…………ディアナの迷宮塔・マルスの間…………
テトラたちは揃って、広間の中央にドンと置かれた「巨大なワイングラス」に目をやった。それは透明というワケではなく、鋼色。侵入者に気付いたか、それは魔力の火をつけた……
「テトラ、ヘタに近づくなよ…………落とされる。」
「オ、オウヨ……!」
ゆらゆらと燃える火炎の光にあたり、テトラたちの背後に影が生まれた。一人一影。
…………五つの影・シャドウが妖煙を掻き分ける…………
「……ッちょっと、何……わたしたちのニセモノだ……!?」
「ニセモノじゃ本物には勝てんだろ?……」
狼少年ヴェルディは勢いよく飛び上がり、自分のシャドウにケリを浴びせる! 続けざまに三度繰り出された蹴撃は見事、すべて相殺……
「コイツはまた、メンドクサそうな……!」
「我々の動きを完全にマネることができるようだ。……奥義:タイガーランページ!!」
レジンキッドが両拳でシャドウを滅多打ちにするが、やはり鏡のように同じ動きで跳ね返す!
シャドウから離れようにも影は途切れず。対魔士ナラシノの前髪を数本、シャドウの剣が斬り落とす……ナラシノは焦り笑顔。
「僕たちが何をしたっていうんだ……!!」
「……!炎を消せばイイんじゃ……碑零幻、穿て!!……」
魔氷が炸裂! 魔女ニーキスの攻撃で燭台は凍てつく!!
……が、炎は、平然と燃え続けている……
魔女のシャドウが反撃……炎を纏った剣閃、紅蓮剣!! ニーキスはギリギリで回避。
「ッな、…………こいつカタチだけじゃない、ワタシがまだ見せてない技までマネてきた……そんなのって…………!!」
もしカメレオンを召喚されたら、幻術空間に閉じ込められでもしたら、……………………絶対オワル…………!!!
……ニーキスが悲しい結末を想像すると間もなく、ニュルリと黒いカメレオンが出現。
「ゲッ!!!……ワタシのニセモノ、早まるなよ…………??!」
青ざめて唾を飲む……
一方、一味の首領(ドン)・テトラ……のシャドウは魔筆ノクティルカの毛をゾワゾワと広間中に伸ばし、黒毛がいよいよテトラたちを襲おうとしていた……
「ス、スワレル……!! 血ィ、吸われちゃう…………!!!」
…………漆黒と火炎が揺らめき、走馬灯が浮かび始めた…………
そんな時に、妙なことを言ったのはナラシノ……
「……オサケ……なんて、皆サン持ってたりしないですよね……」
…………オサケ…………
…………お酒……………………??
唖然とするテトラたち。しかしニーキスだけは違った。
「酒…………それなら持ってるぞ。ナルホド今が最期の時。存分に味わえ…………!」
「イヤイヤ!! そういうんじゃないって……」
一体何処に忍ばせていたのか。投げられた小さな酒瓶を手に受け取るとナラシノは一口、酒を飲む。
……飲んだのは、ほんの少量に見えたが……
今更に抜刀。再度酒を口にすると、今度はそれを刀身に吹きかけた!
「…………久し振りの人斬り……まァ影の猿真似だが、やはり心躍る。…………死の叫び、流血はマネ出来るかな?…………」
ふらりと転びそうな足取り……
先ずテトラの影を一太刀。
次に少年の首根っこを一太刀。
振り返り、人形レジンを一太刀。
「……おお、人形は血を飛ばさない……良く出来てる。
っははは!! 面白くないなあ?」
テトラとヴェルディ、レジンは目の前で自分を斬り殺され、絶句……!
魔女の術攻撃を容易く受け流すと、男の刀はしなやかに魔女の体を斬り落とした。
「ヒエッ…………ワタシのカラダ真っ二ツ…………!!」
殺人剣の耽美な閃きをシャドウの刀が止める。二本の刀は何回か火花を散らして広間に戦慄を奏でた。
「…爪竜連牙斬!!」
強力な斬撃が四度激突! しかしどちらの刃も相手の命には届かず……
「うゥむ、畜生!! 水月の如し……これは敵わん。悔しいが………………終わらせよう。火をおこす!!
…………奥義ッ、…破邪烈焔刃!!!…………」
紅の爆炎が沸き上がり、灼熱の剣が影を焼く!!
影は烈火に包まれると、目映い光の狭間に消えた……
「うぎゃ~…ッ…………」(テトラのうめき声)
多少離れた所にいたテトラたちも爆風に飛ばされかけた。
刀は最後、燭台にキレイな斬れ目を作り鞘に納まった。バラバラと燭台は散らばり、上階へと進む為のトビラが開放……
「………………オヤ? これは……」
ナラシノは塔攻略のキー、小さなツボ(?)を発見。
……『火焔の器』を手に入れた……
→ナラシノすごい…!!
→ナラシノおっかないな……
どうやら男は「酔い」が覚めてきたようだ。優しい笑顔で酒瓶を持ち主に返した。
「……秘技・泥酔剣……少しは役に立てたかな、ヨカッ…タ……」
「あっ!? 一気にまた弱々しく…………!?!」
千鳥足が治まって姿勢良くなったと思えば、すぐさま崩れる剣士……ニーキスは渋々剣士を膝の上に休ませた。ラッキー野郎。
「……酒、全然減ってないんだが、なんなんだコイツ……」
「悪酔いが無ければ割と最強なんじゃ……」
ヴェルディは対魔剣士の脅威に畏怖の念を抱いた……
しばらくの休息の後、テトラたちは塔の最上階を目指して再び歩き始めた。
きっと待っているはず……古代悠久あまねし月光……闇に柔く照る精霊ルナ!…………