久し振りなので文章に違和感があるかもしれません……
──地底──
普段は騒がしい様子を見せない旧都も、今日はいつもと違った。其処彼処からザワザワと喧しい。それはこれからここで何がが始まるということを感じさせていた。
そして旧都の中心地にある、まるで武道会場のような場所に
何を───?
───それは強者をだ。
2人は宙を見上げると、一目見るだけで幻想郷で生きる者ではないと感じ取れる程の異質な男がいた。その男は萃香と勇儀の姿を見つけると、真っ直ぐに急降下してきた。
コツッと響く音を立て、〝サイヤ人の王子〟ベジータはリングの上に着地した。
「やあ遂に来たね、旧都へようこそ。私は萃香でこっちの大きいのが勇儀さ。ヨロシク」
最初に口を開いたのは萃香だ。ニヤけながら手に持っていたひょうたんで酒を飲みながらベジータを見ている。まるで品定めでもするように。
研ぎ澄まされた筋肉は大したものだと思っていたが、それ以前に萃香はベジータの目が印象的だった。戦いを求める、戦いに飢えている、そんな獣のようなベジータの目を。
「きさまらがこの雑魚どもの大将というわけか。しかしこのリングはどういう事だ?」
『雑魚ども』とベジータが言った瞬間にピクッと勇儀が反応するも、萃香がそれを左手で制す。ベジータは別に挑発しているわけではない。ただ単に周りの奴らには興味すらないだけだ。
「祭りの為だよ。私達はこの旧都で新たな催し物を始めようとしているだけさ。そしてベジータ、私達はお前を待っていた」
「……」
何故萃香と勇儀が自分の事を知っているのかわからないベジータだが、今までも同じような事が何回もあったので最早気にしない。
「私は…『地底一武道会』というものを開催する事にした!主催者はこの私。どうだい?面白そうだろう?」
「……」
『地底一武道会』
それを開催すると宣言した。萃香が高らかに笑うと、周りの百鬼達もそれに応えて盛り上がる。しかし勇儀だけが腕組みをしながらため息をついて浮かない顔をしていた。
「いいのかい萃香。スキマ妖怪の言うことを聞かなくて。そもそもこのフィールドもスキマ妖怪が用意したモノじゃないか」
そう、この2人も守矢の神奈子、諏訪子のように紫からベジータの事を頼まれていたのだ。『彼を強くしてやって欲しい』と。
「なあに。鍛えるなんてまどろっこしい事をするならこうした方が早いじゃないか。それに勇儀、知りたくはないのか?他の世界の強者である彼がどれくらいの力を持っているのかを……」
「それはそうだけど……」
「ほらねっ!決まりさ!旧都一武道会開催決定!トーナメント式にしようか。さて、待ってくれよすぐに決めるからさ」
ひょうたんをグルグル回しながら萃香は嬉しそうに笑っている。自分が主催の祭り事を開催するのが楽しみで楽しみで仕方のない様子だ。
しかし、その雰囲気は一変する。
「きさまらは……勘違いをしている」
ベジータがそう呟いた。と同時に彼の周りから爆風が起こった。地面にヒビが入り、ほんの一瞬だけ地底全体が揺れた。
「うわあああああッ!」
リングを囲んでいた百鬼達はその爆風に耐えきれず、ほぼ全員が吹き飛んでしまった。間近にいた萃香と勇儀は急な事に目を見開いて驚いたが、飛ばされる事なくその場に立ったままだ。
ニコニコだった萃香も一瞬で真剣な表情になり、勇儀も何が起こるかわからないので身構えている。
「勘違い、とはなんだい?ベジータ」
笑みを浮かべながら萃香は問うが、笑っているのは口だけだ。目は全く笑っておらず、むしろ怒っているように見える。
「オレはきさまらの遊びに付き合うつもりなど……ないッ!」
「───!」
「───!」
ベジータの髪が金色に輝く。
もちろん
「失せろ」
ベジータは右腕を目線の高さまで上げ、手を開く。しかしその向きは萃香達のいる正面ではなく、自分の右側へ。すると一瞬で〝気〟が溜まり、エネルギー弾が放たれた。
「ちょ…ッ!」
「心配ないさ勇儀。当てるつもりはないらしい」
大勢いた妖怪達は一斉に逃げ出す。ようやくベジータの危険度を感じ取ったらしい。幻想郷に来てからはナリを潜めているが、その本性は悪魔なんて生易しいものではない。数分前まで歓声に包まれていた旧都がいつのまにか恐怖の叫び声しか聴こえなくなっていた。
