大和が師範〜キラーマウンテンと呼ばれた陰陽師〜   作:疾風迅雷の如く

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第35指導 正体

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「まさかあんな大樹が扉になっていたとはな……驚いたぜ」

「日本セル研究所はそれだけお前達を恐れた。何せ情報が少しでも漏れれば日本セル研究所は潰れてしまうだろうからな」

「どういうことだ?」

「人間誰しもそれを悪だと思えば悪だと決めつけてしまう。特にその人間が本当に正しいことをし続けてきたら尚更だ」

勇姿達が大樹の中を降りていくと広場に着き、そこには名前の書かれた石碑がいくつも置いてある。

「えっ!? こ、これって……!?」

東堂が石碑の名前を見て目を見開き、雄山にそれを見せると彼も目を見開いた。

「なんでこんなところにあいつ等の名前があるんだ……!?」

二人が見た石碑には五十嵐泰造、鴨川慶次、龍造寺時夜等妖魔連合会のメンバーの名前が刻まれていたからだ。

 

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「日本セル研究所は現在では理解されない非倫理的な実験を数多く実行してきた。ハツカネズミなどの実験動物が犠牲になったとしてもそれに同情したりするものは少ない。ハツカネズミの命は人間の都合の良いデータを取る為に弄ばれるのが日常的であり、当たり前なことだからだ」

勇姿が語り始めると雄山達はそちらに振り向くと勇姿が歩き始め奥へと進んでいき、それに伴いついていく。

 

「本来、日本セル研究所は身体能力を高めかつ副作用のないドーピングを開発する組織だった。表の世界ならばともかく裏の世界でドーピングを使ったところで倫理的には大した問題ではない。むしろ問題点は副作用。少しでも副作用をなくす為に日本セル研究所はドーピングを開発し続けて来た。ドーピングを開発するには細胞の働きを研究しなくてはならない。そこで日本セル研究所は様々なスポンサーを求め、各地を回るが所詮ドーピングはドーピング。スポンサーになる者は皆無であった……」

「親父の時代の時に日本セル研究所はすでにあったってことか?」

「もっともメンバーは数人であり、ほとんど大学でいう同好会に近いものだったから知らないのは無理もない。公式に設立したのはここ数年前の話だ」

そして勇姿が「話を戻す」と告げながら奥の扉の鍵を開けた。

 

「日本セル研究所は細胞を使って実験をするが、ハツカネズミ等の特定の細胞しか使えないが故に参考にならない上に脳にどんな影響を与えるかも不明だ。大麻や覚せい剤のような中毒性等があっても困る。そこで日本セル研究所は遺伝子を弄り、ハツカネズミから人間を創り出そうとした……」

「そんなことが可能なのか!?」

「理論上は可能だが出来てもすぐに死んでしまう。しかし日本セル研究所は諦めず試行錯誤し、どうにか人間に限りなく近い生物を生み出す。それが大和宗家でお前達を襲った怪人や妖怪達、そして妖魔連合会の正体だ」

「何だと!?」

雄山はそれを聞き、日本セル研究所が何故表舞台へと出なかったのか理解してしまった。日本セル研究所は妖怪達を人工的に生物兵器を創り出していたということになる。もしそんなことが早い段階で情報が伝わっていたら真っ先に潰していた。

 

「経費が抑えられ、食事も宙にある魔力や妖力のみで済む知的生物だ。日本セル研究所はその妖怪達を使いドーピングの開発に成功する。過剰な力と言う意味でつけられたそのドーピングの名前はオーバー……お前達も学園都市に居た以上知っているはすだ」

「ああ、だがオーバーは妖怪を暴走させるだけの欠陥不良品。その次があるんだろう?」

オーバーの効力は確かに優れてもいたが妖怪専用のドーピング。妖力を暴走させたことで知能を失い、狂気を生み出すといった欠点もあった。東堂がそうだったよう予想がついていた。

 

「日本セル研究所はオーバーの欠点に気づき、次の妖怪達を創り出す。それが龍造寺時夜や五十嵐泰造といった妖魔連合会の大幹部達のような能力持ちだ」

「あいつらもここの出身だったのか……!? それじゃお前は勇姿の姿をした妖怪なのか!!?」

「落ち着け雄山。第二世代、つまり能力持ちを創り出した理由は能力持ちであれば高度な人間に近いという根拠があった。その第二世代を実験動物にしてドーピング開発を続けるととある問題点が生じる……それは気性難だ」

 

それを聞いて雄山達は思い当たる部分があった。あれほど龍造寺が短気でかつ失敗に厳しいのはそれが理由だったのだと確信し、頷いてしまう。

 

「無理に能力持ちにしたせいかどいつもこいつも気性に難がある奴らばかりで、ドーピング開発も碌に出来ない状況となった。第二世代の創造を中止して第三世代の開発に取り組んだ」

「その第三世代ってのは何だ?」

「これだ」

勇姿が壁のスイッチを入れるとそこに現れたのは緑の液体と人間達をガラスケースに入れたものである。

「これって人間? でもまるで死んでいるみたい……」

東堂が抱いた印象は死人のような人間。見た目こそ普通の人間であるが雰囲気がゾンビや屍のようなものであり、触れると凍ってしまいそうなくらい寒気がする。そんな印象であった。

「これは……大兄貴達や俺? いやそれとは別の人間か?」

屈強な強面の男もいれば裕二を女体化させたような女性もそこにある。雄山がそれらの人間を見て共通して言えたのは自分や自分の兄達の雰囲気を醸し出し、感じ取っていた。

 

