この掌にあるもの   作:実験場

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第八話 雑草は踏まれても空へと身を伸ばす

 皺寄せという言葉がある。

 ある事で生じた無理が他に押し付けられる事だ。これは基本的に上流から水が下流へ流れる自然の摂理のように、末端の者が被害を受けることが多い。立場の弱い者は辛いものだ。

 

 一体何が言いたいのかというと、ベートの強くなりたい発言を耳にしてしまい暴走したベルを発車点として、武器を作ってあげたいという願いを口にしたヘスティアを通過し、それを聞いたウルキオラが金額の半分を受け持ち、今迄以上にダンジョンに潜るという着地点に落ち着いた一連の騒動。

 一見するとヘスティアが言ったようにウルキオラに皺寄せがいっているように思える。しかし、ウルキオラはベルを痛めつけた張本人で今回の騒動にガッツリと絡んでいる。それに、ダンジョンに潜るなど本人にとっては苦でも何でもない上に、自ら進んでやると言った。

 そもそも、ベートが強くなりたいと思ったのはウルキオラが原因である。

 それでは皺寄せの被害者とは言えない。

 

 今回の件に全く関与していないのに、本当の意味で皺寄せが襲って来た、不幸な末端の被害者は……。

 

 

 彼女だった。

 

 

 

 

 

 

 お世辞にも綺麗とは呼ばれない、魔石灯に照らされる古ぼけた木製の小さな部屋。簡素に、使用すれば軋む音を立てるであろうボロいベッド、机、椅子、木棚と生活に最低限必要な物だけが置いてあり酷く殺風景だ。

 何時もならカビ臭い匂いが鼻につくだろうが今だけは違っていた。部屋には不釣り合いの食欲をそそる香りが辺りに漂っている。

 発生源は部屋の主であり、ベッドに座って大口を開けたまま固まったリリルカが手に持っている肉汁を垂らす肉料理だった。

 

 肉料理といっても内容はシンプルで竹串に肉を刺して焼いただけ。しかし、単純だからこそ焼き加減に神経を注ぎ込まれ絶妙なタイミングで作られた焼き色は、まさしく職人技と言えよう。

 分厚く切られた上質な肉は間に野菜など挟んでおらず、これでもかと肉々しさを主張している。

 

 オラリオでは中々に名の知られた屋台の名物で、売り切れ必至のこの商品は並ばなければ手に入らない程の物。リリルカが頑張った自分への御褒美として、偶には、偶にはささやかな贅沢位は良いだろうと自己説得して購入した一品。

 

 長蛇の列に並び最後の一つという奇跡で手に入れた肉は香辛料を身に纏い白い湯気を踊らせ、食べられるのを今か今かと待っている。

 

 だが、リリルカは大口を開けたまま動かない。少量の涎を口元に垂らせ、くぅ、と小さな音をお腹から鳴らしているのにもかかわらず。

 

 何故か?

 

 

 

 それはリリルカの目の前に立っている闖入者に理由があった。

 

 

 ほんの少し前、待ちに待った串焼き肉にかぶりつこうと大口を開けた時、その人物は音も立てずに窓から侵入してきた。これだけでも十分に驚き固まるべき事だが不法侵入者(ウルキオラ)は更に上をいった。

 

 謝罪も何も無いウルキオラの開口一番は、

 

 

 

「今から暫くダンジョンに潜る。準備しろ」

 

 だった。

 

 

 此方の事情など一切お構いなしに要求だけを突きつける暴君(ウルキオラ)。文字通り開いた口が塞がらないとはまさにこの事だ。

 リリルカは突然の出来事に着いていけず、フリーズしてしまった頭が動き出すとささやかな抵抗を示した。

 

「ちょっと、待って下さい。見て分かる通り、リリはこれから食事なんです。今すぐには……」

 

「なら、さっさと済ませろ」

 

 そう言い早く食べ終えろとばかりに黙りこくり凝視してくる非常識人(ウルキオラ)

 

 ──食えるか!

