大和が師範〜キラーマウンテンと呼ばれた陰陽師〜   作:疾風迅雷の如く

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第36指導 経験の差

▲▼▲▼☆☆☆☆▼▲▼▲

 

この勝負、何が何でも勝つ。

 

雄山は勇姿のクローンである14-0801を視界に入れながら東堂を見ると不安げな表情が伝わり目の前にいる男に勝たねばならない。しかも右腕が骨折し使えないに等しく、相手は勇姿の潜在能力を引き出している状態であり、困難であるが故に重圧(プレッシャー)がかかる。

 

「東堂、そんな時化た顔をするんじゃねえよ」

「ユーザン先生……」

「俺は負けねえ。いくら勇姿のクローンとは言え所詮クローン。経験が圧倒的に違うことを教えてやる」

「所詮クローン? 馬鹿を言うな。優一が勇姿に封印したのは魔力や気だけでない。身体能力も1/200になるまで封印した。だがその封印も本人が対象で遺伝子上同じとは言え他人である俺はないも同然」

「それどこのスーパーな惑星人?」

東堂があまりのインフレについていけず突っ込んでしまう。

「封印がないも同然か。だがそれでも勝ち目はある。所詮クローンはクローンでしかない」

「根拠のないハッタリもいい加減にしろ」

「なら行くぜ」

雄山の左手によって放たれた空掌の弾丸を14-0801の頭に直撃させつつ、ジリジリと近づき、ナイフを投げる。しかし雄山が投げたナイフを弾き全ての空掌を受け止めた14-0801は雄山に近づき、接近戦に持ち込ませる。だが雄山はとにかく距離を離して遠距離で攻め続け逃げる。それを追い詰める14-0801。一進一退の攻防だった。

 

「ほ、本当に戦えている……」

東堂は雄山の身体が満身創痍の状態であるにもかかわらず、互角に戦える状況を見て雄山の負けないという言葉が嘘でないということを確信していた。

 

「(一体何が目的だ?)」

14-0801は雄山の戦闘スタイルを見て疑問に思う。というのも雄山のやることはまるで意味がない。この身体はどんな攻撃も通さない。例え大砲であっても、魔術や陰陽術であってもそれは変わらない。言わば無敵の身体であるのだ。とはいえサンドバッグにされるほど14-0801はお人好しでなく雄山を始末すると言う目的がある以上勇姿の身体能力を最大限に発揮しかつ、もっとも効率の良い、つまり肉弾戦で雄山を追い詰めようとしていた。

「(ならば……)」

しかし雄山が肉弾戦を拒絶し距離を取り続ける以上仕留められるとは思えない。己の身体能力を100%発揮しようにも普段の生活で力を抑え続けているせいか、力を解放すれば制御が難しくなり無闇矢鱈に使うと自滅しかねない恐れがある。

 

作戦を変えた14-0801は力を解放し床を踏む。すると床が崩れ、警報音が鳴り響くが御構い無しに床の材質である石を掴んで思い切り雄山に投げつけた。これは昔から戦争でも使われている攻撃方法の一種、投石というものだ。極シンプルな攻撃でかつ威力が高い。故に14-0801がもっとも本領発揮しやすく、しかも威力も隕石のように破壊力がある。これを通常の人間が食らったら骨が折れることは当たり前で内臓が破裂し、確実に死ぬ。

「がっ……!!」

雄山の腹が空き、その場に倒れた。

 

「ユーザン先生!」

「動くな!」

14-0801は雄山を心配し駆け寄ろうとした東堂に石を投げる素振りを見せた。

「動けばお前が死ぬ。わかるな?」

「……教えてください。どうして貴方は私達と戦うんですか?」

「それはボスの命令だからだ」

「ボスって角田所長のことでしょう? その人の命令でわざわざここに誘き寄せたんですか?」

「半分はあたりだな。日本セル研究所に誘導したのはいずれここがバレるからだ。時間が経過すれば還らずの森諸共大和一族、あるいはその息がかかった陰陽師協会の連中全員に滅ぼされる」

「その為に大和一族に第一世代の妖怪達を送ったんですか?」

「大和一族よりも手柄を立てれば出世出来ることが九条会長によって証明されたからな。悪事に走る日本セル研究所を始末すればこれ以上ない手柄だ。大和一族の息がかかっている連中は甘い汁を吸う者もいる……仲間割れを起こさせるにはこれしか手段はない」

「それじゃ何で勇姿一派だとかそんな派閥を?」

「甘い汁を吸いたい連中が無能とは限らず有能なパターンもある。そこで大和勇姿が復活したと噂を流し、大和一族のトップに立つような動きを見せれば雄大から離れ勇姿を傀儡にするように動かしたと言うわけだ。その結果大和一族は一枚岩でなくなり、勢力図は大きく変化した」

