どうにもこうにも筆が進まず、以後もこんな感じでゆっくりとした進行になるかもしれませんが、よろしくお願いします。
「なぜ、本当のことを言わなかった?」
日付が変わろうとしている。
孝たちが休息をとっている部屋の隣、DSOのセーフハウス内。ぼろぼろになったスーツを脱ぎ捨て、新しい衣服に袖を通しながら、静かにサーシャはレオンに問う。
「さて、なんのことかな」
「先ほど、おまえが小室くんたちに伝えた、おまえ自身の任務についてだ」
情報の共有ということで、サーシャたちも、孝たちに自分たちのこれまでを伝えた。
その中でレオンは、自分がなぜ床主市へ派遣されたのか、そしてバイオハザードが発生した際に、自身へ与えられた任務についてを説明していた。
内容は、『床主市に取り残された生存者、およびアレクサンドル・コザチェンコの救出』である。
「おまえとおれが再会したのは、ある意味で偶然だったはずだ。それに、たったひとりで生存者の救出など、でまかせとしては少々苦しかったな。あんな言葉に諸手を上げて喜ぶほど、彼らは愚かではないぞ」
「まったくの嘘なんかじゃない。あのとき言ったことは、おれがおれ自身へ課したミッションなのさ」
レオンの顔に、普段の飄々とした涼やかさはない。確固たるものを瞳に宿した、真剣な視線をサーシャへ投げかけていた。
たしかに、レオンがここ床主市へ派遣された目的は救出ではない。
以前よりきな臭い噂の耐えなかった代議員、紫藤一郎の内偵調査が本来の任務であったが、またも死が蔓延する地獄の中へ飛び込む形になってしまった。これを皮肉な運命と取らずしてなんとしようか。
「そう、だったな。おれの知るレオン・S・ケネディという男は、そういう男だ」
東スラブでの出会いの時。そして、それからしばらくの間、サーシャはレオンのことを、合衆国の犬と嘲った。
大国の力に飼われた、感情を持たぬ犬。任務のためならば、どんな事でも平気でやってのける、冷たい男。当時の激情に駆られるまま戦いに突き動かされていたサーシャは、そう彼を評していた。
しかし、それは違った。彼はやはり、同じ赤い血の通った人間だった。それも、人一倍熱い血潮の流れる戦士であった。
だからこそサーシャは理解する。
隣の部屋で束の間の安息を享受する勇敢な者たちに、そして自分に真実を打ち明けないのは、これ以上、地獄の深淵へと巻き込みたくなかったからだ。
彼の目の先にある巨悪との闘いへは、自分自身でケリをつける。それがレオンの信念であり、覚悟であると、今のサーシャならば解る。
「……で、どうなんだ。DSOのことだ、大体の目星は付いているんだろう?」
だが、サーシャにも譲れないものはある。かつてバイオテロを引き起こした張本人としての責任と、これからバイオテロと闘っていく戦士としての矜持が、彼をレオンと同じ場所へと続く道へ一歩を踏み出そうとしている。
破滅的な英雄願望などではない。あくまでも、闘い抜いた後の、世界のその先が見たい。サーシャの瞳は澄み切り、されど燃え盛るような情熱を宿す。
「……覚悟はあるんだな?」
「無論だ」
その灯火は誰にも消せはしない。
「OK。では、これを見てくれ」
レオンは2度、3度頷きながら、携帯端末のディスプレイをサーシャへ見せる。
映し出される平面的な地図は、床主市のものだ。しかし普通の地図とは違い、市の中心部よりやや東の箇所に、円で囲われた地域がある。縮尺図的に、半径50メートルといったところか。
「これは?」
「DSOが調べ上げた、バイオハザード発生地点の予測だ。確率としては、ほぼ100パーセント」
円の内部の区域は、主にオフィスビルや商業施設が集中した繁華街である。これだけを見れば、多くの人が集まる場所を狙った大規模テロとも取れなくもない。
しかし、レオンが2本の指でディスプレイを拡大する内、円の本当の中心部にあるものが明らかになっていく。
「ここは……」
「紫藤一郎という男の邸宅だ。床主においては、とびっきりの一等地だな」
