大和が師範〜キラーマウンテンと呼ばれた陰陽師〜   作:疾風迅雷の如く

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第25指導 イレギュラー

到来山頂上にて二人の男達が戦っていた。その二人は大和雄山と大和勇姿。二人の名字が同じことであることから親戚筋であることが予想される。それは正しく、二人の関係は兄弟だ。故に兄弟喧嘩と呼ぶべきだろう。だが規模は兄弟喧嘩などというレベルではない。

 

「らあっ!!」

勇姿の拳が地面に突き刺されば地震や地割れが起き、到来山の岩雪崩を引き起こす。

「はっ!」

雄山の炎の属性を付加した破魔札が勇姿に当たり炎上し、それに巻き込まれる形で山火事が引き起きる。

「その程度の火で俺を殺せると思うか!雄山!」

だが山火事になろうともお構いなしに服が燃え半裸状態となった勇姿が雄山の前に現れた。

「何でお前は無事なんだよ…」

そのことに思わず突っ込んでしまう雄山。普通、あれだけの炎に燃やされて無事でいられるのは服が防炎服でない限りは不可能だ。しかし勇姿の服が燃え上がったことから防炎機能が全くないことがわかる。故に何故無事でいられるのか謎だった。

「俺の筋肉はダイヤモンドよりも密度が高い…ライターの火でダイヤモンドを燃やすことができると思ったのか?」

「そうかよ…ならこいつはどうだっ!」

雄山は先ほどとは違う破魔札を取り出し、それを雄山に投げた。

 

「この程度の破魔札で俺を止められると思うな」

そう言いつつも勇姿は雄山の破魔札を躱し、雄山に接近する。

「これで終わりだ!」

そして勇姿は拳を作り、雄山に向けて殴りにいく。

「詰めが甘くなったな、勇姿」

「どちらがだ!」

雄山は破魔札を拳に向け、投げる。しかし勇姿の拳は止まらない。だが勇姿は異変に気がついた。

「ぬっ!?」

勇姿の右拳が氷で覆われ、このままの状態で雄山を殴れば自分の拳が壊れるだろう。勇姿はそう判断すると左に逸らして回転すると裏拳を出した。

「ぐっ!?」

流石に予想外だったのか雄山は勇姿の裏拳を防ぐことが出来ず、そのダメージを喰らう。だが雄山とてキラーマウンテンと呼ばれた男。何もしない訳ではなく破魔札を投げた。

「鬱陶しい!」

勇姿の大柄な身体では避けられず、それを左手で握りつぶす。

「何…!?」

雄山はそれを見て驚愕していた。何故ならあの破魔札には雷の属性を付加させた破魔札であり、それに触れれば感電することは違いなく、インド象ですら動けなくなる。だが勇姿は動けなくなるどころか感電する様子もない。

「おらぁっ!」

雄山が唖然としている間に勇姿の拳が目の前に来ていた。それを見た雄山は障壁を張って対処した。

「ぐっ!?」

だがその障壁は破壊され、雄山は腹に拳が当たり吹き飛んだ。

 

▲▼▲▼☆☆☆☆▼▲▼▲

 

雄山と勇姿が戦っているちょうどその頃…二人のギャラリーが戦いを見学していた。

「凄え…ユーザン先生あんな魔法みたいなの使えたんだ」

「…うん。あんなの空想上だと思っていたよ」

その二人とは矢田と長門だ。二人は一度雄山の言う通り帰ろうとした。しかしオカルトを探すまで諦めずに二人はここまで来ていた。だが実際にあったのはオカルトではなく魔法-正確には陰陽術-だった。魔法という存在に二人はただただ羨望の目を向けるのであった。

 

「…あれ?聖君、あの車の中で芋虫みたいなのがいるよ?」

「どこだ?」

矢田が雄山の車の方へ向くがそれらしきものは見当たらない。

「ユーザン先生の車じゃなくてあのワゴン車の方に」

「本当だ。しかもあの制服、学園都市の生徒のじゃないか?」

「聖君、暴力団同士の取引って言ってたけどもしかしたらユーザン先生はあの人を救いに来たんじゃないかな?」

「ユーザン先生の見た目からして誘拐する方だとは思うが相手も相手だしな」

そう言って矢田は勇姿の顔を見る。雄山も大概だが勇姿も同じく人を怖がらせるような顔つきであり、どっちが極悪人なのかわからない。しかしあのワゴン車に被害者がいる以上は恐らくあの大柄な男の方が極悪人なのだろう。

 

「何にしても長門、あの子を救うぞ」

矢田の頭の中で被害者を救おうと決意すると長門もそれに頷いた。

 

▲▼▲▼☆☆☆☆▼▲▼▲

 

「一瞬の判断であれだけのことをやるとは流石キラーマウンテンと呼ばれるだけあるな。雄山」

「その障壁を無理やりぶち壊したお前が言うか?」

「純粋に褒めている。大体ほかの連中は一瞬で終わってしまうからな」

勇姿は余裕そうに雄山を見る。勇姿は未だに無傷であるのに対して雄山は満身創痍の状態だ。雄山が満身創痍となったことは何度もある。しかしそれはいずれも雄山の作戦によるものであり、今回は違う。今回は勇姿を初めから殺す気で挑んだがそれでもこの有様だ。

