こんな素晴らしい異世界生活に祝福を!   作:橘葵

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 ちょっと書き方を変えてみました。
 二章はこっちの方がいい気もするので。
 視点が変わるときはタイトルで分かるようにします。



第二章 豪奢な屋敷での一か月
第二章1 禁書庫の番人と(自称)女神


 王都から竜車およそ四時間ほどの距離を、月光に照らされながら竜車は走る。

 それはがたごとと揺れて、屋敷に到着した――というわけでもなかった。

 

 ――否。外見では確かに揺れているのだ。しかし、中では全く揺れを感じない。『地竜の加護』というものだ。

 カズマたちは、はじめのころは違和感を感じ、落ち着かない様子でいたが、次第に慣れて談笑していたものの今では皆仲良く身を寄せ合って眠っている。

 

 ちなみに、話の内容はそれぞれの自己紹介や、出身地の紹介、趣味の紹介など雑多的かつまとまりのないものだったが、男二人が出身地――日本での生活についてに関しては全く触れなかったことをここに追記しておく。

 

 そして、常識人そうに見えたエミリアがアクアと話していると突っ込み不在の空間を作り上げていて、他の五人がある意味恐怖を覚えていた。

 

 まだ深夜というには早い時間なのだが、今日一日であった出来事で体力的にも精神的にも疲れ切っているようだった。

 普段なら男二人は夜に強いという習性をもっているのだが、今日はそういうわけでもなかったようだ。

 

 

「屋敷についたから、さっさと起きてちょうだい」

 

 屋敷に到着したことを確かめ、地竜を止めると桃髪のメイドが全員の体を揺さぶった。

 

 ――このメイド、礼儀ってものを弁えてないだろ。

 

 

「はっ! まさか寝ていたのか」

 

 カズマは一番最初に揺さぶられて目を覚ます。

 自分は絶対寝ないと思っていたが、あまりの乗り心地の良さに思わず瞼が落ちてきていたらしい。自分の疲れもあるからか。

 ラムが向かいに座っているエミリアを起こしていたので、自分は横にいるめぐみんを起こす。

 

「おいめぐみん、起きろー。どうやら屋敷についたらしい」

 

 初めから強く起こすのは少しかわいそうだと思ったので、少し柔らかめに声をかける。

 普段は容赦がないだの人間の屑だのなんだの言われるが、こういう時はちゃんと時間や状況を弁えているのだ。

 そこまで無節操になんでもするわけがない。

 

 しかし、めぐみんはいまだに目を覚まさない。

 自分はもう立派な女性だと言い張っているのに、こうも豪快に寝るのは女性として如何なるものか。

 ――その隣にいるアクアは、もっと豪快に腹を搔いているのだが。

 今すぐ引っ叩いてやりたい衝動に駆られる。

 

「おいめぐみん! 起きろ! 今起きないとお前でも泣いて嫌がるすごいことをしてやる」

 

 目を覚ましたエミリアと、ラムの視線が、痛い。

 

 しかし、めぐみんは一向に目を覚ます様子がない。

 さてどうしようか。

 

 こうなったらもう強硬手段だ。めぐみんを強引に揺さぶり、無理やり目を覚まさせる。

 

「ああ……カズマ? えっと……おはようございます」

 

「今はまだ夜だよ。それよりめぐみん、今お前の横で寝ている腹を掻いている奴を起こすのを協力してくれ」

 

「ああ、そうでしたか。あまりの乗り心地の良さに思わず眠ってしまっていたようですね」

 

 めぐみんと一緒に、隣で寝ているアクアを起こそうと強めに揺さぶる。

 アクアのことだ。遠慮はいらない。

 

「おいアクア。さっさと起きろ。お前が寝ていると周りが迷惑するんだよ。俺たちが竜車から降りれないだろ

――あ、悪い。めぐみんはダクネスを起こしてくれ」

 

「あ、分かりました。ダクネスが起きたら三人でアクアを起こしましょう」

 

 めぐみんはゆさゆさと揺すぶってダクネスを起こす。

 この中でも性癖以外は立派な淑女として完成している――と思いたいダクネス。

 寝相もよく、すぐに目を覚ました。

 

「もう屋敷についたのか。意外と早かったな」

 

