イコセニ   作:中原 千

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何とか日付内に間に合いました。


第28話

桐崎さんのブロックが始まる。

 

桐崎さんは緊張しているみたいで動きが固くて心配である。

 

 

『スタート!!』

 

 

開始が宣言され、選手達は一斉に水に飛び込む。

 

桐崎さんの泳ぎはぎこちない。

 

それでも、他の選手と並走できているのは流石としか言いようがない。

 

 

 

しかし、暫くして異変が起きた。

 

 

「一条君、もしかしてあの子溺れてない?!」

 

 

宮本さんが焦った声を上げる。

 

 

……サンダルを履いていて、足元が良くないがやるしかない。

 

イメージするのは我が理想。

ハイカラな和装に身を包んだ、桜色の剣士である。

 

息を吸い、集中を高め、桐崎さんのもとへ向かう。

 

 

……速く、鋭く

 

 

一歩で桐崎さんを回収し、水面を蹴って陸に戻る。

そして、桐崎さんを横たえて呼びかける。

 

 

「桐崎さん!桐崎さん!」

 

 

応答はない。 呼吸も弱々しい。

 

急いで気道確保をし、心臓マッサージをする。

人工呼吸は行わない。

二つだけで十分、心肺蘇生出来る。

 

 

「宮本さんッ!救急車を呼んで!

小野寺さんッ!AEDを持ってきて!」

 

 

「「分かった(わ)!」」

 

僕は心臓マッサージを続ける。

 

 

「桐崎さん!桐崎さん!」

 

 

依然として、返答はない。

 

 

 

 

……暫く続けていると、

 

 

「うぅ……」

 

 

桐崎さんが反応を示した。

呼吸も安定してきている。

 

 

「桐崎さん!僕が分かる?!桐崎さんッ!」

 

 

顔を覗き込んで桐崎さんに尋ねる。

 

 

桐崎さんの眼が緩やかに開き……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……体が重い。いつもの様に泳げない。

何とかしようと力を込めると更に状況は悪化する。

 

……痛い、足をつってしまった、それも両足を!

 

焦ってもがくほど沈んでいく。

 

鼻に水が入ってきた。

意識が飛びそうになる。

 

……つらい……苦しい……助けて、白……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転校初日、私は遅れそうになり、急いでいた。

 

ショートカットしようと、壁を乗り越えるとその先に男子が見えた。

 

しまった、と思った次の瞬間、私は背筋が凍りついた。

 

その男子が振り向いて底冷えする眼をして、殺気を向けていたのだ。

 

頭が真っ白になり、気付いたら保健室のベッドで寝ていた。

 

保健室の先生に事情を聞いてみると、男子生徒が運んできてくれたらしい。

 

 

……さっき、私が跳び蹴りを当てそうになってしまった男子だろうか?

 

だとしたら、危ない目にあわせてしまった上に、迷惑まで掛けてしまった。

 

それに、そんな優しい人なのだから、感じた殺気も間違いだろう。

そもそも、一般人があんな殺気を放てる訳がない。

私はまだあの時の事を引きずっているのだろうか?

自分で自分が嫌になる。

 

 

 

先生に紹介され、教室に入り自己紹介する。

この学校では友達をたくさん作るときめたのだ。

そのための大事な第一印象だからしっかりやろう。

 

 

「初めまして!

アメリカから転校してきた、桐崎千棘です……」

 

 

我ながら、上手く出来たと思う。

自然な笑顔で、淀みなく話せた。

 

 

自分の席を探していると、とある男子と目があった。

 

 

「あーーーーーーー!!!」

 

 

私は思わず声をあげた。

朝の事を謝って、運んでもらったお礼をしなきゃ、と思っていたら、

 

 

「また会ったね。さっきの襲撃者さん。」

 

 

と、"殺気を放ちながら"男子が言った。

 

 

ああ、あの時感じた殺気は本物だった。

彼はやはり、怒っていたのだ。

 

ごめんなさい、と謝りたいけど喉が張り付いて言葉が出ない。

 

 

彼は顔に薄い笑みを浮かべてにじり寄ってくる。

 

 