 

 リリルカに食事風景を凝視されて喜ぶ趣味は無い。

 ウルキオラの醸し出す重圧に負け、最近もこんな事あったなと急ぎ肉を口に押し込んだリリルカには、あんなに楽しみにしていた肉の味を感じる余裕など微塵も無かった。

 

 

 手早く食事という名の作業を終わらせたリリルカは、そそくさとダンジョンへ向かう準備を始めた。

 脳内では味を感じなかった肉の代金は魔石の換金か買い物の時に釣り銭をちょろまかしてキッチリ回収する、と黒い考えをしながら大きなリュックに必要な物を詰めていく。

 

 どうやらファミリアの新米冒険者に主神が武器を渡そうとして、その金額の半分をウルキオラがもつ事になった為、急遽ダンジョンへ行く羽目になったようだ。

 短い遣り取りで理由を聞き出したリリルカは、まだ見ぬウルキオラの主神と新米冒険者にしっかりと呪いの波動を送るのも忘れない。至福の時間を邪魔されたのだ。これ位やっても罰は当たらないだろう。寧ろ向こうに罰を当ててくれ。

 

「さてと、残りは……」

 

 そうこうしている間に荷物も粗方詰め終わったリリルカは、戸棚から色の着いた液体が入っている小さな瓶を取り出した。

 

「これですね。ポーション!」

 

 呪いを送ったお陰で幾分か溜飲を下げ、声に明るさが戻ったリリルカが手にしているポーションは自身の為に用意した物だ。当然だが必要経費として代金は貰っている。

 以前、ウルキオラの分も購入しようとしたが「俺には必要無い」と言われ、それからは自分に必要と思われる分だけをダンジョンに持っていっている。

 それでも昔は、一応ウルキオラの分もリュックに忍ばせていたが無駄な気遣いだった。リリルカはウルキオラが怪我を負うのを見たことが無い。なので、今では自分の分だけをリュックに入れていた。

 

「あとはポーションと、……ポーション!」

 

 リリルカは戸棚からリュックに詰めた瓶と全く同じ物を取り出した。

 

 怪我を癒やすポーションはダンジョンから無事に生還するための必需品だ。複数ある方が安全だろう。冒険者とは怪我と隣り合わせの危険な職業なのだから。

 

 これらのポーションは全てリリルカが自分が負う傷を癒やす為だけに持っていく物だ。

 

「予備のポーションと念の為のポーション!」

 

 戸棚から瓶を出すリリルカ。

 

 ダンジョンではどんな小さな怪我が命取りになるか分からない。あればあるほど良い筈だ。

 

 これらは全てリリルカが自分の傷を癒やす為だけに持っていく物だ。

 

「それとポーションと、これが無ければ始まりませんね、ポーション!」

 

 明るい声とは反対にリリルカの瞳が段々と濁っていく。

 

 これらは全てリリルカの為だけに持っていく物だ。

 

「今日、買ったばかりのポーション!」

 

 ポーションの効果に鮮度は関係無い。

 

 これらはリリルカの為だけに持っていく物。

 

「あ、忘れてました、ポーション!」

 

 ──────

 

 ────

 

 ──

 

 

 

「そして、最後にポーション!」

 

 都合十八個目のポーションを詰め込んだリリルカの瞳はすっかり濁りきっていた。

 

「ふふっ。リリは今回、何度死ぬ目にあうのでしょう」

 

 命の保障はウルキオラによってされているので危ない時は助けてもらえる。だが、本当に危なくなった時だけ。それ以外は自分でどうにかしろという事だ。お陰で大きい怪我をするのも珍しくない。

 

 また、ウルキオラの助け方にも問題があった。

 

