大和が師範〜キラーマウンテンと呼ばれた陰陽師〜 作:疾風迅雷の如く
雄山達は記憶した案内図と警備員が駆けつける音を頼りに階段を探していた。そこから降りてしまえば妖魔連合会本部への入り口である資料室に辿り着く。だが警備員と戦うのは愚策であり、鉢合わせしないように回り道をして気配を悟られぬようにしていた。
「ユーザン先生、左方向から音が聞こえます」
東堂は
「(左回りのルートも使えねえか…昔の俺らしく突撃か?)」
雄山は東堂の感知を頼りに階段に行くルートを探すが階段付近のどの場所にも警備員がおり現状では強行突破するしかなかった。
「(…無理だな。あいつらは鴨川と同じタイプだ。破魔札が効くとは思えねえしな)」
だが相手は未知の怪物達。一応持ってきた破魔札を貼り付けたところで大した意味はないと判断し首を横に振った。
「(となればあの方法しかないな。うまくいけば無傷で行けるか…)」
雄山はそう考えると二枚の紙を取り出した。
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階段近くに二つの影が見え、それを見かけた見張り役は大声を出した。
「いたぞ〜っ!!」
影はその場から逃げ回り、
「行ったか…」
雄山はそれを見て一安心した。雄山がやったことは単純だ。先ほどの紙は式神の紙であり、雄山はそれを使い身代わりを作ったのだ。
「それにしても知能低すぎじゃないですか? こんな手に引っかかるなんて…」
「お前が暴走した時やあのマフィアが怪人化した時、そして鴨川が竜の形態になったように身体能力が高くなる代わりに知能が低下する。おそらくここの連中も同じだ。知能が低下した理由も指示を素早く受け入れ侵入者を追い出す為だ。その結果がこれだからバカだと思うぜ」
東堂の質問に雄山が答え、階段を降りようと近づくが…上から突如巨大な岩のような何かが降ってきた。
「見つけた…」
声が上から聞こえ、雄山達がそちらを見ると身長2メートル強の大男がいた。大男は顔は縫い傷を負っており、いかにも堅気の人間でないような風貌だった。
「フランケンもいるのか!?」
雄山はそれを見てわかった。それはフランケンシュタイン。かつて人間だった大男だがいつの間にか化け物となり、その名前は日本でも知られている。
「はぁぁぁっ!!」
封印を解いた東堂は調子に乗っていた。竜人である鴨川相手に善戦したのだからこのくらいの相手は楽勝だと。そう思っていた…
「ほい」
それを最小限の動きでフランケンは躱した。伝承で伝わるフランケンは見かけこそ醜く頭が悪そうに見えるが、かなり頭がよく知性を持ち合わせている。故にこのフランケンも東堂の攻撃を読んでいた。
「がっ!!」
更に身体も改造しているおかげで見た目通り、頑丈かつ硬く重い攻撃が可能となる。東堂にその攻撃が当たり、東堂は戦闘不能となった。
「(まさか妖魔連合会がこんな化け物を飼っているとはな…とんだ誤算だ)」
雄山は吸血鬼である東堂を一撃で倒したフランケンに動揺した。純粋なスピードこそ鴨川に劣るがそれを補う頭脳、圧倒的なパワー、そして妖力や霊力を持たない肉体。雄山の経験を持ってしてもこれらの要素を全て持った相手をしたことは無い。
「次はお前か?」
「…そうだ。てめえは?」
「俺の名前は春澤(はるさわ)直輝(なおき)。かつて俺はこの顔の醜さから周りから疎まれていた。お前もその顔面凶器の持ち主ならわかるだろう?常に疎まれ、誤解された者の気持ちが…」
フランケン、春澤の言うことは間違いではなかった。雄山はその顔から周りから疎まれていた。オカルト部員からも雄山の顔そのものがオカルトだと言われるほど凶悪であり散々ネタにされてきた。
「春澤、お前と一緒にするな。俺は疎まれようがどうなろうが関係ねえ。そんな他人の評価で生きる人生ほどつまらない人生はねえ。俺は俺なりに有意義な人生を送り、それを他人に伝えてやる。その為なら損をしてもいいくらいだ」
だが雄山はそれを気にしていなかった。雄山にとって大切なことは有意義な人生を歩むことだ。他人の評価で有意義かどうかなど決められないのだ。