「ガオー!食べちゃうぞー!!!」 ギロッ

 

 

再び頭が真っ白になる。

 

……逃げなきゃ……捕まったら殺される……

 

それだけを考え、がむしゃらに逃げる。

 

 

「ほーら、ギロッ

まてまて~ギロッ」

 

背後には確かな死が追ってきている。

 

 

そうしていると、不意に辺りが騒がしくなった。

 

急な変化に対応できずに呆然としていると、

 

 

「ゴメンね、桐崎さん。ちょっとふざけ過ぎちゃったみたい。こんなことしちゃったけどこれからよろしくね。」

 

 

彼がそう微笑みかけてきた。

今は、彼から死の臭いは感じない。

 

 

「……うん。」

 

 

上手く働かない頭でなんとかそう答える。

 

混乱して眼をキョロキョロさせると、彼と目があい、私は反射的に目を反らした、

 

……何故だろう、顔が熱い、胸が苦しい、彼の顔をまともに見られない。こんなの初めてだ。

 

 

 

 

 

放課後、私は飼育小屋に来た。

私は飼育委員と言うものになったらしい。

 

同じ理由で、小野寺さんという方と彼もいる。

 

私は、彼に近付く事ができなくて、離れた位置から二人の様子を眺める。

 

 

二人は動物の名前について話している。

 

……それにしても、動物の名前に、マルガリータ・ド・佐藤やクラッシャー加藤って、どんなセンスだろう?

 

思わず笑ってしまうと、それを彼に見られ、気恥ずかしくなって袋のエサを魚にあげて誤魔化そうとすると、殺気が飛んで来た。

 

これからは絶対に計るようにしよう……

 

 

 

 

 

 

 

翌日、

 

授業終わりに彼が話しかけようとしてきたので、トイレに逃げ込む。

 

彼を見るだけでこんなに心臓がバクバクするのに、会話なんてできるはずがない。

 

 

教室に戻ってみると、見知らぬノートが机に入っていた。

 

見てみると、

 

 

『よかったら 使ってね 白より』

 

 

……大事に使おう。

 

 

 

 

その後数日、私は彼に話しかけようとしては逃げてを繰り返してある日、家に帰るとパパが待っていた。

 

 

「千棘、少しいいかな?」

 

 

パパの部屋に行ってみると、

 

 

「最近、ヤクザとの抗争が激化していてね、それを止めるために頼まれてくれないかな?」

 

 

……私に出来ることって何かあるのかな?

 

 

車の中で詳しい説明をされる。

 

 

「実は向こうのボスとは古い知り合いでね。

向こうにも君と同じくらいの息子がいるらしくてね。

それでね……」

 

 

「その子と恋人同士になってくれないかな?」

 

 

「えっ?」

 

 

「ここがその人の家だよ。」

 

 

パパに連れられて家に入る。

 

頭には彼の姿が浮かんで心はモヤモヤしている。

 

なんとか断ろうとしてみるが、向こうとの仕切りが外され、

 

 

「あーっ!桐崎さんだ!

君がボスの娘さんだったんだね!ニセモノでも恋人になれてスッゴく嬉しいよ!!!」

 

ニコニコ笑う彼がいた。

 

 

えっ?何で?!

 

思考がまとまらない。

 

彼とパパが話している。

彼はパパのことをお父様と呼んでいる。

 

どういうこと?!

 

 

混乱が最高潮に達して、私は口を開く。

 

 

「ムリムリムリムリ、

こいつと恋人同士なんて絶対ムリ!!

私、殺されちゃう!!!」

 

 

今だって心臓がバクバクいって、死にそうなほど苦しい。

 

パパに何か言われたが、頭が上手く働かなくて、ちゃんと答えられたか分からない。

 

 

「お嬢ーーーーーーーーーーー!!!」

 

 

爆音と怒声で我に帰る。

 

 

……瓦礫が飛んでて来た。

 

避けようとするが体が動かない。

恐怖で目をつむる。

 

 

 

……衝撃がこない?