「第三世代は大和勇姿の細胞や血を元に作り上げた人造人間。本来であればクローンを作るはずであったが見てのとおり勇姿に酷似しているものは皆無だ」

「何故クローン人間を?」

「人間の身体でドーピングを開発した方が効率的だと日本セル研究所は気づいた。本来、ドーピングは人間が使うものだ。だが身体が弱い人間では実験データが取れない……屈強な男を用意する必要があった」

「それが大和勇姿って訳か」

「ボス曰く彼に献血や細胞摂取をお願いしたら快く頷いてくれたらしく、そこから日本セル研究所は大和勇姿を創り出そうとしたが先ほども言ったが勇姿に酷似したクローンは作り出せなかった。何故だかわかるか?」

「技術が不足していたからか?」

「それもある。答えは大和勇姿は三人の遺伝子を42:41:17の割合で持っていたからだ」

「あ……!」

東堂は勇姿が本来三つ子で生まれる予定であったと聞かされたことを思い出す。ところが生まれたのはたった一人。それも小鬼(ゴブリン)みたいな化け物である。

「大和勇姿と言う男は本来三つ子で生まれる予定だった。二卵性の三つ子としてな」

「何故二卵性だとわかるんだ?」

「これを見てわからないか? 大和勇姿の遺伝子から創り出したというのに女性型がある。二卵性は一卵性とは違い性別に違いが生じる場合がある。つまり確実に三つ子のうち二人は二卵性だということがわかる」

「それじゃなんでもうひとつの方が二卵性だってわかったの? 二卵性でも同性ってことはあるんでしょう?」

「遺伝子情報だ。専門家じゃないからそこまで詳しくは断言出来ないが人に限らず様々な生き物が遺伝子によって成形され、そいつの筋肉や骨格、あるいは血液型などが決まる。同性の双子は血液型が異なっていたということだ」

勇姿がそうボタンを押して、目の前にあるガラスケースを下げる。

 

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「……それを知っているお前は何者なんだ?」

「俺はボス……角田所長が大和一族に復讐する為に第三世代の生物を改良して生み出された生物兵器、第四世代の14-0801号。言ってみれば日本セル研究所が送り出した刺客だ」

勇姿、いや14-0801は自分が第四世代の生物兵器であり大和一族を滅ぼす為の刺客であるということを雄山に伝えた。

「やっぱりお前のいうボスは角田だったのか。しかし刺客はともかく生物兵器だぁ……? いつの間にかそんなものを作るようになったのか? 日本セル研究所は?」

「日本セル研究所はドーピング開発をしていくうちに究極の個体を求めるようになった。その結果第一世代から第三世代までの生物達を改良し、能力を持った大和勇姿を創り上げようとしたが失敗。それなら肉体最強の兵器を造ったのが第四世代と言うわけだ」

「肉体だけでも? とてもではないがあの第二世代の龍造寺と互角とは思えないんだが……?」

雄山の言うことはもっともである。雄山は以前目の前にいる男と対決したがその時は鴨川などの妖魔連合会の幹部よりも強かったが流石に龍造寺ほどの力はなかった。

 

「そう疑うなら龍造寺を斬った空掌で俺を斬ってみろ」

「なら遠慮なく斬らせて貰うぜ」

雄山がそう告げた瞬間、右手がブレ、轟音が響き渡ると14-0801の背後にあった壁を斬ってしまう。

「それがどうした?」

だが肝心の14-0801は真っ二つに斬られるどころか傷ひとつすらも負っていない。

「前にも言ったがその気になれば俺はダイヤモンドカッターでも斬れない身体だ。大気圧の原理で斬る空掌如きで斬られるかよ」

「龍造寺よりも頑丈だってことは認めてやる。だが肝心の身体能力がお粗末だ!」

雄山は東堂にアイコンタクトを送り、封印を解除すると当時に14-0801を攻撃する。

「遅いっ!」

だが14-0801は雄山を無視して距離の離れた東堂に攻撃する。幸いなことに東堂は封印を解いたのと雄山が庇ったおかげで軽傷で済んだが雄山の方はそうでもない。14-0801の攻撃が雄山に炸裂した瞬間、硬くありながら生々しい音が響き渡る。

 

「糞が……!」

今の雄山を一言で表すならば満身創痍。身体の全身から血を流し、右腕が曲がってはいけない方向に曲がっているのが何よりの証拠だ。

「何故俺がここまで強くなったか知りたいか? 第四世代専用のドーピングを使っているんだよ」

「ドーピングだと?」

「第四世代は大和勇姿の遺伝子を受け継いだ生物だ。それも第三世代のような生半可なものではなく完全にオリジナルと同じように三人の遺伝子を使ったコピーだ。大和一族の遺伝子、勇姿特有の遺伝子、能力者の遺伝子のそれぞれに働きかけ素質を完璧に引き出すドーピング。そいつは第二世代や第四世代以外が使うと能力に目覚めることから覚醒を意味するディサルージャンと名付けられている」

「……他の奴は使ったのか?」

「実験に犠牲は付き物。第一世代だけでも世間に公表されたら大騒ぎになるのに俺がそこまで言うと思うか?」

「そしてそこまで喋ったのは俺達を確実に仕留める自信がある……ってことか」

「違うな」

「じゃあなんだ?」

「お喋りが好きなだけだ」

14-0801がそう告げ、構えると雄山もそれに合わせ構え……二人の間に沈黙の間が空く。

「……っ!」

東堂が息を呑んだ瞬間、その時は動いた。雄山は左腕を使い、14-0801は右腕で互いに拳を作り激突した。


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