大和が師範〜キラーマウンテンと呼ばれた陰陽師〜   作:疾風迅雷の如く

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第27指導 回復

雄山が雄大との連絡を終え、裕二にも連絡すると到来山を降りると朝から昼間へと変わる。その数分後、雄山は大和一族の本拠地とも言える大和宗家に着いた。

「…」

東堂が大和宗家の屋敷のデカさに口を開けたまま唖然とする。屋敷を正方形に囲んだ塀一辺の長さだけでも学園都市の体育館5つくらいの施設ならば余裕で囲えるんじゃないのか? と思えるくらいだ。

「ここが雄山先生の実家なんですか?」

「ああ…だがこの屋敷はダミーだ。本命はこっちだ」

車から降りた雄山は門を開け、すぐ左へと曲がる。そこにあったものは井戸だった。

「なんでこんなところに井戸が…?」

あまりにもおかしい。普通このような屋敷であれば門のすぐ側に井戸を作る訳がない。東堂は雄山の言っていたダミーという言葉が引っかかり、雄山を見ると案の定笑っていた。

「流石にわかるか東堂」

「当たり前ですよ! というか何ですかこの井戸は!?」

「この家のインターホンみたいなもんだ」

東堂はその言葉を聞いて雄山をジト目で見るが雄山はまるで気にしていなかった。その為東堂はすぐにジト目を止め、自分を助けた二人組のことを思い出した。

「そんなことよりもあの男の子の手当をしないと!」

「そう急くな…あの程度の怪我を治せないと思うか?」

「思いますよ! だって臓器が露出しているんですよ!? 普通腐りますって!」

「あのなぁ…回復魔法のない魔法の世界があると思うか?」

「…あるんですか?」

雄山は鼻で笑い、東堂に胸を張った。

「ある。だが俺は回復系の適性が低いから使えん」

「威張ることですか!?」

あまりにも使えない。確かにキラーマウンテンと言う男なだけあって回復などはほとんど関係ないのだろう。

「その代わり兄貴達が使えるから問題ない」

「兄貴達って雄大さんや裕二さんですよね?でも二人ともここにいるんですか? 陰陽師協会からはともかく裕二さんの会社からかなり遠くありませんか?」

「大兄貴はこっちに向かっている途中だが裕二の方はもう着いている」

「…えっ!? 裕二さんの会社って北関東どころか中部の方にあったはずですよ!? 新幹線を使っても相当時間がかかるはず!」

「裕二はお前が誘拐されたと聞いてすぐさま那須脇旅館に来てお前の行方を調べてくれたんだ」

「…言いたいことは色々ありますけど何で私を救出した後、裕二さんがいる那須脇旅館に行かなかったんですか?態々ここまで来る必要はないんじゃないんですか?」

東堂の疑問は尤もである。回復魔法やその類が扱える裕二が那須脇旅館にいるのにそこよりも遠い大和宗家に移動する必要は理由でもない限りほとんどない。

「あそこはダメだ。」

「どういう理由でですか?」

東堂が尋ねると後ろから肩を叩かれ、そちらを振り向くとそこには魅了させられる中性的な顔の持ち主がいた。

「…それは僕が説明する」

顔だけでなく声も中性的であり、東堂はその人物の性別がわからず混乱した。

 

「ど、どちら様ですか?」

雄山が井戸の縁を触ったことにより目の前の人物は現れたと東堂は頭の中で結論するが問題はその人物が誰だかわからないのだ。

「初めまして東堂美帆ちゃん。僕の名前は大和裕二。そこにいる弟から色々聞いているよ」

「貴方がですか。初めまして裕二さん。そこにいるユーザン先生の式になる予定の東堂美帆です」

東堂は裕二の事を知っていたがまさかこんな人物だとは思いもしなかった。しかし裕二の情報を少し持っていたことが幸いし、動揺するだけで済んだ。もし何も知らなければ「嘘だ!」と叫んでいただろう。

「君は僕が雄山の兄だって信じるのかい? 良くて弟、悪くて妹なんじゃないかって言われるんだけどもね」

「ユーザン先生が否定しませんから」

「随分信頼されているね…雄山」

裕二は雄山が信頼されていることに対してなのかあるいは、東堂の行動が可愛らしいのか…あるいはどちらでもない理由によって微笑んだ。

「でもユーザン先生が言うには九条家に婿入りして性も大和から九条に変わったんじゃないんですか?」

「大が大和宗家の人間として呼び戻されたこにしているからね。九条家から籍を外したんだ。」

「ほぇ〜…複雑なんですね」

東堂が感心すると裕二は雄山の方へ向いた。

「ところで雄山、患者は?」

「俺の車の中で寝ている」

「それじゃあそっちに行こう」

裕二がスイッチを押すと雄山達が雄山の車まで瞬間移動した。

 

「な、な、な…」

東堂は瞬間移動をしたことに驚きを隠せない。その為口から言葉がほとんど出ずに「な」を連続でいうだけだった。

「またくだらない魔道具を開発したのか?」

雄山はそれを見て、裕二に対して呆れの声を出し、東堂に目配りをして二人を車の中から出す。

「くだらないとは失礼だね。これは世紀的な発明なんだよ? 名付けて! 瞬間移動装置だっ!」

「瞬間移動は確かに凄いがその分裕二の作る魔道具は魔力の燃費が悪いだろ?この前作った魔道具なんかは魔力や霊力が膨大な雄大ですら半分くらいは持ってかれたって嘆いていたぜ」