 

 

不思議に思って目を開くと目の前に「彼」の背中があった。

 

 

「……見つけましたよお嬢……

集英組のクソ共がお嬢をさらったというのは本当だったようですね……」

 

 

「ク……クロード!!!」

 

 

……さっき、割りと私、危ないところだったよ……

 

 

 

「ご安心下さいお嬢……」

 

 

「不肖、このクロードめがお迎えにあがりました。」

 

 

「いや、さらわれてなんてないから、私……!」

 

 

クロード、なんか勘違いしてない?!

 

 

あっ、向こうの人達も入ってきた!

 

 

 

「今回のはちょっとお痛が過ぎるッスよ。

今までは手加減してやってたッスけど、今度という今度は許さないッスよ!!!」

 

 

「ふん……猿共が……

お嬢に手を出したらどうなるか教えてやる…… 」

 

 

ああ……

なんかこのまま全面衝突しそうだ。

 

オロオロしていると、彼が前へ進んでいき、

 

 

「下がれ、龍……」

 

 

 

声を出した。

 

 

 

「ですけど、坊っちゃん……」

 

 

 

「龍、これはお願いじゃない、命令だ。」

 

 

 

彼の冷たい声に殺気を放っていた姿がフラッシュバックするが、恐怖感はない。

むしろ、不思議な安心感がある。

 

そして、本当に構成員を下がらせた彼をみて、私はどうすればいいかと悩んでいると、

 

 

「あーーー君君、

ちょっと誤解してるんじゃないかね、若ェの。」

 

 

と、彼の父親がクロードに話しかけた。

そして……

 

 

 

 

「嬢ちゃんをさらったなんざとんでもねェ誤解だぜ?

なんせ……」

 

 

 

 

 

「こいつらァラブラブの、」

 

 

 

「恋人同士だからね。」

 

 

私のパパと息をあわせて言った。

 

 

……やけに息ピッタリだけど、練習したの?

 

 

 

 

 

 

「「「「「なぁにィィィィィィィィィィ!!!」」」」」

 

 

向こうもこちらも一斉に騒めく。

 

 

「……ボス……本当ですか……?」

 

 

「ああ、僕らが認めた仲だ……」

 

 

尋ねるクロードに答えるパパ。

 

…..…また、顔が熱くなってきた。

 

 

 

「「「「「……そりゃすげーーーーーーー!!」」」」」

 

 

 

一層沸く皆。

 

 

「……お嬢……いつの間にかお嬢もそんな年頃になっていたのですね……あの辛い思いを吹っ切られた……

これを喜ばずして何がお嬢のクロードでしょう……」

 

 

クロード……私のにした記憶は無いけど……

 

 

 

「ハイハイッ!質問があるッス!!!

お嬢ちゃん、お二人はどっちからどうやって告られたッスか?!」

 

 

向こうの人が尋ねてくる。

心臓が痛い。目が回る。

 

 

 

……男子の彼があんなに頑張っていたんだ、私も頑張らないと、と自分を奮い立たせ、なるべく冷静を装って答える。

 

「かっ……彼から"一目惚れです。付き合って下さい。"って……」

 

 

 

……何故、自分からと言えないんだ。

バカなのか私は。

彼は怒ってないだろうか?

 

 

さらに盛り上がる皆。

 

 

「あっ!最後にもう一つだけいいッスか?

大事な事ッス!!!」

 

 

さっきの人がまた聞いてきた。

 

 

「お二人はもう、

キスは済ませたッスか?」

 

 

……キ、キス?

 

 

顔が一層熱くなる。頭が回らない。

 

 

 

「おいっ、龍、いい加減に……」

 

 

 

「坊っちゃん!これは大事な事ッス!

答えるッスよ、嬢ちゃん!!!」

 

 

 

彼とその人の会話を見ている事しかできない。

何かしないとと思うのに、何も出来ない自分がもどかしい。

 

 

そうしていると彼が、

 

 

「そ、そんなこと聞かれたら僕、恥ずかしいよ……」

 

 

目を潤ませて言った。

 

 

……か、可愛い!!!

 

 

鼻から何かがタラリと落ちる。

 

そして、私の思考は完全に停止した。

 

 

 

 

 

 

 

翌日、

 

 

 

……昨日の記憶が途中からない。

あの後、どうしたっけ?

