大和が師範〜キラーマウンテンと呼ばれた陰陽師〜   作:疾風迅雷の如く

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次回から2、3週に一回更新となります。


第33指導 尋問後

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「おっす、戻ったぞ!」

しばらくすると雄山が戻り、そう告げるとそこに居たのは尋問を終えた雄大と裕二、それに雄山が連れてきた三人組であった。もっともその内二人はまだ眠っており、起きているのは東堂のみである。

「ヤマ、遅かったな」

「いつものことでしょ? 雄山が遅いのは」

「それよりか報告しようぜ。皆揃っているんだ」

雄山がそう促すと雄大達はそれに頷いた。

「それもそうだな。私のところは妖怪達がただ暴れるように命令させられていたようだ。少なくともオーバーなどによる薬によって暴れていたという訳ではなかった」

雄大は尋問らしい尋問をしていたのかノートにその内容をまとめており、スラスラと報告する。

「なるほど流石大兄貴だ。こっちはオーバーかどうかはわからねえが鉄砲玉を捕まえたみたいでな…敵の親玉も知らなかったからつい浄化させちまった」

逆に雄山は尋問らしい尋問をした形跡はなく、顔だけはすっきりとしており、メモなんてものはどこにもないことから拷問に近い尋問をしていたのだろうと推測出来る。

 

「何やっているのさ、雄山…この分だと僕が一番収穫が大きいかな? 僕の担当した妖怪は当たりといえば当たりで、この敷地内から1km離れたところにアジトがあるらしい」

「アジト? 具体的には?」

「日本セル研究所」

「日本セル研究所だと? それは本当なのかヒロ」

「僕も信じられないよ。だけど歯の神経にフッ酸をかけてようやく吐いたんだ。間違いないよ」

「可愛らしい顔して俺よりもエゲツないことするなよ…裕二」

雄山が裕二がやった拷問のエゲツなさに畏怖する。何故ならば歯の神経にフッ酸と言えば金的、あるいは出産の痛みを凌ぐほどの痛みであるとの同時に人間が経験する痛みの中で最も強烈な痛みである。むしろ妖怪達がなまじ生命力がある為に、その痛みはより強烈なものとなる。

「日本セル研究所ってそういえばユーザン先生が大和財閥に喧嘩を売ったとか買ったとかそんな事を言っていたような気がするんですけど…詳しく教えてくれませんか?」

「日本セル研究所の所長が大和財閥をスポンサーに頼もうとしたは良いが失敗し、逆恨みして妖魔連合会と手を組んで西智都市学園を乗っ取って大和財閥を混乱を起こさせようと企んだって訳だ。ちなみにオーバーを作ったのもこの日本セル研究所だ」

「うわぁ、わかりやすい!」

「しかし、日本セル研究所と言われても大和一族の力を持ってしてもどこで研究しているのかわからず、机上の空論ばかりだという噂しか流れてこない。先代の時に専務達が大和財閥を日本セル研究所のスポンサーになるのを止めたのもそれが原因だ」

雄山と雄大の解説に東堂は理解し腕を組んだ。

「つまり今、あるはずのないものがあったってことが裕二さんの尋問でわかってユーザン先生達が驚いている。…肝心なのはそれがどこにあるかですよね」

 

「今烏達がそれを捜している」

「烏…ああ、ヒロの式か。確かに烏ならば見つけられるが、大丈夫なのか?」

「雄大さん、どういうことですか?」

「烏は頭が良い上に飛行能力も高いし、その上住宅街に紛れ込んでも何一つ不自然じゃない…それは理解出来るな?」

「それがいったい何だって言うんですか?」

「ここの周りは人工物は大和宗家の物を除けば少なく住宅街なぞありもしない。故に敷地内から離れれば自然のものが多くなり烏がそこにいる事自体が不自然になり、アジトを見つけたとしてもその烏の連絡が取れなくなると心配しているんだ」

「う〜ん…なかなかわかりにくいです。もっとわかりやすい例でお願いします」

「ヒロの行動を例えるなら部下達をサハラ砂漠に人工のプールを作らせるようなものだ。オアシスの水で利益を得ている連中、つまり日本セル研究所からしてみればそれは面白くないことだ。当然潰しにかかる」

「なるほど、そういうことですか」

「そういうことだ。その現場で働いている烏達に害が及び、下手をすれば帰って来れない何てこともある」

「それが唯の烏達ならね。僕の育てた烏達は普通の餌にロテインを始め様々なサプリメントを加えた上で訓練しているんだ。鷹や鷲の姿をした妖怪達相手に一対一で勝てちゃうくらいには強いんだよ」