「あ、ダクネス、昨日の今日で知り合った人たちにに頼むのは悪いから、一緒にアクアを起こしてくれ。こいつ、いつもいくら強引に起こそうとも全く起きないんだよ」

 

「カズマが言うならそうするが……」

 

 ダクネスは心配そうにアクアを見る。

 

「なに。別に気にすることはないぞ。ってかほかの三人に迷惑をかけてるからさっさと起きろアクア」

 

 ぐーすかと、女としてはあり得ないいびきをかいて眠りこけているアクア。それを三人がかりで揺さぶる。

 ――それでも起きる様子が見られなかったので、カズマはアクアの頬を引っ叩いた。

 全員の視線がとげのように刺さる。痛い。

 

「おい、まさかカズマは平気で女を叩けるのか?いくら俺でもそんなことはしないぜ」

 

 この中で言動を含め痛い度ぶっちぎりなスバルまで自分を軽蔑するような目を向けてきたので、一応理由を伝えておく。

 

「お前と一緒にされたくはないけど、こいつは別だ。二年くらい一緒に住んでるけど、こいつを女としてみるのは無理。いっそのこと一緒に住んでみるか?」

 

「いや、遠慮しとく」

 

 ――この駄女神に温情など、かけるだけ無駄。

 屋敷での生活でこれから嫌というほどわかってもらえるとは思うが、自分が無意味に女を虐めるドSなどと思われるのは癪だ。

 しかし、このままでは朝になるまで起きることはないだろう。

 もう一度カズマはアクアの頬を強めに引っ叩く。

 

「っ……痛い! ちょっとカズマ、アクシズ教のご神体であるこのアクア様の美貌に傷がついたら大変じゃない! 謝って! 女神を叩いてしまってごめんなさいってこの私にちゃんと謝って!」

 

「はいはい」

 

 異世界の地に来てもやはりアクアはアクアだった。

 このまま竜車の中にいても何も始まらないので、一行は降り、屋敷へと歩き始める。

 

 ――エミリアが、女神という言葉を聞いてアクアのことを興味津々そうに見つめていた。

 

「あの、エミリア――さん? 何でアクアのことをそんな熱い目線で見てるんだ? アクアはちょっと甘やかすとすぐ調子に乗るからあんまり甘やかすなよ? すぐにろくでもないことをしでかしてくるから」

 

「ちょっと待ってよ! 私は別に悪くないわ! 確かにちょっと国中を巻き込むようなことをしでかしたりしてくるかもしれないけど、甘やかされて調子に乗るなんてことはしないわ! だからエミリア、私のことをもっと褒めて称えて崇めてくれていいのよ?」

 

「アクア様ってすごーく偉いのね。アクシズ教のごしんたい? って、すごーく高い位の役職なんでしょ?」

 

 男二人で話している間にアクアはとんでもないことをしでかしてくれていたらしい。

 カズマは短い付き合いではあるが、エミリアのことを世間知らずで、純真無垢な女だと思っている。

 そんな精神的にまだ幼いエミリアだからこそ、アクアの――アクシズ教の布教方法は引っかかりやすいと危機感を覚えていたのだ。

 

 極力、アクアはエミリアと接触させてはいけない。これ以上アクシズ教の被害者を出してはならない。

 カズマの危機感センサーは鳴りっぱなしだった。

 

「あ、エミリア、アクアのことは信じなくてもいいですよ」

「ああ、そうだ。アクシズ教など、関わりにならない方が絶対いいぞ」

 

「んーー……だけど私、まだまだ学ばないといけないことが多いから、とりあえずやってみようかなって」

 

 エミリアは頬に手を当てて恐ろしいことをサラッと言ってのけた。

 

「やめとけ。こいつと関わると碌なことにならないからな。もうアクシズ教はこりごりだ……一生関わりたくない」

 

 アクシズ教には、今までさんざんな目に何度も遭わされている。

 いつぞやのアルカンレティアに旅行に行ったときなど、勧誘を退けるのに必死でろくに観光を楽しめるような状況ではなかった。

 

「ちょっとどうしてうちの子たちまで悪く言うの――! あの子たちはちょっと変わってるけど信仰心は人一倍強いのよ! だから待って! エミリアまでカズマたちの方に行かないで――!」

 

 アクアが涙目で叫ぶ。

 もう夜だというのにそれはそれは賑やかだった。

 竜車の中で寝ていたからだろうか。

 

