今回誤字があるかもしれません!もし発見した時には優しく教えてもらえるとすごく助かります!
朝食を食べ終わったベジータは、いよいよ『地底』へと向かう事にした。色々と回り道をしてきたが、やっと〝本命〟へと向かう事ができる。
軽い荷物だけ背負い、出発しようとするベジータを見送るためにアリス、魔理沙も家の外まで来ていた。そして霊夢は地上にある入り口までベジータを案内する事になった。
「貴方のせいで私の1ヶ月分の食料が無くなっちゃったわ。まったく…」
見送る際にアリスがそう軽い文句のような冗談を放つ。アリスは小食な上に一人暮らしなので、魚などを先程釣ってきたがそれでも足りずに色々とベジータが食べ物を漁っていたからだ。しかし本気で嫌がっているわけではなく、むしろ大勢でワイワイと食事を出来たのを楽しんでいた様子だった。
そんなアリスにベジータはほんの少しだけ口角を上げて笑ってみせた。その際にチラッと魔理沙の方を振り向いたが、やはりまだボーッとしている。
「アンタさあ…最後くらいなんかビシッと言えないわけ?」
みかねた霊夢が魔理沙に声をかける。しかし魔理沙はまだ覇気のない顔をしている。負けたのがショック、いやベジータの本気に手も足も出なかったのがよほどショックだったのだろう。
しかし何も言わずのままは良くないと思ったのか、魔理沙は「頑張れよ」とだけ言い残して先に家に入ってしまった。魔理沙は負けず嫌いな性格だが、一旦折れると立て直すのに時間がかかるタイプなのだ。
「魔理沙ったら…まあいいわ。ベジータ、私は貴方が地底で何をやろうかわからないけど…面倒事だけはやめて頂戴ね」
「フン…約束はできんな」
アリスは最後に手を振って見送ってくれた。
出発する前にベジータはアリスに、魔理沙へこう伝えろと言い残した。
『戦いに終わりなどない。いつでも挑戦を受けてやる』と。
これはベジータなりの魔理沙への激励だ。ベジータも魔理沙がいつまでもこのままでいるとは思っていないが、立ち直りが早ければ早いほど長く修行ができる、と魔理沙に気付いて欲しかったのだ。
その意図が恐らく伝わったのか、ニヤニヤしながら横を歩いている霊夢と一緒に『地底』への入口へと向かった。
『オレは…なにをしている…?』
霊夢と向かっている最中、ベジータはそんな事を考えていた。
自分は自分の為にここへ来たはずだ。しかし気づけば幻想郷の連中と深く関わっていた。美鈴、魔理沙など、時間こそ少ないがこのベジータとの関わりは一生忘れる事はないだろう。
しかし───違う。
ベジータはそんな目的の為に幻想郷へと来たわけではない。自分の限界を超え、更には『
しかしベジータは美鈴を連れ出した。それは修行相手が欲しかったからだ。だがそれだけではないというのもまた本音。美鈴は鍛えればものになる、そう感じたベジータは美鈴を連れて行こうと決めたのだ。
幻想郷にいる人間、妖怪は元の世界の者より魅力的かつ個性的な存在が多い。ベジータや悟空のようなざっと言えばいわゆる〝力押し〟のタイプは少ないが、魔法などの特殊能力をもった者にはベジータも多少興味を惹かれていた。
戦いだけに限った話ではない。ここの連中はベジータと話が合う。元の世界の人間は取るに足らない者ばかりで、ベジータにとっては無価値なモノに過ぎなかった。しかしここにはベジータと大きな力の差はあれど同じ〝強者〟同士であり話がそこそこわかる者も居た。そのせいもあり幻想郷は居心地の良い場所でもあった。
「……」
ベジータは強く歯をくいしばる。同時に固い拳を限界まで握りしめた。
怒りだ。自分自身への。
ベジータは幻想郷を居心地が良いと場所だと、そんな想いを知らず知らずのうちに持っていたことに怒りを隠せない。
修行はカラダを鍛える為だけではなく、精神を鍛える為でもある。しかしこんなぬるま湯では何も変わらない。むしろ衰退していくのみだ。
『カカロットを超えたい』
その強い気持ちがほんの少し、ほんの少しでも弱まってしまえばその時点でベジータの成長は終わる。それがベジータにとってどんなに恐ろしくどんなに耐え難い事は本人にしかわからないだろう。
