こんな素晴らしい異世界生活に祝福を!   作:橘葵

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第一章 召喚の一日目
プロローグ 始まりの茶番


 アクセルの屋敷にて。

 

「アイリスに会いに行きたいと思う」

 

 カズマは唐突に言った。

 

「いや待て。お前がそう言うという事はまたろくでもない事を考えているのだろう。前は何とかお咎めなしで済んだが、今回もまたそうとは限らない。首を刎ねられたくないのならおとなしくしておいた方がいい」

 

 優雅に紅茶を飲んでいたダクネスがきっぱりと返してきた。

 

「いや待て。俺は俺の妹に会いに行こうとするのはそんなに悪いことか?誰にも迷惑かけないんだぞ?」

 

「まず第一王女に簡単に会いに行こうとするという事が間違っている!」

「でもアイリスは明らかに俺に好意を持っているぞ?」

「……」

 

 そう言い切ったカズマに返す言葉もなく、ダクネスは閉口する。

 

「悔しいんだったらもっと恥ずかしさを捨てろよ。お前は肝心なところで恥じらいを持ちすぎだよ……ララティーナ」

 

 少し顔を俯けたダクネスに、カズマはニヤニヤと言葉を被せる。

 

「その名前で呼ぶな!ぅぅぅ……」

 

 と、顔を真っ赤に染めたダクネスを見て、

 

「じゃあ、そういうことで。俺はあいつらにも話をしてくるから、準備しとけよ」

「おい! まさか私たちも巻き込む気か!」

「当然じゃん。特にお前の権力にはお世話になると思うぞ」

 

「だから権力をそんな事に使うなと言っただろう!」

 

 ダクネスが慌てて言ったが、カズマは聞こえないふりをして部屋を出た。

 

* * *

 

「俺達は明日王都に行きたいと思う」

 

 日課である爆裂散歩の途中、カズマは不意に言った。

 それを聞いためぐみんは、

 

「私は別に構いませんが、また王都で何かあったのですか?」

 

 と、動揺することなく返す。

 

「アイリスに会いに行きたいんだよ」

 

「ちょっと待ってください。別に私は止めませんよ! というか、ダクネスが許さないでしょうそんな事!」

「顔が真っ赤だぞ」

「……」

 

 めぐみんは顔を赤らめながらアイリスに嫉妬の感情を露わにする。

 最近、カズマがアイリスの話を持ち出すとすぐにこうなる。

 

「俺は、俺をお兄ちゃんと呼んで慕ってくれるアイリスを放っておけないんだよ」

 

「同じ年下なら私が居るじゃないですか! 私を差し置いてまだ別の女に手を出すのですか! 許しませんよそんなこと」

 

「アイリスは妹枠、お前はロリ枠だ」

「私だってもう立派な大人と言われる年齢です!言いたい事があるならかかってくるといいじゃないですか!カズマのその貧弱なステータスだと私でも瞬殺されるでしょうね!」

 

 と、触れてはいけない所に踏みこまれ、目を紅く光らせためぐみんを見て、カズマは思わず

 

「悪かった! 俺が悪かったから目を紅く光らせるのはやめてくれ!」

 

 と、いつものように後ずさって情けない事を言った。

 

「でも王都ですか……カズマは大丈夫なんですか? 確かまだ指名手配をされていたような……」

「あれをしなければ捕まる心配はないぞ……多分」

 

 あれ、とは仮面盗賊団の事だ。とある事をきっかけに、これはめぐみんとの秘密となっている。

 確かに捕まる心配はあるが、例の仮面を持っていかなければ大丈夫だろう。

 しばらく歩いていくと、目標である巨大な岩が見えてきた。

 カズマ達は足を止め、周りに誰もいない事を確認する。

 

「エクスプロージョン!」

 

 アクセルの街の風物詩、一日一爆裂は今日も健在だった。

 

「はあっ、カズマ、今日の爆裂魔法は何点でしたか?」

 

 と、その場で倒れ込んだめぐみんが期待の眼差しを込めて問いかける。

 

「七十五点、と言ったところか。爆裂の振動が足りん」

 カズマはめぐみんをおんぶしながら言う。

 

「やはりカズマは厳しいですね。伊達に爆裂ソムリエを名乗っていないだけの事はあります」

 と、めぐみんが少し悔しそうに一言。

 

「じゃあ帰るぞー。明日には出発したいと考えているからな。早く寝ろよ?」

「明日、ですか。それはまた決断が早いですね。何を使って行くんですか?」

 

 魔力を使い果たし、ぐったりとした表情で問いかける。

 それを聞いたカズマは、

 

「確かウィズがテレポートの魔法が使えると言っていたから、それをあてにしようと思っている」

 

 どこまでも他力本願な事をめぐみんに言った。

 少し格好悪いと思ったが、まあ仕方がない。必要以上の面倒事に巻き込まれるのはまっぴら御免だ。

 

「それなら安心ですね。テレポートならそうそう事故が起こるものでもなさそうですし」

「ちょっとお前、フラグになるような事を言うな!」

 

 

* * *

 

 屋敷にて。

 

