【本当にあった怖い話】
ライバルを超えるために幻想入り、7月下旬から9月中旬までの夏休みで投稿できるのがこの1話だけ………
申し訳ないですm(_ _)m
──龍球の世界──
悟空と美鈴が共に修行をし始めてさらに3ヶ月が経った。毎日毎日欠かさず行った修行の末、美鈴はついにオリジナルの『界王拳』を習得したのだった。
本当に毎日修行三昧だ。悟空とだけではない。研修から帰ってきた悟飯やいつも暇を持て余している悟天とも。
朝から修行を始め、昼前に畑仕事の手伝い。昼ご飯を食べたらまた夜まで修行。夜ご飯を食べたら次はチチの手伝いなど、1日1日が濃いものであったが美鈴はそれに充実感を覚えていた。
「今日はこれくらいにすっか!それにしても美鈴、随分と上手く界王拳を使いこなせるようになったな〜 すげえぞ!あの技も順調みたいだしな!」
「はぁ…はぁ…ありがとうございます!」
悟空はいつものように美鈴の頭を撫でる。美鈴もエヘヘと笑いながらいつものように喜んだ。
───今日も充実した日だった。
そのまま帰ってお風呂に入り、その後5人で夜ご飯を食べ、チチと話しながら皿洗いをし、あとは寝るだけだった。身体も疲れおり、いつもならすぐに布団に入る彼女だったが、今日は夜風に当たってから寝る事にした。
すでに寝巻きの美鈴だったが、いつもの華人服に着替えて外に出る。
「今日も1日……頑張ったなぁ……」
グッと身体を伸ばす。そして何も遮る物のない空を眺める。星々がキラリキラリと輝いていて、まるで今の美鈴の心境を表しているかのようだった。
なんとなく深呼吸をし、空に一言申す。
「明日も頑張るぞ!」
「御免なさいね。それは叶わないわ」
星々が輝く空を見ていた美鈴だったが、いつのまにかその雰囲気をぶち壊す妙な空間が出現した。その空間からは君の悪い目玉がいくつも浮かんでおり、ギョロギョロと美鈴の顔を舐め回すように見ている。
「ゆ、紫さん!?」
現れたのは幻想郷の賢者、八雲紫だ。しかしいつものように現れたと思ったら床に着地する事はなく、空間から上半身だけを出して美鈴を見ていた。なんだか品定めをするような眼で。
「叶わないって…どういう事ですか?」
「話は後。まずは場所を変えましょう。ここだと恐らく気付かれるわ。言ったでしょう?異世界の者同士の干渉はタブーだと」
紫がパチンと指を鳴らすと、美鈴の身体はスキマに囚われた。そして目の前が真っ暗になり、すぐに明るくなったと思ったら───
「ここは……いつもの場所?」
そう、いつも悟空と修行をしている場所だ。改めて見ると激しい修行の末に空いた穴でどこもかしこも凸凹になっている。
「そうよ。ここまで離れて、さらにスキマから出ないならさすがの孫悟空でも気付かないでしょう」
紫がスキマのまま、地に足をつけないのはそういう
「美鈴、今すぐに幻想郷に帰ってもらうわ」
「……え?」
美鈴の頭の中が真っ白になった。今すぐに幻想郷に帰れ、と。
いくらなんでも急すぎる。こんな事を言われてすぐに「はい」と言えるわけがない。
「そんな事……」
「勝手だとはわかってる。けどこれ以上は不可能なのよ。
私の能力も完全無欠じゃない。いつまでも異世界の者をこちらに存在させるのは不可能なの。貴方の士気を下げたくないから黙っていたけど……もうこちらに居られる時間は30分もないわ」
「………そんな………」
顔を落とす美鈴。紫も慰めてあげたいが、自分の都合で動かしている美鈴に、自分がどんな声をかけてあげたらいいのかわからなかった。
「……そして、別れの挨拶もしないでちょうだい。時間は無いし、何より貴方は彼らに説明できない。そして恐らく名残惜しくて別れられなくなる」
「……」
全部紫、いや幻想郷の都合だ。美鈴は何も悪くはなく、何も知る由はない。ただ紫の言う通りに動くだけ。
美鈴の目には涙が溜まっていた。長い様で短かったが、美鈴は此処で沢山の事を学んできた。その感謝の気持ちを全く伝えられないまま、自分は此処を去ってしまう。そして2度と来る事はない。純粋に悲しかったのだ。
「……本当に御免なさい。私を恨んでもいいわ」
「……いや、いいんです。紫さん、貴方のおかげで私は悟空さん達に会うことが出来ました。これは私の……一生の宝物です」
「───!」
罪悪感でいっぱいだった紫であったが、今の一言に胸が軽くなった気がした。自分のしている事は最低だが、全て幻想郷の為。孫悟空に身も心も成長させられた紅美鈴を幻想郷に連れて帰るのが紫の使命なのだ。
「じゃあ……ッ!!」
急に紫の目つきが鋭くなったと思ったら、スキマだけ残して紫自身はその場から別のスキマで消えてしまった。そしてその紫と入れ替わる様に誰かが現れ、目を潤ませている美鈴の前に立っていた。
「よっ!美鈴!」
