『ライバルを超えるために幻想入り』も1月の最後をもちまして1周年となりました。ここまで続けてこられたのは皆様のおかげです。
これからもどうか宜しくお願いします。
美鈴の『ビッグ・バン・アタック』とピッコロの『魔貫光殺砲』はぶつかり合った。高威力の技のぶつかり合いは、美鈴にとって守矢神社で早苗と戦った時以来だ。
凄まじい熱、音、圧が美鈴に降り注いだ瞬間、大爆発が起こった。丈夫な作りになっている神殿ですら一部分が崩れ去るくらいの。
美鈴は爆風に吹っ飛ばされ、まだ壊れてなかった柱に背中からぶつかった。痛みはあったが、そんな事より舞い上がった煙の先を見ていた。
───信じられない。
その者は技の反動、爆風を物ともせずに腕を組んだまま立っていた。そう、もちろんピッコロだ。
結果的に2つの技は相殺しあったが、全ての〝気〟と体力を使い切った美鈴は、尻餅をついて立ち上がることすら出来ない。
一方のピッコロは、あれ程の技を放ったにも関わらず、眉の1つも動かさない。息も乱していないどころか、先程よりも冷静になっているように見える。
何故───?
いや、答えは既にわかっていた。
「は、ははは… 全力、ではなかったみたいですね」
そういう事である。
ピッコロが美鈴と同様に目一杯の〝気〟、そして体力を使っていたのなら、ああなってはいなかった。美鈴ほど疲労はないにしろ、息の1つくらいは乱していたはずだ。
ピッコロは周りを見渡す。神殿の様子が気になっていたのだろう。ピッコロ自身もここまでやるつもりはなかったのだ。
「フン きさまの負けだな。紅美鈴」
「そうですね。でもまあ本当の事は言えませんから煮るなり焼くなり好きに…」
急にデカイ〝気〟を感じ口を閉ざす美鈴。
そう、悟空だ。プイプイを界王星に運んでいき、そして帰ってきたのだ。
「終わったみてえだな」
「やはりワザと来なかったのか…いくらなんでも遅すぎるとは思っていたが」
確かに悟空は、美鈴とピッコロが戦い始めてすぐの頃にはもう神殿へ戻ることができていた。しかしあえてそうしなかったのは、ピッコロの考えも十分に理解できているからだ。
『美鈴の存在は危険』
事情を知れば誰だってそう思う。悟空本人ですら少しはそう思っている。
それでも美鈴を側に置いている理由は、いつか強くなった美鈴と戦ってみたいと思っていたからだ。
しかしそれは悟空のエゴ。いくら強く、何度も地球を救ってきたからといって、自ら地球を危険に晒すのは良くない事はわかっている。
だからピッコロを止めなかった。ピッコロは自分よりも地球の事を真面目に、深く考えている。そのピッコロが美鈴は本当に危険で、こちらの世界に留めていてはダメだ。という結論に至ったならば、素直にそれに従うと決めていたのだ。
それが美鈴を殺す事になれば全力で止めに行く準備はできていた。が、ピッコロがそこまでしない事もちゃんと知っていた。
「で、ピッコロ。美鈴はどうだ?」
「……」
この悟空の問いには色々な意味が含まれている事を、ピッコロはすぐに感じ取った。
そしてピッコロの答えは────
「フン! きさまが言っていたほど大した事はない。たとえ何かをしたとしてもいくらでも対処できる!」
「…え?」
「へへッ…!」
これはピッコロなりの承認だった。神のデンデを差し置いているのはともかく、これはピッコロが、いや地球が紅美鈴を
「紅美鈴、今は認めよう。きさまの存在と…強くなりたいという向上心を。
だが忘れるな。きさまがもし何かをしでかそうとするのなら…容赦無くオレが殺してやろう」
「は、はいッ…!」
口元は笑っていたが決して冗談ではない。ピッコロにはその覚悟も力も備わっている。
「だがまあ…悟空、こいつの事はきさまに任せよう」
それでもピッコロがカバーしきれない可能性もある。あくまで1番大事なのは悟空だ。悟空はそんなつもりないかもしれないが、監視役として美鈴を見なければならない。美鈴もそれは重く理解している。
「ああ。わかってるさ」
これらは全て悟空が美鈴と戦いたいからという前提がある。
そこまでして程戦う理由があるか?とピッコロは訊かない。ピッコロだけではなく、美鈴、デンデ、そして戦いの最中にいつの間に居たミスター・ポポも。理解しているからだ。
何を?
