イコセニ 作:中原 千
息を落ち着かせ、精神を研ぎ澄ませる。
気配を殺して、集中が高まった所で行動を開始する。
一歩音を超え
刀を持つ手に気負いはない、只自然に在り続ける。
二歩無間
剣心一如、人と刀が乖離して久しい現代で、その言葉を具現する。
三歩絶刀
カッと目を見開き突きを繰り出す。
『無明 三段突き』
放たれるのは、「ほぼ同時」の突き。
その差ほんの数刹那という物理的におかしい速度で、神業としか言い様のないそれに、当の本人は不満げだ。
眉を顰めて素振りを始める。
やっぱり失敗したか……
長年全てを懸けてきたものが心情の変化ぐらいで成功するとはそもそも思っていなかったが。
もしやと思う心があったこともまた事実。
あな、遠し我が憧憬。
……まあ、今の僕でもギャングから友人を護るくらいなら出来るだろう。
相手は、魔術師によって召喚された英霊達でも、次元跳躍を軽々行う幻獣、TSUBAMEでもないのだから。
暫く刀を振っていると誰かが来た。
「精が出るッスね!坊っちゃん!!!」
「龍か。」
我が右腕の龍だった。
今日も元気溢れるワンコテールが幻視される。
「もうこんな時間か、飯にしよう。」
僕は、鍛練も邪魔になるかと外していたペンダントを首から下げる。
「それ、よく似合ってるッスね!!!」
「そうか、ありがとう。」
このペンダントは、昨日の夜、何か情報はないかと自分の部屋を整理していたら、見つけたものだ。
これを見た時、何か懐かしい感じした。
それが僕の記憶によるものなのか、この世界の僕の体の記憶によるものなのかは分からないがきっと僕にとって大切なものなのだろう。
朝御飯を食べ終え、支度を終わらせ家を出る。
龍に送っていくと言われたが断った。
昨日した護るという約束を護るためだ。
断じて黒リムジンが嫌だった訳ではない。
待ち合わせ場所に着いた。
「おはよう。小野寺さん、宮本さん。」
「おはよう。一条君。」
「おはよう。」
「それじゃあ、行こっか。」
「本当に舞子君は呼ばないんだね。」
当然である。
せっかく小野寺さんと宮本さんを独り占め出来るチャンスである。
逃す手はない。
登校中は何事もなく、和やかに雑談をしていた。
話題は家の連中の様子、パンピーには刺激が強かったかとも思ったが割りと受けがよかった。
一番人気は飯時の話。
うん、これヤクザの話じゃないわ。
大家族的なヤツだわ。差し詰め僕はビックダディか。
いや、逆転してるから嫁の方か。
学校の敷地内に入ってすぐに、空気が変わった。
襲い掛かってくる襲撃者の足を掴んで前方に叩きつける。
「こんな公共の場所で襲うとは見下げたヤツだ。
人質をとれるとでも思ったか、甘いんだよ。
硝煙の臭いプンプンさせやがって、バレバレなんだよこの二流がッ!」
僕は清光の鋒を向けて言う。
この程度の襲撃者は刃引きした刀で十分である。
「一条君、一条君。」
宮本さんに袖を引っ張られる。
「宮本さんッ、危ないから下がっててッ。」
「いや、よく見て一条君、その人この学校の生徒よ。」
……へっ?
僕は目が点になるのを感じた。
続いて顔が真っ青になる。
「制服、着てるわよ。」
……ふう、
「やってしまったァァァァァァァッ!!!!!」
ヤベェよやっちまったよ。
一般人に手出ししたらアレだよ、ヤクザの息子からヤクザな息子に格上げされちまうよ。
こんなんじゃいくらあべこべ世界でもボッチ化するよ。
前の世界でも暴力系ヒロインは忌避されてたし、俺ん家マジモンのヤクザだし、今までは危険な香りで済んでたけどもう終わりだよ。危険なヤツに認定されるよ。ウワーン。
「取り敢えず、タイムマシン探してくる……」
自動販売機に顔を突っ込む僕、
「いっ、一条君?!」
「落ち着きなさい一条君。今のは正当防衛よ。
皆もそう思うわよね?」
「「「「「「「「「「うん。」」」」」」」」」」
「泣いてる一条君も可愛いね。」
「なんか小動物みたい。」
「……泣かせたい。」ボソッ
「へっ?」
「だから大丈夫よ一条君。誰も貴方を避けたりしないわ。」
「宮本さんッ!」
僕は宮本さんに抱きついた。
「よしよし、怖かったわね。泣いてもいいのよ。」
そう抱き締めて頭を撫でてくれる宮本さんは女神様のようだ。
これからは心の中でエウリュアレ様と呼ぼう。
宮本るり(役得ね。)
小野寺小咲(るりちゃんいいなぁ。)
圧倒的るりちゃん回
なんとか千棘を出したと思ったらこんなことになってしまいました。
どうしてこうなった