イコセニ 作:中原 千
なんとかしないといけませんね。
突然、幸せな感覚がなくなったことに不満を感じて周りを見渡す。
……あれ?私、何してたっけ?
徐々に意識がはっきりしてきて、それと共に直前の自分の行動を思い出し絶句する。
……私、最低だ……
目を開けた時に彼がいたのはきっと私を心配して、そばにいてくれてたからだろう。
それなのに、私は……私は……
寝ぼけて、彼にキ……キスをしてしまった……
急いで彼を探すが見あたらない。
人に聞いても、"急にいなくなった"や"忽然と消えた"などと要領を得ない。
……彼を傷つけてしまった。
その事を改めて認識すると頭が真っ白になる。
誰かが来て、私に話しかけた気がしたが答える余裕がない。
……気が付くと、私は家に帰っていた。
聞いてみると、クロードが迎えにきてくれたらしい。
……結局、何も進展しないままこんな時間になってしまった。
このままでは、明日どんな顔をして彼に会えば良いのか分からない。
うぅ、どうしよう……
……そうだ、パパに相談してみよう!
パパの部屋を訪ねる。
「ねぇ、パパ、相談があるんだけど……」
「どうしたんだい千棘、そんな顔して?」
「実は……」
「……っていう訳で、彼を傷つけちゃって……
私、どうすればいいの……」
「フフ、そうだね……」
パパは小さく笑って考える仕草をすると、
「白君なら、大丈夫だよ。
明日会った時に普通に話せばいいんじゃないかな?」
「どうして、大丈夫だって分かるの?」
「白君は強くて優しい子だからね。真っ直ぐ向き合うと良いとおもうよ。」
パパはにこやかに笑っている。
「……分かった。そうしてみる。」
パパを信じて、やれるだけやってみることにする。
翌日、
通学中に彼を見つけた。
「お、おはよう!」
「おはよう、桐崎さん。」
……あれっ?!なんか普通?!
「どうしたの?」
「き……昨日のことなんだけど……」
「昨日?……ああ、大丈夫だった?もうふらついたりしてない?これからはちゃんと準備運動しなきゃだめだよ。」
「……う、うん。気を付ける……」
「じゃあ行こっ!遅れちゃうよ?」
テイク2
「あれっ?桐崎さん。どうしたの?」
「こ……これ……」
「くれるの?……輸入品のクッキーだね。いま食べてもいい?」
「……うん。」
「美味しい!」
か、可愛い……
「あっ!桐崎さん、次の授業が始っちゃいそうだよ!」
……だめだ、言い出せない……
昨日は言おうと決意したけど、いざとなるとしり込みする自分に嫌気がさす。
……うぅ、どうしようか……
項垂れていると、
「桐崎さん、元気ないけど大丈夫?」
小野寺さんが話しかけてきてくれた。
宮本さんもいる。
……そうだ!
「……え?!付き合ってないの?!」
「……うん。私達の両親の特別な事情で、私達は恋人のフリをしてるの……」
((一条君の演技力凄すぎない?!かなり自然だったよよ?!))
「あ!でも、この話、絶対秘密にしてね!
……じゃないと、街が一つ滅んでしまうから。」
「……何やってる家なの?」
「……普通の家庭だよ。」
ギャングの事は秘密にしたい。
「……あっ!このことだったんだ!」
小野寺さんが声をあげる。
「? 小咲、何の事?」
「一条君に何かを説明するって言われてて、機会がなくて今日まで来てたんだけど……このことだったんだね!」
「……小咲ィ!こんな大事なことをなぜ言わない!」
小野寺さんと宮本さんがじゃれている。
私は意を決して二人に相談する。
「……それで、昨日の事を彼に謝りたいんだけど、協力してくれないかな?」
「……昨日の事……ああ、たしかに恋人のフリの相手だと、ちょっとマズイわね……」
「えっ?!昨日、何が会ったの?!」
「頼まれてくれる?」
「仕方ないわね、手伝うわ。」
「えっ?スルー?!るりちゃんもしかして、黙ってたこと怒ってる?!」
テイク3
「狙い目は飼育係の時間よ。そこなら、まとまった長い時間が確保できるから、状況に流されたりしないはずよ。」
「なるほど。」
「私と小咲で舞子君を留めておくから、その間に済ませなさい。」
「分かった。頑張る!」
というやり取りがあって、今、私は彼と二人きりで作業している。
「じゃあ桐崎さん、そっちの花壇よろしくね。」
……今、言わなくちゃ!
「は、話があるんだけどっ!!!」
「……すごい熱量だね。どうしたの?」
「きっ、昨日のことなんだけど、助けてくれてありがとう!
それと、急にキ……キスしてごめんなさい!」
なんとか言いきった!
……彼の様子は……
「ッ、プハハハ、今日一日様子がおかしいっておもったら、それを言おうとしてたの?
そうだね、僕の方こそ、いなくなったりしてごめんね。」
……良かった。パパのいった通りだった。
パパに相談してよかった。
「それにしてもなんというか……
大丈夫って伝えておいたのに、そんなになるなんて、桐崎さんって「ちょっと待って!」」
「どうしたの?」
「私、それ聞いてない……」
「えっ?!……おかしいな?アーデルトさんにめーるで伝言をたのんで、その後に伝えたって返信が来たんだけど……」
えっ?!パパに?!
「ほら、これ。」
件名:伝言お願いします
本文:本日、詳細は省きますが、ちょっとした問題が起こりまして、千棘さんが気にされているとおもいますので、
今日の事は事故みたいなものだと思ってるので、僕は大丈夫だとだけ伝えておいていただけますか?
夜分遅くに申し訳ありませんでした。
件名:伝えたよ
本文:千棘には、ちゃんと伝えておいたよ。こんな娘だけど、これからもよろしくね。
「ほら。」
……えっ?!そんなの、一言もって、あっ!
『白君なら、大丈夫だよ。』
……あれか!
パパのバカ!紛らわしい言い方しないでよ!
「どうしたの、桐崎さん?変な顔して……?」
「……なんでもない。」
うぅ、こんなに悩んでバカみたい……
相談なんてしなきゃよかった!!!
桐崎父「白君、ばっちり大丈夫と"だけ"伝えたよ。」