大和が師範〜キラーマウンテンと呼ばれた陰陽師〜   作:疾風迅雷の如く

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第20指導 誘拐

深夜、雄山達は旅館の部屋でぐっすりと眠り旅館にいる人々は誰も起きる様子はない。そんな状況の中、一人だけが静まり返った廊下を歩いていた。

「…」

その人物の特徴は身長2mを超える筋骨隆々の大男。普通であればその大男の足音によって旅館に響き、勘が鋭いものであれば起きる。しかしこの大男は全くと言っていいほど足音を立てず、床を軋ませなかった。

「(やれやれ…ボスも何を考えているのかよくわからん。だがボスの命令に従っておかねえと面倒だしな)」

この大男はある男に指示されてここまでやってきた。何故そんなことをしなくてはならないのかは疑問であるが上に立つ者の命令は絶対ということを身に染みておりそれを実行していただけだ。

「(さて…探すか)」

大男は音を立てないように慎重に受付の周りを漁り始めた。ただあまりにも暗く、大男の視界では流石に無茶が過ぎるために持ってきた端末を操作して懐中電灯の機能を利用した。

「(…! これだ!)」

それを見つけ頭の中に記憶する。その中身は客の名前が書かれた帳簿だった。この旅館は歴史のある旅館というせいか近代化されていない。その為、客の名前と部屋の番号が書かれた帳簿があるのは当然のことだった。

「(ターゲットの部屋は二階の奥の部屋か…面倒だな)」

大男が眉をひそめ、頭を掻こうとしたが下手に音を一切立たせないためにもそれは止めた。しかし現状、頭を掻きたくなる事態であるのは違いない。階段を使って移動するというのは床よりも音が立ちやすく、少しでも音を消したい大男からしてみれば大きな障害となっていた。

「(…あまりこういうことはやりたくないが仕方ない)」

その大男がとった行動は階段の頂上ギリギリのところまでジャンプし階段の淵を掴むという力技で音を消したまま階段の上まで登った。

大男が実践したのは自分がジャンプした時、速度が0となる瞬間とジャンプする時に必要な力を計算し、無駄な力を消すようにして限りなく自分の重さを0に近づけていた。自分の体重が足の面積で割った分だけ階段に圧力がかかり、音が立つ為そうしざるを得なかった。

「(後は方向を変えて…手すりを使って体勢を戻すだけだ)」

大男が自らの握力を使い、淵から器用に体勢を戻して再び歩き始めた。

 

▲▼▲▼☆☆☆☆▼▲▼▲

ちょうどその頃、東堂は夢を見ていた。

 

自分は暴力団(ヤクザ)に捕まり、もがいているという状況だった。何故暴力団(ヤクザ)に捕まっているのか一人の人物が思い当たった。雄山である。雄山はかつてキラーマウンテンと呼ばれる陰陽師だった上にら本人によれば暴力団(ヤクザ)やマフィアを潰してきたと言っており、その手の連中からかなり嫌われている。実際この前の事件でもマフィアが雄山を殺す為だけに怪人となって現れたのだ。

そんな非人道的な手段を使う集団に人質を取る手段というのは普通の人々が息を吐いて地球の二酸化炭素を増やすのと同じくらいの行為であり、全くと言っていいほど躊躇いがない。

 

【玉乃…お前の兄貴分、橋野はすでにムショん中に行った…お前もいい加減諦めてお縄につけぃ!】

この声は雄山の声ではなかった。この声はもっと地を這うように低い声だ。雄山以外の誰かが自分を助けに来たのだろう。おそらく警察の四課か特殊部隊のどちらかであるが特殊部隊はそんな大声を出す訳がない。特殊部隊は仕事に関してはむしろ無言だ。となれば四課の人間だろう。

