イコセニ 作:中原 千
林間学校が終わり、振り替え休日の二日を挟んだ登校日。
登校中に桐崎さんを見つける。
うつすといけないからと相手方からお見舞いを拒否されてしまったから、心配で仕方なかった。
今度同じことがあったら無理やり押し掛けようと心に決める。
「おはよう、桐崎さん。風邪治ったんだね!」
「……うん。」
桐崎さんは顔を赤くして呟くように言った。
……うん。桐崎さんは完全に温泉での事を引きずってるね。
目も合わせてくれない。昔のモジモジ桐崎さんに逆戻りである。
「一条白!恋人だからってあまりお嬢にベタベタとくっつくな!」
「あっ!鶫さんもいたんだね。おはよう!」
「話を聞け!」
そんな風にワイワイガヤガヤと登校し、学校について玄関で靴箱を開けたとき、鶫さんの靴箱から手紙がおちてきた。
「……これは?」
「「「「えー?!!ラヴレターー?!」」」」
「そーなの!今朝つぐみが靴箱をあけたらね……?!」
「すご~い!!」
「さっすが誠士郎ちゃん!モッテモテだねぇ~!!」
「モデルみたいだもんね!」
盛り上がる皆。因みにそのメンバーには佐藤さんもレギュラー入りした。登山の時に小野寺さん、宮本さん、集と仲良くなったのだ。
宮本さんと言えば、今日挨拶したらまたクールな宮本さんに戻っていた。
肝試しの時の真っ赤になった宮本さんが見られなくて残念という気持ちとやっぱりクールな宮本さんも素敵だという気持ちが半々だ。
それでも、僕と話すときの声が他と比べて柔らかくなっていたので意識してくれているんだと思う。
尊い!宮本さん尊い!
「それで!差出人は誰なのですか?!」
佐藤さんが食いぎみに聞く。
「え……と、鈴屋 透と言う者から……」
鈴屋透……鈴屋透……いたっけそんなやつ?
「ええ~!!それってサッカー部の……?!勉強もスポーツもできるっていうあの……?!」
「しかも顔も良くて超モテるってね。でも、ラブレターとは意外とピュアね。」
なるほど。小野寺さんと宮本さんの言葉である程度把握する。
なるほど、完璧超人系の方ですか。モテるけど高嶺の花だとか言われて結局誰とも付き合えないと言うあの(偏見)
「ああ……あのイケ好かねぇ野郎か……」
「集よ、素が出てるぞ。女子もいるんだから気を使えや。」
僕は割りと集くらいの方が親しみやすいって言われて結局先に誰かとくっつくと思うよ。
「返事はどうするの?」
小野寺さんが聞く。
そりゃあもう、鶫さんはきっと断るでしょ。桐崎さんの護衛が大切だからみたいな感じで……だよね?
万一とかないよね?
逆転させて考えると鶫さんは男子高校生だ。
あれ?!男子高校生って美少女に告白されたらすぐにオッケーしてホイホイ着いていく生き物じゃなかったっけ?
……いや、信じてるよ。信じてるけど……
鶫さんに注目していると鶫さんは困ったように口を開いた。
「すみません。その……ラブレターってそもそもなんですか?」
……え?鶫さん、ラブレターの存在自体をしらなかったの?!
脱力する一同と見かねて鶫さんに耳打ちで説明する宮本さん。やっぱり女神様や!
「な……ななな……バカなバカな……私はその者とは会ったことも話した事もないというのに。
私の事が好……!バカなバカなバカな……」
目に見えて動揺する鶫さん。
見てて面白いわ~。
「しかも、コレを送られたら無条件に従わなければならないなんて……日本はなんて恐ろしい国なんだ……!」
嘘教えられとったんかい!
そりゃ動揺するわ。
そんなお茶目な宮本さんに、
「僕は宮本さんからラブレター貰っちゃったら無条件に従うかもしれないよ?」
と耳打ちする。
宮本さんはわずかに頬を染めて「バカ」と小さく呟いた。
カワユス!
「……それで、私はどうすればいいのでしょうか……」
「うーん、つぐみちゃんの気持ち次第だと思うけど……」
「ま、あんたなりに考えて返事してあげれば?」
と、答える小野寺さんと桐崎さん。
僕もそう思う。
屋上で景色を眺めて佇む鶫さん。
僕は気配を殺して距離を詰め、一気に振りおろ……
「甘いッ!バフッ うわっ!汚っ!なんだこれは?!」
振り降ろした黒板消しを手で防御してチョークの粉を浴びる鶫さん。
「イエーイ!引っ掛かったー!大成功ー!油断大敵だよ!」
「バカなのか貴様は?!バカなのだろう?!」
「悩んでばっかりいるからこんなのに引っ掛かるんだよ。このままじゃ桐崎さんの護衛に差し障るんざゃない?」
「そうか……なら、誠に遺憾だが相談しよう。この手紙の中で聞かれている"好きなタイプ"とはなんだ?」
……そこからか。
「どういう男の人が好きかってこと。あるでしょ?」
「なっ……あるわけないだろ!!考えた事もない!」
鶫さんはそう言った後、少し考えて、
「じゃあ、貴様はどうなんだ?」
と聞いてきた。
「うーん、そうだね……僕は皆好きだよ。」
「貴様は!またそうやって……!」
「もちろん、鶫さんも好きだよ。」ニコッ
「そそそそ、そうか、いやっ、貴様に好かれたところでどうにもならんがな!」
と、慌てる鶫さん。
フフフ、チョロ可愛い。
「……では、この"付き合ってほしいです。放課後、体育館裏で待ってます。"とは、何に付き合うということだ?」
「うん、普通に、交際して下さいってことだよ。」
「ハァ?!まだ話した事もないあいてだぞ!」
「積極的だね。」
「……出来るわけないだろう……私には使命が……」
「じゃあ、その時に断ればいいよ。」
鶫さんは俯いて言う。
「会わなきゃダメなのか?何を話せばいいのか分からない!それに、返事をする義務なんてないのだし……だいたいなんで……」
「……そうだね。義務なんかないから行かなくてもいいんじゃない?でも、相手は本気だよ?ちゃんと答えた方がいいんじゃない?じゃないと、相手はきっとやりきれないよ。」
ポツリと鶫さんが聞く。
「なら……もし、貴様が私からラブレターを貰ったらどうする?」
え、鶫さんから貰ったら?
それはもちろん、
「超嬉しいよ!」
鶫さんは俯いた後に、
「……うるさいわバカ者ー!!」ドカン
屋上を爆破した。
……うん、知ってた
その後、鶫さんはちゃんと会って断ったらしい。
皆からそう聞いた。
フフン、やっぱり僕、良いこと言ったんじゃない?もう、僕のおかげと言っても過言じゃない気が……」
「ああ、助かった。」
?!
「鶫さん!いつからいたの?!」
「さっきからだ。それにしても貴様は案外恥ずかしい独り言を言うんだな。」
「口に出てた?!もうっ!盗み聞きなんて酷いよ!」
「ハハッ、油断大敵だ。」
意趣返しだとばかりにそう言った鶫さんの悪戯っ子のような笑顔はなんだかとっても眩しかった。