孫悟空が『そういう男』だという事に。
理屈ではない。サイヤ人とはそういう生き物だ。
「悟空。もしオレが紅美鈴を殺そうとしたらどうするつもりだったんだ?」
「そりゃあ もちろん止めるさ。けど、おめえがそこまでするわけねえって信じてたけどな」
お互い顔を見合わせてフッ と笑うが、すぐにピッコロは後ろを向いた。
「オレ相手ならすぐに止められるというわけか。相変わらずムカつくヤツだぜ」
「そうじゃねえけどよ〜」
悟空は笑いながら答えるが、美鈴はここで笑ったら殺されるんじゃないかと冷や汗をかいていた。
「それはともかく…悟空。ではオレが紅美鈴を殺さないにしろ、存在を許さないといったらどうするつもりだった?きさまになんとかできる範囲を超えていると思うが」
これにはピッコロも興味があった。あちらからの〝気〟を感じないので『瞬間移動』でも行く事はできない。
考えられる可能性はただ1つ…
「ああ!
「やはり神龍か…しかしいくら神龍でも異世界への入り口を閉ざすなんて事が可能なのか?」
「どうだろうなぁ…誰かの能力で入り口を作ってんだろうけど、まあ頼むだけ頼んでみてダメだったら他を考えりゃいい。てか 結局美鈴が居ていいならこの話は関係ねえさ」
「(悟空さん…意外と鋭い…)」
美鈴は内心ドキドキしながら聞いていた。この2人、特にピッコロはかなり頭が回るからだ。
「まあそうだが…」
しかし予防線は張っておかなければならない。
今では考えられないがもし美鈴が自分、さらに悟空に匹敵する力を持ったなら、戦うより今悟空が話した通りに追放した方が早い。
…と考えておいた方がいいが、悟空が戦いたがるだろうから考えるだけ無駄とピッコロは思い至った。
「あのー…」
「ん?なんだ美鈴。腹減ったのか?」
確かに力を使いきり腹が減っているが、美鈴が言いたいのはそんな事ではない。
「異世界への入り口を閉ざすって、ししょ…ベジータさんが帰ってこれなくなるのでは?」
美鈴がこちらへ来られたのは、八雲紫の『境界を操る程度の能力』のおかげだ。だから、恐らく入り口を閉ざす事など不可能だとは思うが、美鈴が一言も言及していない『異世界がある』という2人の考えは当たっているので一応聞いてみた。
「はははッ!そういやベジータの事すっかり忘れてたな!
まあそれも神龍に頼めばいいんじゃねえか?」
「そ、そうですか…」
神龍というものがよくわかっていない中、ベジータについてすっかり忘れていた悟空を、ベジータ本人が見たら絶対に怒るだろうなぁ…と美鈴はしみじみ感じていた。
──幻想郷──
ベジータはアリスが作った夕食を平らげた後、そのまま眠り、ついに出発の朝が来た。向かう先は当然『地底』である。
まだ辺りは薄暗い。しかしベジータはその中1人で朝の稽古をしていた。
「ふッ! はあッ!」
上半身は裸で、少し汗をかいていた。恐らく辺りが真っ暗な時からしていたのだろう。
1人黙々と稽古をする中でも、コソコソと周りをうろつく影はいち早く察知できた。
「このオレを相手に〝気〟を抑えたくらいでバレないと思ったか?魔理沙!」
「…!流石だな…」
木の影から魔理沙がひょこっと出てきた。ベジータの見よう見まねで〝気〟について特訓してきたのだが、完全に消す程にはまだ至ってはいなかったようだ。
「何しにきた…とは言わん。眼を見ればわかる」
魔理沙の眼は闘争心で燃えていた。まるで獲物を狩る時の獣のようだ。ベジータ標的しか魔理沙にはもう見えていない。
「ふふふ…やっぱりお前は凄いなベジータ。
私はお前に負けて死に物狂いで修行した。短期間だけど、本当に努力した。なんでそんな事したかって?もちろん…負けたのが悔しかったからさッ!」
負けたあの時は表情に出さなかったが、魔理沙はあの時かなり悔しい思いをしていた。全力で戦わない相手に負けることがこんなにも情けなく、悔しい思いをするとは思わなかった。それを知ることができたという点ではベジータに感謝をしている。
「『力の封印』をしているんだったよな…でももちろん手加減なんてしないぜ!それがお前の望みだろ?」
「ククク…やはりリベンジか。ああ、もちろん手加減なんてしなくていい。いや…むしろそんな事したらぶっ殺すッ!」
リベンジに燃える魔法使いと、それを返り討ちにせんとするサイヤ人の戦いが、再び始まろうとしていた───!
はい、第52話でした。
「オレはこの時を──ずっと待っていた!」
ということで久々のベジータでした。
この話をもちまして4章の終わりです。次からは5章となりますが、悟空や美鈴達の話もちょこちょこ挟んでいくので、よろしくお願いします。
ではお疲れ様でした。