 モンスターに腹を貫かれる寸前。

 頭から叩き潰される寸前。

 喉に噛みつかれる寸前。

 まさにギリギリのタイミングでしか助けてくれない。

 これはウルキオラがモンスターの殲滅を常に優先しているからであり、大多数と戦っている間にリリルカに狙いをつけた一、二匹のモンスターがいた場合に起こっていた。

 理由は分かるが、結果的に助けてもらっているとはいえ死の恐怖に晒されているのは事実で恨み言を吐きたくなるのも仕方無いだろう。

 中でも一番きついのはウルキオラが魔法を使用して助けた場面だ。目と鼻の先にいる襲いかかってきたモンスターを消し飛ばす翠の閃光。

 モンスターと鼻先を掠める『虚閃(セロ)』。

 一瞬で二度の死を体感したリリルカが冷や汗と共に全身の水分(意味深)を流したのも一度や二度ではない。

 もし仮に、レベルアップの条件が偉業の達成では無く死線をくぐり抜ける、死の恐怖を味わう等であれば、とっくに自分は最強のレベルだ! と自信を持っていえる。そんな事に自信を持ちたく無いが。泣きたくなる。というか、ダンジョンに潜る度に十回位死ぬ覚悟をするのは流石におかしい。

 

 しかし、こんな目に合ってもリリルカはウルキオラのサポーターを辞めようとはしない。

 別にドMだったりウルキオラに恋慕の想いがあったりする訳では無い。無いったら無い。どちらかというと、傲岸不遜、冷淡でコミュニケーションを全くとろうとしないウルキオラは、取っ付きにくく苦手な部類に入る。

 それでもサポーターを続けているのは、辞めると言った時のウルキオラの反応が怖いのもあるが、報酬と少なからず感じている恩義の為だった。

 もし、ウルキオラと出会わずサポーターになっていなかったら、きっと冒険者相手に薄汚いこそ泥や詐欺の真似事をやっていただろう。

 

 それだけは嫌だ。もう、昔には絶対に戻りたくない。

 

 今は惨めな思いからも、騙し騙される世界からも、人を人として扱わない行為からも、冒険者は最低だと罪悪感から己に言い聞かせる事からも解放された。

 ウルキオラと出会って何だかんだ言いながらも事態は好転しているのだ。

 

 リリルカは気を持ち直してリュックを背負い出発の準備を終えた。

 

「それにリリが行くのは十八階層迄ですし」

 

 二人のダンジョンの稼ぎ方は、先ずモンスターの生まれない十八階層まで行き、其処から先はリリルカを残してウルキオラが一人で下の階層に向かう。そしてモンスターを討伐して魔石を集めるウルキオラの手持ちがいっぱいになると十八階層へ戻り、リリルカに魔石を渡して再び下りる。これを繰り返してリリルカが持てなくなるまで貯めると二人で地上に戻るというものだった。

 非常に要領の悪いやり方だったが十八階層より下はリリルカの身が保たないのと、ウルキオラが大きなリュックを背負うのを嫌っているのでこの方法をとっている。これでも十分な稼ぎにはなり、取り急ぎお金を必要としていないウルキオラは気にしていないのだが、リリルカ個人としては、ある目的の為にお金を貯めているので、稼げれるだけ稼ぎたい。特に最近は必要だったとはいえ散財も多く、収入は増えるのが好ましい。しかし、稼ぎがウルキオラにおんぶに抱っこの状態で贅沢は言えないし、下手に進言して十八階層より下に連れていかれるとなったら目も当てられない。確実に死ぬ。

 十八階層迄なら何度も行っていて僅かではあるがモンスターにも慣れてはきている。

 前回よりかは少しはマシになるだろうとリリルカは希望を見出した。

 

「まあ、十八階層までならどうにかなりますか」

 

 それにウルキオラは形はどうであれリリルカを必要としている。誰かに必要とされるのは塵屑のように扱われてきたリリルカには初めての経験で……

 

 

 

 

 嬉しかった。

 

 相手がどんな性格であれ自身を必要としている人物は誰しも大切に思える。

 もしかしたら無理難題を押し付けてくるのも、ある意味信頼の証なのかもしれない。

 

「仕方のない人ですね」

 

 ウルキオラに聞こえない程度の声で、リリルカは少しだけ頬を緩めポツリと言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何を言っている。貴様もついて来い」

 

 リリルカの笑みがピシリと凍った。

 

「へ? ……勿論ついて行きますよ、十八階層迄」

 

 やめて下さい、ちょっと待って下さい、此処はさっきの良い場面で終わるべきところでしょう、私の予感は間違いだと言って下さい、とリリルカは神に祈る。先程、神の一柱に呪いを送ったのを棚に上げて。

 

「金が必要だと言っただろう。今迄のやり方では効率が悪い」

 

 リリルカだって効率が悪い位は分かる。分かるがそれを言うとどんな酷い目にあうのか検討もつかない。だから言わなかったのだ。でも、ウルキオラがそれを口にするという事は……。

 

 

 

 

「貴様にも十八階層より下層に下りてもらう」

 

 

 

 

 いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!