「(並大抵のことでは死なないと言ったが…勇姿相手じゃ仕方ないのか?)」

雄山はそう自問し、口から血を吐き出した。雄山が吐き出す際に鉄の味がして眉を顰め、自答する。

「(俺の無責任な行動?…違うな、運が悪かったとしかいいようがねえ。それ以外に考えられる要素はない。)」

雄山は再び破魔札を持ち、勇姿に向けてそれを投げた。

「…ほかの奴らが一瞬で終わったのは諦めたからだ。だが俺は諦めない。東堂を救うことも生き延びることもな」

「だからこうして立っていられるか…面白い」

「人の思いを面白がるんじゃねぇ!」

雄山は勇姿に向けて、大和一族の奥義、大和空掌砲を放った。それを喰らった勇姿は無理やりその場から後ろへと動かされた。

 

「はぁっ…はぁっ…グゥッ!?」

雄山は空掌を放ったことにより、身体の負担が掛かり膝をついた。普段であれば身体に負担は掛からないが雄山は満身創痍の身…言ってみれば足が骨折しているのにサッカーをするのと同じだ。

「これで万策尽きたな。一応言いたいことは聞いておこう」

「例え、俺が死んだとしても裕二や雄大が待って」

【VEー!!VEー!!】

待っている。そう雄山が言おうとした瞬間、ワゴン車から警告音が鳴らされ、二人はそちらを見た。

「やべ!気づかれた!!急げ!」

「うん!」

そこには雄山が到来山から帰らせた筈の矢田と長門がいた。

 

「(あれは…!?)」

雄山はその音を出す原因となった二人を見る。何故二人がここにいるのか?そんなことはどうでもよかった。問題は二人が芋虫状態になっている東堂を救い出している最中だったということだ。

「勝負の邪魔をするな!」

勇姿は石ころを二人に向けて蹴飛ばし、東堂を救い出すことを妨害する。石ころは大変危険な物である。何せ戦国時代に投石といった石ころを投げ、敵を攻撃する手段があったくらいだ。しかも戦国時代の人間は現代人よりも力を発揮できない状態だったのだ。それを勇姿がパワー全開で蹴飛ばしたらどの程度の威力があるだろうか?おそらく鉄板の一枚や二枚は当然、10枚程度も貫いてしまう。それだけ危険な物である。

 

「あぐっ!?」

石ころに命中したのは矢田の方だった。矢田の身体を貫いた石ころは血塗れになり、木々にぶつかり止まる。しかし矢田の背中や腹から出てくる血は止まらない。

「聖君!」

長門がそれを見て矢田に駆けつけ、手当をしようと試みるが包帯などのものは持ってきていない。ただオロオロとしているだけだった。

「二人目」

「ひっ!?」

勇姿が無慈悲に石ころを蹴飛ばす体勢に入る。それを見た長門は恐怖によって固まってしまう。

「俺の元生徒達にこれ以上手を出させねえよ!」

雄山は勇姿の軸足を払い、転ばせて阻止しようとした。だがそれは出来なかった。

「もう遅い!」

勇姿は転ばせたが勇姿の蹴飛ばした石ころが長門に向かい、飛んでいく。

「いやぁぁぁぁっ!!」

長門はその恐怖のあまり悲鳴をあげ、目を閉じる。誰だって石ころを投げつけられば目を閉じる。しかも目の前で矢田が死にかけるほどの重傷を負ったのだから尚更恐怖に怯えてしまうのだった。

「…?」

だが痛みを我慢する為に目を閉じたが痛みはいつまで経っても来ない。妙な違和感を感じた長門はそろりと目を開けると雄山達が目を見開いていた。

「そんな馬鹿な…」

勇姿がかつてないほどに驚愕しており、動きが固まる。雄山はそれを見てポケットに手を突っ込んだ。

「長門、矢田と一緒に俺の車に乗れ!」

その隙に雄山は長門に車の鍵を渡した。雄山の鬼気迫る表情に混乱している長門は正気に戻り、怪我をした矢田を車に乗せた。

 

「雄山、俺を相手に逃げ切れるとでも思ったのか?」

「思う!」

雄山は札を出し、地面にそれを投げる。すると煙が上がり、雄山の周りは見えなくなってしまった。

「舐めるな!」

勇姿は雄山がいた方向へ殴ると雄山を殴った時の感触が別のものへと変わっていた。

「煙と式神の併用か。考えたな…雄山」

雄山は式神を使うことによって勇姿の足止めをし、式神を無視して強行突破をしようにも式神が視界に映らない状態ではどうしようもない。

「ここは引くか…」

勇姿は雄山の姿をした式神に囲まれ、これ以上深追いしても無駄なことを悟り式神を数体倒してワゴン車に乗り、その場から撤退した。

 

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「聖君、しっかりして…」

長門は弱々しく、矢田を看病していた。だが矢田は痛みに苦しみ、うめき声しか出せない。それもそのはず、矢田の今の状態は銃で撃たれた以上に深刻な状態だ。弾こそ石ころであったが銃弾よりもはるかに巨大であることに違いない。矢田の内臓がちらほらと長門の視界に映ることもあって長門が精神的に弱るのは無理はなかった。

「この辺の病院は全滅か…」

その一方、雄山は矢田の手当をしてくれる病院を探していたがどれも休日ばかりで緊急搬送もままならない状態だった。

「仕方ない、実家に頼るか」

雄山は苦虫を噛み潰した表情でそう呟いた。


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