それを聞いた東堂は、もし雄山よりも少ない魔力の持ち主である自分がその瞬間移動装置を使えば間違いなく半端な状態で移動するだろうと想像していた。雄山にそれを言ったら間違いなく「お前の場合魔力が少なすぎて瞬間移動装置が中途半端にも作動しないんじゃないのか?」と鼻で笑われるので黙っておいた。

「でもその分性能はいいよ。今回の瞬間移動装置も使用者の魔力や霊力が尽きないように制御してある」

「普通に低燃費にすればいいんじゃないのか? そうすればバカ売れすると思うぜ」

「今の僕の技術じゃ低燃費にすることは出来ないよ。でも魔力を蓄積するようにしておけばなんとかなる」

「なるほどな。…裕二やってくれ」

雄山がそう告げると裕二の目の前には矢田と長門が仰向けに寝ていた。

 

「それじゃちゃちゃっとやるか」

裕二は矢田のタオルを剥がし、臓器を露出させている部分を見る。

「こりゃ酷いもんだ…裏の住民ならともかく表の住民が見たらドン引きするね」

裕二は苦笑し、臓器を露出させている部分付近に手を触れる。するとそれまでくっついていたタオルの糸屑やその他の細かいゴミが見えなくなり始めた。

「裕二、何しているんだ?」

雄山は裕二のかけた術が気になり、そう尋ねると裕二の口が開いた。

「まず清潔にして、それから回復術をかけるんだよ。そうしないと膿とかできるからね。そのくらい常識でしょ?」

「いや回復魔法とかの類は専門外だからな…傷がついたら回復魔法をかけておけばいいと思っていた」

「今度から覚えておいて。でないと救えるものも救えなくなる」

「わかった」

雄山はそれ以降口を閉ざし、黙って矢田の様子を見る。

 

「ところで裕二さん。先ほど言っていた那須脇旅館に戻るのがいけない理由でって何ですか?」

「那須脇旅館は表の住民も利用する旅館だからそこで回復術を使ったら旅館にいた人達に裏の世界について説明しなきゃいけない」

「じゃあ説明すれば…」

「だからお前はへっぽこ吸血鬼なんて呼ばれるんだよ」

雄山が口を挟むと東堂の顔が顰めた。

「無能教師には言われたくありません!」

「俺が無能かどうかはさておき、へっぽこ吸血鬼って言われた理由がわからねえのか?」

「…私の魔力が少なすぎるからですか?」

「それを今言う必要があるか?…ねえだろ。那須脇旅館にいる連中全員説明したらそいつらも裏の世界に関わることになる。その内100人中何人生き残れると思うか考えてみろ」

「60人くらいは生き残れるんじゃないんですか?」

「そんな生ぬるい訳あるか! 裏の世界に関わって死んだ奴の割合は99%…言ってみれば裏世界に関わったらほぼ死んだも同然だ」

「でも私は生きてますよ?」

「運が良かったんだよ。お前もこいつらも…」

雄山はチラリと治療が終わった矢田を見ると先ほどまで死にかけた人間とは思えないほど気持ち良さそうに寝ている。

「まあ、要するにだ。そんな世界に入らせない為にも俺達は努力して裏の世界の存在を隠している訳だ。態々巻き込むのは俺達生まれついての裏世界の住民の義務に反するし、何よりも奴ら自身も望んでいることじゃない」

「…それはわかりましたけど私はどうなんですか?」

「お前が望んだことだろうが。少なくとも俺はお前以外に巻き込んではいない」

東堂は雄山を引き止めて裏の世界に関わる決意をしたことを思い出し、自分が確かに望んだ事だと改めて認識した。

 

「雄山、美帆ちゃん、この娘の傷も治しておいたよ」

東堂は裕二の言葉によって現実に引き戻され、女子高生の方を見る。

「うん?長門は怪我してなかったはずだが…?」

雄山は先ほどの戦いを思い出す。東堂を救う際に最初に狙われた矢田は大怪我を負ったが長門に関しては勇姿から守れた。そのはずなのに怪我を負っているということは長門は無茶をしたのだろうか。

「確かに最近出来た傷はなかったけど腹の方にちょっとした古傷があったから治療したんだ」

裕二はそんな雄山の疑問に答えるように口を開けた。

「そういうことなら長門も喜ぶだろ。傷ってのは女の敵だしな」

治療する際に座っていた裕二が立ち上がると棒をどこからともなく出し何回か目の前の門を叩いた。

 

突如、地の鳴るような轟音がその場に響く

 

「な、なんですか!? ユーザン先生、裕二さん!?」

「東堂落ち着け。本当の大和宗家の屋敷の門が開かれるだけだ」

「本当の門…?」

「そうさ、大和宗家の屋敷はさっき見せたような小屋じゃない。もっと巨大な屋敷だよ」

裕二がそう告げるやいなや目の前に現れたのは屋敷などというレベルではなくもはや城。それも数々の歴史の偉人達が築きあげた城がフィギュアサイズに見えるほどの巨大な日本城だった。

 

「…ヒゥ」

あまりの大きさに東堂は唖然とするどころか泡吹いて倒れてしまった。


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