「ちょっと待てカズマ。お前まさかアクアと長い間の付き合いだったりするのか? 幼馴染ヒロイン的な感じで」

 

「比較的長い間の付き合いだと思ってるし、実際そうだけど何度も言うがあいつはヒロインじゃない。気が付けば借金こさえてきて、酒ばっか飲んで、宴会芸だけが取り柄の奴をどうやったらヒロインとしてみることができるって話だよ」

 

「お、おう……お前、結構苦労してんだな。ヒロイン三人も引き連れてハーレム気取ってるようにしか見えなかったんだけど」

 

「確かにそれは思ったこともあるけど、俺の周りには総じて残念な奴しかいない。あ、でもアイリスだけは別だ。何せ俺のことをお兄様って呼んで慕ってくれるからな。本当なら今頃はアイリスと仲良くやっていたんだろうな――」

 

 

 そういえば、自分たちはアイリスのもとを訪ねようとしていたんだ、ということを思い出し、思わずカズマは上を見上げる。

 月がとても綺麗だった。

 

 庭園の景色を眺めつつ、ゆったりと賑やかに屋敷の入口へと進んでいく。

 貴族の屋敷とはいえ、ここまで門から入口までが遠いとは予想外だった。

 

「ここがロズワール様の屋敷。ちゃんと礼儀くらいは弁えなさい。特にその愚物二人は」

 

 と、カズマとスバルの方を指さしてハッと鼻を鳴らすラム。

 やはりこのメイド、自分たちが客人であるという事を忘れているのだろうか。

 確かに竜車の中で会話を楽しみ、メイドというよりも親しみやすい友人といった印象を持つ。

 しかし、仕事の場でもその態度を崩さないというのは如何なるものなのか。

 

 一行は、入るなり豪奢な屋敷だな……と呟いた。

 外見からでも推測はできていたが、本当に貴族の屋敷なんだな、と否応なしに思わせられる。

 それは、あしらわれている調度品の数々、扉の豪奢さ。床の綺麗さ。どこをとってもだ。

 

「ん――……なんか、ここから結界の感じがするんだけど、解除しちゃっていいかしら『ブレイクスペル』!」

 

 今日はもう遅いので、部屋に案内すると言われたのでラムに続いて歩いていると、不意にアクアが扉に向かって魔法を放った。

 

「ちょっとお前、余計なことはするなって――ってはあ? 何お前返事を聞かずに魔法を放つんだ! 面倒ごとは御免だっていってるだろ!」

 

 カズマの静止もままならぬまま、アクアは結界破りを決行した。

 

 

 

 ――結界が解除され、視界が歪む。

 暗転、反転、見えるものすべてがぐるぐると渦を巻き、自らも巻き込まれそうな錯覚を伴う。

 

その感覚が晴れたとき、一行は書庫の中で、金髪のドリルロールの幼女と顔を目を合わせていた。

 

「お前たち、この屋敷について最初に入った部屋が禁書庫だなんて本当に腹立たしい奴らなのよ。さっさと出ていくといいかしら」

 

「んー……何この子すっごくかわいいんですけど。ちょっと部屋に連れ込んでマスコットとしておいておきたいんですけどって痛い! カズマいきなり何するの! というか、ここにきてからもう何回も叩かれてる気がするんだけど謝って! 女神を叩いて御免なさいって謝って!」

 

「お前がこの結界破りの被害者を連れ込もうとするのが間違っている! お前こそ謝れよ!」

 

 アクアがそんなバカみたいなことを言うので頭を叩く。これくらいのことをしておかないと同じことをまたやらかしかねない。

 辺りを見回すと、禁書庫というのに相応しいおびただしい量の本が詰め込まれていた。

 ただ、自分たちに読めそうな本は一つもなさそうだったが。会話は通じるのに、文字は通じないなど本当に厄介な世界だ。

 

「今聞き覚えのない単語が聞こえたのよ。結界破り――ベティ―の扉渡りをどんな方法で破ったのかしら」

 

「アクアは結界を破れますよ。私がカズマたちと仲間になって一番最初の大型迎撃作戦、デストロイヤーの時でも結界を破ってくれました」

 

 めぐみんが感慨深そうに語る。

 ベティーと自らを呼ぶ少女は、それを聞いて頭に疑問符を浮かべる。

 聞き覚えのない単語だったからからだろうか。

 

