魔理沙は犠牲になったのだ…
『孫悟空』と男は名乗った。それを聞いてまず美鈴が思いついたのは、自分と名前の系統が似てるなぁといった子供並みの感想だった。直後になぜ悟天の時はそう思わなかったのか疑問に思う。
「ご、悟空さん…すいませんお邪魔しています」
美鈴の脳内の中とは違い、現実では思った通りに声が出ない。悟空の気に圧倒されているというわけではなく、ただ単に緊張しているだけだ。
「気にすんなって!それよりチチ、オラもうハラペコペコだぞ〜!」
美鈴が居ても普段通りの振る舞いをする。悟空は人によって態度を変えることはないからだ。
ポンと美鈴の肩を叩いた後、悟空は沢山の料理が並ぶテーブルに歩いていった。
「まったく悟空さは…悟天!おっとうのメシ作るから手伝ってくれねえか?」
「わかったー!」
すでに大量の料理が乗っているにもかかわらず、チチはさらに料理を作る準備を始める。悟天はいつものように、チチの手伝いをする形になった。
テーブルには料理を心待ちにしている悟空と美鈴の2人きりとなった。
「(…………きっ…気まずいッ!!!)」
美鈴は猛烈な気まずさに襲われた。確かに知らない男と急に2人きりになったらそうなっても致し方ない。そうならなかったのは今まで1人だけだ。
「………」
悟空はジーッと美鈴を見ていた。先ほどのテンションから見るに明るい性格だと思っていたが、話しかけて来たりはしてこない。
「(な…なにか話題を………そうだ!)」
何か閃いた美鈴が口を開いた。
「悟空さんはどんな仕事をしているんですか?」
美鈴は思い出したのだ。以前、パチュリーの図書館で読んだ『初対面の人と親しくなるには』という本で見た内容を。
外の世界ではどんな仕事をしているか聞いておけば、とりあえずそこから何か話を広げることができる。と書いてあったのだ。
しかし今回は〝聞いた相手〟が悪かった。
「ん?オラ働いてねえけど…」
「あっ…」
美鈴は本能的に感じた。〝終わった〟と。何に関して終わったのかすらわからなかったが、とりあえずそう感じたのだ。
「まったく!恥ずかしいから自分からそんなこと言わねえでけろ!」
ドンッと料理を強く机の上に置いたチチが嘆く。
「ハハハハハッ!でもオラ聞かれたから答えただけだぞ?」
「(ほっ……)」
なんとか笑い話になってよかったと、美鈴は心の中で胸を撫で下ろした。プリプリ怒りながら再び料理を作りにいくチチの姿が、美鈴には天使に見えていた。
「そういうおめえは何をしてんだ?」
今度は同じ質問を悟空が美鈴にした。答え方は本には載っていなかったので一瞬考えたが、よくよく考えるとすぐに答えは出て来た。
「私は門番をしています」
「門番?」
悟空が首をかしげる。この世界では門番は珍しいのだろうかと思いつつ、また考えた。
「あっ、えっと門番っていうのは…主のいる館に、侵入者が入らないようにする者のことです」
わかりやすく説明した。悟空はおお〜と若干嬉しそうにしながら聞いていた。
「門番なのにこんなトコに来てていいのか?」
ん?と疑問に思った悟空が問う。確かに門番なのに門を守ってないというのはおかしいので、当然といえば当然の質問である。
「………」
それを聞くと、美鈴は何かを思い出しうつむいた。悟空も何かあるんだなと素早く察し、これ以上は何も言わなかったが、美鈴から口を開いた。
「私は…敗れたんです。門番として絶対に勝たなきゃいけなかったのに…ある人に敗れました」
「それに…その人は実力の全てを出し切っていなかった。手加減されていたのに…相手にもならなかった…」
「私は強くならないといけない。なので今は私を
美鈴は本音をさらけ出していたため、ところどころ敬語ではなく素の話し方になっていた。それがさらに美鈴の本気さを感じた。
「…そうか。おめえも強くなりたいんだな」
「悟空さんもですか?」
「ああ!オラも強くなりてえ!宇宙にはオラよりもっともっとつえー奴がいるだろうからな!」
宇宙規模で戦いのことを考えている者など滅多にいないだろう。悟空からはなんというか美鈴、いや幻想郷にいる者とはスケールの大きさが違った。
「悟空さん…お願いがあるのですが」
美鈴は確信した。この孫悟空が、間違いなく〝紫が言っていた者〟だと。そうなればもう頼むべきことは決まっている。
「なんだ?」
「私に…修ぎょ」
決心した美鈴が悟空に何かを言っている途中に、ドーーン!という音がその声をかき消した。チチが再びテーブルに料理を置いた音である。
「おお〜!!!うまそうだな!!!」
悟天がちょくちょく運んでいたのもあり、テーブルの上には先ほどとは比べ物にならないほど料理が並んだ。
「いっただっきまーす!」
悟空は手を合わせてから料理にがっつく。あのベジータとも勝るとも劣らない勢いだ。
