イコセニ 作:中原 千
今後は(きっと)出ます。
練習試合当日……
「おはよう!一条君!」
小野寺さんに挨拶に声をかけられる。
「おはよう、小野寺さん!気合い十分だね!」
「うん!あんなに練習したしね!」
「あんまり無理しないでね。
とにかく完走するのが目標だよ。」
「うん、ありがとう。頑張るね!」
受付へと向かう小野寺さんの姿を眺める。
あんなに頑張っていたのだ、今日は絶対に完走してほしい。
……ム、桐崎さんも受付に来ている。
流石に、今日は指定の水着である。
良かった、良かった、ビーハイブの構成員にも最低限の常識はあったようだ。
ぐっと親指をたてて激励すると、恥ずかしそうに小さくコクンと頷いた。
……最近は桐崎さんから怯えよりも照れを向けられる方が増えてきた。
いい傾向である。
これは、関係修復完了まで秒読みと見てよいのではないだろうか。
第一ブロックが始まる。
うちの高校からの参加者は小野寺さんだ。
桐崎さんは次のブロックに出るため、控え室にいるので、今僕はエウリュアレ様(宮本さん)と二人で小野寺さんを見守っている。
「ごめんなさい、一条君。無理なこと頼んで……」
「もうっ、期間が短すぎて大変だったよ。
もう一度やれって言われても出来ないからね。」
「……まぁ、もともとダメ元で頼んだし、あの子が溺れるような事さえなければ……」
「……え?」
「……え?」
……大丈夫、昨日あんなに練習したし、一条君も見てるんだから……
頑張れ私……!
『スタート!!』
開始の合図と共に勢いよく水に飛び込む。
「……小咲、泳げてる?!」
宮本さんは驚きの声を上げる。
「もうっ!本当に大変だったんだよ!」
「えっ?!どうやったの?!」
僕は、ぽつぽつと話始める。
「……ビート板を使っての練習が終わった後ね、なかなか長距離の水泳には成功しなかったんだ……」
「まあ、それが普通よね……」
「そこで思い付いたんだけどね……」
「……何を?」
「……死海ってあるじゃん。」
「……え?」
宮本さんが呆ける。
「それを再現しようと思ってね、小野寺さんが泳ぐ時に真下で待機して水流を起こして泳ぐのをアシストしてみたんだ。」
「え?え?」
「この方法ならさ、フォームが崩れた時に水流で直させたり出来るしね、小野寺さんも泳ぎきれたから一回一回アシストを減らしていって、17回目ぐらいで1人でも泳ぎきれるようになったんだよね。」
「……」
「でも、この方法って凄く疲れるし、何よりも小野寺さんが一生懸命頑張ったから出来た奇跡みたいな物だからもう一度やれって言われても多分むりだよ。
って、宮本さん?!大丈夫?!」
……宮本さんが 固まって動かなくなってしまったでござる。
もうすぐ小野寺さんが泳ぎきるから、なんとしても復帰させねば!
「おーい!宮本さん!戻ってきて!
小野寺さん泳ぎ終わるよ!」
「……ハッ!
ごめんなさい、一条君。少しボーッとしてたわ。
もう大丈夫よ。」
良かった。間に合ったみたいである。
小野寺さんはゴールまであと1メートルくらいで他の選手と競っている。
そのまま、同時に泳ぎきり、見事ブロック内7位タイとなった。
誰かに勝利とまではいかなかったが、昨日まで泳げなかった人とは思えない素晴らしい結果である。
「やったー!小野寺さん、やったよ!!!」
「すごいわ、小咲!!!」
宮本さんも喜びを露にしている。
結果に喜ぶ笑顔の中に何かを悟って悩み解放された覚者のような表情が混じっているような気もするが、きっと僕の気のせいだろう。
二人で小野寺さんの所へ向かう。
「あっ、一条君!るりちゃん!」
小野寺さんがこっちに気づいた。
「やったね、小野寺さん!かっこ良かったよ!!!」
「おめでとう、小咲。見直したわ。」
「そんなぁ、二人共、照れるよ……」
そのまま、二人で小野寺さんを讃え続けた。
赤くなった小野寺さんはやっぱり可愛い。
やり過ぎてむくれちゃったけど僕は満足である。
さあ、次は桐崎さんの出番である。
あの爆走で会場の度肝を抜いてほしい。
死海って塩分濃度が高いため、体が浮いて泳ぎやすいらしいですね。
カナヅチの作者も泳げるのでしょうか?
わたし、気になります