地図上において文明の営みが垣間見える灰色の中に、まるで切り取られ貼り付けたかのように存在する緑の四角形。そこが代議士、紫藤一郎の保有する土地であり、彼が邸宅を構える場所でもある。
「紫藤……!」
「ああそうだ。その男こそが……」
「いや、おれも紫藤という男を少しは知っているんだ。ただし、その一郎とやらではないがね」
サーシャに、数日前の記憶が蘇る。
『初めましてアレクサンドル・コザチェンコ講師。此度の講演、皆にとって有意義なものになるよう、どうぞよろしくお願い申し上げます』
その男は、もはや無礼の域に達するほど慇懃だった。
『それにしても、昨今の人類の脅威であるバイオテロに直面し、生き残り、あまつさえも立ち向かえるほどの勇気! ああ……あなたのような方こそ、まさしく現代の英雄と呼ぶに相応しい! そのような方にお会いできて、わたくし、感動を抑えることができません!』
崇拝にも似た表情とは裏腹に、嘲笑と侮蔑を隠そうともせぬいやらしい目つき。惜しみない賞賛を投げかける舌は、まるで蛇のように2つに割れて見えた。
『……それだけ、あなたのことを知っている。そういうことなのですがねえ……ククク。おっと、自己紹介が遅れて申し訳ない。わたくし……』
まるでなにもかもを見透かしていると言わんばかりにまくし立てる、寒気すら催すこの男こそ……
『紫藤浩一と申します。以後、お見知りおきを』
あの、わざとらしい芝居めいた態度は忘れるはずもなかった。
「紫藤浩一……ああ、そういえば、やつは紫藤一郎の息子だったか。そいつもなかなかの小悪党に違いないが、いまのところは白だ。2人の関係はほぼ絶縁状態だからな。それでも、すぐに
「なるほど。つまり、とりあえずは浩一のほうは捨て置いておくとして、目下おれたちがやるべきこととは……」
「彼ら藤美学園の生存者たちを生きて床主から脱出させる。そしてその後は、紫藤一郎邸へ潜入。内部を捜索し、今回のバイオテロの証拠を抑える」
レオンはサーシャへ手を差し出す。
サーシャは、その手を固く握り返した。
”この世界で懸命に生きる命。その尊厳をすべからく踏みにじろうとするバイオ兵器の撲滅”
2人のルーツや、当初の立ち位置こそ真逆ではあった。
バイオ兵器という忌むべき力に対して、レオンは巻き込まれる形で、サーシャは自ら手を染めた。
しかし今、信念を同じくする戦士として肩を並べ、同じ方向へ目を向けている。
なんとなく、本当に無意識の内であるのだが、2人の体に力が。胸の内に勇気がふつふつと湧き出してくるのを感じていた。
「あらためてよろしくな
「……ふっ、かもしれないな」
サーシャはJDの形見である空のスキットルを握りしめ、柔らかく笑う。
「そしておまえは、やはりスーツ姿の方がお似合いのようだ」
見た目の問題ではない。レオンとしては、やはりサーシャにはこのまま教師としての人生を歩んでいて欲しかったのだろう。
サーシャは、少しだけレオンの表情が曇るのを察した。
「また、教壇に立ってみせるさ。絶対にな」
結んだ手と手がほどかれ、握り拳となる。自然と彼らは拳を打ち付けあう。信頼を確かめあう。掌を軽快に合わせ、互いを指差しあい、共に生きて使命を全うする約束を交わした。
「戻るか」
「そうだな」
セーフハウスの灯りが消える。
床主からまた1つ光が消えた。しかし、その隣の部屋がより明るくなったような、そんな希望を感じさせる一コマである。
……その高い塀の向こうで、哀れな犠牲者たちが這いずり回る物悲しい静寂さえなければ。
後書きと言う名の愚痴。
ネタバレ防止のため極めて簡潔に。そしてあくまで個人の感想なのであしからず。
バイオハザードヴェンデッタを見てきました。
映像美は相変わらず凄まじいものがあり、特に恐怖演出やアクションシーンは素晴らしいの一言です。
ただ、個人的にはCG映像3作の中では残念ながら最下位の内容でございました。
グレン・アリアス最大の悲劇。それは悪役、そして敵役としての彼を彩るファクターがあまりにも少な過ぎた、という事ではないかと思います。
良くも悪くも『続編に期待せざるを得ない』作品でありました。