逃げられる可能性は低い。だが逃げられる可能性はゼロという訳でなく可能性のあることだ。雄山はそれに賭けた。

「そ、そんな!? ユーザン先生の事を置いていけませんよ!」

「いいから行け!」

雄山のドスの効いた声が響き、東堂が扉に近づこうと走る。

 

その瞬間、轟音が雄山達の耳に響き渡り、扉が破壊された。

「どうやら招かざる客のようだな」

それを聞いて最も驚愕しているのは雄山ではなく角田だった。角田が驚愕しているその顔をみて雄山は角田にとってイレギュラーが起きたのだと感じていた。

「やれやれ、ここは年寄りへの労りってもんがないのかい?」

それは雄山達の師匠、春の仕業だった。春は雄山達が出た後、雄大達を問い詰め、還らずの森と日本セル研究の中へ侵入してきたのだ。

「し、師匠?」

「全く、少し見ていない間にそんな体になったのかい? 少しでも前線から離れるとこのザマかい!」

「……返す言葉もない」

「ふん、それでこのウマシカ丸の軍団はなんだい?」

雄山はウマシカ丸とはどういう意味なのか手間取る。それが勇姿クローンのことだと理解した。このクローン達はどんなに似せても偽物でしかなく、馬鹿丸出しにしか見えず馬鹿(ウマシカ)丸と名付けたのだと推測した。

「勇姿のクローンだ。この研究所で作ったんだとよ」

「そうかい、そうかい。それじゃあ儂らの敵ということじゃな」

「そう言うことだ」

雄山がそう頷くと春が腕をクロスにして力を溜める。

 

「何をしている、やれ!」

角田は春の重圧を感じ取り、勇姿のクローン達に春を襲わせるように指示を送る。

「なるほど、単刀直入にしか突っ込めない馬鹿じゃな。だったら好都合」

勇姿のクローンはあくまでもクローンでしかない。はっきり言えば人生経験がなさ過ぎた。雄山にその弱点を突かれたことを生かせず、角田の命令に従う駒となったのが彼らの一番の失敗であった。

「ーっ!」

声にならない悲鳴をあげ、勇姿のクローン達のほとんどは絶命し息絶える。残ったものは阿鼻叫喚しながらも東堂や雄山を襲って人質にしようと抵抗していた。

「どこにいくんじゃ?」

しかしその抵抗も無駄に終わり、春の空掌によって血吹雪が舞い、勇姿のクローンは全滅した。

「やれやれ年を取るたびに空掌の威力も落ちて嫌だね。全盛期ならもっと手っ取り早く殺せたというのに」

物騒なことを呟きながら返り血を拭き、払う春の姿はまさしく修羅であった

 

「こんなこともあろうかと準備して置いて正解だった」

角田が白衣から野球ボールくらいの大きさのボールを取り出し、それを雄山達に向けて投げた。

「やれやれうるさい奴だね」

春がそれを掴み、自然を流れる川のようにボールを角田の元へ返す。だがすぐに春の元へと戻って行く。

「私も『確定事項』の持ち主、それも20-0425よりもレベルが上だ。これを話せばこの場の空間内で私は一定時間無敵となる。無敵時間が継続している間に瞬間移動をして撤収させて貰おう……さらばだ!」

春がボールをキャッチしたと同時に角田が日本セル研究所から消える。その刹那、ボールが開き体長5cmにも満たない蜂が次々と現れ、雄山達を見つけるや否や襲いかかった。

 

「これも計算のうちっていうのか? 嫌味な野郎だ」

顔を顰めながら雄山はサバイバルナイフをしまい、破魔札を取り出してボールにそれを放つ。すると蜂が凍りつき動かなくなる。ただし、極少数であったが。

「氷属性の破魔札が駄目なら、炎属性の破魔札で対処するしかねえな」

別の破魔札を出し、投げようとすると春がそれを止めた。

「止めておくんだね。あの虫は魔力を吸収し、自らの肉体を強化させている。破魔札を使えば返って強くなるのがオチだよ」

「とはいえ、空掌じゃ相手が小さすぎる。師匠、なんとか出来ないのか?」

「今それをやっている所だよ」

雄山が春を見ると春の腕が残像を残し、幾つもの腕が生えていたように見えた。

「とはいえあの巣を破壊しないと無理だし、雄山。やってくれるな?」

「もちろんだ」

雄山が腕を後ろに引き空掌の構えに入る。

 

その瞬間、雄山の背後から声が響いた。

「待ってください、ユーザン先生!」

雄山が振り向くとそこには長門と裕二がいた。

「裕二、来るのが遅いぞ」

「お祖母ちゃんが割り込んできたから遅くなったんだよ。奈恵ちゃんを行かしたり、置いていくわけにもいかないからね」

「そう言うことか。それなら仕方ねえな。ところで長門、何の根拠もなく待てと言った訳じゃねえんだろ?」

「その巣を壊したら巣の中にいる数えきれない程の蜂達が飛び出して私達を襲う可能性があります。私の超能力で巣を圧縮して巣ごと虫を殺します」

「長門、そんな冷酷な意見が言えるなんて虫に相当恨みでもあるのか?」

「ええ。虫は大嫌いですから」

長門が淡々と答え、雄山は苦笑した。

「よし、そこまで言うならやってみろ」

雄山の許可を貰った瞬間、長門は巣をパチンコの玉の大きさまで圧縮し、蜂達を殺した。

「角田を逃したのは痛いが、日本セル研究所の全貌も明らかになった以上用はない」

そのパチンコの玉を拾い上げ、回収する。

「そうだね……ところでお祖母ちゃんは?」

「さっき、妖怪達が現れないように殲滅させるって言って奥に行っちゃいましたよ?」

東堂がそう答えるとこの場にいた全員が溜息を吐いた。

「師匠らしいな」

雄山の言葉に全員が頷き、外を出る。


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