大和が師範〜キラーマウンテンと呼ばれた陰陽師〜   作:疾風迅雷の如く

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第23指導 悔しさと思い

雄山が尋問しているその頃、裕二は雄山の端末から誘拐犯の発信元を割り当てようとしていた。

「全くとんでもない設定だね…」

裕二がそうボヤく。というのも端末からは僅かながらの情報しか入っておらず誰が電話したのかもわからない。音声記録から周りの音の周波数を合わせ、その周波数が発生した場所を探したがこれも失敗。

裕二のやることなすこと全て封じられてしまった。

「ふ〜っ…ここまで僕の行動を封じられたのは初めてだよ」

ため息を吐きながら、裕二は別の手段に移った。

 

別の手段、それは雄山の端末に逆探知の機能を搭載することだ。勝手に改造をするあたりマッドサイエンスである。

やはりこの裕二も雄大や雄山と同じ血を引いているのだろう。それでもマシと言えばマシだろう。

何せ兄の雄大は部下に優しくしておきながら敢えて危険な場所に行かせるという悪魔じみたことをしており、雄山に至ってはもはやマフィア狩りだ。それも勧善懲悪のヒーローではなく小悪党を喰い物にする大悪党のような存在だ。ダークヒーローですらない。

特殊な環境は特殊な性格を生むと言うがまさしく雄大や雄山はその影響を受けてきたと言える。裕二は影響を受けているにしてはマシといえる方だ。

 

▲▼▲▼☆☆☆☆▼▲▼▲

 

しばらくし、雄山と裕二はそれぞれの作業を終えて那須脇旅館に戻った。

「裕二、逆探知は出来たか?」

「ダメだった。うまく証拠隠滅させられている。その代わり逆探知出来るようにしておいた」

「流石裕二…仕事が早いな。」

「雄山の方はどうだった?」

「全員、勇姿と面識があるだけじゃなく俺達を殺すように命令されていたみたいだ。俺達のうち一人でも殺せれば幹部昇進が約束されていたようだ」

「勇姿が僕達を?」

裕二は驚いていた。裕二は自分をあまり評価していない。というのも裕二は表に顔を出しまくっている人間で表の影響力こそ大きいが裏世界の方では大したことはない。その為裕二の自己評価は低いのだ。

「ああ。俺も聞いた時は驚いた。大和一族の中でも勇姿は評価は高まりつつある。裕二は九条家に婿入りしているし、俺は陰陽師から引退した身だ。勇姿は放っておいても勝手に一族の奴らが担いで宗家当主の椅子に座ることになる」

「大が雄山を陰陽師として復活させたりしなければの話だけどね」

 

「俺が気になったのは俺を殺す動機じゃない。むしろ裕二を殺す動機がわからない。裕二は俺や大兄貴よりも勇姿に慕われていた上に、九条の人間だ。元に戻ったところで大兄貴の後継者になるとは思えない…少なくとも俺はそう思う」

裕二は首を横に振った。

「それはありえない。勇姿から見て僕は足でまといでしかなかったと思う」

「何故だ?」

「ずっと昔、勇姿と一緒に崖から落とされて僕は怪我を負ったんだ。元の場所に戻るには崖を登るしかない。でも僕は怪我をしていて登れない。勇姿はどうしたと思う?」

「勇姿が裕二を背負って崖を登ったのか? ありえそうだが…まさかな?」

雄山が苦笑気味にそう言うと裕二の口から驚愕の事実を伝えられた。

「半分正解で半分不正解。僕を脇に抱えて片手だけで登ったんだ」

「本当か?!」

「本当。勇姿に何故背負わず脇に抱えて片手だけで登ったのか聞いたんだ。そしたら『確かに背負って崖を登ることは出来る。だが背負われる側にも体力が必要だからな。脇に抱えて登れば負担もなくなる。それだけのことだ』って返してきたんだ」

「それなら慕われている証拠なんじゃないのか?」

「昔はね。でも今は違うよ。あの時は子供だったから慕ってくれたけど成長するにつれて合理的な考え方が出来るようになっているよ。だから邪魔であれば消すなんて考えも普通に出来るし、一度だけ僕のところでバイトで働かせたのもそれが理由だ」

「…」

雄山はそれに心当たりがあった。日が増していくうちに勇姿は大人びいていき、合理的な考えをするようになった。それは普通かもしれない。だが裏の世界の人間は合理主義者が多く存在する。勇姿も本能で合理主義者となったのだ。

 