「クク……『地獄』か。全く笑わせやがる。妖怪だの鬼だの、期待外れだな。きさまら2人を含めて」
「ベジータ、貴方……」
ほとんどの観客が消え、リングに1人の少女がゆっくりと上がってきた。さとりだ。こうなる事はわかっていたが、あまりにも展開が早すぎてさとりはついていけない。
「……」
「……」
地面にぺたんと座り、ひょうたんに入った酒を萃香はガブガブ飲み始める。ちょこちょこさっきから飲んではいたが、今はもう話す時以外は常にひょうたんに口をつけている。酒は美味しく飲むものと萃香はよく言っているが、恐らく今はそうではない。無理矢理にでも酒を流し込まないと、今すぐにでもベジータに襲い掛かりそうだからだ。
勇儀は初めからこんな事になりそうな気が薄々と気付いていたが、もちろんベジータの事は気に入らない。静かにされど強くベジータを睨む。
そしてベジータも2人を迎え撃つ用意はすでにできていた。
このまま3人の乱闘になる……かと思われたが───
「ふぅ〜………さすが紫の連れてきた男だ。面白いねぇ。面白いよ。人間風情でよくもまあここまで生意気に……」
爆発すると思った萃香がなんとか留まった。その冷静さが逆に恐ろしいとさとりは感じる。
「さてと、ベジータ。改めて聞こうじゃないか。お前は私の計画をめちゃくちゃにした挙句、何がしたいというんだい?」
「オレはきさまらと戦いにきただけだ。地底一武道会?トーナメント?笑わせるな。時間の無駄だからさっさと2人でかかってこい」
萃香と勇儀の目を見てベジータは言い放つ。
鬼という種族は誇り高い生き物だ。その中でも勇儀と萃香は他の鬼の比ではない。その2人に向かって『2人でかかってこい』などとは侮辱以外のなんでもない。
「いい加減にしな……そこまでいうなら力の差を教えてやろうじゃないか」
明らかにベジータは自分たちを下に見ている。勇儀はその事に怒りを覚え、殴りかかろうとした。
「ここまでは計画通りかい?ベジータ」
「……なんだと?」
勇儀とベジータが交戦する寸前で、ゆっくりと立ち上がりながら萃香がそう言った。はじめのようにケラケラと笑っているが、すでに酒には全く手をつけてなかった。
「お前の目的は戦う事。だからとりあえず相手を挑発しとけば相手がそれに乗って目的を達成できる。そうだろう?まあ、相手を下に見るような話し方は生まれつきなのかもしれないけどね」
その通りなのだ。
ベジータの目的は相手と仲良くする事ではない。戦う事だ。理由など適当に作れば良い。だからワザと挑発するような事をしているのだ。別に観客が居ようとどうでもよかった。しかし回りくどい真似をするのが1番ベジータにとっては面倒だ。だから手っ取り早い方法を取ったのだ。
「だとしたら、なんだ?」
「喜びなよ。お前の望み通りにしてやろう。しかし───」
「ッ!!」
「ッ!!」
萃香の周りに竜巻が巻き起こる。側にいた勇儀とさとりはすぐさまリング外に飛んで離脱した。一方ベジータは黄金の〝気〟で竜巻をかき消した。しかし今のは攻撃でもなんでもなく、ただ萃香が力を込めただけだ。
赤い〝気〟のようなものが萃香を包み込む。単純な大きさだとここにいる誰よりも小さい萃香だが、威圧感も相まってここにいる誰よりも大きく見える。
「全て無しにしようベジータ。お前を鍛えるとか…その他諸々の感情は全て無しだ。今から始まるのは───虐殺。遥か昔から行われてきた、鬼による人間の虐殺だ」
見た目だけを見ると萃香はただの可愛らしい少女、だった。先程までは。
しかし今は違う。今の彼女はまごう事なき『鬼』だ。
「つまり殺し合いか。フン、
ベジータも殺る気になる。2人の殺気がバチバチとぶつかり合い、戦闘派ではないさとりにはその場にい辛い空気となった。
「(あの2人……本気だわ)」
2人の心を読んださとりはそれを気づいている。いや、心を読まずとも、あの2人の
もうこの戦いは誰にも止められない。此処には紫もいない。いても止められない。
「さぁ……始めようか。鬼を舐めるなよ、人間───!」
誇り高い2人の正真正銘の〝殺し合い〟が始まった。
はい、第59話でした。
皆さま、お久しぶりでございます。本当に……
ですが死なない限り失踪は絶対しないです。最後までよろしくお願いします。