「今めぐみんが言ったように、私の名前はアクア。そう、アクシズ教が崇めるご神体女神アクアなのよ! 女神なんだからこれ位薄っぺらい結界ならそれはもう、ちょちょいのちょいよ!」

 

「「と、女神ということを自称しているかわいそうな人です」」

 

「待ってよ――! めぐみんとダクネスはもう長い付き合いなのにどうして信じてくれないのよー!」

 

「お前たちの声は耳障りかしら。いい加減黙るといいのよ!」

 

 そう言ってベティーはアクアの体に手を当て、何かを吸収しようとする。

 しかし――

 

「女神であるこの私にアンデッドのスキルを使うだなんていい度胸ね! でも私にはそんな技効かないわ!」

 

「何言っているのかわからないのよ。本当に腹立たしい奴かしら」

 

 ベティーはそういってアクアから手を放し、悔し気にそう吐き捨てた

 いい加減かわいそうだからやめてやってほしい。ここにいる幼女は保護すべきものだ。あまりにも人間離れしすぎている。

 自分がロリコンだとは言わないが、この少女もアイリスに負けず劣らず魅力に満ち溢れていると思う。

 カズマがそんなことを考えていたら、後方からエミリアがベティーの前に歩み寄った。

 

 ――頼むからアクアを甘やかさないでくれ。

 

 カズマたちアクアを知るものは切に願った。

 

「ベアトリス、この子はいい子だから許してあげて。多分、今回もちょっとした気のゆるみからなんだろうし。ね、アクア様?」

 

 ――危惧していたことは本当に起こってしまった。この少女は人間を知らなさすぎる。いい意味でも悪い意味でも純粋すぎる。そしてお人よし過ぎる。

「え、ええ、そうよ。ここにちょっと結界があったから、変なものが住んでいないか気になって」

 

 エミリアの言葉を聞いて、アクア本人が狼狽える。

 ここでうまくやり過ごし、自分の印象を上げておきたいようだった。

 

 

「な、なあ、アクアって自称じゃなくて本当に女神なんだよな。それなら何でお前なんかと一緒にいるんだ?」

 

 ちょいちょいとスバルがカズマを呼び、アクアが女神か否かを聞いてくる。

 正直、アクアが女神であるというのはイエスでありノーなのだが……

 

「あいつは一応女神だよ。でも何度も言うが行動がアレなせいでめぐみんたちには信じてもらえていない。んで、アクアが俺と一緒にいるのは俺が異世界転生したときの特典だよ」

 

 ぶっちゃけ、自分がアクセルに転生する理由となった死因は思い出したくもない。悪い記憶だ。

 

「異世界転生? 俺とはこの世界に来た経緯が違う――」

 

「お前がどうかは知らないけど、俺が言っているのは昨日まで住んでいた方の世界の話な。この世界に来たのはウィズ――知り合いに王都までテレポートしてもらったらこの世界にいたんだよ」

 

「お前もなかなか大変だな」

 

 と、早々に会話を切り上げ、ベティー――本名はベアトリスなのだろうか。幼女の動向を見守る。

 なぜかベアトリスは横にいるスバルを気になっているような素振りを何度も見せていた。

 

「ベアトリス様。客人が節操もなく騒いだ事をラムからも謝罪します」

 

「いいから、さっさとこいつらを外に出すのよ。今回だけは許してやるかしら」

 

 ラムに連れられ、カズマたちは外に出た。アクアがまだやり足りないだのなんだの騒いでいたが、よく追い出されなかったな、と心の中で思った。

 ここには善人が多すぎる。カズマは今のやり取りからそう感じ取った。

 エミリアはもちろん、ベアトリスも渋々ながらアクアたちのことを実力行使でもなんでもなく、禁書庫――人に見られてはいけないであろうその場所に滞在させてやっていた。

 だから――

 

 ――この世界には期待しちゃっていいのだろうか。美少女に囲まれ、ちやほやされる異世界生活を。

 

 カズマたちには一応、あの黒い女を倒したという功績もある。それをどう活かしたら自分の望む異世界生活につなげられるかを頭の中で考えていた。

 

「エミリア様は自室へ。女三人には個室を与えるけど、男は相部屋でいいわね」

 

「「何でそうなるんだよ!」」

 

 二人の声がハモった。

 

 


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