 

 

疑問に思いつつリビングに行くとパパに、

 

 

「今日は、白君とデートにでも行って来なさい。」

 

 

と、言われた。

 

 

 

……えっ?!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家の前で待っていると、彼が出てくる。

 

 

「ご……ごきげんようダーリン!

突然で悪いんだけど、今からデートに行かない??」

 

 

緊張で震える。額には汗が浮かんでいる。

ああ、こんな自分が不甲斐ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

二人で街を歩く。

突然決まったデートなので、行き先も決まっていない。

 

彼はきっと退屈しているだろう。

 

でも、男子が行きたいところなんて分からない。

雑誌かなにかで調べておけば良かったと後悔する。

 

 

すると、

 

 

「桐崎さん。行きたいところがあるんだけどいいかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ムシャムシャ ガツガツ バリバリ

ムシャムシャ ガツガツ バリバリ

ムシャムシャ ガツガツ バリバリ

 

 

 

私達は今、ファミレスにいる。

 

向かい合って座っている気恥ずかしさと、朝食をとっていない事による空腹感で目の前の食事に集中してしまう。

 

 

彼の様子を伺うと、微笑ましそうな表情を浮かべていた。

それで、誤魔化すために余計に食事に集中してしまう。

 

すると突然、

 

 

ナデリナデリ

 

 

へにゃあ

 

 

?!

 

?!

 

 

今、何か幸せな感覚があった気がする!

 

 

ナデリナデリ

 

 

 

へにゃあ

 

 

 

また来た不思議な幸せな感覚に身を任せる。

 

身も心も蕩けていきそうで………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付くと、道を歩いていた。

 

 

「あれっ?!さっきまでご飯食べてたはずじゃあ?!」

 

 

思わず声をあげる。

 

会計をした覚えがない。

もしかして、彼に払わせてしまっただろうか?

 

 

「桐崎さんっ!次はドコ行く?」

 

 

「……どこでも。」

 

 

彼の笑顔に照れてしまいぼそぼそと答えてしまう。

赤い顔を隠すために俯いているし、彼に暗い奴だと思われていないか心配だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私達は今、映画館にいる。

 

 

 

モシャモシャ モシャモシャ

 

 

彼と隣同士で映画を見る気恥ずかしさに、やはり、食事が進んでしまう。

 

入り口で買ったギガサイズのポップコーンをもしゃもしゃ食べる。

 

 

そう言えば、彼は見る映画を私にあわせてくれたが、もしかして、気を使わせてしまっているのだろうか。

 

 

自己嫌悪を食欲に変換して、食べ進める。

食べなきゃやってられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

映画を見終わって、街を歩いていると、

 

 

「桐崎さん、僕ちょっとお花摘に行ってくる。」

 

 

と、彼が行ってしまった。

 

 

……?

 

何故、急に花を摘みに行くんだろう?

 

 

それにしても、花に包まれた彼。

 

 

……良い!とても似合う!可愛い!

 

 

と、妄想していると、

 

 

「痛いな!」

 

「てめえ、さっき肩ぶつかっただろうが!」

 

「慰謝料払えよ、オイ!」

 

 

 

柄の悪い男達に絡まれた。

 

正直、彼の殺気と比べたら全く恐くないが、男相手に手は出せないので対処に困る。

 

戸惑っていると、男達が忽然と消えた。

 

その後、彼が戻ってきて、デートを再開し、公園へ向かった。

 

 

「桐崎さん、どっち飲む?」

 

 

彼に飲み物を差し出されて、ジュースを貰う。

 

 

暫くすると、トイレに行きたくなったので彼に断ってトイレへ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トイレを終えて、彼のところへ戻ろうとしたとき、ビーハイブの人達が私達の仲を怪しむ会話が聞こえた。

 

……気合いを入れ直そう!

 

 

 

 

「ダ~リ~ン!!お待たせ~!!

ゴメンね~!

