イコセニ 作:中原 千
今日の授業も終えて、飼育係の仕事をする。
小野寺さんとエウリュアレ様(宮本さん)は日直の仕事で遅れて来るそうだ。
集はよく分からん。
一緒にいる桐崎さんは鼻歌を歌ってご機嫌である。
……あの日以降、今まで僕の前では怯えた様子しか見せなかった桐崎さんも、
最近は確実に表情が柔らかくなってきた。
微笑ましい気持ちで桐崎さんを眺めていると、振り向いた桐崎さんと目があった瞬間に顔を逸らされた。
……本当だよ。
桐崎さんは笑顔が増えたんだよ。
嘘じゃないよ……
……花壇に水やりをしている一条君と桐崎さんを眺める。
「……あの二人、ほんといつも一緒にいるのね。」
「……うん。いいよね……ラブラブで……」
「……いいわけないでしょ。
あんたはどうするのよ。」
「え?」
「好きなんでしょ。一条君の事。」
ブウッ
えっ?えっ?知ってたの、るりちゃん?!
一体いつから?!
「気付いてないと思ってたの?あきれた……」
でも……でも……
「……だって……一条君、彼女がいるんだよ……?
私……邪魔にしかならないよ……」
「私、ずっと一条君はあんたの事が好きなんだと思ってたけど。」
……え?
「えええええ~~~~~?!!!」
その言葉を聞いて、一条君の笑顔、一条君の寝顔……と、次々に頭に浮かんでくる。
そして、思い出されるメールの文面。
『好き』
……どうしよう、顔が沸騰しそうだよぉ。
「そ……!
そんな事あるわけないじゃない……!」
「だってあんた、一条君があんた以外を心配して保健室に背負って行ったところなんて見た事ある?」
……それは!
「……あるよ。」
桐崎さんとか、佐藤さんとか。
「………ごめんなさい………
よく考えたら、私も貧血で倒れた時に運んでもらった事があったわ。」
もうっ!るりちゃんっ!
「それはそうと、割りと間違って無い気はするわ。」
……ほんとかなぁ?
「それに、相手に好きな人がいるからって、アタックしちゃいけない決まりなんてないんだよ?小咲……」
「……それは……そうだけど……」
「……安心しな小咲、チャンスぐらいは作ってあげるから……」
えっ?るりちゃん、何する気なの?!
なんか、すごく不安だよ!
「さあ、私達も飼育係の仕事に参加するわよ。」スタスタ
「ま、待ってよ、るりちゃん!」
「……これで全員分の餌遣りが終わったね。皆、お疲れ様。」
一条君の挨拶で係活動が終わる。
「ねえ、一条君。」
るりちゃん?!
「……今日私達、あなたの部屋で勉強会開きたいんだけど、かまわない。」
ちょっと?!急にそんな事言ったら一条君困っちゃうよ!!!
「……えーっと……
お茶菓子は和風と洋風どっちがいい?」
……えっ?いいの?!
……急に僕の家で勉強会を開くことになったでござる。
まあ、エウリュアレ様(宮本さん)に頼まれたのならば断れない。
女神様のお言葉は絶対である。
そうでなくても、女子を入れての勉強会である。
こんな楽しそうなもの断る理由がない。
家に帰ったら速攻でお茶の用意をしよう。
紅茶も緑茶も完璧に淹れてみせる。
僕のバトラースキルが火を吹くぜ。
……そして、家に着く。
扉を開けると、
「お待ちしてたッスよ、坊っちゃ~ん!!
今日は勉強会らしいッスね!!!
出迎えてくれる龍達、『おいでませ』と書いた紙を持つ組員達。
……力を入れる方向性を著しく間違っている気がする。
「……うん。僕はお茶を淹れてくるからお茶菓子を出しといて頂戴。」
「了解したッス!」
よしっ、準備をしよう。
……それにしても、
「集、いつからいたっけ?」
「いやっ 、オレ、結構前からいたよ!!!」
全然気付かなかった。
コイツも気配遮断を使えるのだろうか。
……集に気配遮断、絶対厄介である。
この組み合わせは想像したくないな。
混ぜるな危険である。
集がいなければハーレム状態だったのに、と思いつつその状況を逆転前に置き換えて考えてみる。
男子三人を自分の家に招いて女子は自分一人。
……うん。これは体裁が良くないですわ。
集がいて良かったかもしれない。
僕の家がヤクザである時点で体裁なんて在って無いような物な気もするが……
ムム、桐崎さんの方を見てみるとなんだかソワソワしている。
桐崎さんも、これからの勉強会が楽しみなのだろうか?
やっぱりこういうイベントはどうしてもワクワクしてしまう。
「じゃあ、僕はお茶を用意するからあがってて頂戴。」
……厨房にて僕は紅茶と緑茶を淹れている。
散々繰り返した作業である。
並列で効率よく作業を進めていく。
イメージするのは最高の執事。
他の事など要らぬ。
僕にとって戦う相手とは、目の前の茶葉達に他ならない。
いくぞA級品、成分の貯蔵は十分か。
……素晴らしい出来になったお茶を持って皆のところへ向かう。
今日の勉強会はどんな風になるだろうか?
波乱に満ちた物だと嬉しい。
ああ、またワクワクが溢れてきた。
………そう言えば、さっきから小野寺さんに顔を逸らされるんだけど、家と組員を見られたことによって、桐崎さんだけじゃなく小野寺さんにまで怖がられ始めた訳じゃないよね………
……本当に違うよね?!
作者には友達と一緒に家で勉強会という思い出がありません。
こういのって現実でもあるんでしょうか。
羨ましいですね!