BIOHAZARD:OBLIGATION   作:麦ご飯

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散々悩んだあげく、即落ち2コマみたいなってしまった……


Chapter〈B〉:1-5

 BSAAは、床主フェリーターミナルの奪還、および周辺地域の安全を確保。施設周辺の地域に隠れていた生存者の避難誘導を行い、およそ700人ちかくの救出に成功した。

 避難者たちへは感染の有無を検査し、感染なしと判断されれば順次空港へ移動させていく予定だ。

 ただ、感染から発症までの期間が極めて短いという事例から、検査を受けられるくらいの余裕があれば、間違いなく引っかからない。空港への移動は比較的スムーズにおこなわれている。

 

 そして、この作戦に参加した部隊の殉職者は0人と、上々の参加だ。無論、BSAAの隊員たちは、そのことを前提にしているのだが。

 

 なかでも特に目覚ましい活躍を見せたアルファチーム、そしてSATの14人は、ターミナルの駐車場に設置したテントにて、作戦の情報交換と今後の方針について検討すべく集まっていた。

 

「まずは諸君らの健闘に感謝したい。よく戦ってくれた」

 

 クリスのねぎらいの言葉に、一同は敬礼で返す。

 

「さて、休む間も無くで申し訳ないが、さっそく報告へ移らせてもらう。まずは感染者の特徴についてだが、基本的にT-ウイルスのゾンビと変わりはない」

「では、今回のバイオテロに用いられたのはT-ウイルスだと?」

 

 ピアーズはクリスに尋ねる。

 しかし、クリスは首を横に振った。

 

「少し妙なところがある。作戦中に聞いたが、感染者の群れの中に生きた犬が紛れ込んでいたそうだな、田島」

「ええ、他の隊員たちも確認しています。間違いありません」

「そうか、やはり……こちらも生きたカラスの群れを確認している。両方に共通することは、どちらもバイオテロの二次災害が真っ先に及ぶ生き物という点だ」

 

 犬は個体数が多く、カラスは感染者の肉を食べて感染する。

 この2種の生物は、ゾンビ以外でもっとも遭遇しやすい種だといえる。しかし、これまでの報告で、遭遇したという情報はない。

 むしろ、野良犬が吠えている場所や、カラスの集まる場所がゾンビの目印である役割を果たしている。他にも猫や鶏など、人間以外のあらゆる動物が健康な状態で発見されていた。

 

「これらについては、我々が採取した感染者のサンプルを本部へ送った。解析には、そう長くはかからないはずだ」

 

 報告は手早く済ませ、クリスはホワイトボードに貼られた床主市の地図を指した。

 

「さて、当初の予定通り、今後我々は救助範囲を拡大、生存者の救出を進めていくことになる。ついては、床主市全域にメールやラジオなどの回線を飛ばし、呼びかけがあれば順次に応じていくとのことだ」

 

 あまり良い手段とは言えない。

 というのも、床主市に電波を限定しているとはいえ、こういった公共の回線を使う場合、必ずといってよいほど、いたずら目的で通信してくる不謹慎な輩が現れるものだからだ。

 

 しかし、いかに悪手とはいえ、いまだ床主市には多くの生存者が助けを待っているのも事実。

 

「コミックのヒーローみたいにはいかないものね」

「そうだな……だが、やるしかない」

 

 リカの嘆息に、クリスはあくまでも毅然として答えた。彼……いや、自分たちにのしかかる疲労や心労は半端なものではない。リカは、らしくなく嘆息した。

 

「ところで、紫藤代議士の処遇はどうなってんです?」

 

 ふと、田島が手を上げて問う。

 

「彼らは現在、空港までお送りして、一般の避難者とは別に特別な避難所で待機してもらっている。しかも、護衛付きでな。快く情報を提供してくれれば、明朝にでも北米支部へ避難してもらう予定だ」

「なるほど、そりゃいい。なにもしなければ(、、、、、、、、)安全が保証され、さらにはアメリカへの片道切符の特典付きか。超VIP待遇じゃないですか」

 

 交わされる紫藤への皮肉の応酬に、たちまちテント内を笑いが包んだ。

 こういう時、彼の陽気さは非常にありがたく貴重なものだ、とクリスは薄く笑う。

 

『こちらHQ。アルファリーダー、応答せよ』

 

 すると、不意に司令部より通信が入った。

 

「アルファリーダーだ、どうした」

『拘留中の紫藤一郎とその秘書が奪還された』

「なんだと!?」

 

 

 -----

 

 

 数分前。

 

「食事だ」

 

 ところ変わり、アルファチームのテントより離れた場所に設置されたテント内。

 

「そんなものはいらん。あいにくと、わたしは味の分かる人間なのだ」

 

 紫藤一郎、および彼の秘書は、トレーに乗せられたビーンズとパンに唾を吐いた。

 

「そうかい。おれは、舌が貧相に生まれて本当に良かったよ」

 

 彼に食事を出したBSAA隊員は、舌打ちをしつつトレーを引っ込めた。

 

「ふん、木っ端のくせして偉そうにしおって」

「せ、先生……我らはいったい、どうなってしまうのでしょう……」

 

 秘書の男はおどおどと耳打ちする。

 彼らにもはや逃げ場はない。ここはBSAA作戦本部の只中た。テント内には2機のカメラが設置してあり、入り口には隊員が常に3名、交代制で見張りについている。

 