 

 予想通りウルキオラはリリルカを連れて直接魔石を集めさせるつもりのようだった。そうすればウルキオラが何度も十八階層に戻らない分、大幅に時間が短縮出来る。そして地上で換金したあとは、浮いた時間で再びダンジョンに潜る。このサイクルを繰り返すのだろう。リリルカの平穏と安全を度外視にして。

 

 更にリリルカは気づきたくない事まで気づいてしまう。

 

 お金が必要だと言った。

 

 

 ……ウルキオラが何階層まで行くのか分からない。確か前回は五十階層まで単独で下りた筈だ。

 

「馬鹿なんですか!? リリは死んでしまいますっ!!」

 

 さも着いていくのが当然のようにのたまった悪魔(ウルキオラ)に思わず悪態をつくリリルカ。

 

 ウルキオラはこれ以上の問答は時間の無駄と判断したのか、有無を言わさずリリルカを荷物のように小脇に抱え、窓に足をかけて部屋から飛び出した。

 

 これから待ち受ける運命を悟ったリリルカは月に届けとばかりに叫んだ。

 

「リリは……リリはぁっ! 不幸ですぅぅううううう!!!」

 

 空では不幸少女(リリルカ)の叫びから逃げるように、月がそっと雲に姿を隠した。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

『…リは…リリ……不幸で……っうう!!!』

 

「おや? 何か聞こえたような……?」

 

 何となく一人の不幸な少女の叫びが聞こえたような気がしたヘスティアだったが、やっぱり気のせいかと前方にそびえ立つ建物を見上げる。まさか、少女の叫びの原因を作ってしまったとは夢にも思わないヘスティアの視界いっぱいに広がるのは奇怪極まる建物。胡座をかいて座った象の頭を持つ神物を模した建造物は無数の大きな魔石灯でライトアップされ、俺をみろー! と言わんばかりに威風堂々と胸を張っている。

 これこそが今回の『神の宴』の会場。『ガネーシャ・ファミリア』の本拠地でもある巨大施設。その名も『アイアム・ガネーシャ』。ちなみに入り口は胡座をかいた股間の中心だ。ガネーシャ・ファミリアのメンバーは泣いていい。

 

「処女神であるボクに、なんて事をさせるんだい」

 

 文句を言いながらも渋々入り口をくぐるヘスティア。他の神達は嬉々としたり、笑って入り口を通過しているが、股間の中心をくぐるという行為は幾ら建造物とはいえ、ヘスティアにとっては中々にくるものがあるらしい。

 

 

 給仕に案内されて会場に辿り着くと、まず馬鹿でかい声が耳に飛び込んでくる。一段高く設けられたステージの上で主催者であるガネーシャが宴の挨拶をしていた。

 

「本日はよく集まってくれたみなの者! 俺がガネーシャである! 今回の宴も──」

 

 大きな声だったが宴に参加している神々は誰一人として聞いておらず、各々談笑している。

 

「さて、積もる話もあるが今年も例年通り三日後にはフィリア祭を開催するにあたり──」

 

 ヘスティアも軽く聞き流してテーブルに並べられた豪勢な食事に舌鼓を打っていたが、惹きつけられる単語が出た事により手を止めた。

 

「そっか、もうすぐ怪物祭(モンスターフィリア)かぁ……」

 

 『怪物祭』とはオラリオで年に一回開かれるガネーシャ・ファミリア主催の大きな催しものだ。

 その名の通りモンスターに関わる祭りで、ダンジョンで捕獲したモンスターを地上に運び、調教して手懐ける。これを一日中借りた闘技場で客に披露する、と言葉にしてしまうとこれだけだが実際に目にするとガネーシャ・ファミリアの技術と迫力は凄まじく、毎年多くの人が遠方から足を運ぶほど人気のある祭りだ。