「変わってはいるが他の奴らと似たような意見だ。何にしてもここを通す訳にはいかない。それが俺を拾ってくれた三頭竜(ギドラ)様への最大の恩返しになるからな。それにあの鬱陶しい
フランケンは拳を作り、雄山に向けて拳を振るった。
「春澤…人ってのは話し合って初めて信頼するんだぜ?」
雄山はそれを躱し、春澤に語りかける。確かに雄山は自分の顔は暴力団(ヤクザ)以上に人殺しの顔をしていると自覚している。しかし矢田や長門、そして今は幽霊部員のオカルト部員や佐竹や伊崎等の教諭はありのままの自分を受け入れてくれた。
「恐れられ、話し合うことすらも出来ない。そんな状況が俺の日常だ。俺の居場所なんてものはなかったんだよ…三頭竜(ギドラ)様に拾われるまではな。俺は三頭竜(ギドラ)様に拾われ居場所も作ってくれた。だから三頭竜(ギドラ)様の敵であるお前は排除しなきゃいけない」
「そうか…ならもう話し合う余地はねえな。玉砕覚悟でかかって来いやぁっ!」
雄山はありったけの紙と魔力を使い、雄山に酷似した式神を造り、兵隊を造る。そして春澤はそれに対して純粋なパワーで式神を吹っ飛ばし対抗する。量対質の典型例ともいうべき戦いが始まった。
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雄山は式神に指示を出し、フランケンに突撃をする。
「(あの身体に対抗出来る手段は接近戦にはねえ。遠距離攻撃が妥当…と普通なら考える。だがそれをするにはそれなりのリスクが必要だ)」
春澤は式神をフランケンの攻撃力を活かし一撃で吹っ飛ばし、元の紙へと戻すがそれに対抗するかの如く式神が増え続ける。
「(間中の豚足、いや鈍足が…いつまで応援に来ない気だ!? 豚野郎の癖して遅れてやってくるヒーロー気取りか?)」
春澤はこの場にはいない間中に心の中で毒を吐く。しかしそんなことを思っている間に雄山の式神が襲いかかり、間中はそれを腕を振るうことで吹き飛ばす…が異変を感じた。雄山が消えた。春澤は周りを見渡すがどこにもいない。
「だがお前じゃ室内戦に向いていねえ!」
雄山はそう声を出し、春澤を振り向かせ、攻撃させる。すると雄山、否式神が爆発し春澤の左腕の肉を抉った。
「起爆札。式神の中にはそれを使っている奴がいくつもある…お前にそれを攻撃する勇気はあんのか?」
「舐めるな! 勇気があるなしは関係ない! やらねばお前をここを通させるだけだ! だがここを通す訳にはいかない!」
そして春澤が左腕を使い起爆札の式神を攻撃して爆発する。
「例え左腕をなくし右腕一本になろうとも三頭竜(ギドラ)様の元には行かせない…!」
左腕の骨が見えるほどボロボロになりながらも、それでも春澤は左腕を振り続けた。
そして…ついに雄山の式神のストックが尽きた。
「これでもう式神はなくなった…あとはお前だけだ!」
春澤の左腕はすでに肉が僅かに残る程度で骨があちこちと見えていた。
「どうだかな」
そして雄山はニヒルな笑みを浮かべ東堂を抱えると、その地面に拳を向けた。
「大和空掌砲!」
その瞬間、春澤は見た。雄山の拳の前にある空気の塊が地面を押しつぶし、地下二階まで床に穴が空く瞬間をスローで見てしまった。
「バカな…!?この床はロケットランチャーにも耐えられるようになっているはずだ!!」
仮にもここは妖魔連合会の本部へと続く出入り口である。その出入り口が丈夫でなければ先ほどの
「何のために起爆札を使ったと思っているんだ?」
「…まさか!?」
そして春澤はわかってしまった。その疑問の答えが…
「俺は式神が爆発する度に魔法を使って床を冷やし、床に金属疲労に近い状態を起こさせたんだよ。皮肉にもお前の覚悟が床に穴を開けさせた…そういうことだ。あばよ」
雄山はその床から地下二階へと降りた。それを追いかけようにも春澤の大柄な体格では入らない。
「三頭竜(ギドラ)様…侵入者を地下二階まで行かせたことをご許し下さい…!」
春澤は日本刀を取り出し、自分の腹を切りその命を絶った。