大和が師範〜キラーマウンテンと呼ばれた陰陽師〜   作:疾風迅雷の如く

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第13指導 黒幕登場

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雄山は6年前の出来事を夢で見ていた。

 

雄山は陰陽師を引退し、教師になる為に大学へと通っていた。そんな最中、一通の手紙が届く。

 

【大和財閥取締役社長就任式招待状】

その手紙は招待状である。一見すると普通の招待状のようにも見える…というか中身はそのままの内容だ。

 

だがそれは違う。大和財閥というのは大和一族がカモフラージュの為に経営している大企業だ。普通ならば陰陽師の集団は中小企業、あるいは法人機関にして陰陽師としての仕事を誤魔化す。規模が大きくなるほどその誤魔化しは効かなくなるので陰陽師の集団は多い。しかし大和一族は例外である。大企業…それも財閥クラスの規模であっても数多くの妖怪や化物等を歴史の闇に葬ってきたおかげで誤魔化しが効くのだ。

 

「親父からか…」

雄山がその手紙に霊力を込めると徐々に手紙の内容が変化していった。

【大和一族宗家当主任命式】

ここに書かれている内容は雄山達四兄弟が当時の当主…つまり雄山達の父から次の大和一族の宗家当主を決める式を挙げるということだ。

「(俺は三男坊だし、ましてや陰陽師も引退している。ここは財閥も当主も大兄貴で確定だな)」

しかし雄山からしてみれば当主の座は無縁である。その理由は雄山が三男坊であり、陰陽師を引退している。しかし長兄は違う。長兄はすでに大和財閥の取締役社長だと言われ、陰陽師の方も現役だ。

「(一応行くだけ行ってみるか。勝手に当主になったら面倒だ…)」

 

そして当日、雄山と二人の兄達が父の前に姿を現した。

「勇姿はまだ来ないのか?」

雄山がそんな言葉を呟くと、いきなり障子が開いた。

「た、大変です!」

大和一族の使用人がそう言って雄山達に報告すると雄山は冷静に返した。

「どうした?」

使用人は息を整え、語ろうとするも慌ててしまい咽せる。

「これを飲め…」

使用人に水を手渡すとものすごい勢いで飲み始め、使用人の呼吸が整う。そして使用人の口が開き、衝撃の一言を放つ。

「勇姿様が神隠しに遭いました!」

その場の空気が凍り全員が動けなくなった。雄山が質問しようとした矢先、視界がボヤけてまい、次に見たものは車内だった。

 

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「起きてください。着きましたよ」

五十嵐の声が雄山の欠伸を促し、雄山は起き上がる。

「そうか着いたか…」

車内に乾いた木が折れたような音がその場に響く。

「結構鳴るもんだな…」

関節を鳴らし終えると雄山が肩を回し目を冴えさせると東堂も自然に起き上がり雄山の姿を目に映す。

「おはよーございます…ユーザン先生…」

一方東堂は雄山とは対称的に眠たそうに目を半眼にしていた。

「おう、おはよう。東堂目覚めは良くないみたいだな」

それをしっかりと返し、雄山は目の前の建物を見る。

「…で、三頭竜はここにいるのか?」

雄山はそれだけを気にしていた。何せ相手は敵の頭領だ。警戒をしすぎても困ることはない。

「はい。それにしても敵の目の前でよく寝れましたね?」

五十嵐がそう尋ねると雄山は少し間をおき、答えた。

「五十嵐…今俺を殺したところで何もメリットがないのはお前が教えたんだろうが」

「今は確かに殺したところでメリットはありません。ですがもしかしたら私が貴方の身体に何かを仕掛けるなんてことも出来ましたよ?」

「なら尚更安心した。それだけベラベラと喋る奴が本部長を務められるはずがねえ。もし俺の身体に爆弾やその類の物を仕掛けたならそんなことは言わねえ」

「そうでしょうか? 絶対の自信があればベラベラと喋っても問題はありませんよ」

「確かにな。だが俺が出会った妖怪の中には初見殺し(ファーストコンタクト・キラー)の奴もいたがどいつもこいつも似たような感じでお前とは全くの別物だ。それに俺ら大和一族を知っている三頭竜が俺と話し合う際にそんな物を必要とは思えねえ。お前が爆弾なんかを仕掛けていたら外すように命令されてお前が死ぬことになるだろうよ」

「…それもそうですね」

雄山の答えに五十嵐は頷き、納得した。

「じゃあな。もう俺達は行くぜ」

雄山は東堂と共にその建物の中に入り、五十嵐は口角を上げていた。

 

