ついに夏休みが終わってしまいました。冬休みー!はやくきてくれーっ!
空は青い。
住んでいる世界は違えど、それは間違いない。
なぜ青いのだろう?青じゃなければならなかったのだろうか。
むしろ青いからこそ空なのだろうか。
「……あーーーー……」
仰向けに寝っ転がっていた美鈴は、意味なくそんなことを考えていた。
「……………んっ」
また意味もなく手を空へ向ける。当然自分の手は空まで届くことはない。
「なんで太陽さんはこんなにも輝いているのかな…」
不意に口から溢れた。意識してなくても勝手に思った事が声になってしまうのだ。
しかしそんなことわかる筈もない。恐らく一生考えたところで美鈴が知ることはないだろう。
だがそれは悪い事であるのか?
否、悪い筈がない。
人であろうが妖怪であろうがわからない事など当たり前のように存在する。むしろ大きく考えるのならばわからない事だらけだろう。1人、もしくは1匹の人や妖怪が知り得る知識などたかが知れている。
「ほんっと…わからない事ばっかりね」
すぐ近くまで来ている悟空の〝気〟を感じ取った美鈴は、「よいしょ」と上体を起こした。
そして手をつき地面から立ち上がり、服についた土と砂を手でパタパタとはたいた。
「遅くなっちまったな」
昼食をとるために一旦家に帰っていた悟空が戻ってきた。
悟空のことだ。昼も大量の食事をとってきたことだろう。
「いやいや、思ってたよりずっと早かったですよ?」
「そうか? …ほら、弁当だ!もう食べられるだろ?」
悟空は風呂敷に包んでいた弁当とお茶を美鈴に渡した。女性の昼食にしてはなかなか量が多い。
しかしそれ以上に美鈴は気になる事があった。
「はい大丈夫です。ありがとうございます。
…それよりなんで悟空さんもお弁当を?」
「ははは!美鈴が弁当食ってる間に色々聞きたいこともあるし、オラも弁当作ってもらったんだ!」
先程家で昼食をとってきたにもかかわらず、悟空はまた弁当を開けて食べ始めた。
美鈴の弁当も大きなものだったが、悟空のは重箱で、5段も積み重なれていた。
美鈴はそんな悟空を見てやはり常識外れな男だと再認識した。
「…とりあえず、頂きます」
美鈴も地面に胡座をかいて座った。
そして布に包まれていたお弁当箱を開ける。するとその中には色とりどりの料理が詰め込まれていた。
「うわあ…美味しそう!」
箸を手に取り、まずは唐揚げを口に運ぶ。
程よく温かく、歯で噛みきると肉汁がブワッと溢れ出した。見た目通りに味もすごく良い。
「チチさんって料理が凄く上手いんですね。
憧れるなぁ…そういう女性」
美鈴も女だ。肉体的な強さも勿論だが、こういう女性らしい事も出来るようになりたいと思っているのも本音であった。
「ああ!チチは料理がすごくうめーな!
毎日毎日めいいっぱい作ってくれっぞ!」
主婦というのは当然毎日料理を作る。
が、チチの場合は作る量が桁違いだ。
悟空、悟天、今は家に居ないが悟飯も居る。並大抵な者では毎日料理を作り続けることはできないだろう。
「へぇ〜…主婦ってすごいんだなぁ…」
感心しながらも料理を口に運びモグモグさせる。
悟空も話しながらモグモグと噛んでいるが、噛む回数は美鈴の10分の1くらいだ。
「そうだ、そういえばオラ美鈴に聞きたい事があるんだけどさ」
食事の手を止めて悟空が言う。
「はい、なんでしょう?」
「おめえ、どっから来たんだ?」
「……私はとある田舎から此処へ来ました。
悟空さんのような強い方に修行をしてもらって強くなりたかったからです」
チチからも同じ質問をされた。あの時はチチが途中で聞くのをやめたからなんとかなったが、悟空相手にはそういうわけにはいかないと思い、適当な嘘をついた。
「ちがう、そうじゃねえ」
「…そうじゃない、とは?」
「おめえは
そもそも人間かどーかもわかんねーけどな」
「…どういう事ですか?」
美鈴はそれを聞いて少し黙った。
が、すぐに返答する。ずっと黙りこんでいたら怪しまれると思ったからだ。いくら悟空といえど異世界から来たとは言えない。
「わかんねえか?おめえが嘘ついてるって事だ」
「………」
また美鈴が黙り込む。悪い癖だ。
「もっかい聞くぞ。おめえはどっから来たんだ?」
「………(う〜…助けて紫さん!)」
美鈴の心の声はもちろん紫に届くことはない。
心が折れそうになり、事情を話そうとしたその瞬間。
「まっ、別にいーけどな!」
「は、はえ?」
悟空はにっこりと笑った。
「別におめえがなんだろうがオラには関係ないしな」
確かにそうだ。でも気にならないのだろうか。
『話さなければ修行をつけない』
こう言えば美鈴は言わざるを得ない状況となったのに。それを言わなかったのはそれを思い浮かばなかったか、はたまた優しさなのかは悟空しかわからない。
「す、すいません…」
「何謝ってんだ?それより早く食って修行するぞ!」
悟空は止めていた箸をまた動かし、料理を食べだした。
美鈴は悟空に出逢えたことを感謝しつつ、箸を進めていた。
「よし!じゃあ始めっか!」
「はい!」
修行をするとは言え何をするんだろう…
そう美鈴は思っていた。単なる組手なのか、それとも強力な技の伝授なのか。
なんにせよワクワクが止まらなかった。
「あ!そういえば悟空さん、さっきの組手で気になった事があったんですけど」
「ん?なんだ?」
「私が悟空さんを岩まで吹っ飛ばした後、一瞬で私の後ろに回り込んだじゃないですか。
アレはどうやったんですか?」
戦闘中も気になっていた。
戦い終わった今、冷静に考えてもやっぱりわからない。
「ああアレか。
アレは『瞬間移動』だ」
「瞬間移動?」
「ああ。瞬間移動ってのはな…」
「…ってやつだな」
「………」
美鈴は言葉が出なかった。
改めて自分はとんでもない化け物と戦ったのだと実感した。
「凄い…凄すぎますよ悟空さん!