そう───孫悟空だ。
「あっ…あう……」
もう会えないと思った者が急に目の前に現れ、美鈴は思う様に声が出ない。
「半べそかいてどうしちまったんだ美鈴。最期に挨拶くらいしてくれよ」
「えっ……なんで最期だって……」
「さあ、オラにもよくわかんねえんだ。でもおめえの顔とそのヘンなスキマみたいのを見てそう思ったんだ。これでコッチに来たんだろ?おめえは」
「……ふふ、あはははは!」
「いッ!?な、なんだ急に!?」
美鈴は笑った。声を上げて笑った。この人は、最期の最期まで鋭い人だと。修行中、何度も組手をしたが1回も勝てなかった、その理由が今わかった気がした。
悟空は、ヘンな奴だなぁと美鈴の頭を撫でながら同じ様に笑ってくれている。いつもの様に温かい顔で。
「けど、残念だなぁ……強くなったおめえと1回くれえフルパワーで戦ってみたかったんだけど。まあそれは仕方ないさ」
「悟空さんのフルパワーなんて……私、一瞬で吹っ飛んじゃいますよ?」
「そうでもないさ。おめえが───」
2人の会話を邪魔する様に、浮いていたスキマが大きくブレだした。その次の瞬間に、少しずつだがドンドンと大きさが小さくなっているのを確認できた。これは、もう紅美鈴がこの世界に存在していられないというコトだと2人同時に理解した。
「……まだまだ話していたいですけどここまでのようです。悟空さん、本当に今までありがとうございました。3人によろしく言ってもらえるとありがたいです。それと───」
美鈴がスキマに近づきながらもう一度振り返って、悟空の顔をしっかりと見る。
「こちらの事情で色々と黙っていてすいません。ピッコロさんにも言われましたが、私は怪しまれて当然の身。そんな私をこんなに、こんなに……」
「泣くなッ!!!」
「ひゃ…ひゃいッ!」
もう泣かないと決めていたのに、美鈴の目からは大粒の涙が零れ落ちそうになった。しかしそれも悟空の気迫のこもった声のおかげでなんとか耐え、無理やりに笑顔を作る。
「へへへ!笑ってる顔の方が似合ってるぞ美鈴!」
「悟空さん……本当にありがとうございました!!!」
「ああ!
美鈴は右手で手を振りながら左手でスキマに触れる。すると物凄い勢いで美鈴はスキマに吸い込まれて消えてしまった。
そう、紅美鈴という存在がこの世界から消えてしまったのだ。
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──旧都──
───全く、やりにくい。
ベジータは心の中でそう思った。思っただけではあるが、覚妖怪である古明地さとりにはそれもしっかりと伝わっているだろう。いや、伝わってほしくはなくとも勝手にさとりの方から読み取られている。
案内役だと彼女は言ったが、それは違う。これは監視だ。もちろんベジータは心を読めるわけではないが、さとりの意図に完全に気づいていた。
彼女はカツカツと靴の音を立てながら、ベジータの少し後ろを歩き続けている。ベジータにはさとりが何を考えているかわからない上に、さとりはベジータの考えている事がわかるので正直鬱陶しいったらない。
「そんなに鬱陶しい?私が思っている事を教えてあげましょうか?」
「いらん世話だ。それよりきさま、オレの心は読めないと言っていたのになぜ読めているんだ」
正確には、『読みにくい』とさとりは言っていた。少しだけ後ろを向きながら歩くベジータの問いに、さとりは表情1つ変えずにこう答える。
「さあ?〝慣れ〟かしら。これだけ一緒に居たんだからそうかもしれないわね」
「……オレときさまはまだ会って数十分だが?」
今まで一定のリズムで歩いていたさとりが急に足を止めた。すると手を口に当てて黙り込んでしまった。決して吐き気を催しているわけではない。
「どうした」
「……いえ別に。ただ、
ベジータにはさとりが何を言っているのかわからない。〝長く〟とはどういう意味だ?と。しかしさらに問うことはしない。ベジータはさとりのコトを知るために地底に来たわけではないからだ。
「奇妙なヤツだなきさまは」
「ふふ…お互い様でしょう?」
それ以上は何も喋ることはなく、2人はさらに奥にある中心部に向かっていった。
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さとりと一緒に向かっていた際、ベジータの周りには先程居た鬼のような者たちには全く会わなかった。
理由はわかる。さとりに畏怖しているからだ。先程の発言といい、鬼達から恐れられていることといい、さとりは何やら〝普通では無い〟ようだ。いや、普通の少女がこんな場所に居る筈もないのだが。
そんなコトを考えている内に、2人は辿り着いた。旧都の中心部へ。