思ったよりずっと時間掛かっちゃ……て……」

 

 

「……えっ?……」

 

 

彼は、小野寺さんと話していた。

 

 

……何故だろう、それを見ていると胸の辺りがモヤモヤする……

 

 

 

「……え~と、その……

ダーリンってことはつまり……

二人はその……

付き合って……?」

 

 

「そっ……そーなのよ~!!」

 

無意識に言葉が出ていた。

 

 

「エヘヘー。そうなんだ。僕もついにリア充の仲間入りだよ~。」

 

 

彼の言葉が、演技と分かっているのに嬉しい。

 

そのまま、小野寺さんと別れ、まもなくデートも終了した。

 

 

 

この気持ちはなんだろうか?

決着がつかないまま、その日が過ぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、

通学中に彼を見かけたので挨拶する。

 

自分の内気さを克服するために小さい事から始めよう。

 

 

教室に着くと、

 

 

「おおっ!!

一条君と桐崎さんだーーーーー!!」

 

 

「おーいみんな!

二人が来たぞーーーーー!」

 

 

「よっ!待ってましたーーーーー!!」

 

 

 

クラスが沸き立った。

 

 

どうやら、デートの様子を見ていた人がいて広めたらしい。

 

彼とクラスの皆の様子を見ていると、

 

 

「ちょっとお花摘みに……」

 

 

と、彼が教室を出ていった。

 

……彼は本当に花が好きだなぁ。

 

 

 

 

「学校でも監視されそうだから、イヤかもしれないけど恋人で通すよ。」

 

 

戻ってきた彼にそう耳打ちされる?

 

 

彼の声と言葉の内容に心臓をドキドキさせながら小さく頷く。

 

暫く、ボーっとしていると、

 

 

ナデリナデリ

 

へにゃあ

 

 

例の幸せな感覚がやって来た。

 

その日は、上の空のまま一日を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、

 

 

「……今日私達、あなたの部屋で勉強会開きたいんだけど、かまわない?」

 

 

宮本さんの言葉で、彼の家での勉強会が決定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一条家、

 

 

「お茶、出来たよ~。」

 

 

彼が、お茶を持って入ってきた。

勉強会開始である。

 

お茶菓子の中に初めて見るお菓子を見つけ、食べてみる。

 

……サクサクしてて美味しい。

 

 

 

暫くして、小野寺さんが彼に教えてもらっていた。

 

……モヤモヤする。

 

 

 

その後、私も彼に問題を差し出した。

 

彼の教え方は、上手で優しい。

 

 

 

 

勉強が一段落すると、皆でお喋りした。

話題は主に、転校前の私の話。

 

 

 

「なあなあ、桐崎さん。オレもちょっち聞いていい?」

 

 

舞子君に聞かれた。

 

 

「お前らってぶっちゃけどこまで行ってんの?」

 

 

「ど……どこまでって……?」

 

 

また、顔が熱くなりそうだ。

 

 

「そりゃあもちろん、キ……「ギルティッ!!!」ブフォウ」

 

いつの間にか、彼が舞子君をとめていた。

 

……正直、助かった。

 

 

「じゃあ、集を来客用の部屋に置いてくるよ。」

 

 

と、彼が舞子君を担いで部屋を出ていって少しして、

 

 

「,坊っちゃんが嬢ちゃんを呼んでいるッス。」

 

 

と、名前は確か、龍子さんに伝えられた。

 

そのまま、連れられて蔵の前で、

 

 

「この中で待ってるッス。」

 

 

と、言われた。

 

 

……何の用事だろう?

気は進まないが彼を待たせてはいけないから入る。

彼を探すと、

 

 

「桐崎さん!」

 

 

彼が何故か、蔵の外から入ってきた。

 

直後に、バタンという音と共に扉が閉まった。

 

 

……暗い……怖い……たすけて!

