私事ですが、先日誕生日を迎えました。今1番欲しいプレゼントは『単位』です(泣)
「はぁーっ!食った食ったー!」
〝何か〟を思いついた悟空は、とりあえず家に帰ってきて昼食をとっていた。自分が考えていることに余程の自信があるのか、ニヤニヤしながら頬張っていることをチチは不思議に思っていた。
「ずいぶんとゴキゲンだな悟空さ。何かいいことあっただか?」
「まあな!…っとこれが美鈴の弁当だな?持っていくぞ」
机に置いてある弁当を取り、人差し指と中指を自分のデコに持ってきた。
『瞬間移動』をするのだろう。
「………お、あったあった!じゃあ行ってくる!」
誰かの〝気〟を見つけた悟空は、『瞬間移動』でその者の場所へ向かった。
「………」
大きな建物の屋上。そこには1人の青年が立っており、何か考え事をしていた。
ここは見渡す限りの都会。右を見ても左を見てもビルが並んでいる。下の道路からは車の音や、女の子のキャッキャ騒ぐ声が聞こえてくるが、集中している青年の耳には入っていないだろう。
「どうしたの?悟飯くん」
そう、その青年の名は孫悟飯という。孫悟空とチチの息子である。
話しかけてきた女性は悟飯の友人のビーデル。ビーデルは地球を救ったと言われているミスター・サタンの実の娘だ。
「…感じるんだ。強い〝気〟を。
1ヶ月くらい前から…ずっと」
悟飯は学校の長期研修が始まって少しした頃から、ある違和感を覚えていた。
それは急に家の近くに〝異質な気〟が出現した事だ。
最初はまた新たな敵が現れたのかと思った。駆けつけようとも思ったが、家には悟空がいる。強いといっても悟空の相手になる程ではない。なので自分が行くまでもないだろうと考えたのだ。
「……そんなに強いの?」
心配そうに悟飯に聞く。気になるのも無理はない。ビーデルはあの魔人ブウを見てきたのだから。
「いや、脅威になる程じゃないと思う。それに多分だけど敵じゃないと思うんだ。1ヶ月間ずっと滞在してるってことは…もしかしておとうさんに修行をつけて貰ってるんじゃないかな」
悟飯の予想は当たっていた。
「悟空さんに?なるほど…その人が気になるの?」
悟飯が黙り込む。1度目を瞑って、再び開けたかと思うと同時に口も開いた。
「成長速度が〝異常に速い〟んだ。昨日まで荒々しかった〝気〟が今日には落ち着いている…ただ抑えているわけじゃない。まるでおとうさんとボクが……」
「…え?」
「ハ、ハハハ…なんでもないよ!」
〔まるでおとうさんとボクが、精神と時の部屋で修行をした後みたいだ〕
悟飯はそう言おうとしたがやめた。途中まで言いかけてなぜやめたのかは悟飯自身もよくわからなかった。
「なにさ急に…あっ!もうこんな時間!悟飯くん、わたし先に行くわよ!」
「え?あ、うん…」
「悟飯くんも早くきなさいよー?」
最後に一言伝えて、ビーデルは屋上を去って行った。お昼の時間ももうそろそろ終わりだ。
「さて…ボクも行こうかな」
悟飯もビーデルに続いて戻ろうとした。
その瞬間。
「よ!悟飯!」
『瞬間移動』で悟空が現れた。
「お、おとうさん!?どうしたんですか?」
悟空が何も用がなく来る筈もない。ニッとした笑顔に、悟飯は嫌な予感を感じていた。
「悟飯、おめえに頼みたい事があるんだ」
「頼みたい事?」
「ああ。頼みたい事ってのはな………」
「…なるほど。オリジナルの『界王拳』を会得するために、ボクにその…紅美鈴さんという人と戦ってほしいと」
悟空なりにわかりやすく説明した。しかしまだ肝心なことを伝えていない。
「そうそう!頼む悟飯!」
「なぜボクなんですか?おとうさんが戦えばいいんじゃ…?」
急に悟空が真顔になる。そんな悟空を見た悟飯は何か事情がありそうだ、と感じた。
「たぶんだけど…美鈴は身内に対しては本気になれねえんだと思うんだ。あいつは感情によって力が爆発的に変わる。 …怒りによってスーパーサイヤ人を超えた悟飯、おめえみたいにな」
「………」
「だからおめえに〝敵〟として美鈴の前に現れてほしいんだ。 …美鈴が技を会得するために」
身内が相手だと美鈴は本気になれない。だから〝敵〟を演じることによって、美鈴を本気にさせよう。
というのが悟空の考えた案だったのだ。
「おとうさんの考えはわかりました。しかし今ボクは学校の研修で忙しくて…」
勿論悟空の気持ちはよくわかったし、その紅美鈴という女性にも手を貸してあげたい。
しかし、今悟飯は大事な時期だ。時間はいくらあっても足りない。
「心配すんなって!おめえならなんとかなるさ!