しかし神奈子や諏訪子も言っていた通りに、
ベジータの〝想い〟と限界を超える為の〝手段〟
その2つは決して交わらない。修行と思えないような修行はどんな重力トレーニングよりもベジータにとっては過酷だった。
「何怖い顔してるの?ほら着いたわよ」
色々と考えていたらいつの間にか『地底』への入口にたどり着いた。入口というよりもただの縦穴だ。しかしその長さは尋常ではなく、底が全く見えない。それに真っ黒で入ってしまえば視界は暗黒に包まれるのはまず間違いない。ベジータはなんとなくこの穴に既視感を覚えていた。バビディの宇宙船である。
普通の人間なら、入口の端に立っただけで頭がおかしくなるだろう。それほど此の先は〝異質な世界〟であるというをこの場所へと立った者に思わせる力がある。
「ここか…フン、面白い」
しかしあいにくベジータは普通の人間などではない。この程度でおかしくなるはずもなく、すぐさま穴へジャンプしようとするが慌てて霊夢がベジータを止める。
「ちょっと待って!」
「…なんだ霊夢」
いきなり穴に飛び込もうとするベジータに霊夢は非常にビックリしていた。まだ言いたいことがあったようだ。
手を胸に当て、深呼吸して息を整えてから真っ直ぐな瞳でベジータを見る。
「ベジータ。此の先は恐らくアンタが初めて会うような奴が居るわ。性格的にも能力的にもね。まあそいつはアンタと戦う気なんてさらさらないと思うけど」
「…それで?」
「そいつとはなんというか…会わない方がいいわ。アンタとそいつは相容れない。そんな気がするから」
これは霊夢の勘だ。
しかし、彼女の勘はよく当たる。気持ち悪いくらいに。そしてそれは悪い勘であればあるほど。
本当は行かせたくないと思っているに違いないが、止めたところでベジータが地底に行くのをやめるわけないと思っているので何も言わなかった。
「フン…気に入らなければぶっ飛ばす。それだけだ」
そう言い残してベジータは一瞬で飛び降りた。霊夢はすぐさまもうすぐ見えなくなるであろうベジータを上から見つめて
「萃香にボコボコにされてきなさーい!」
と大声で叫んだが、それがベジータへと伝わったかは定かではない。
「厄介なことにならなきゃいいけど…」
霊夢から別れて少し経った。しかし今だに底まで辿り着かない。左を見ても右を見ても見えるのは暗闇だけ。それは視えているというのだろうか。
「チッ…」
痺れを切らしたベジータは体勢を変える。今までは頭が上で足が下のいわゆる〝落下〟の体勢だったが、いつまで経っても底へと辿り着かないので、頭を下にして足を上に向ける。つまり戦いの時によく使う〝降下〟へと移ったのだ。
そのままベジータは猛スピードで下へ降りていく。そうしているとすぐに空気の流れの異変に気付いた。これは底がもうすぐそこであるということに間違いなかった。ベジータはスピードを緩め、やっと視えた地面へとゆっくり着地した。
「ここは…」
何もない。暗く、広いはずの空間なのにやたら窮屈そうに感じるこの場所には、地上との雰囲気とは真逆だった。
このままここに立ち尽くしていても仕方がないので、ベジータは歩き出す。飛んでもよかったのだが、何が起こるかわからないのでとりあえず歩くことにした。
そしてすぐに目の前に何かがみえた。橋である。そしてさらにその先には村、いや都市と言った方が正しいのかもしれない。そのようなものが存在した。
離れていてもわかる。なにやらその場所は活気付いている。それも異常なほどに。
「あそこか…」
とりあえず行くべき場所を決めたベジータ。そして巨大都市に向かおうとして橋を渡ろうとした瞬間────
「まったく…ついてないわ」
「っ…!」
急に暗闇の中から少女が現れた。その少女はゆっくりとベジータの元へと近づいてくる。何を考えているかわからないような表情をしながらも、目だけは冷静にベジータを見つめていた。
「今は旧都で何かやってるらしいわ。そのせいで家に居ても騒がしくて読書に集中できない。どうせみんな旧都に集まってるんだから、誰も此処には居ないと思って外に出たのに…」