 

 ヘスティアも去年までは独りで祭りに行き楽しんでいたが今年は違う。

 眷族がいるのだ。

 それも二人も。

 

「三日後……それまでに帰れればいいけど」

 

 ヘファイストスの説得は恐らく困難を極めるだろう。ただでさえ色々と迷惑を掛けてきたのだ。数日を要するかもしれない。

 でも、もし怪物祭に間に合いウルキオラもタイミング良くダンジョンから戻ってきたら……。

 

 三人で祭りに行く姿を想像する。

 楽しい。きっと去年の何倍も楽しい。

 

 ベルは怪物祭は初めてだろう。興奮してはしゃぐ様子が容易に思い浮かぶ。

 ウルキオラはどうだろうか? 人目につくと断るかもしれない。でも、これほど大きな祭りなら他人に構っている暇なく楽しんでいるはずだ。ローブさえ着ていれば問題無いだろう。

 少しは人目を気にして窮屈な思いをしているウルキオラの慰めになってくれたらいい。

 それでも、渋る様ならベルと二人で手を引き祭りを巡ろう。

 

 沢山の露店を見て──

 

 色々な物を食べる──

 

 各々で食べたら直ぐにお腹いっぱいになってしまうから、三人で一つの物を回し食べをして感想を言い合う。

 

 些細な事に一喜一憂する三人の大切な思い出になるような日にしよう。

 

 

 三人での祭りに思いを募らせ、両手に料理を持ったまま恍惚として口元をだらしなく緩ませるヘスティアは近づいてくる神物に気がつかない。

 

「あら、珍しい。あんたも来てたの?」

 

 燃えるように紅い髪と真紅のドレスを身に着ける右眼に大きな眼帯をした麗人だった。

 

「! 良かったぁ。来てたんだ」

 

 ヘスティアは安堵の声を上げた。

 彼女こそが今回の神の宴に参加を決意させた、鍛治師が集うファミリアの主神。ヘファイストスだったからだ。

 

 安心したような声色にヘファイストスの眉が僅かにしかめられる。

 

「ヘファイストス、実は折り入ってお願い」

 

「断るわ」

 

 ヘスティアの口からお願いという単語が出た瞬間にヘファイストスは言った。

 それはもう、周りの神々から歓声と盛大な拍手が打ち鳴らされる位、見事にヘスティアの言葉を断ち切った。流石は鍛治の神。名刀の如き抜群の切れ味だ。

 

「ほんと、いい加減にしなさい。全くあんたときたら毎度毎度……」

 

 ヘスティアにとっては身にありまくる説教が始まった。

 

 ヘスティアとヘファイストス。

 この二人の関係は神友同士だ。但し、面倒見の良いヘファイストスが一方的に気苦労を掛けられているが。

 例えば、ヘスティアが下界に下りてきた時には寝床を与え何かと世話をしている。

 来る日も来る日もごろごろと怠惰に過ごしているのに遂には堪忍袋の緒が切れて本拠地から追い出したヘスティアが、住む所が無いと泣きついてきた時には現ヘスティア・ファミリアの本拠地である廃教会を譲った。

 仕舞にはバイトまで紹介している。

 さっと思い出すだけでこれだ。

 それなのに、また願い事?! と説教をしてくるヘファイストスをヘスティアは必死になって宥める。

 

「そ、その節は本当にゴメンよ、反省してる!」

 

「ちゃんと反省してるなら、お願い事なんて持ってこないでしょう!」

 

「ヘファイストスにしか頼める神物がいないんだ!」

 

 ヘスティアの真剣な懇願が通じたのか、はたまた腐れ縁のよしみなのか、人の良いヘファイストスはジト目をしながらも矛を収めてくれた。

 

「……聞くだけなら聞いてあげるわ。何よ?」

 

「ありがとう、ヘファイストス! 実は──」

 

『見つけたぁーっ! ファイたーん!』

 

 早速ベルの武器の件を切り出そうとするヘスティアだったが、それは此方に走り寄ってくる宿敵(ロキ)によって妨げられた。  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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