「確かに筋は通っています。通っていますが……だったら何故貴方は半分は正解と言ったんですか? もう半分は不正解、つまり貴方の判断でここに私達が来るように誘き寄せたってことになります。日本セル研究所を犠牲にしてまで貴方は何がしたいんですか?」

「俺には名前がない」

「え?」

「俺の番号である14-0801と言うのは製造日。つまり西暦2014年8月1日に俺は作られた。ボスに従えば俺は名前を名乗れるようになる。そうボスに言われ続けてきた。だがボスに従う必要もなくなった……ボスが俺に授けようとした名前が大和勇姿だとわかったからだ。大和勇姿という名前を手に入れる手段はもはや俺の頭の中で想像がついている。今となってはボスを利用する立場だ」

「それじゃ角田所長はどこに?」

「ボスはまだ利用価値がある。そうでなければボスと呼ばん。だから教える訳にはいかない」

「龍造寺といい、お前といい、何で角田は名前をつけないんだ?」

東堂の代わりに雄山がそう呟く。

「ボスは俺達のことをゲームのデータのように作られた存在でしか見ていない。だから区別がつけば番号だけでも充分だと考えているんだろう。鴨川や五十嵐も製造番号や種族名で呼ばれていたしな」

「そうか。勇吾、お前に聞くが龍造寺の名前をあの石碑に彫ったのはお前の指示か?」

「勇吾?」

「俺がつけたお前の名前だ」

「そうかよ……さっきの質問の答えだがイエスだ。龍造寺は第二世代の中でも気性が特に荒く日本セル研究所では失敗作と呼べる存在だ。爪も甘いしな」

とはいえ有能であったのには違いない、と14-0801こと勇吾が続ける。

「学園都市を支配するのに失敗したとはいえ、あと少しのところまでキラーマウンテンこと雄山を追い詰めた敬意を払って俺は妖魔連合会にいる種族名や製造番号でしか呼ばれなかった奴らを自称の名前であの石碑に刻ませた」

「それはわかったが龍造寺はお前の顔を目撃した人物について知っていたが誰だかわかるのか?」

「一々そんな通行人の顔や身分を覚えるほど俺の頭は良くない。それでも心当たりがあると言うなら九条会長に問い詰めたらどうだ?」

「会長に、か」

「もしかしたら勇姿の居場所も知っているかもしれないしな」

「勇吾、決着を着けるぞ」

「勇吾と言う名前も貰った以上ボスと一緒にいる理由はない。だがボスに洗脳されたせいか、あるいは大和勇姿という男が生真面目なのかお前を倒してからにしないと俺の気が済まない……例え愚かとわかってもな。……行くぞ! 大和雄山!!」

 

勇吾の投石が隕石のように力強く、しかも高速で雄山を襲う。だが雄山はそれに当たらず突っ込み拳を握った。

「(俺に接近戦を挑むとは……!)」

勇吾は驚愕し、投石を止め拳を握り雄山へそれを振るった。

 

数秒後、勝者が決まった。

「……何故俺が負けた?」

「だから言っただろう。経験の差だと」

勝者、大和雄山。

「ユーザン先生ーっ!! やったーっ!!」

それが決まった瞬間東堂は歓喜のあまり雄山を抱きしめ、涙を流した。

「雄山、一体どうやって俺に勝ったんだ?」

「お前が東堂と話している隙を見て俺は陰陽術を用いて三管機能が狂う超音波を流していた」

「俺の投石や俺の拳が当たらなかったのはバランスを司る三管機能が狂っていたからか。それも俺が違和感を感じさせないほどごく僅かに」

「そうだ。お前の敗因はそれに対処出来なかったのが原因だ。お前のオリジナル大和勇姿ならその違和感に気付いて対処をしたはずだ。自らの経験則でな。だがお前は6年弱しか生きていないから対処のしようもない」

「……トドメを刺せ。こんな事態になった以上俺を殺して勇姿が死んだことにすれば解決する」

「断る」

「何?」

「ユーザン先生!?」

「お前は大和一族でもなければここで作られた兵器でもない。だがこの世の中は誰であろうと実力さえあれば出世出来るようになっている……勇吾、お前さえ良ければ陰陽師協会に入らないか?」

雄山は先ほどまで敵対していた勇吾にトドメを刺すどころか、スカウトしようとしていた。そのことに目を丸くし、驚愕する東堂。あまりの展開についていけず唖然とする勇吾。どちらも似たような反応だった。

「……今はまだその時ではない。トドメを刺さないのであれば俺はここから去るだけだ」

勇吾がヨロヨロになりながらも立ち上がり、外へ出る。

「(生きろよ勇吾。お前は勇姿の身体を目的に作られた存在とはいえ、俺はお前のことを気に入っているんだからな)」

それを見た雄山は心の中でそんなことを思いながら、東堂を連れ勇吾とは逆方向の奥へと進んだ。


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