「鷹と鷲の違いって何ですか?」

「大きさだ。鷹の方が生物学上小さいとされている…東堂、半年前に教えたのにもう忘れたのか?」

裕二が答えようとすると雄山が口を挟み、東堂をジト目でみる。

「半年前じゃ覚えてませんって…裕二さん、鷲の姿をした妖怪達はともかく鷹の姿をした妖怪ってどんなのですか? 鷹の方が小さいんでしょう?」

「基本的に鷹の妖怪は体長1.7m前後と定められているんだけども鷲の妖怪は体長2.0m以上を超える妖怪と定められているんだよ。つまり、鷹の妖怪が成長、あるいは突然変異による進化をすると鷲の妖怪になるってことだね」

そんな雑談をしていると裕二の懐から電子音が鳴り始め、ノートパソコンを開く。

「おっ? 連絡が来たみたいだ。どれどれ…なるほど。皆これを見てくれ」

ノートパソコンを開き、画像を見た裕二が頷き、全員にそれを見せる。その風景は苔を生やし黄緑色に染まった大樹と大地、葉を水の上に浮かばせ風情を思わせる湖。一言で表すならば大樹海であった。

「おいおいマジか」

「これならば確かに、建築物があるとは思いもよらず見逃してしまう」

雄山と雄大は二人で頷き、腕を組む。それはどこか美しさを感じさせる樹海を見て、感心したのでなく納得した頷きであった。

「あのう、どこに建築物なんてあるんですか?」

これだけ緑が鮮やかに映る樹海に建築物なんてものはありはしない。あったとしたらすぐに気づくだろう。そう結論付けた東堂が尋ねると雄山が指を指した。

「ここだ」

雄山が指を差したところは湖に浮かんでいた葉であった。

「ええ? これですか?」

意味がわからず、雄山に再び尋ねると確かに頷き、それが建物だと言葉をなくして語る。

「普通大木から落ちた葉は水の上に浮かぶ。だがこれだけは別だ。これは大和宗家の周辺しかない桜の葉で水につけるとスポンジのように水を吸収してしまう性質がある。その結果水よりも重くなり、沈んでしまうのだが…この葉はまるで土の上にあるかのように不自然に浮いている」

雄山が何も言わないので雄大が代わりに答えると東堂は納得した。

「でも何でその桜の葉が…?」

「烏達に持たせたんだ。あれは水に馴染んだ魔力の質を測る為に使われる物なんだけども、こんな用途で使うとは思わなかったよ」

「じゃあ行きましょうよ! 今すぐに!」

東堂の意見に全員が首を振った。

 

「どうしてですか!?」

「そこは通称還らずの森と呼ばれる森で、その場所には簡単に辿り着けないんだ。しかも必ず三人以上で一斉に行くと道が変化して迷うようになっている。烏達にもこの森に入るときは二匹で行動するように伝えているしね」

「…でもあの妖怪達は一斉に来ましたよね? 還らずの森からやってきたとしたら一斉に来るなんてことは無理なんじゃないんですか?」

「東堂、確かにあの妖怪達が一斉に来ることは不可能だ。だが問題はそこじゃない。最初に大物を始末しその後小物を始末する。妖魔連合会がそうだったようにこういう組織で動くような幹部の連中は大体小物とは別に動く。幹部が動くとしても鴨川のような末端の幹部だ。それはあまり気にする必要はねえ…俺達の目的は大将首だ。龍造寺達幹部亡き後の妖魔連合会が烏合の衆となって全滅したことから対組織戦は大将達を如何にして片付けるかで決まるんだ。その為には多人数で包囲するのが良いんだが…還らずの森の効果によってここに三人以上が一斉に行っても一人以上が辿り着けないようになっている。つまりこのまま行けば自殺行為も良いところだってことだ。妖魔連合会を潰した時も準備してから潰すことが出来たからな」

「た、確かに…」

東堂は頷き、雄山が龍造寺対策の為に持ち込んだ爆弾を思い出す。龍造寺が非超能力者であれば間違いなくあの爆弾で始末出来ただろうし、あの爆弾を使うことで能力者であるということが分かったことで持ち込んで不正解ではなかったのは確実だ。

 

「そう言う訳だから、東堂すぐに支度しろ」

「何がそう言う訳なんですか?」

「確かに還らずの森には三人以上で行けはしないが、二人までなら大丈夫だ。俺と東堂が先行し、日本セル研究所の様子を見て拠点を作る。その後は裕二と長門、大兄貴と矢田の2組が時間をズラして日本セル研究所前で俺達と合流して日本セル研究所を潰すという訳だ」

「…普通に裕二さんと雄大さんのペアが合流して、後の二人は置いていけば良いんじゃないんですか?」

「置いていく訳にはいかねえよ。あの二人が一人前だったらそうするかもしれないがまだあの二人はひよっこも良いところだ。勇姿一派の連中に人質を取られたら流石にどうしようもない。それだったら兄貴達に預けて実戦に行かせた方が良い。兄貴達の戦いも見れかつ、身も守れるんだからあの二人からして見れば一石二鳥だ」

「そう言うことですか。わかりましたユーザン先生…それじゃあ日本セル研究所に行きましょう!」

「そうだな」

雄山と東堂はそう言って大和宗家の屋敷から出て行き、還らずの森へと向かった。


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