大和が師範〜キラーマウンテンと呼ばれた陰陽師〜   作:疾風迅雷の如く

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第3指導 動き出す

翌朝、雄山は職員室で妖怪の生徒の名簿を見ていた。

「(さて今回の事件の最初の被害者であり最大の被害者の高等部2年の東堂(とうどう)美帆(みほ)。16歳。種族は吸血鬼だが人間の血が混じっている為、太陽の光や流水には通常の吸血鬼よりも強く、せいぜい体調が悪くなるくらいで済むがその分他の吸血鬼に比べて身体能力は劣る)」

東堂の項目を見終わると雄山は次の名簿を見た。

「(南田(みなみだ)汀間(ていま)。種族は天邪鬼。種族としての力は弱いが口が巧みな一面があるか)」

 

その後、学年、年齢、種族、性別、誕生日、成績、学生寮等を調べたがどれも共通しているのは学園に通っている妖怪だということで他に手がかりはなかった。その妖怪という手がかりもハーフから純血だったり、メジャーからマイナーな妖怪だったりと様々だ。これでは精々犯人の動機が妖怪を憎んで実行したという情報くらいしか手に入らない。

 

「(なんにせよ巻き込まれたのは強い種族から弱い種族の妖怪の血が流れている奴らだ。それだけわかっただけでも良しとするか)」

雄山は切り上げ、それをしまうとドアから声が聞こえた。

「失礼します! ……って誰もいませんか?」

その声の正体は一番の被害者である東堂だった。東堂は誰かを探しており、首を動かして見てみるが雄山と視線が合わない。

「ここにいるぞ。東堂」

雄山は当然、声をかけ東堂に気づかせた。

「あ、ユーザン先生、おはようございます」

東堂がお辞儀をすると職員室に入り、雄山の前まで近づいた。

「おはよう、東堂。ところで何しに来たんだ?」

雄山は東堂が自分に報告しに来たか、あるいは全く関係ない用事なのかの可能性を考えた。前者ならば雄山の調査に必要な情報が手に入るかもしれない。そう期待していた。

「伊崎先生に頼まれていたものを渡しに来たんですが」

だがどうやら現実は甘くはない。後者の方だった。雄山は少しでも期待していただけに少しショックを受けるが持ちこたえた。

「それなら俺が渡しておこう。どうしても自分の手で渡さなきゃいけないなら俺は伊崎先生に伝えておく」

「ではよろしくお願いします。失礼いたしました」

 

 

 

東堂が立ち去ってから10分後、職員室のドアが開いた。そこには少し歳を過ぎた中年の男性教員がいた。

「伊崎先生、おはようございます」

その教員こそ東堂の探していた人物、伊崎だ。伊崎は笑みを浮かべ、挨拶を返した。

「大和先生、おはようございます。そう言えば昨日、学園都市の敷地内で2人組の死体が見つかったそうですよ」

伊崎は話を作り、椅子に座るとラジオをつけた。

「そりゃまた物騒な話で…それにしても伊崎先生、まだそんなラジオ持っていたんですか? 10年くらい前のデザインですよ?」

そのラジオは長方形の小箱のようなものでポケットにギリギリ入れられるようなサイズだ。だが音質はよく音量も変えられるタイプだ。イヤホンの穴もあり、伊崎はその穴にイヤホンを入れた。

「こういうデザインも中々良いものですよ? 聞きますか?」

そう言って伊崎はラジオの片方のイヤホンを渡して雄山に勧め、スイッチを入れるとイヤホンからラジオの放送が流れた。

 

 

 

「いえ、俺にはこれがありますから」

雄山はカードのような端末を取り出し、スイッチを入れると電源がついた。

「あれ? 大和先生、また新しい機種にしたんですか?」

それを見た伊崎はイヤホンを片方だけにしてラジオの放送を聞きながら尋ねる。

「まあそんなところです。後、東堂からこれを預かっています」

雄山はさりげなく東堂から預かった書類を渡し、インターネットに繋げた。

「どうもありがとうございます。いや〜、しかし世の中も変わってしまいましたね。昔は固定電話や公衆電話しか一般人のやり取りはできなかったのに、今ではインターネットを通じてやれるですから大和先生達の時代が羨ましいものです」

「いつの話ですか? 便利なのは違いありませんが昔も今も本質は変わりありませんよ」

雄山は溜息を吐いて、事件の記事を開く……そして雄山は目を丸くした。

「それもそうですな!はっはっはっ!」

「……」

伊崎が笑っている一方、雄山は無言だった。その異変に気づき、伊崎は雄山に声をかけた。

「どうしました、大和先生?」

「ん?ああ、なんでもありませんよ伊崎先生」

雄山はいつも通りに戻り、パソコンのマウスを動かした。

 

