はやく夏休みきてくれ…
ー孫家ー
「………」
明日の朝から修行だと悟空に言われた美鈴は、風呂に入った後すぐさまベッドに入り眠ろうとした…が
「………寝れない」
遠足を心待ちにしている小学生のようだった。
ベジータに修行を受けてもらう前日はすぐ寝て、すぐ起きることができていたが…ここは紅魔館ではない。いつもと違う場所ということもあり中々寝つけなかった。
「寝れない時は…羊を………」
美鈴は有名な『脳内で羊を数える』という方法を試すことにした。普段何処でも立ってでも寝られる美鈴にとって初めての試みとなった。
「ふう……羊が1匹…羊が2匹…羊が3匹…」
目を瞑り、ひたすらと羊を数えていく。こんな事で本当に安眠できるのかと思いつつ、50匹を超えたあたりから何か変わっていった。
「羊がーーーー………」
「おいきさま…何をやっている」
「え?師匠…?」
何故か美鈴の前にベジータが現れた。腕組みをしたまま仁王立ちしており、とても不機嫌そうな表情だ。
「何をやっているのかを聞いているんだ」
「いや…羊を数えているのですが…」
「……」
ベジータの表情はどんどん曇っていく。
「そんなヒマがあったら修行したらどうだ?」
「いやでも…」
「!!」
ベジータは美鈴に向けて手を差し出す。差し出すといっても差し伸べているわけではなく、手のひらを美鈴に向けているのだ。
「し、師匠…?一体何を…」
「『ビッグ・バン・アタック』!!!」
「なッ、なにをッ…!」
「りゅ、りゅうけーんッ!!!!!」
美鈴はベジータに向かって拳を突き出した…つもりだった。
「…アレ?」
「……何やってんだおめえ」
部屋のドアを開けたまま悟空が変なものを見る目で美鈴を見ている。日差しが眩しく、鳥がチュンチュン鳴く声が聞こえる。どうやら朝みたいだ。
「はぁー…早く寝ろって言っただろ?朝メシできてっぞ!」
「いやその…すいません」
悟空は美鈴の謝罪など聞く前に戻っていってしまった。ハラが減っていたのですぐにでも食べたかったのだろう。
「…全然寝た気がしない」
二度寝をしたい気持ちに襲われたが、そこはぐっと我慢して起き上がった。そして支度をした後、悟空たちの元へと向かった。
「おはようございます」
「随分ねぼすけさんみたいだな」
いきなりチチが毒を吐く。まるで嫁姑の関係みたいだ。しかし美鈴の事を嫌いというわけではないということはわかっていたので、悟空、悟天、美鈴の3人は笑って聞いていた。
「おねえちゃん今日ボクと遊ぼ!」
美鈴が席につくと一目散に悟天が言ってくる。悟天にとっては美鈴は遊び相手には丁度いいらしい。
「あ、私はですね…」
「ダメだぞ悟天。美鈴は父ちゃんと修行をするんだ」
昨日のように口の中に料理を詰め込みながら悟空は悟天に言う。しかし昨日と違ってはっきり言葉が聞き取れた。
そういえば朝だというのに昨日の夕食となんら変わらない量の朝食が用意されていた。
しかしそれも悟空と悟天の前にあっさりと消えていく。
「なんだ?悟空さ、こいつと修行するのか?」
「ああ!美鈴はきっと強くなれっぞ!オラはそう思うんだ!」
悟空ほどの男にそう言われるのは嬉しい。が、正直期待されすぎるのも美鈴にとってはプレッシャーになる。
「……」
今からの修行を期待、楽しみ、緊張など、胸に様々な思いを抱きながらも、黙ってモグモグさせながら美鈴は料理を胃に運んだ。
「うし!ごちそうさま!」
「ご馳走様でした!」
きちんとテーブルの上にのっている皿を空にした後、悟空は立ち上がった。それを見た美鈴も同じように立ち上がり、いつでもいけます!と言わんばかりの顔をしていた。
「じゃあ行くか!」
悟空と美鈴は外へ出た。しかし家の近くで修行をするわけではない。
「美鈴、オラについてこい」
悟空は走って何処かへ向かう。シュババと音を立てながら、地面、岩を駆け、凄いスピードで風を切っている。
「うっ…速い!」
悟空は凄いスピードで走っているが、美鈴がついていけないほどではない。これも修行の一部であると感じた美鈴はなんの文句も言わずに悟空の背中を追いかけていた。
「うん、ここでいいか」
悟空と美鈴は家からかなり離れた場所に来た。しかし悟空も美鈴が駆けるスピードが速かったため、時間はそれほどかからなかった。
周りには建物や、森などの自然もない。あるのはゴツゴツの岩だけだ。いかにも〝修行場〟らしい雰囲気が漂っていて、美鈴は更にワクワクした。
「あのう、悟空さんはいつもここで修行を?」
「いやあ いつもってわけじゃねーぞ。別に家でも修行できるしな!」
悟空からしたら〝修行〟というのは何も特別なことではない。『食って寝て修行をする』という毎日の生活サイクルの1つなのだ。
「なるほど。そして悟空さんに1つ聞きたいのですが…」
「ん?なんだ?」
此処に来てからなんだか質問攻めだなと自分でも思いつつ、美鈴は悟空に聞こうとする。
「悟空さんは『サイヤ人』なんですか?」
ずっと気になっていたことだ。昨日に悟天と戦った時、悟天の髪は金色に変わっていた。もちろん暴走ではなく、自分の意思でなっていた。
そしてそれは幻想郷でみた、ベジータの『スーパーサイヤ人』と全く一緒だった。見た目だけではなく、戦闘力が爆発的に上がるという点も一致した。
そして悟空の答えは
「ああ、オラサイヤ人だぞ。地球育ちだけどな」
「(地球育ち…?)」
答えが返ってきたことにより、新たな疑問も生まれた。しかし肝心なことはわかった。
悟空はベジータと同じ『サイヤ人』であると。
「なんでおめえサイヤ人の事知ってんだ?」
「えっ?いやその…風の噂で!」
ニコッ!と美鈴は笑う。それをみて悟空もニコッと笑った。悟空も馬鹿ではない。明らかに美鈴を疑っている様子だ。
「そ、それで修行はまず何から始めるんですか?」
美鈴は怪しまれていることに気づいていたので、すぐさま話題を変える。
「そうだな……よし!まずは手合わせしてみっか!」
悟空はまず美鈴と手合わせをすることに決めた。特に順序を立ててやろうとは考えていない。とりあえず美鈴と戦ってみたいという思いが、悟空にそう言わせたのだ。
「…お願いします!」
美鈴も同じ気持ちだった。悟空と戦ってみたいという思いで胸が一杯だった。
しかし同じ気持ちであっても、悟空と美鈴では微妙に違う。悟空は、美鈴に今まで戦った者とは違う〝何か〟を感じていた。正直に言うとただ〝珍しいもの見たさ〟なだけである。
一方美鈴は、悟空から感じる底なしの〝強さ〟に興味を惹かれていた。闘志を表に出さなくてもわかる、百戦錬磨の実力だ。それほどの実力者は、異世界を含めこの世に何人といないだろう。
「じゃあ…かかってこい!」
「はいッ!」
真剣な顔で構えた悟空に美鈴は向かっていった。
はい第41話でした。
もう41話ということに驚きを隠せないです。
ではお疲れ様でした。