【チッ…もう来やがったか…】

玉乃という男がどうやら自分を人質にしており、その男が来たことに忌々しく顔が歪んでいた。

「(うわぁ…やられ役の人の顔をしているぅ…)」

東堂はその顔を見てドン引きした。

【来い!】

玉乃が自分を無理やり引っ張り、首を下に向いた状態で固定し東堂を盾にした。

【玉乃、お前に逃げ場はねえ…盃交わした兄弟同士で仲良くムショん中で更生しろ。】

身長190cmのスーツ姿の男が銃を構える姿勢が見えたことからすぐにその男が刑事だとわかった。

【俺は橋野の兄貴とは違う…! まずはてめえからだ!】

玉乃は東堂を盾にしてジワリジワリと前に詰め寄り、銃を構える。 …そして銃声が響いた。

【ぐぁっ!?】

だがその引き金を引いたのは刑事の方だった。

【玉乃…俺を舐めすぎだ。俺は生憎だが射程距離の範囲内ならミクロ単位で銃を外すことはない。だからどんなにその娘を盾にしようとも関係ない。単純にお前を狙えばいいだけの話だ…盾にするんだったら人質じゃなく鉄板にするべきだったな】

「(そんな漫画みたいなこと…出来っこない。夢に違いないよ。)」

東堂の視界は真っ暗になった。

 

「やっぱり夢だった…」

東堂は誰も目覚めぬ中、旅館でただ一人目が覚めてしまった…その原因は言わなくともわかるがあの夢のせいである。そして二度寝をしようと目を閉じたが尿意に襲われた。

「んっ…トイレ…」

東堂は寝ぼけながらも布団から出てトイレへと向かった。

一応吸血鬼なのに何故夜寝ているんだ?という疑問があるが彼女は吸血鬼ではあるものの人の血がかなり強く、人間と大差ない生活を送れる。逆に彼女は人間ではないのか?という声もあるが人の血がかなり強いため妖力こそ大したことはないが吸血鬼の身体能力と吸血をする習慣があり、吸血鬼と定義されるのだ。

「(でもあの人誰だったんだろう…)」

それはさて置き、寝ぼけたまま東堂は目の前にある扉を開けて部屋のトイレに入った。

「(玉乃…どこかで聞いたことあるんだけど思い出せないな)」

女のトイレは長く、小便をするだけでも男の数倍時間がかかるので東堂はしばらくの間トイレの中にこもることになった。

 

▲▼▲▼☆☆☆☆▼▲▼▲

そして大男は慎重に歩くこと数分、雄山の部屋の前を通り過ぎ、目的の部屋へと着いた。

「(ターゲットの部屋に辿り着いたか)」

そのターゲットの写真を取り出して顔を確認する。

「(しかしたかが小娘一人のためだけにこの俺を使うか? ボスが大袈裟すぎるのか、あるいは障害が余程大きいのか…どちらにせよ油断はしない)」

そして部屋の中へと入り、トイレをスルーして東堂の布団へと近づいた。

「(…逃げたか? いやあの扉の電気が点いている。となれば偶然起きた…と考えるのが妥当。ここで待ち伏せていればやりやすい…最悪ターゲットを殺せばいいだけの話だ)」

そして水の流れる音が聞こえ、東堂の歩く振動が大男の足にも伝わり、徐々に近づいてくるのがよくわかる。

 

「今度はへんな夢見ないようにしないと…」

ついに独り言を言いながら東堂が出てきた。その瞬間を見計らい、大男は東堂の口を轡で塞ぎ、手首を縄で縛りつけると銃を東堂の頭に突きつけた

「騒ぐな、動くな、抵抗するな。それらをしたらどうなるかわかるな?」

ドスの効いた地を這うような低い声が東堂を恐怖へと導き、東堂は大人しく首を縦に振った。

「よし、行くぞ」

そしてその大男が東堂を脇に抱え、外へ飛び出そうとしたが体勢を崩した。

「…ぬっ!?」

「おいおい困るぜ。人の式を勝手に持って行かれるなんて真似は…」

雄山はその大男にその場で腕を前に突き出すことで空気の塊を大砲のように放つ大和一族の秘術、大和空掌砲を撃っていた。だがこの大男は全くと言っていいほど傷が付いておらず体勢を崩しただけだ。