しかしそれは校内放送の音によってそれを止める。

【大和先生、大至急事務室に来てください】

そして校内放送の音が鳴り止み、雄山が動いた。

 

「伊崎先生、すみませんがHRまで戻らないようでしたら教員と生徒達に事情を伝えておいてください」

雄山は端末をしまい、伊崎に頭を下げた。

「わかりました」

伊崎が了解するのを確認して雄山は事務室に駆け込んだ。

 

 

 

▲▼▲▼☆☆☆☆▼▲▼▲

 

 

 

「失礼します」

雄山が事務室に入ると刑事ではなく別の人間がソファーに座っていた。

「よく来てくれた。雄山先生」

「学園長、何故ここに?」

そう、学園長だ。警察かと思いきやまさか自分の身内が呼んでいるとは思わず、そう尋ねた。

「雄山先生。この記事を読みましたか?」

学園長は新聞を取り出し、それを見ると先ほど話題になっていた事件についての記事だった。

「いいえ。ですが情報自体は伊崎先生から聞きました」

「では雄山先生、この2人に見覚えはありますかな?」

学園長は引き出しから2枚の写真を出し、それを雄山に見せる。その写真の中身はあのチンピラ達の写真だった。

「ええ。帰りに絡まれたので少し説教しました。その後事件に巻き込まれるとは思いませんでした」

第三者がここにいたら「あれが説教? んなわけねーだろ! あれは脅しだ!」と言いそうな嘘をさらりとついて話しを促すと学園長が頭をかいた。

 

「その今回の事件なのだがどうやら生徒の仕業ではない。外部の人間が起こしたものなんだ」

「……外部の人間が? そんなことをすればすぐに特定されて逮捕されるはずですよ。インターネットで殺されたことがすでに公表されているんですよ?」

 

外部の人間、つまり学園都市以外の人間は学園都市に入るには手続きが必要であり様々なことをやらなければならない。その為誰がどの時間に学園都市から入退場したかわかる。ましてや雄山が被害者に出会ったのは夜遅くで朝には事件がすでに起こっていた。これだけでも十分に特定を出来る。

 

 

 

「雄山先生、この学園都市は結界で覆われているのはご存知ですか?」

「確か情報防御と認識妨害の結界でしたよね? まさかそれに異常でも?」

 

情報防御の結界は文字通り、サイバーテロから学園都市の情報流出を阻止する為のもので現代になってから作られた結界だ。認識妨害は妖怪達と人間が互いに偏見の目で見ないように処置した結界だ。

 

「ええ。厄介なことに結界を弄られて昨日の夜から今日の朝までの外部関係者に関する情報が監視カメラ等含め全くない上に、外部や警察への連絡が取れないようになっています」

「なるほど。情報防御に関しては完全に突破され、盗まれたか消されたと考えるべきでしょうね。認識妨害に関してはラジオやインターネットに繋がったことを考えると逆に認識妨害のシステムを利用されてこちらからは情報を発信できないようにされた訳ですか」

「流石雄山先生。其処までお分かりなら私が呼び出した理由もお分かりでしょう?」

「学園長の言いたいことは妖怪達が暴れるのはもしかしたらその時間に入退場した誰かがいる、ということですね?」

「その通り。だがここは腐っても世界最大級の学園都市。ここの結界を弄り、情報を操作出来る奴は限られてくる。故に内部の人間が協力していると考えていいでしょう」

「まあ要するに、その結界の弄った形跡を辿って犯人を捕まろってことですか?」

「ええ。ですがそれでは何年かかるかわからないでしょう?」

学園長がそういって地図を取り出し、魔法を唱えた。その魔法が地図に書かれた場所に小さい○のマークをつけた。

「このマークした場所が今回報告された結界に異常がある所です。どうかよろしくお願いします」

学園長はその地図を雄山に渡した。

 

 

 

「しかし学園長、異常があるとわかっていて何故直さなかったんですか?」

当然の疑問に学園長は気まずそうに答える。

「異常に気付いたのはつい先ほどのことで直そうにも忌引等の理由で結界術師がいない為、現状維持が限界です。」

「其処で俺の出番というわけですか?」

「はい。本来であれば1人くらい残すべきでしたが…学園都市の結界を弄れるような者はいないと甘く見ていました。こればかりは私達の責任です。しかし現時点で雄山先生しか頼れる人材はいません! 何卒よろしくお願いします!」

頭を下げ、学園長は懇願する。それだけ切羽詰まっていたのだ。

「言われなくともやりますよ。それが俺の仕事ですから」

雄山は事務室から出て行き、急な出張が入ったと校長等様々な教員に報告しその場所へと向かった。


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