「ふぉほぉられめーりん?なんふぁいいたいふぉとあっふぁんじゃねーふぁ?」
よくわからないが、恐らくは「ところで美鈴、なんか聞きたいことあったんじゃねーか?」と言っているのだろう。口の中に料理をかきこみすぎて、リスみたいな顔になっていた。
「いや…後でいいです!」
なんとなく悟空に親近感を覚えた美鈴も、再び料理に箸をつけた。
ー幻想郷ー
「だからぁ〜!アンタ強すぎなのよ!」
「うるさい!これがオレのやり方だ!」
ベジータと霊夢は釣竿を使い、魚を釣っていた。魚を捕るのはベジータの役目だったのだが、霊夢が薪を集め終わってベジータのところに来ても、まったく釣れていなかったから手伝っていたのだ。
魚を釣る際に、ベジータは竿を引く力が強すぎて、竿から糸が切れてしまうのだ。
「どうでもいいけど早く釣ってくれない?」
アリスは座りながら2人の釣りを見ていた。
いや、釣りというよりもアリスには漫才か何かに見えていた。
「まったく信じられない!釣りの1つもできない男がいるなんて!」
「こんなことできて何になる。キサマは女としてもっと気品さでも兼ね備えたらどうだ」
「気品さが金になるのかしら?」
グチグチと言い争いをしながらも霊夢は魚を釣っていた。しかしベジータには釣れる様子がない。
「(なぜだ…ッ!なぜ霊夢に釣れてオレには釣れない…?)」
心底どうでも良さそうに振舞ってはいるが、ベジータとしてはこんなことでも他人に負けたくはない。なぜ魚が釣れないか必死に考えていた。
「あっまた釣れた」
「…チッ!」
霊夢はまた魚を釣った。霊夢がドヤ顔でこちらを見てきているので、ベジータは絶対に目線を合わせないように水面だけを見ていた。
「(殺気がこもりすぎているからか?いやそんな事は…)」
ベジータは色々と考えていた。そして一度逆転の発想をしてみた。
〝むしろ霊夢が釣れすぎじゃないか?〟
確かに釣りは忍耐とよく言われるが、明らかに霊夢は釣れすぎである。〝俺が釣れなすぎている〟のではない〝アイツが釣れすぎなんだ〟
そう思ったベジータは横目で霊夢をチラッとみてみた。すると…
「!!!」
「《夢想天生》………」
「きさま!!!」
急にベジータが大声を出す。その場にいた霊夢とアリスは一瞬ビクッと驚いた。
「いきなり何よ!もーちょっとでまた魚が釣れてたのに!」
夢想天生を解いた霊夢が怒る。
しかしベジータはまったく気にしていない。
「そんな技を使いやがって!ちゃんと釣りやがれ!」
霊夢は夢想天生を使い、自分の存在感を消し、魚からの警戒を全く無としていたのだ。危機感のない魚は霊夢の竿にあっさりかかったので、霊夢は簡単に釣れていたのだ。
「はぁ?別に私がどう釣ろうと私の勝手でしょ。悔しかったらアンタも夢想天生やってみれば?」
「クソ…小娘め! 」
確かに勝負しているわけでもないので、霊夢は何もおかしくはない。
「………」
再び黙って釣りを始めた。しかしベジータは目を瞑り、気を消して自分の存在感を消した。
「(おっ…)」
霊夢もこれは中々いい感じね、と思いつつもベジータを横目で見ていた。
「(夢想天生なぞ使わんでも気を消せばいいだけの話だ)」
集中力をすべて竿に集めていたベジータ。いつ魚が食いついてもいいように構えていた。
「(きたっ!)」
やっと魚が釣れた。
と思っていた。
「よう!久しぶりだなベジータ!」
ベジータの肩にパシッと誰かが手をつきながら挨拶をする。以前戦った霧雨魔理沙である。
竿一本に全ての集中力を注ぎ込んでいたベジータは、真後ろまで来ていた魔理沙に全く気づいていなかったので、驚きのあまり竿を握りつぶしてしまった。
魚は当たり前のように遠くへ逃げて行った。
ベジータの手はプルプルと震えている。それに気づいた霊夢とアリスは何かを察したかのような表情をした。
「………」
「ん?どうした黙り込んで」
先ほどのように大声をあげたりはしないベジータ。その静けさが霊夢とアリスには逆に恐ろしかった。
「そ、それじゃあ私たち先に帰るから…」
霊夢とアリスは〝ここにいてはいけない〟という危機感を覚え、すぐさま帰っていく。
「お、おいおい!どこへいくんだよ!」
「地獄だ」
え?魔理沙は一瞬耳を疑った。
「地獄?何を言ってるんだ?」
「キサマこそいいのか?それが〝遺言で〟」
「急ぐわよアリス!」
「え、ええ!」
気づくと2人は全速力でベジータから遠ざかっていた。
「どうしたん」
「くらいやがれーーーーっ!!!!!」
怒り狂ったベジータは、魔理沙にむかって凄まじい一撃を放つ。
「えええええッ!!!??? なっ! た、助けっ」
逃げながら霊夢とアリスはこう誓った。
『絶対にベジータを怒らせてはいけない』と。
はい、第39話でした。
後半はバイトの休憩中にかいたので誤字脱字あるかもしれません(日常茶飯事)
ではお疲れ様でした。