それに……」
「それに?」
「おめえの、あのおかしなカッコ!グレートサイヤマン…だっけ?
あれ〝悪役〟にピッタリじゃねえかーっ!」
「……………………」
「ん?どうした悟飯」
悟空は知らない。自分が全速力で地雷を踏みに行ったことを。
「おとうさん。言っておきますけど…」
「お、おう…?」
悟飯の凄まじい威圧感に、悟空はおもわず後退りしてしまう。
「グレートサイヤマンは正義のヒーローですッ!!!
どんな事情があろうともッ!悪人の真似事なんてできませんしッ!やりたくもありませんッ!!!」
「いっ…いいいいい!?」
町中に聞こえたのではないかと思わせるほど、悟飯の声は大きく響いた。
下の道路でたくさんの車が、あまりの声のデカさに衝突しそうになったくらいだ。
「ご、悟飯…?」
「お昼休みも終わりなのでッ!失礼しますッ!」
ドスドスドスと大きな足音を立てながら、悟飯は下へ降りて行ってしまった。戦闘以外でこんなに怒る悟飯を見たのは、悟空ですら初めてだった。
静まり返った屋上に、悟空だけがポカーンと置いてけぼりにされた。
「お、オラなんか悪いこと言っちまったかな…」
しかし自覚はない。前の天下一武道会から思っていた事を口に出しただけなのだ。
「〝はんこうき〟っちゅうやつかな…それにしても参ったなぁ…」
さっきの調子だと、日を改めても悟飯はやってくれないだろう。
「うーん…悪人か………っ!
そっかベジータに!!!……そういやあいつ居ないんだったな…」
悪人と考えると、悟空からしたらベジータしか思い浮かばない。しかしベジータがいたとしても絶対にやってくれないだろう。
「………」
悟空は真剣に頭の中で考えてみる。クリリンやヤムチャなどに頼もうとも考えだが、美鈴の潜在能力的に、十分な力の差がある者に頼みたかったからやめておいた。
「あーーーーッ!!!いるじゃねえかピッタリのやつが!!!」
ずっと黙っていた悟空が適任を見つけたらしく、大きな声をあげた。今度こそは大丈夫という確信を持ちながら、再び『瞬間移動』でその者の場所へ向かった。
ー神殿ー
「ふッ!はぁッ!」
ここは神殿。カリン塔の上部に存在する、ぽっかりと浮いた神聖な建物である。
そこにはピッコロが1人で修行をしていた。
魔人ブウとの戦いでは、ピッコロは戦力としては役に立てなかった。
悟天とトランクスがフュージョンした戦士『ゴテンクス』がブウと戦った際にも、時間切れで元に戻った時に、悟飯が駆けつけてくれなければあっさり殺されてしまっただろう。
「よーっ!ピッコロ
「……何を言ってる悟空」
『瞬間移動』で現れた悟空。そして急に変なことを言い出した。
「修行中か?」
「ああ。それより悟空、ベジータの事なんだが…」
ピッコロはベジータが『精神と時の部屋』に入った事を知っていた。
しかしピッコロはおかしいと感じたことがある。ベジータがいつまで経っても出てこないからだ。
「ああ。それもちゃんと説明する」
「なるほど。近頃きさまに接近してきた紅美鈴という女が、ベジータと何か関係がある…と」
「らしいな。まぁ詳しくはオラにも教えてくれねえんだけど」
ピッコロは腕組みをして考える。
「その女に関してはオレも気になっていた。きさまが修行をつけてやってるんだろう?」
「ああ!その事に関してなんだけどな…」
悟空は先程悟飯にした説明をピッコロにもした。
「なッ!なんでオレがそんな事をしなけりゃならんのだッ!」
当然の反応である。
「頼むよピッコロ。おめえしかいねえんだ」
「ふ、ふざけるな!…大体、その紅美鈴とかいったか?そんな素性もしれない奴に修行をつけることすらオレは反対だ!」
「いいか?悟空。そいつはベジータの居場所も、自分が何処から来たのかも言わないらしいな?もしかしたら…そいつがベジータを殺った可能性だってあるんだぞ!」
確かにピッコロの言うことも一理ある。自分が何処から来たのかも言えないくらい怪しい相手に、修行をつけてやる必要性がない。
「…かもな。でもピッコロ、おめえベジータがそんな簡単にやられると思うか?」
「あくまで可能性の話だ。オレもベジータがやられるとは思ってない」