「もしも、我々がアレ(、、)に関与していることがバレでもしたら……」

「慌てることはない。もうすぐ、奴が来るころだ」

 

 見張りが交代するまでの時間は、おおよそ2時間。そして、今の見張りがやって来てから、もうすぐ2時間。

 そろそろ時間のはずだ。紫藤の読みは正しく、3つの足音が聞こえ、3つの足音が去っていく。

 

 ーーそして、人間が倒れこむような音が3つ。

 

「迎えにきた」

「ご苦労」

 

 テントの幕を上げて入って来たのは、BSAAでもSATでもない。フード付きロングジャケットに身を包む、黒ずくめのマスク男。半日前、サーシャと接触していた〈ウェスカー〉だった。

 

「おお、ウェスカー……! よく来てくれた!」

「黙れ」

 

 ウェスカーはおもむろに拳銃を構え、引鉄を引く。サプレッサーによって抑制された2発の発射音が、それぞれカメラを破壊した。

 

「失言だ。ここでわたしの名を口にするな」

「す、すまない」

「……まあいい、とにかく脱出だ、ボートを用意してある。少しの間だが、全力で走れ」

「うむ」

 

 ウェスカーは身を翻し、テントを後にする。2人は、彼の後を追った。

 

 

 ------

 

 

「ウェスカー……だと?」

 

 クリスは耳を疑った。

 映像が途切れる前、確かに男はウェスカーと呼ばれていた。

 

「クリス、ウェスカーってのは誰なの?」

 

 一応、普通の(、、、)警察官であるリカは、聞き覚えのない名前の意味を尋ねた。

 

「そうだな、2人には話しておこうか。おれ……いや、おれたちBSAAにとって、ウェスカーという名は、特別な因縁をもつものだ」

 

 すでに追っ手は出動している。

 クリスはつらつらと、ある男のことを語り始めた。語るうち、彼の頭に、これまでの軌跡がダイジェストのように浮かんでくる。

 

 その男の名はアルバート・ウェスカーと言った。

 かつて、クリスがラクーン市警の特殊部隊〈S.T.A.R.S〉の一員であった頃、アルバートは彼の上司だった。

 鋭い洞察力と観察眼をもち、いかなる時も冷静沈着なリーダーシップでチームを導く姿を、クリスは尊敬していた。

 常にサングラスで目を隠し、彼がなにを考えているのか伺えなかったが、きっと正義に燃える情熱を秘めているものと信じていた。

 

 ーーしかし、アルバートの目に宿っていたのは、底なしの悪意だった。

 

 あの日から。14年前、アークレイ山中の洋館から、クリスとアルバートの長い戦いの因縁が始まったのだ。

 

「だが、奴は3年前、確かにこの手で葬ったはずだ。それなのに、また奴の名を聞くことになるとはな……」

「ウェスカーを追うつもり?」

「いいや。おれたちが優先すべきは、まず生存者を救うことだ。あまり私情で動くわけにはいかない。さ、明日も早いぞ。体は充分に休ませておけ」

 

 2人の肩にそれぞれ手を添え、クリスはテントを出て行くと、他の隊員たちも解散する。

 

「まず、ねえ……」

 

 残されたリカと田島ははっきりと見ていた。冷静に応えるなか、彼が固く拳を握りしめていたことを。

 

「それより、忘れ物でもしたのかしら?」

 

 リカがそう言うと、物陰からピアーズが姿を現した。

 

「悪い。盗み聞きをするつもりはなかった」

 

 しばらくの沈黙。先に口を開いたのはピアーズだった。

 

「あの人は、自分の命を懸けてでも、共に戦うに値する人だ」

 

 ピアーズがBSAAに入隊したのは2年前、陸軍の特殊部隊に所属していたころ、その天性の狙撃の腕を買われ、クリスから直々のスカウトを受けたことがきっかけだった。

 ピアーズの家は、代々優秀な軍人を排出する家系だった。彼もまた、そんな一族の血に従い、軍人を志した。

 毎日の訓練に励み、日々の研鑽を怠らなかった結果、狙撃手としての才能を開花させ、部隊でも目覚ましい活躍ぶりだった。

 

 しかしある日、ふとピアーズは思ってしまった。自分は一体なんのために戦っているのだろうか、と。

 日々をストイックに生きる姿勢は変わらない。だが、自身を高めていくのに比例して、自身の悩みも高まっていくのを感じていた。

 そんなとき、クリス・レッドフィールドと出会い、彼から直々のスカウトを受け、BSAAに入隊した。

 はじめは、明確な敵と戦うことができる、という理由だった。しかし、クリスと共に戦う内、ピアーズの心境に変化が起きる。

 それは、自身が戦う上で確固たる信念が生まれたこと。

 軍人の家系からか、コミックのスーパーヒーローに対して淡白だったピアーズだが、どこまでもバイオテロ根絶の信念を持って闘うクリスの中に、真の英雄の姿を見出し、自身もかくありたいと心から思うようになったのだ。

 

「こんなことをおまえたちに言うのは的外れなのかもしれないが……」

「今さら水臭いぜ、ピアーズ」

「そうね。あんないい男、そうそういないわ」

「南、田島……」

 

 バイオハザード発生から、2日目の夜が明けようとしていた。報道によれば、避難に成功した市民は23万人。床主市は、いまだ地獄から解放されていない。


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