 

 

気が動転し、彼に抱きつく。

 

 

……暗い……怖い……

 

 

「桐崎さんって、もしかして暗い所に何かあったりします?」

 

彼に聞かれ、頷く。

 

 

理由を聞かれ答えると、

 

 

「大丈夫だよ!僕が一緒にいてあげるから!前も言った用に、僕って結構強いからね!」

 

 

と、彼が、言ってくれた。

 

その言葉に、心が落ち着く。

 

 

ナデリナデリ

 

へにゃあ

 

 

その後、例の幸せな感覚がまたやって来た。

 

 

ああ、私は女なのにこんなに男の彼に弱みを見せて情けない。

 

それでもこんなに幸せなのは、私が彼の事を、本当に、本当に……

 

 

 

「桐崎さん!桐崎さん!」

 

 

「ふにゃ……ほえ?」

 

彼の声に、我にかえる。

 

……恥ずかしい、間抜けな声を出してしまった。

 

 

 

「目が慣れて視界が広がったけど……どうかな?」

 

 

「……これなら……平気…かも……?」

 

 

自分の気持ちを誤魔化すように立ち上がる。

 

 

 

「桐崎さんッ!急に立ち上がったらッ!」

 

 

 

「……え?」

 

 

足がもつれて彼を押し倒すように転んでしまった、

 

 

そこへ、

 

 

「お嬢ーーーーーー!!!

ご無事ですか、お嬢……!!

お嬢の帰りが遅いので、ヤクザに話を……、聞いて……」

 

 

クロードが入ってきた。

クロードは固まっている。

 

 

その上、

 

 

「あ!一条君、こんな所にいたんだ。

良かったー、心配し……」

 

 

小野寺さんまで入ってきた。

 

 

この体制への恥ずかしさや、見られた事への焦りで頭がぐちゃぐちゃだ。

 

 

この日は、どうやって家に帰ったか覚えてない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、

 

 

宮本さんに、水泳部の助っ人を頼まれた。

 

他にも、小野寺さん、そして、彼が参加するらしく私はすぐに了承した。

 

 

 

練習の日、着替えをしていると、水着がビキニタイプの物であることに気付いた。

 

 

…… この格好で彼の前に出る……無理!!!

恥ずかしくて死んでしまう!!!

 

 

影に隠れていると、

 

 

「……ほら、桐崎さん。隠れてないで……」

 

 

と、小野寺さんに引っ張られて彼の前に出る。

 

……うぅ、恥ずかしい。

 

 

「桐崎さん、とっても似合ってるよ!」

 

彼に褒められ顔から火が出そうだ。

 

プールに入って冷やそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小野寺さんの練習が始まる。

 

「それじゃあ、練習始めよっか。

まずはお手本を……クイッ

桐崎さん、やってくれるの?」

 

 

彼に良いところを見せたくて志願する。

 

 

集中を高め、水に飛び込む。

 

 

ズバッシャァア!!!

 

 

 

 

 

会心の泳ぎに満足しながら彼のところへ戻る。

 

 

「うん……凄かったよ!凄かったけど凄すぎるよ!

今回は泳げるようになるための練習だからね……」

 

自分の泳ぎは、ふさわしくなかったようだ。

彼の役に立てなくて落ち込む。

 

 

 

ナデリ ナデリ

 

 

また、幸せな感覚がきたが、今は楽しめな……楽しめ……

 

 

ふにゃあ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

練習試合当日、

 

 

登録の受付を終えると、彼が親指を立てて微笑んでいた。

私は小さく頷く。

 

……今日は頑張ろう!

 

 

 

 

 

いよいよ、試合が始まる。

 

……緊張してきた。

 

いつも通り、いつも通り、平常心だ。

 

 

『スタート!!』

 

 

開始が宣言され、選手達は一斉に水に飛び込む。

 

 

……思うように動けない!

 

何とかしようとするが、状況は悪くなるばかりだ。

 

それでも何とか泳いでいたが、少しして、

 

 

……痛い!足をつった!それも両方!

 

 

体が沈み、口や鼻に水が入ってくる。

 

 

……つらい……苦しい……助けて、白!

 

 

意識が消失する。

 

……ああ、自分の気持ち、伝えておけば良かったな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「桐崎さん!桐崎さん!」

 

 

……彼の声が聞こえる。

 

 

「桐崎さん!僕が分かる?!桐崎さんッ!」

 

 

目を開けると、大好きな彼が目の前にいたので思いきって口付けする。

 

 

 

……ああ、私は幸せだ。




ギリギリ間に合いました。

物凄くヒヤヒヤしました。

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