イコセニ   作:中原 千

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今回は話の順番をずらして風邪イベントを先にやります。

作者は鶫が大好きですが、書くのは難しいジレンマです。

実力がほしいです。







第36話

ピピピピッピピピピッ

 

 

体温計に表示されているのは38.6度。

 

……完全に風邪である。

 

今日が休日で良かった。

 

僕は家がヤクザだからもしかしたら不意に長期的に休まなければならなくなる可能性がある。

それによって出席日数が足りなくなって留年なんて御免だからなるべく学校を休まないようにしたいのだ。

 

まあ、その休んだ理由がシャレになんないヤツだったら、留年以前に退学の可能性もあるんだけどね。

 

……あっ、そうだ。

 

 

僕は電話帳アプリを開く。

 

 

……つながった。

 

 

「もしもし……」

 

 

『もしもし、坊っちゃん。どうしたッスか?』

 

 

「ああ、実は風邪ひいちまってな、今日は朝食作れないから、そっちで適当になんか……」

 

 

『風邪って?!大丈夫ッスか?!!!』

 

 

「うるせぇ……こっちは体調悪いんだから電話口で大声出さないでくれよ……」

 

 

『ごめんなさいッス……』

 

 

「次から気をつけてくれよ。

で、朝食なんとかすんの忘れんなよ。それと、移るといけないからあんまり僕の部屋に人を来させんな、来るにしてもマスク着けんの義務だからな。」

 

 

『分かったッス!』プチッ

 

 

……最後、電話を離して大声出してたな。

まあ、努力は認めよう。

 

 

たかが風邪で騒がしいヤツだ。

だが、こんなに心配してくれる人がいるって嬉しいものである。

 

前世で独り暮らししているときは大変だった。

風邪自体の症状や弱った体での家事よりも孤独さが辛かった。

 

独り寝ている自分。訪ねてくる人もなし。

 

もう、このまま誰にも知られずに死んでしまうのではないかとまで落ち込んでしまった。

 

 

それに比べて今は最高だ。

本気で僕を心配してくれる人がこんなにもいるんだ。

転生して良かった!

 

ノーモアボッチ、ノーモア孤独である。

 

しかも、この世界の組員達は全員女性である。

たくさんのお姉さん達に心配され、看病される僕。

くぅっ!ビバあべこべ世界である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ところで、僕は今、風邪を引いている訳である。

つまり、免疫力が低下している。

言い換えると、病(で)弱(っている)…………ハッ!閃いた!

 

 

 

「……お粥持ってきたッスよーって、坊っちゃん、何してるッスか?」

 

 

部屋に入ってきた龍に聞かれる。

 

 

 

「ああ、今から剣術の鍛練でもしようかと……」

 

 

「何考えてるッスか?!体に障るッス!!大人しく寝てるッスよ!!!」

 

 

とめるな、龍!僕はやらなくちゃならないんだ!

今なら、いつもより憧れの剣士に近い状態だから、今日こそいけそうな気がするんだ!

 

 

「むぐぐぐぐ……!」

 

 

「横になるッス……!」

 

 

暫く押し合いをしていると、当然ながら風邪を引いて体力の落ちている僕の方が先に力尽きる。

 

その後、すぐに布団に押し込まれてしまった。

 

 

「……スマン、龍。冷静じゃなかった。」

 

 

「……坊っちゃんは普段は聡明なのに時々訳が分からないッス……」

 

 

いやー、スマソスマソ。

 

 

「……というか、いつの間にあんなに剣術が上手くなったッスか?坊っちゃんって、鍛えられる方ではなかったッスよね?」

 

 

「……こっそり鍛えてたんだよ(目反らし)」

 

 

……実は、同一人物だけど平行世界の別の僕でーす。なんて、言えるわけがない。

まず、概念から中々理解できないだろうし、何よりも、龍達に距離を置かれたくない。

 

家族みたいに思ってるんだ。拒否されたりしたら、僕はショックで塞ぎこんでしまう。

 

なんだかんだ言って、両親と集英組の構成員達が転生してからの、初めての家族である。

今の僕にとって、一番大切な物かもしれない。

……照れくさいから、絶対に言ってはやらないが。

 

 

 

「……腹へったからその粥食っていい?」

 

 

「どうぞッス!」

 

 

…………

 

 

 

「……龍、力尽きて食えないから、食べさせてくれ……」

 

 

「…………」

 

 

「龍?」

 

 

 

ガタッ「坊っちゃんがデレたッス!!!」

 

 

 

「うっふぉい!びっくりした!急に立ち上がって大声出すんじゃねえ!

それと、僕を恋愛ゲームの攻略キャラみたいに言うな!!!」

 

 

そういうのは心の中にとどめろよ!

僕だって、今のは自覚してて恥ずかしいんだからさ!

 

 

「いいから早く、腹へった!」

 

 

「分かったッス!はい、あーん……」

 

 

「……あーん……」

 

 

いいか、僕は風邪で顔が赤いんだからな!

これに、風邪以外の要因は皆無だからな!

 

誰にともなく弁明しつつ、粥を口にする。

 

 

……これは、

 

 

かゆ、うま……

 

 

 

 

いや、僕がゾンビ化している訳じゃない。

 

このお粥がメチャクチャ美味いのだ。

 

 

「……なにこのお粥美味っ!

龍、これどうしたんだ?!」

 

 

「私が作ったッスよ!!!」

 

 

……マジで?!

 

 

「龍、お前って料理できたのか?!」

 

 

「ハイッス!まあ、仕込みとかはできないんで坊っちゃんには及ばないッスけど……」

 

 

仕込みなしでこの味なの?!うそぉ?!

 

 

「……龍、これからは一緒にメシ作んないか?」

 

 

「喜んでッス!!!」

 

 

思わぬ所に物凄い逸材がいた。

もしかしかて、逆転前の竜も料理が美味かったのだろうか?

 

……いやいやいや、あのヴィジュアルでそれはないよね。

よく考えたら、こっちの龍と元の世界の竜は雰囲気が似てるだけの別人だし……

 

そんな事を考えながら、お粥を食べる。

 

 

「メチャクチャ美味かった!龍、ごちそうさん!」

 

 

「ハイ!喜んでいただけて嬉しいッス!!!」

 

 

「……なんか眠くなって来たから、暫く寝る。

その前に、龍、あの棚の上から二番目の引き出しに入ってる白い箱をとってくれ。」

 

 

「ハイッス!……これッスね、中身は何ッスか?」

 

 

「僕が調剤した漢方だ。山で採れる植物から作ったんだが、自信作だ。飲んで寝たら、たぶんよくなってる。」

 

 

「……剣術だけじゃなかったんスね……」

 

 

 

「……?」

 

 

龍が何かいっている。小声で話すなんて珍しいこともあるもんだ。

 

 

漢方を飲んで横になる。

 

 

眠気は一層大きくなり、僕はすぐに心地よい微睡みに身を委ねる。

 

 

……よく考えたら、逆転の事を話したところで、龍達が僕を拒否する訳なんてないじゃないか。

 

僕は風邪で少し弱気になっていたらしい。

龍にあーんなんて要求したのもそのせいかもしれない。

 

……まあ、結果的に凄くいい思いできたからよかったんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 




という訳で、小野寺さんも桐崎さんも登場しない完全なる龍回です。

書いてる内にこうなりました。


やったねオリ主、胃が守られたよ!

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