「という事で、俺たちはあした、ウィズの店に行ってテレポートの魔法で王都に行こうと思う」

 

 自分の料理スキルによってプロのレストランにも劣らないであろう夕食を食べながらカズマは一言。

 

「ちょっと待ってよ! 聞いてないわ! 何で私がアンデッドであるウィズの魔法を受けないといけないのよ! 皆がいいって言っても私は願い下げよ!」

 

「とはいっても他の足はあるのか? 大体お前らなら道中で何か事件を起こしかねない!だから安全策をとろうってんだ」

 

 

「その案はいいな!カズマ。……しかし道中でモンスターに襲われたいという願望は捨てられない、捨てられないがっ……!」

 

 と、ダクネスは最後の部分を妙に小さくして言った。

 

「ダクネス、その意気だ、あれ……? お前最後なんて言った?」

「言ってないそ。私は高潔な騎士である。モンスターに辱めを受けたいだとか願う事は論外だ」

「お前それを今更言うか……」

 

 もう今更だ。ダクネスの変態さは今やアクセルの街で貴族の威厳を地に落とすほどに知れ渡っている。

 当の本人はそんな事をどうとも思っていないようだが。

 

「んく、んく。今日の料理はおいしいですね。また料理の腕を上げましたね?」

 

 と、ひたすらに料理にかぶりついていためぐみんが会話の流れを読まずに一言。

 それを聞いたカズマは、

 

「どうだ、今日の料理は俺が腕によりをかけて作ったカエル肉とカモネギとキャベツの炒め物だ。どれも最高級のものを使っているからプロにも劣らないと思うぞ」

 

「確かに言われてみればそうね。少し普通と違った味付けのような気がするわ」

 

 最近料理に厳しいアクアも満足そうにカエル肉を頬張っている。

 カズマは自分の自信作を褒められて嬉しいのか、

 

「まあ、いいか。という事で明日は朝早くに出るから用意しとけよ」

 

 そう言って一足先に自室へと戻ったのだった。

 

 

* * *

 

 次の日、カズマ達一行は最低限の荷物を持ってウィズの店に来ていた。

 

「――まあ、そんなこんなで俺たちを王都へとテレポートしてほしいんだよ。お代はちゃんと支払うから」

 

 カズマが、金貨の入った袋をウィズに差しだす。

 ウィズはそれを嬉しそうに抱きかかえ、

 

「ありがとうございます! これで今日はちゃんとした御飯が食べられそうです」

 と、これまでの生活の困窮ぶり(無自覚の自業自得)を窺わせる発言。

 

「ちょっと待ってよ!何で私の知らない所で話が進んでるわけ?」

「お前に言うと必ず厄介な事が起こるから嫌なんだよ!大体昨日もこの事を話したら心底嫌そうにしていただろ!」

「何でこの清らかな存在である女神の私が穢れた存在であるリッチーの魔法を受けないといけないのよ! 気遣ってよ! もっと私を気遣って!」

 

 と、いつものように痴話喧嘩を始めるカズマとアクアをよそに、めぐみんが、

 

「そういえば、今日はあの仮面の人が居ませんね。せっかく仮面をもらおうと思ったのに……」

 

「バニルさんは生憎、今日は用事があると言って出かけていったんですよ。帰ってきたら交渉しておきますので……」

 

 ウィズが申し訳なさそうに言うと、めぐみんはなぜか嬉しそうに、

 

「じゃあ、帰ってきた時のお楽しみにしておきます。……ふふふん」

 

 と、うわ言のように呟いたのだった。

 

 

* * *

 

「それでは、準備が整いましたのでこの魔法陣に入ってください。……ああっ、アクア様! 転送事故の原因になりますので魔法陣の上で暴れないでください!」

 

 カズマは抵抗するアクアを抑え込む。

 めぐみんとダクネスは、落ち着き払った様子で、

 

「今回の旅は楽ですね」

「確かにそうだな。……私はああいうのも悪くはないのだが」

 

 と、転送されるのをじっと待っているだけだった。

 

 

 

 

「それでは、良い旅を。『テレポート』!」

 

 

 

 カズマ達は光に吸い込まれ、アクセルの街から姿を消した。

 

 

 

 

* * *

 

 転移が終わり、カズマ達は目を開く。

そこには今迄の思い出を思い起こさせるような王都の姿はなく――

 

「おいお前ら、とりあえず現状の確認だ」

 

 

 ――どう考えても、これは転送事故というものとしか考えられない。

 

 

 カズマ達はウィズのテレポートの魔法を受けた。

そうすると、目的地に設定された『ベルゼルグの』王都へと飛ばされるはずだった。

 しかし、目の前には見た事のない光景が広がっている。

 

 再び門の上をみると、そこには判別し辛い字で何かが書いてある。

 

 どうやらこの状況から察するに、別の国の王都に飛ばされたのであろう。

 

 『王都ルグニカ』

 

 そこが、これからカズマ達一行がこれからお世話になる王都の名前だった。

 

「また面倒事かー……はあ」

 

 カズマはため息をつくことしかできなかった。

 

 


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