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「お前が三頭竜か?」

雄山は目の前で椅子に座っている男に語りかける。その男は一部を除いた見た目こそ人間そのものだが頭に生えた角が髪の毛に紛れて見え人間ではないとわかる。

「そうだ。皆は我のことを三頭竜(ギドラ)と呼んでいる」

三頭竜は椅子から立ち上がり、物寂しげに語る。

「呼んでいる…?」

東堂が不思議そうに返すと三頭竜はため息を吐いた。

「我には名前がない。生まれついてから親はおらず名を名乗ろうとしても我のネーミングセンスは皆無であり締まらん。他の者にも名をつけて貰おうとしたが我が名は納得いくものではなかった。それ故に未だに三頭竜と呼ばれているのだ」

三頭竜がその後さらに口を開こうとしたが雄山がポツリと呟いた。

龍造寺(りゅうぞうじ)時夜(ときや)

それは名前だった。雄山自身にも何故その名前が出てきたのかはわからない。だが頭からその名前が浮かび上がりその名前を言っただけだ。

「いい名前だろう?お前にその名前やるよ」

かつて名前を贈るということは縁起が良いものとされてきた。何故雄山が敵に塩を送るようなことをしたのかはわからない。しかし雄山は三頭竜に名前を贈ってスッキリしていた。

「その名前を有り難く貰おう」

そして一息ついて、三頭竜もとい龍造寺が椅子に座った。

「ところで雄山、我と協力せんか?」

まるでキャンプに誘う友人のような感覚で言った一言は雄山に衝撃を与えた。

 

「協力だと?」

「そうだ。末席とはいえ鴨川、春澤、間中、端本の妖魔連合会幹部が四人も死んで妖魔連合会はかなりの痛手…我等の悲願、人妖平等、妖々平等の実現が困難となった」

それはまぎれもない事実だ。だがその殺した犯人は雄山ではない。いずれも龍造寺の命令によって殺されている。

「だが雄山、汝が協力し、悲願を達成した暁には人妖平等に尽くした英雄として皆に紹介し、行方不明となった汝の弟、大和勇姿を探し出してみせよう」

「えっ!? ユーザン先生の弟さん、行方不明なんですか?!」

東堂は雄山の弟である勇姿が行方不明になっていたことに驚き、戸惑う。キョロキョロと雄山と龍造寺を見る。そして雄山は東堂に目を合わせ、今語るとアイコンタクトを送った。

 

「そうだ。しかし勇姿のことを知っているのは俺ら大和一族とごく一部の奴らだけだ」

雄山は忌々しげに龍造寺を睨み、低い声でそう言った。

「妖魔連合会を舐めて貰っては困る…汝の弟大和勇姿は8月の某日、神隠しに合った…違うか?」

龍造寺はそう言って雄山に聞くと雄山はこれまでにないほど怒りの表情に満ちていた。

「当たりだ。で? なんで勇姿のことを知ってやがる…勇姿は特異体質故に大和一族とは無関係なように一族全員が誘導してきた。一族得意の歴史の闇に葬るのと同じようにな。だから俺と勇姿の関係のことを知っているのは一族以外ありえねえ。ましてや俺たちしか知らないその情報を知っていることは大和一族の中に裏切り者がいるってことだ。そいつが誰なのか教えて貰おうか?」

雄山は頭が混乱しており、自らに言い聞かせるかのように早口で龍造寺に尋ねる。

「その裏切り者を教えたいのは山々だが…それは無理だ。その情報の提供者は名前も顔も所在地もわからぬ匿名の者だ。しかし…」

「しかし?」

「我はその行方不明となった勇姿を目撃した」

またしても龍造寺がとんでもない衝撃的な一言を言い放つ。

「…なんだと!? それを教えろ!!」

雄山が食いついたのはその情報だった。これまで雄山は行方不明となった雄山を探す為に様々なことをしてきた。そう、別名陰陽師協会の問い合わせセンターことアンサーも利用したが答えは返ってこなかった。故にその情報がどれだけ貴重かは計り知れない。

 

「タダで教える訳にはいかん…しかしお互いここで戦うのは得策ではない。それは汝も分かっているだろう?」

しかし龍造寺とて馬鹿ではない。戦闘を避けかつ、雄山を引き抜くには雄山の人生に影響を受けさせ、行方不明となっている弟、勇姿の情報をカードにすることによって立場が有利になる。

「…確かにな」

「我の右腕となればその情報を提供しよう」

その提案(エサ)は雄山にとってあまりにも魅力的だった。龍造寺の様子からしてあの一言よりも有益な情報が手に入る。しばらくの沈黙の後、雄山の口が開いた。


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