大和が師範〜キラーマウンテンと呼ばれた陰陽師〜   作:疾風迅雷の如く

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第26指導 勇姿という男

【こんな形でまさかイサムと敵対するとは思いもしなかったが…それはそれで面白い】

事情を雄大に話すと雄大は笑い、そう返した。

「大兄貴…何がそんなに面白いんだ?」

【ヤマ、お前は知らないだろうが私はイサムを敵視していた】

「大兄貴が勇姿を…?」

【6年前、イサムが行方不明になって後継者候補から外れた時私はこれ以上ない幸運だと感じていた。何せその当時の私は常に自分が一番であり続けることに喜びを感じていた】

「そのセリフすい臓癌で寝てこんでいる会長に言ってやれよ…大兄貴をライバル視している会長が可哀想だぜ?」

【だがいざイサムがいなくなってみれば何か物足りないと感じるようになった…イサムがいなくなってから私は何のために一番であり続けるのかわからなくなった】

雄山の先ほどの言葉をスルーし、雄大は話を続けた。

「会長が可哀想過ぎる…」

雄山は思わずそう呟いてしまった。会長は雄大に対してかなりライバル視しており、血統、陰陽術、西洋魔法、学力、戦闘、ありとあらゆる分野において負け越していた。それでも挫けず、会長は雄大に挑み続けた。だが雄大の言う通り雄大は一番になり続け、会長はいつも二番手だった。故に会長がそんな心境の雄大に勝てなかったのはあまりにも残酷な話であり、雄山といえども同情しざるを得なかった。

 

【そして私はイサムに依存していることにようやく気付いた。その依存を無くすには私がこの手で決着をつけなければならない。その勇姿がいなくなってはどうしようもないが…】

「勇姿と戦う機会が出来て面白いと思ったわけか」

【その通りだ。…しかし大和宗家に避難するとは本気なのか?ヤマ】

「本気も本気。あそこは陰陽師協会よりも施設は整っている上にここから近い。いくら勇姿を宗家当主に迎え入れようとはいっても顔を出した訳じゃない。それに今行かなきゃ後手になるからな」

【わかった…師匠に話を通しておく。あの人が味方になればいくら騒ごうとしても騒げない状況になるからな】

「ありがとう…」

雄山は電話を切り、運転を再開し始めた。

 

いや、しようとしたところでブレーキを踏み、車を止めた。

「もう追手が来たか…」

「…」

雄山が止めた理由、それは目の前に現れた刺客達が妨害したであろう障害物が理由だ。その刺客達は勇姿に比べればなんでもない普通の男達だが、雄山からしてみれば面倒な相手だ。やること為すことがエゲツなく、雄山寄りの人間であることがわかる。

「かかってこいよ…なんて言わねえぜっ!」

雄山は刺客のうち一人を不意打ち気味に空掌で仕留めると刺客達も動き、戦闘が始まった。

「だからてめえらは甘いんだよ!」

刺客達が何も言わないのに関わらず雄山は声を上げ、札を出す。すると雄山そっくりの式神が現れ刺客達に攻撃する。

「…っ!」

ただ刺客達も(元からだが)黙っているほど甘くはない。刺客達は式神に攻撃し抵抗する。そしてその刺客達が式神達を倒すと急に痺れ始めた

「無闇に攻撃すればてめえらは痺れる仕掛けになってんだよっ!」

雄山はそう言って刺客達全員を仕留め、気絶させた。

 

▲▼▲▼☆☆☆☆▼▲▼▲

 

雄山が刺客達を気絶させたその頃…勇姿は山火事の対処をしていた。

「(俺を殺す為とはいえここまでやるか?)」

勇姿はそう思いながら木に着いた火を拳で揉み消す。通常であればその拳に火が着き、大火傷を負うことは間違いない。しかし大火傷を負うどころか拳にも火は着くことなく火傷の痕はどこにも見当たらなかった。本人曰く密度を高めればダイヤモンドよりも硬く、熱にも強くなるらしいが真実は定かではない。