───弾けるような熱。狂気。コレを色としてイメージするのならどす黒い赤だろう。
デカイ鬼や妖怪達から凄まじい声が聴こえてくる。それも1匹や2匹ではない。数えるのが馬鹿らしく思える程の数だ。
そんな有象無象達が暴れ出さない理由、それはこの場に初めて来たベジータにもハッキリわかる。それは、有象無象のさらに中心にいる2人の実力者に従っているからだと。
「まさに地獄のような光景ね。嫌になるわ」
「先に行くぞ」
え?とベジータの顔を見ようとしたさとりだったが、1秒前までそこに居たベジータがもうそこには居なかった。見失ったのだ。
するとその刹那、頭上に凄まじい力を感じた。さとりは顔をあげると、そこには遥か上空にベジータの姿を確認できた。飛んだ、というよりは跳んだのだ。
いや、あり得ない。さとりもかなりの実力者だが、ベジータが跳躍の最高到達点に達するまでその姿を追うことすらできなかった。
「ホントに…化け物ね」
上空に跳び上がったベジータ。その目的は全体を見渡すためだ。鬼や妖怪達はただバラバラに散らばっているわけではなく、何かを囲むように集まっていた。
「アレは…武道会場か?」
旧都の中心、そしてさらにその中心部には天下一武道会やセルゲームで見たような武道会場が存在した。しかしその大きさはその2つの比ではなく、その何倍もある大きさだった。
そして会場の真ん中に大きな〝気〟を持つ2人がいた。ベジータはその2人に向かって真っ直ぐ急降下していった。
「萃香!」
「ああ、
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──龍球の世界──
美鈴と別れたあと悟空はその場に座り込み、星を眺めていた。
紫は此方の世界からは視えないスキマを開きながら孫悟空の様子を見ていた。表情からは何を考えているのかわからない。修行相手が減って悲しい?つまらない?そんな事すら全く読み取れなかった。
いつまで経っても微動だにしない悟空に痺れを切らし、紫もそろそろ幻想郷に戻ろうとしたその刹那────
「おめえ、誰なんだ?」
「────ッ!!!」
確かに、悟空はそう言った。
目線を空から変えずに。しかし若干の警戒は感じられる。間違いなく、孫悟空は八雲紫の存在に気づいていた。
「フフ、フフフフフ……」
もはや隠れる意味は不要。そう思った紫は静かに、そして、ゆっくりとスキマから現れ、地面へと足をつけた。
「おめえは……」
「こんばんは、孫悟空。いえ……宇宙一の男。
私は八雲紫と申します」
悟空は若干驚いてはいるものの、大して動揺はしていなかった。むしろ未知なる発見をした子供のように頬を緩ませている。
「やっぱりな」
「やっぱり?それはどういう意味かしら?」
「おめえ、界王神界でオラとベジータがブウと戦ってた時にみてたヤツだろ?」
「────……どの時点でお気づきになって?」
「元気玉を作ってる時だ。アレは集中しなきゃできねえからな」
まさか、まさかそこまで気づかれているとは、紫は夢にも思っていなかった。あの戦いの最中になぜわかったのか。凄まじい集中力と鋭すぎる勘を持っていてもあり得ない。
いやあり得ない事はあり得ない。現に孫悟空は八雲紫の存在に気づいていたのだ。
「さすがですわ。では……死んでもらいますね」
「……!」
紫の魔力、そして〝気〟が急にあがっていく。背後からは大きなスキマがいくつも出現し、そこからさらに魔力が溢れるように紫色の光となってどんどん紫に降り注ぐ。武器と思える扇子を広げ、紫は完全に臨戦態勢へと入った。
これが大妖怪たる八雲紫の姿。幻想郷でもトップクラスの力の持ち主である。
しかしそんな力をみてもなお、孫悟空は動かなかった。
「芝居はやめろ。おめえはオラには勝てねえ……おめえほどのヤツならそれがよーくわかってる筈だ」
「………やはり、さすがですわね♪」
地面が震える程の魔力と〝気〟を放っていた紫だったが、あっという間に元に戻った。いくら力で相手を脅かそうとしても相手が悪い。いや、それ以前に悟空は紫から全く殺気を感じなかったので手を出そうとしなかった。未来から来たトランクスと初めて会った時と同じ事だ。
「紫、おめえは美鈴をどうしたいんだ?」
「……私は貴方にお礼を申し上げます。紅美鈴を心身ともに強くしてくれた事、そして魔人ブウを倒した事の2つに対してで御座います。いつかまた、逢うことができるその時まで……ご機嫌よう」
紫は悟空の質問に全く答えずに、またスキマを使って闇に消えていった。
はい、第58話でした。
本当はもう少し書きたい内容などあるのですが、それらを全て書くと完全にだれてしまうと考えて、少しだけ端折る事にしました。完結させる事が第一ですよね。最後まで頑張りたいと思います。
ではお疲れ様でした。