「それによ…ベジータは『精神と時の部屋』から出てこなかったんだろ?」
「ああ…………っ!」
ピッコロが何かに気付いた。そのピッコロを見て悟空もニヤッと笑った。
「…紅美鈴とか言う女が『精神と時の部屋』に
この事からある可能性が浮かび上がった。
「まさか…あの女、〝別の次元〟から来たと言うことか?魔人ブウやゴテンクスが次元の壁に穴を開けたみたいに?」
そう、入り口から入っていないということはそう言う事になる。しかし魔人ブウやゴテンクスでようやく小さな穴が開く程度なのに、美鈴がそんな穴を開けられるとは思えない。
「ん〜…それはどうだろうな。オラは多分美鈴は他の世界から来たんだと思うけど、次元の壁に穴を開けて来たとは思えねえな」
「何故だ?」
「そもそも他の世界…つまり異世界から穴を開けて来たとしても、『精神と時の部屋』にいけるとは限らねえだろ?」
その通りだ。次元の壁に穴を開けたとしても、『精神と時の部屋』に辿り着く可能性など限りなく0に近いだろう。
「オラは…多分なんかの能力を使って『精神と時の部屋』に来たんだと思う。そしてベジータをあっちの世界に連れていった」
「なるほど…だがあの女にそこまでの能力があるとは思えんが…」
「オラも思わねえぞ?でも美鈴の仲間って可能性はあるだろ?美鈴の仲間がベジータを連れていった。そして美鈴がベジータに修行をつけてもらい、何故か美鈴をこっちの世界に送ってきた」
悟空の考察は当たっていた。今日はよく頭が働く日だ。
「仮に悟空の考えが当たっているとしよう。だがそしたら何のためにそいつらは動いているんだ?」
1番肝心な問題だ。これに関しては悟空もよくわからないので答えようがない。
「わかんねえけど…まあいいじゃねえか!
それよりさっきの話、引き受けてくれるんか?」
「な!?悟空!!
お前そこまで考えついているのにまだ修行をつけてやる気か!?」
強引に話を戻す悟空。直前の話をなかったかのように話す悟空にピッコロが驚く。
小さい可能性だが、異世界の住人がこの地球を攻めてこないとも限らない。美鈴を強くする事がこの地球の脅威になる…とまでいかないが、そんな嫌な予感をピッコロは感じ取っていた。
「あたりまえだろ?美鈴はもっと強くなる。そんな美鈴をオラは見てみてえんだ」
「………」
悟空は美鈴が何か隠していることを知っている。が、だからと言って怪しいとは思わない。
人には言えないことだって当然美鈴にもある。そんなどうでもいい事より、強くなった美鈴を見たい。ただそれだけなのだ。
「全くきさまという奴は………
仕方ない……いいだろう。引き受けてやる」
「ほんとか!?サンキューピッコロ!」
「フッ…オレ様はピッコロ大魔王だ」
割とノリのいいピッコロ。
何かあっても悟空がいる。悟空ならなんとかしてくれる。そんな安心感をピッコロもやはり感じていたのだ。
そもそも異世界の住人が攻めてくるなんて可能性などほぼ無いだろう。
「今から戦えばいいのか?オレはその女になんの感情もない。殺してしまっても文句を言うなよ?」
「…うん、そんくらいの気持ちできてくれ。
戦うのは明日だ。夜になったらまたここにくっから、そん時に色々と決めようぜ!」
そう言いながら悟空は『瞬間移動』のポーズをとった。
「あ、悟飯のグレートサイヤマン?の衣装一応いるか?」
「きっ、着るかあんなモノッ!」
全力で否定するピッコロ。そもそもピッコロならそのままの見た目で十分悪人っぽいので大丈夫だろう。
「そっか!じゃあなピッコロ!頼むぞ!」
満足気な表情をしながら悟空は行ってしまった。ピッコロはふぅ〜…と息を吐いて上を向く。
「あれ?今悟空さんが来てませんでしたか?」
建物の中からピッコロに似た者が出てきた。彼はデンデと言って、この地球の『神』である。
「…しらんぞ」
「え?」
「どうなってもしらんぞ…!」
今更になってちょっとだけ後悔をしたピッコロなのであった。
はい、第47話でした。
できればこの話で戦うところまでしたかったのですが、長くなってしまったので次の話に持ち越しです。
ではお疲れ様でした。