イコセニ 作:中原 千
「どうしたの?屋上になんて呼び出して?」
一条白に聞かれる。
……チッ、ポケットに手なぞ突っ込んで、すかしたヤツだ。
「いえ……どうしても一つハッキリさせておきたい事があるんです。
お嬢の事を本気で愛していらっしゃいますか?」
「……もちろんだよ。」
一条白は胡散臭い笑顔のまま答えた。
「どれくらい愛してるんですか?」
「物凄くだよ。」
……それでは、
「お嬢のためなら、死んだっていい?」
「……そうだね、必要があればそうするくらいの覚悟はあるつもりだよ。」
「……そうですか、安心しました。……では、死んで下さい。」
私は銃を取りだし、一息に距離を詰め、一条白の体を拘束し、銃を喉につきつける。
「……どういうつもりだ?」
「……えーと……状況的にそれって僕のセリフじゃない?痛いから離してくれないかな?」
一条白は困った様な表情を浮かべていう。
「……フン、白々しい……
警戒心が高く、反応も上々、おまけに私に隙を見せぬよう意識していた。
貴様なら、私の接近にどうにでも対処できたはずだ。」
私の拘束が、成功している事自体がおかしいのだ。
なぜなら、一条白は全く隙がなかったはずだ。
だから、私は先程の接近は隙を作るために防がれることを前提に行ったのだ。
だが、結果として拘束に成功し、一条白の命は私の手中にある。
「吐け。目的はなんだ。
この状況は貴様にとって、全くメリットがないはずだ。いったい、何を考えている。」
そう聞くと、一条白は薄く笑みを浮かべて、
「目的?いったいなんの事?
もしかして、鶫さん、何か勘違いしてない?
普通に考えて、僕みたいなか弱い男にそんな対処なんてできるわけないじゃん。」
一条白は、不敵な表情を浮かべて、
「でもさ……」
「何を勿体ぶっている、早く言え!」
「今の僕って、危機的状況に陥って、頼れるヒロインに助けを求めるピンチのヒーローみたいだよね?」
……何を言っている?
不意に、誰かが屋上に出てきた。
「……ちょっ……!!ストップ、ストップ!!
落ち着いて!」
……お、お嬢?!
驚いて意識を反らすと、一条白はスルリと拘束を抜け出した。
……?!関節を極めていたはずだ、何故抜けだせる?!
「ふぅ、助かったよ、桐崎さん。ありがとね。」
……一条白、まさか貴様がお嬢をここに……?!
しかし、どうやって?
ここに来るとき、お嬢を巻き込まないために場所を誰にも知られないようにしたはずだが……
「……お嬢、何故ここに……?」
「えっ?電話がかかってきて、すぐに切れたから気になって来てみた訳だけど……」
電話?
しかし、場所はどうやって……ッ!
『どうしたの?屋上になんて呼び出して?』
あれかッ!
あの時、ポケットの中でケータイを操作していたのか!
意味深な事を言ったり、勿体ぶったりして会話を長引かせたのは、お嬢が屋上に来るまでの時間を稼ぐため。
そして、わざと拘束されたのは、お嬢に私を止めさせるため。
そうすることで、以降の私の行動を制限しようとしたのかッ!
しかも、それを私がすぐには殺さない事を考慮に入れて実行するとは……
やはり、侮れんヤツだ、一条白!
……しかし、甘かったな。
確かに常であれば、私はお嬢の意思を優先し、退いたかもしれない。
だが、貴様がそこまでの危険性を見せてしまったからにはそうはいかない。
むしろ、なんとしても貴様を見極めねばならないという意志が強まった。
「……お嬢、止めないで下さい……
お嬢には申し訳ないのですが、私はやはりこの男を見極めなければならない……!」
「お嬢……覚えておいでですか……"十年前"の、あの日の"約束"を……
今こそ、それを果たす時です!
私がこの男の真偽を明らかにしましょう。」
一条白に目を向ける。
「一条白!!!貴様にお嬢を懸けて……!!
決闘を申し込む!!!」
「……え?」
「貴様が私に勝てるようなら貴様の事は認めよう。
しかし、私に勝てないなら……
貴様は地獄以上の苦しみを与えた上で殺す……!!!」
「………」
「つぐみ……!ちょっと、落ち着いて……」
「時間は今日の放課後、校庭でだ。逃げれば殺す。」
私は屋上を出ていく。
……この決闘を通して、ヤツの人間性が掴めるはずだ。
待っていろ一条白。必ず貴様の全てを暴いてやる。
さしあたって、準備するものがたくさんある。
さっそく、とりかかるとしよう。
戦闘描写は次回に持ち越しになりました。