「14-0801」

そんな最中、透き通った声の持ち主の少女が番号を言うと、勇姿はすぐさま敬礼する。

「お疲れ様です。ボス」

ボスと呼ばれた少女は満足気に頷き、腕を組んだ。

「その様子では雄山にやられたようだな」

くつくつと笑う少女はまるで楽しんでいるかのようだったが勇姿にとっては不気味に思え、それが恐ろしかった。

「面目ありませんボス。まさかあのようなイレギュラーが出てくるとは…」

「何もお前を叱っている訳じゃない。むしろキラーマウンテンの動きを制限しただけ上出来だ。おかげで病院等の施設を手回し出来たのだからな」

「ありがとうございますボス、そして流石です」

「さて、施設へ帰るぞ。後は私がやるから車に乗れ」

「はっ! では失礼いたします!」

勇姿が車に乗ると少女は手を上に突き出し、詠唱し始めた。

 

「天竜よ、我が力を使い恵みの雨を降らせ給へ!」

 

そして少女の声が響くとその声に応えるかの如く、到来山に豪雨が降り出した。

「さて行くか」

少女はずぶ濡れにもかかわらず、焦る様子はなく車の中へ入る様は冷静そのものだ。

「ボス、お拭きします」

勇姿はタオルを持ってずぶ濡れになった少女を拭こうとする。

「よせ、私の身体は自分で拭く。それよりも早く出発しろ」

「御意。ではボス、出発します」

勇姿の声と共に車がその場から動くと少女は身体を拭き始め、徐々に水分が飛んで行った。

 

▲▼▲▼☆☆☆☆▼▲▼▲

 

戦闘を終えた雄山は尋問を行ったものの収穫を得られず、刺客達を蔓巻きにして車のトランクの中に入れた。

「チッ…天気予報なんてアテにならねえな」

「ん…」

雄山が豪雨が降り出したことに舌打ちすると東堂が目を覚ます。

「ここは…?」

東堂が起きるとそこに映ったのはいつしか見たことのある車の窓。右を見れば運転しながら電話している雄山がおり、自分が座っているところは雄山の車の助手席だということがわかった。

「…起きたか?東堂」

「はい」

そして雄山が話しかけると東堂は安心してそう返事をした。

「そいつはよかった。まだ後ろでネンネしている奴らがいるから静かにしろよ」

「後ろ…?」

そしていつの間にか自分の身体が自由になっていたことに気がつき、後部座席を見ると血まみれになったタオルを腹に置かれた矢田とその隣で涙を流しながら寝ている長門がいた。

 

「うわっ!?」

タオル越しに内臓がちらほら見える矢田の腹を見てしまい、東堂は驚きの声をあげ引いてしまう。一体何が起きたのかわからないからだ。

「だから騒ぐな。こいつらはお前を助ける為にこんな風になっているんだ。静かに休ませてやれ」

雄山がそう声をかけると東堂はしょんぼりとした様子で雄山に尋ねた。

「すみません…しかし何があったんですか?わかるのはこの男の子が自分を犠牲にして私を助けたことくらいですが…」

「だいたい合っている。というかそこで寝ている長門…あー、JKも協力したんだ」

「じゃあ私のせいでこんな風に…?」

「てめえが悩むことじゃねえよ。こいつらは自分の意思でやったことだ。いや…それどころか俺が来るなと言ったにもかかわらず首を突っ込んだと言うべきか」

東堂のうじうじとした姿を見た雄山は自分なりに東堂を励ますと東堂も少しずつ元気になり始めた。

「ユーザン先生が止めたのにですか…」

「そうだ。そのおかげでお前を救えたから助かったんだが…この二人が勝手に首を突っ込んだから自業自得と言うべきなんだろうな」

「先生!」

雄山の余りの辛辣な言葉に東堂は非難の目を向けた。

「自業自得かはともかく俺はこいつらを助けなきゃいけない。東堂の恩人だしな」

「…絶対に助けてくださいよ。私の所為で死んだなんてことは嫌ですから」

東堂は雄山に対してもっと批判したかったが矢田を助けようとするのは雄山、東堂共に目的が一致している為に口出ししても無意味だと理解していた。

 

「ところでユーザン先生、どこに向かっているんですか?」

「大和一族宗家、俺の実家だ」

「えっ!?」

「何をそんなに驚いてやがる…別におかしなことじゃないだろう?」

雄山はそう言って唖然としている東堂を視野に入れる。それでも東堂のショックが大きいのか東堂は唖然としたままだった。


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