「フゥファンフェンフェー(ユーザン先生)!」

しかし東堂からしてみれば頼もしい助っ人である。何故なら東堂はその目で雄山の活躍を見てきているからだ。純粋な強さこそ感じさせないが雄山の戦闘方法は隙を見て、頭脳で攻めるといった方法だ。それでどんな相手でも倒してきたのだ。

「…ふんっ!」

しかし大男は、何故雄山が大男の存在に気づいて東堂の部屋に入った理由も聞かずに東堂を抱え、雄山に背を向けた状態で煙玉を使い外へと逃げた。

「あっ!?」

雄山は大男のあまりの手際の良さに一瞬反応が遅れてしまい、煙幕を晴らすために空掌を放つがすでに大男と東堂はいなかった。

 

「…クソが!」

雄山はトイレの扉を蹴っ飛ばし八つ当たりする。まさかあんな形で逃げるとは思わなかったのだ。

「(…だが今の後ろ姿何処かで見た覚えがあるな)」

雄山はその場に座り、思考し始める。

「(…ダメだ。ほんの一瞬しか見ていなかったからわからねえ)」

だがその答えは見つからず頭をガリガリと掻いて顔を顰めた。ここ最近出会ったものであれば思い出せるのだが、昔やったことがやったことなので大柄な筋骨隆々の男となればマフィアなどにもいるために思い出せないのだ。その上屈んでいる姿がほとんどだったので身長もわからない。顔も暗闇の上に雄山に背を向けていたので不明。とにかくわからないことばかりで雄山がイラつくのは無理なかった。

 

結局、雄山は長兄雄大に電話をかけた。

「もしもし、大兄貴か?」

【…ヤマ、こんな夜中に私に電話をかけてきたということは非常事態発生か?】

「ああ…俺の式の候補、東堂美帆が攫われた」

【いきなりか…しかししくじるとはお前らしくもないなヤマ。昔のお前ならどんな状況でも逃がさなかったはすだ。キラーマウンテンの渾名が泣くぞ】

「俺の渾名がどうなろうと関係ない…陰陽師1人か2人回してくれ。このままじゃ東堂を見殺しにしざるを得なくなる」

【…一つ貸しだ。ヤマ、これで失敗したら私はお前を切り捨てる。兄弟とはいえそのくらいの覚悟はしておけ】

「わかった。出来る限り早く那須脇旅館にくるように兵隊達に伝えといてくれ」

【那須脇旅館だな?】

「そうだ。なるべく優秀な奴がいい。俺が逃がした奴となれば中途半端な奴らだと死ぬ事になる」

【よしわかった…そう伝えよう】

そして雄大の電話が切れると裕二に電話をかけ始めた。

 

【雄山…何かよう?】

「裕二、至急頼みたいことがある。電話番号090-TDOH-24MOの居場所を探してくれ」

この番号は東堂の携帯の番号だ。携帯の番号がわかればその携帯の場所がわかるようなシステムがあるがそれを扱えるには資格が必要であり雄山は持っていない。しかし裕二はそれを持っており、雄山が頼るのは簡単なことだった。

【…もしかして雄山の式が攫われた?】

「そうだ。このままだと会長派にいいようにされて大兄貴や裕二の立場も危うくなる。そうなれば大和財閥もYOU-GREATMANも終わりだ。裕二の会社はまた新しく作ればいいが北関東三県に恩恵を与えている大和財閥が倒産…はしなくとも寄付金を払えないまでに打撃を受けたら北関東、いや日本はバブル崩壊よりも悲惨なことになる…」

日本が悲惨になる根拠は大和財閥が日本、特に北関東三県に多額のお金を寄付している為である。その為日本では大和財閥の恩恵を受けている為に公共料金、教育費等のその他諸々ありとあらゆる生活に必要なものは5割以下(大和財閥の恩恵を最も受けている北関東三県に至ってはタダ)で済んでいるのである。それができなくなれば日本は大混乱するだろう。

【たしかにまた新しく作ればいいんだけど会社は潰れないほうが信用、信頼されるし手伝うよ。何よりも弟の頼みだし断る理由もないよ】

「ありがとう…」

【それじゃ新作のゲーム製作を中断して、やるか。じゃあね】

そして裕二の電話が切れた。


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