妖魔ヴェルディと契約を結んだテトラと仲間たち。
町の空に闇夜と星明かりが舞い降り、彼らは宿屋に帰還した。
…………宿屋『ブラック・アンド・ホワイト』…………
彼らは一応二部屋借りているワケだが、テトラが部屋の隅に「メランジュライフ」(たぶんスゴロクのようなボードゲーム)というのの一式を見つけてしまったので、今5人は一部屋に集まり就寝前のナイトゲームを行っていた。
(しばらくの間テトラ-ヴェルディ-人形レジン-魔女ニーキス-謎の対魔士~の順番で発言↓↓↓↓↓)
「……3、4。ハリウサギを踏んづける。一回休み! ガーンッ!!痛そう……」
「……5。大きめのハリウサギを踏んづける。二回休み。……ハリウサギってなんだ。」
「……6。ハリウサギの王に踏まれる。」
「…………。……そういえばアナタ、対魔士らしいけど……ひとりで一体何しにこんな寒いトコまで?」
「えっとソレは……実は密命を受けて今、任務の最中なんだ。……」
「密命!?かっこいい!!」
「(……密命って、喋っていいのか?)」
「ハリウサギの女王に恋する。?」
「……その任務って……もしかして魔力異変に関するコト……?」
「ウ~ン……詳しくは聞かされてないけど、ただのフツウの魔物討伐任務、だと思う。『金色の髪の少女とマダラ模様の魔物』を探せ! っていう。」
「『少女と魔物』……? それってわたしたちのコトじゃん!!?」
「いや違うだろ……? 俺はマダラ模様じゃないし。」
「ハリウサギに食べられる。フリダシに戻る。むぅ……。」
「魔物はともかく、少女は…………誘拐?」
「それならもっと大勢での捜索になりそうだが……少人数でチョコチョコと探しているんだ……今回は『ディアナの塔』周辺を見回りに行けと。」
「すごい! わたしたちもディアナの塔に行く途中だよ?!……せっかくだから一緒に行こう!! えっと……」
なんて御名前でしたっけと対魔士の男のカオをうかがうテトラ。男は笑顔で名を名乗った。
「僕はナラシノ。今日は助けてくれて本当にありがとう……キミは命の恩人、運命の女神だ!! この恩は必ず返そう。」
メランジュライフのボードの上空で、テトラとナラシノは握手した。なかなか男前のスマイル。何故かほんの少しだけヴェルディは面白くない気分。……フン、馴れ馴れしそうな対魔士だ。
ナイトゲームを楽しんだ5人はそのあと、……テトラはニーキスさまと一緒に温泉タイム、レジンはオリーブオイル・タイム、ヴェルディはナイフお手入れタイムを過ごしてから……それぞれ眠りの中へ向かった。風のない、穏やかな夜…………
◆◆◆◆◆
この世界『メランジュ』の半分を、闇夜の黒が優しく包む。……曇りのない黒色…………
◆◆◆◆◆
黒色はやがて、白い紙の上に不思議なシルエットを現した。……それは、空想の生き物の「魔法画」……
少女テオリアは森の中、コモレビの集まる所に寝転んで絵を描いていた。
無心で絵を描くテオリア。彼女を突然の『雨』が襲う。
雨に降られて慌てる少女……絵も雨に濡れてしまった。これは困った…………雨の当たらない場所へと、彼女は急ぐ。
「……ふぅ。イキナリこんな雨……」
テオリアはひとまず大きな木の下に避難した。雨は勢い激しく、森中にその轟音を響かせ続ける。
「ぜんぜん降り止まなそう……」
雨は瞬く間に海のような水溜まりを作った。轟音の中、さざなみをじっと見つめる。
「…………?」
さざなみにパシャリと魔物の前足が刺さる音。……気付くとテオリアは魔物の群れに囲まれていた……!
「?!なにこれ……魔物がいっぱい……!! なんで……やだ……コッチに来る……………………だれかッ!!!……………………」
……「助けて」。そう叫ぼうとした、その時。
テオリアが手に握っていた絵……雨に濡れた魔法画から、何か黒い煙のようなものが立ち上がり、その中から得体の知れない生き物が姿を現す。
…………魔法画から魔物が生まれ出たのである…………
それは黒いカラダで、四本足。イヌやネコに少し似ている気もするが、やはり違う。それらよりもう少し大きめの……テオリアが紙に描いた空想の生き物……
「……ポルカ…………」
生まれたての『ポルカ』はトリのような声でキョウキョウと短く数回泣き叫ぶと、軽やかに駆け出す。
ポルカは嵐のように浅い海の上を走り、テオリアの周りにいた魔物たちを全て跡形も無く、「喰らい尽くした」。…………
…………ポルカは、テオリアを守った…………
「すごい、ポルカ。……コワそうな魔物みんな食べちゃった……」
テオリアは自分を助けてくれたポルカを、愛した。
毎日のように森へ行き、パンやお魚やミルクを、時には遊び心でビールなんかをポルカに与えた。
ポルカはテオリアの出すものはなんでも、すぐさまペロリと平らげた。ポルカは好き嫌いしない、イイコだ!
…………ポルカとテオリアの楽しい日々…………
それはしかし、いつまでも……とはいかないのだ……
数年の間にそれはテオリアの倍程までカラダを大きく成長させ、空腹が満たされなくなったポルカは周囲のもの……木々や岩塊、動植物、そして妖魔……なにもかもを喰らい始めた。
「……だめッ……このままじゃ、ポルカが、…………町のひとたちまで、食べちゃう………………………!!!」
無謀にもテオリアは力ずくでそれを止めようとしたが、とても敵わない。
……ついに「食べ物を探す」真っ赤な目が、テオリアを見つけた。
「……ポルカ…………?」
…………黒い魔物が、テオリアを襲った…………
魔物はガブリと噛み付き、引き千切ろうと首を横にグイと反らした。だがどうも、上手くいっていない感触。「食べ物」が見当たらないぞと、赤い目が燃える。
テオリアは自分の身体が男に抱きかかえられているコトに気付く。
「……大丈夫か!?…………アイツは、あの黒い妖魔はなんだ……」
テオリアは男のカオが恐怖や憎しみ、やがて殺意に歪むのを間近で見てしまった。
「……待って!!……………………ポルカを殺さないで…………!!!」
男はその言葉と、胸元に流れ落ちた涙に、揺れた。
…………男が、……魔術師ヘルレイオスが、テオリアと出会った…………
それは1年程前のことだった。…………