お願いです!私にも瞬間移動教えてください!」
「えっ?」
悟空は瞬間移動を仲間に何度も見せた事があるが、教えてくれと言われたのは初めてである。
なぜこんな便利な技を皆が悟空から教わらないのかというと、それはこんな高度な技を自分が出来るわけないと思っているからである。
しかし美鈴は笑顔で聞いてくる。
もちろん美鈴も簡単な事ではないとは重々承知しているが、それよりも『やってみたい』という気持ちの方が大きいのだ。
「うーん…教えてもいいけど、時間がかかるだろうからなぁ…一旦置いとこう」
「わかりました!」
美鈴はハキハキしている。
もうなんでもいいから教えてもらえればいいと思っているのだ。
「…美鈴、おめえなんか修行をつけてほしいっていうか、ただ技を教えてもらいたいだけなんじゃねえか?」
「い、いやそんな事ないですよ?ハ、ハハハ…」
図星か。と悟空は確信した。
「なんかおめえよくわかんねえ奴だなぁ…」
「エヘヘ…」
「…よし決めた!
とりあえずオラはおめえに技を教えねえ!」
「はい! ……え? ええええええ!??」
威勢良く返事をしたが、すぐに冷静になった。
「何故ですか!?」
「美鈴、おめえは技に頼りすぎてる。
なまじ強い技を覚えちまったせいでな」
確かに美鈴はベジータの『ビッグ・バン・アタック』を覚えたら、それに依存する戦い方になってしまった。
相手が相手だという事もあり、仕方ないといえばそうなのだが。
「それはそうですけど…やっぱり技っていうものは大事じゃないですかぁ…」
右手と左手の人差し指をくっつけたり離したりしながら、涙目で悟空に訴える。
「オラは別に技を使うなって言ってるわけじゃねーぞ?オラからは教えないって言ってるだけだ」
「え?」
「美鈴、ちょっと離れてろ」
唐突に悟空が言う。
美鈴は言う通りに5歩程度下がった。
「ふぅ…」
「(…!? 空気が変わった…!!!)」
悟空の周りの空気が一瞬にして変わった。
「『界王拳』ッ!!!」
「なッ!?」
凄まじい勢いで悟空の〝気〟が上がっていく。
スーパーサイヤ人と似ているが根本が違った。
「ふう、これが界王拳だ」
「…凄い。凄いですよ悟空さん!
私さっきから凄いしか言ってませんが、それほど凄いのです!」
美鈴の真っすぐの気持ちは嬉しいが、正直これくらいで凄い凄い言っているようじゃこの先少し心配だと悟空は思った。
「これを私に習得しろと言っているのですね!」
「いやちげえぞ!オラからは教えねえってさっき言ったばかりだろ!」
1分前の事も忘れていた美鈴。
それほど悟空の『界王拳』が凄かったのか、それとも美鈴が抜けているだけなのか。
「そういえばそうでした!
…それでは何故それを私に見せたんですか?」
「はぁ…」
悟空は溜息しながら『界王拳』を解く。
そして腕組みしながら説明に入る。
「界王拳はな、体力をかなり消費するんだ。
だから使った後にどっとカラダに負担がくる」
「ふむふむ」
「だからおめえにはあんまし合ってねーと思うんだ。
恐らく美鈴が界王拳を使っても負担が大きすぎてカラダがまともに動かねえだろうな」
『界王拳』は悟空すらも使った後にはカラダに負担がくる。そんな技を美鈴が使うものなら自殺行為にしかならないと悟空は考えたのだ。
少なくとも
「まさか…」
何かを察したように美鈴が声を出す。
「へへっ 多分おめえが思ってる通りだ」
ゴクリと美鈴が唾を飲む声が悟空にも聞こえる。
「美鈴!おめえは今から界王拳をアレンジしてみろ!
おめえだけの界王拳をつくるんだ!」
はい、第45話でした。
皆様お久しぶりです。色々と忙しかったり忙しくなかったりして投稿が遅れてしまいました。
次はできるだけはやく投稿したいと思ってるので、よかったら読み続けてください!
ではお疲れ様でした。