テトラたちは港町ベルシーのとあるレストランにて、ちょうど料理を頼もうかというところだ。何故ならば、それはモチロンおなかが減りまくっているからだ……! (主にテトラの)
…………『シーフードレストラン・レカイエ』…………
レストランといっても、テーブルもイスも木製。壁も床も長い木の板を並べた感じの、なんとも居心地の良さげな料理店だ。
「俺はこのナントカ・グリエで。」
「シーフードつってるのにィ。」
ヴェルディ少年はステーキを注文。肉が食えりゃいい系男子。
「わたしブウサギのテリーヌと、ポテトサラダ、アントルコート・グリエ、あとモフモフスープに、……レカイエ流マーボーカレーってやつ!…………と、焼き鳥丼!! デザートはベルティーユ・アイス。」
「お前も肉、てか量…………!!?」
テトラは食べ盛りらしい。大人二人が後に続く。
「すまないがオリーブオイルを一本、頂けるだろうか。」
「私はサーモン・グリルとヴェックス(ビール)。よろしく。」
この女、昼間なのにフツーにビール頼んだな…… あと、なんか、……潤滑油…………
テーブル上はテトラの注文料理でテンヤワンヤになるかと思われたが、彼女が猛スピードで食べ終えていくので別にそんなことにはならなかった。まあ、ウェイターとキッチンはテンヤワンヤだろう。
。。。。
さて、ランチを済ませたテトラたち。
「そおいえば、コレ誰が払うんだっけね?」
テトラの目はヴェルディ・レジンの目線に導かれ、三人の視線が魔術師ニーキスに集中した。
「ニーキスさま??」
「ニーキスだろ?」
「ワタシはニーキスさんかと……」
「…………イヤイヤ、各々自分で払うんじゃないの!?」
ホロ酔いニーキス、慌て気味なスマイル。
「ニーキスさまって、なんと言いますかその……」
「あんた歌姫かなんかなんだろ?金持ちだろうよ?」
「ちなみに我々の旅資金は先日、尽きた……」
「私、妖精関連の本とかしか持ってきてないぞ?……お金はすっかり忘れちゃって。そもそもお金持ちでもないし。」
いつの間にか横で会話を聞くシェフ、快晴のスマイル。なかなか男前なシェフの手にある包丁が、意味深に見えてくる。
「どうやらお困りのようですねえ……」
「はいっ……あ、イエ、そんな困ってる訳じゃ……」
「誤魔化さないで下さい……実は、私たちにも困っていることがありまして……」
「????」
最近、海に現れた狂暴な魔物。ソイツが漁船を襲いまくっているのだとシェフは言う。漁師はモチロン、シーフードレストランにとってもそれは深刻な問題である……
「過去にも魔物が船を襲うことはありましたが、『今度のヤツ』はソレハソレハ手強くて。……魔術師様にお力添え頂きたいと思っていたところなんです……!」
「…………どんなヤツなんだ?」
「サメっぽいヤツだと聞きました……」
「?……数は?」
「数はタブン一匹だけだと……」
「ニーキスさま!」
「一匹なら、イケるんじゃないか?」
「引き受けようじゃないか。」
「そうだな。……腹ごなしに一匹、やっつけてやろうか。」
直後にニーキスは四人の食べた分量について考えたが、それを言い出すとまたテトラの思い描く「ニーキスさま」を壊してしまう気がし、すぐ考えを改めた。……これは港町ベルシーを救うための戦いだ……!
▼▼▼▼!!『ベルシー近海』!!▼▼▼▼
全速前進ッ!!
光る水しぶきが青の世界の真ん中をまっすぐに走る。しばらくして目標海域に入ると、船は勢いを緩めた。
小型の帆船、その上で四人は戦いの準備を進めた。
テトラは『魔筆ノクティルカ』の筆毛を数本ニョキニョキと伸ばすと、先の方でヴェルディをぐるぐると縛った。
「コレ、勝手に吸血したりしないだろうな……?」
「それは大丈夫! ……だと思う。わたしにもう、だいぶ『馴染んできてる』から。この筆。」
「カメレオン!!幻惑のドレスを貸してっ!!」
ニーキスがそう叫ぶと、陽炎のような揺らめきから妖魔カメレオンがにじみ出る! カメレオンがその瞳から火花を飛ばすと、ヴェルディは『魚のようなシルエットのオーラ』をギラギラと纏った。
要するに彼らは、ヴェルディを魚に見せかけて海獣を釣ろうとしているのだ……!!
魔導人形レジンが海面の向こうへ手を突っ込むと、やがて海獣の存在を探知(どういう仕組みじゃ)! ヴェルディは不服そうな面持ちで海に飛び込む!
……どうやらオーラの中で少しは息ができるようだな……
無数の泡が天の彼方へ飛んでゆくのを見送る…………すると予想外に巨大な海獣のキバが視界の両端から迫る!
……ガキンッ!!!……
「釣れたぞッ!!」
「よっしゃ!!!」
急いで筆を持ち上げるテトラ! 最後はニーキス・レジンも一緒になって引っ張り、遂に青空の下に姿を現す青緑色の海獣!
その巨体は帆船よりも大きそうだ。身体中の傷痕が彼の狂暴さを物語る。
噛みくわえていた『ナイフ』(とヴェルディ)を宙に放ると、猛スピードで船を襲う…………!!
「ニーキスさまッ…………」
「ッ……プリズンセイヴァー!!!」
「霧沙雨!!!」
ニーキスは虹色の幻槍を空から落とし、レジンは刺突の豪雨を巨体に浴びせる!
……その間に無事、船上に戻ったヴェルディ。だが休むヒマなくヴェルディの身体はテトラの『釣竿』に引かれ、飛翔! 空に弧を描くヴェルディ……!
「マーメイドグリフッ……!!!」
テトラとヴェルディのトドメの一撃!!
ヴェルディは、そっと呟く。
「ワルいな海獣。……恨むなら……俺以外にしてくれよ?……」
…………テトラたちは勝利した……!!…………
。。。。
海獣「ムニエル」(テトラ命名)は、港町のみんなで心して食そうということになった。……夜。町はちょっとしたお祭りムードだ。
その中にテトラたち四人も混ざっていたハズなのだが、テトラはすぐにヴェルディの姿がないことに気づいた。
…………『ベルシー港』…………
ヴェルディは港で、ボケっとしていた。
「いた!……ヴェルディ。」
「…………」
「……ごめん、『魔物退治』なんて、面白くないよね。」
「! イヤ、そういうワケじゃない。……肉や魚や、パンやら酒やらを飲み食いするのはアタリマエの事だ。」
「でもッ………………」
「…………」
「……でも、……ムニエル……めちゃくちゃウマイよ…………?」
「……えっ」
テトラは真面目な顔つきでヴェルディを見つめていた。
「食べよう。……最高なので。」
串に刺さったのを手渡され、ひとくち、ふたくち。
星月夜を眺め、波の音を聴きながら、妖魔ヴェルディは色々なものを味わっていた。 モグモグモグ…… モグモグ…… ウマイなコレ。…………
楽しい無言がしばらく続いた。
テトラ、安心のスマイル。