彼女はガッカリしながら橋の先を見る。あの都市は『旧都』と呼ばれているみたいだ。しかしベジータにはそんな事どうでもいい。
「そんな事知るか。退け、オレはその先に用がある」
「用?旧都へなんの………」
唐突に少女が黙り込んだ。そして大きく両目を見開いて驚愕の表情でベジータを見つめる。
「貴方…心が無いの?」
震えた声で彼女は問う。その意味がベジータにはわからないし、わかる必要もない。
「オレはきさまと遊んでいるヒマなどない。その旧都とやらに行かせてもらう」
ベジータが強引に進むもうとするも、彼女はベジータの前に立ち塞がった。そして睨むほどベジータを強く見つめ、何か気づいたようにフッと笑う。
「違うわね…心が無いわけじゃない、読みにくいだけ。でもこんな事…初めてだわ」
「きさま…邪魔をするなら消し飛ばすぞ」
さすがにベジータでも本当に消し飛ばす気はない。ただ邪魔な事は変わりないので、少女を本気で脅そうとした。
しかし彼女にはわかっていた
「脅しは私には効かないわ。へぇ…旧都で『強い奴と戦いに来た』のね」
「…なに?」
「『スイカとかいう奴と戦う』…ああ、萃香の事ね」
彼女はベジータの思っている事をズバズバと当ててくる。ベジータは直感した。これは考えている事を予想しているのではなく、正に〝心を読んでいる〟のだと。
そうであれば先程の『貴方…心が無いの?』という一言にも納得がいく。
「理解してくれたようね。とりあえず自己紹介をしましょうか。
私は
「心を……」
ここでベジータは先程の霊夢の言葉を思い出す。
『ベジータ。此の先は恐らくアンタが初めて会うような奴が居るわ。性格的にも能力的にもね。まあそいつはアンタと戦う気なんてさらさらないと思うけど』
「なるほど。きさまが霊夢の言っていた…フン、残念だな霊夢。
心を読まれた体験、それは最近にもあった。界王神の時だ。
「霊夢の言っていた? …やっぱり読みづらい。まず貴方は誰?戦いに行く目的はなに?そもそも人間?」
さとりと名乗る少女はベジータに旧な質問攻めをした。普段は心を読めばこんなこと聞かなくてもわかるのだが、ベジータの心は何故か読みづらく、集中しても少ししか読み取れない。だから普通に会話で聞こうとした。
「オレはベジータだ。別に目的など必要ない。ただ戦うためにオレは幻想郷へと来た」
「……そう。貴方は外来人なのね。なら…今すぐ帰りなさい」
ベジータが外来人だと察したさとりは、唐突に帰るようにベジータへと促した。
「タイミングが悪かったわね。今の旧都は昔みたいに盛んになっているわ。萃香達が起こした変な祭のようなせいでね。今あそこは血の気の多い連中が群がっている。外来人がそんな所に行ってみなさい、ノリで殺されるわよ貴方」
「……」
「萃香達が何をしたいのかわからないけど、妖怪や鬼にはなんともなくても貴方のような人間には正に〝地獄〟よ。萃香に会う前に凶暴な輩に襲われてしまうわ。だから今日は帰りなさ───」
さとりが止めているにも関わらず、ベジータは一瞬でさとりの後ろに回り込み、橋へと足を踏み出した。さとりは何があったかわかっていなく、急にベジータが消えた事にビックリしていたが、すぐに後ろへ振り向いた。
ベジータは橋の上からさとりを見下ろす。
「ククク…なるほど地獄か」
「…何がおかしいの?」
ベジータが笑っている事を不思議に思うさとり。集中して心を読もうかと思ったが、最初の時のように全く読み取れない。
「オレは遅かれ早かれ地獄に行く事になっている。それが今だというだけだ。まあ…このぬるい世界を本当に地獄と呼ぶのなら…の話だがな」
そう伝えた刹那、ベジータの姿は消えた。さとりはどういう事かわからずに唖然として立ち尽くしている。
人の心をこんなにも読みたいと思ったことは、『覚妖怪』にとって初めての経験であった。
はい、第56話でした。
ついに地底へ… そしていきなりさとりへと出会うなんて霊夢はビックリしてるでしょうね。
ではお疲れ様でした。