「でもそれ以上に気になるのが何で僕達の前に姿を現さないのかが気になる。6年前から会ってもいないのに顔を見せない、やり方が雑、それなのに変なところで几帳面。ここまで来ると誰が黒幕がいるんじゃないかって思うよ」

「確かにな」

 

【pipipi…】

雄山の端末から電話が鳴り、雄山はそれに出る。

「もしもし?」

【私だ。雄大だ】

「大兄貴か。一体何のようだ?」

雄山は裕二の方へ向くと裕二は頷いて逆探知を始めた。

【ヤマのところに派遣した陰陽師達と一時間おきに連絡を取り合っていたが誰一人も連絡が取れなくなった】

「何だと?」

逆探知は成功、だけど本物の大だった。裕二が読唇術でそう伝えると雄山は了解サインを送り、電話を続ける。

【そちらに異変はないのか?あれば報告して欲しい】

「ああ…わかった。」

そして雄山が雄大にこれまで起きたことを全て話した。

 

「…というわけだ。」

【ヒロが勇姿一派を名乗るものに襲われたのか。確かに妙だな。イサムが大和財閥のトップの椅子が欲しければ私のところに向かわせるはずだ。となれば私ではなくヒロの命を狙っているとしか思えんな】

「大兄貴もその結論か」

【私は常に命を狙われる立場だ。故に相手の立場に立たねば命を守ることなど不可能だ】

「確かに…」

雄山はそれを聞いて納得してしまった。雄大は様々な組織のトップである。大和一族宗家当主、大和財閥取締役社長、そして陰陽師協会会長代行。これらの組織のトップに立つだけでも命を狙われる立場である。

しかし雄大は3つの組織全てのトップであり、今すぐに殺されても文句を言えないくらいの立場なのだ。故に雄山が納得するのは何ら不自然なことではない。

【何にせよ今から派遣してもお前の所に間に合いそうにない。ヤマ、すまんが誘拐の件に関しては協力は出来ない。だが裏以外で手回ししておく…ヒロにもそう伝えておいてくれ】

「わかった。」

【くれぐれも気をつけろ】

そして電話が切れ、雄山達の空気が重くなった。

 

「どうする?」

「当然行くしかないだろう。東堂を救うには到来山に行くしか手段はない。」

「雄山、これだけは言っておくよ。危ないと思ったらすぐに逃げろ。例え美帆ちゃんを救えたとしてもそこで命を落としたら美帆ちゃんをずっと苦しめることになる。」

「安心しろ。俺を誰だと思っている? 俺はキラーマウンテンと呼ばれた陰陽師。並大抵のことで命は落とさねえよ。」

雄山は自分の車を使い、到来山へと向かった。

 

▲▼▲▼☆☆☆☆▼▲▼▲

 

その頃、到来山では東堂を誘拐した大男が車で電話をしていた。

「はい、はい…わかりました。それでは失礼します。ボス」

大男が電話を切ると後ろに乗っていた東堂が目を覚まし、起き上がろうとした。しかし拘束具が邪魔をしてそれは出来なかった。

「起きたか…」

その物音を聞きつけ、大男が東堂の顔をみる。

「東堂美帆って言ったか?」

東堂はそれに頷く。口は轡で拘束され、何も喋れないからだ。

「美帆、朗報だ。お前達が潰した妖魔連合会の元幹部達は死んだ。残っているのは下っ端どもだけだ」

東堂が知っている妖魔連合会の幹部と言えば竜人の鴨川と龍造寺の話に出てきた間中と端本、春澤の三人だった。

「おかげでボスの機嫌が良いし、この下っ端どもの掃除も楽になる」

東堂は大男の言葉に首を傾げた。しかしそれも僅かな間だった。外を見ると明らかに人間とは思えない人外と目が合い、東堂がその場で暴れ始めた。魔力が暴走し始めたのだ。

「喝っ!」

しかしその大男は人差し指を東堂の額につけると東堂の魔力が収まり始め次第に東堂の暴走も止まった。

「これから先はお前が見るものじゃない。これでもつけてろ」

大男がアイマスクを取り出すのを見て東堂はそれをつけられるのを首を振って拒否した。しかし大男は東堂の顔を掴み、固定するとアイマスクをつけて自分は車の外へと飛び出し下っ端の妖怪達を次々と蹴散らしていく。

 

「(悔しいな…私に力さえあればこんなことにならないのに…)」

その様子を東堂は耳でしか確認出来ないことを悔しく思っていた。東堂は何時までも守られる立場でいたくないから雄山に着いて行ったのだ。それなのに自分はいつも守られてばかりで東堂は無力だと感じてしまうのは無理なかった。


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