少し間が空いちゃいました。
「む…?」
神奈子が手を出す。すると手のひらには一粒、二粒と水が落ちてきた。
「雨…か」
神奈子も諏訪子もこれからどんな結末になるかはまったく予想できない。それほど美鈴と早苗の戦いは凄まじいものだった。
「(よくわからないけど…今の早苗さんはさっきまでとはまるで別人…!恐らく今までの戦い方では通用しない…)」
安全圏と思われる場所まで距離を取り、次の一手をどうするか考えていた。
「……」
考えてる途中に早苗が間合いを詰めてきた。
組み手となり、パンチやキックを避けたりガードしたりしている。はたからみたら互角に見えるだろう。
「(くぅ〜…!なんて重い攻撃!モロに食らったらほんとにまずい!)」
しかし早苗は楽に美鈴の攻撃を受け止めているが、美鈴の方は早苗の重い攻撃を手や足でガードする時に完璧に受けきれてなく、少しずつだが確実にダメージを受けていた。
「このままじゃダメだ!」
美鈴は再び距離を取り、右手に気を込めた。
「はああああ!!!」
「『操気弾』!!! いけッ!!!」
先ほどと同じように気弾を3つ作り、早苗めがけて飛ばした。
「……」
また距離を詰めようとしていた早苗であったが、3つの気弾が向かっていることに気づいて瞬時に離れた。
「……」
気弾は凄いスピードで早苗を襲っているが、早苗自身は胃にも介さず避けていく。しかしいくら早苗でもかわすのが精一杯で反撃の余地はない。だから考えた。
「……はッ!!!」
「なッ!?」
早苗は右手に気を込め、気弾を3つ作った。そしてそれを自分に襲いかかってくるものに向かって飛ばし相殺した。
「『操気弾』を見ただけで…少しショックです」
「……」
戦えば戦うほど早苗の凄みは増している。もはや早苗の姿をした〝何か〟だ。
「雨が……よし、これは好機…!」
ポツポツと降っていた雨だったが、いつの間にかザーザー降りになっており、美鈴にとってはチャンスが訪れた。
「ふー………いきますッ!!!」
大きく息を吐いて脱力した後、美鈴は早苗に向かっていった。明らかに肉弾戦を挑むつもりだ。
「また…肉弾戦?でも今の早苗相手だったら…」
諏訪子が心配そうに美鈴を見守る。もはや勝ち負けなどどうでもよく、2人が無事でいてくれればいいと思っていた。
「フッ…どうだろうな」
しかしベジータはわかっていた。美鈴の“狙い”が。
「はっ!はっ!はっ!」
早苗の周りを高速で移動し、囲むような動きで翻弄していた。ジッと待っていた早苗はその動きに痺れを切らし攻撃を仕掛けた。
「うっ…!」
「!! はああッ!!!」
「ぐ…」
早苗は美鈴のカウンターを受けて膝をついた。しかし一瞬で立ち上がり再び攻撃をしようとする。
「無駄です…!」
美鈴はまたも細かい動きをして、目で捉えにくいようにする。そしてパンチをしてきた早苗にカウンターの蹴りを食らわす。
「 …かは…」
今の蹴りは早苗の背中に綺麗に命中し、そのまま倒れ込んだ。
「な、なんだ?急に美鈴が優勢になったが…」
「どういうこと?まさか早苗に何かあったんじゃ…」
2人はこの状況をまるでわかっていない。
「雨が美鈴に味方しただけだ。」
ベジータが答えた。しかしその言葉を2人は理解しきれていない。
「どういうこと?」
「早苗を翻弄するために美鈴はちょこまかと動きまわっていやがるが…その時の美鈴の目を見ておけ」
「…目?」
「ぐ…」
先ほど蹴りで大ダメージをもらった早苗だったが、立ち上がりまた美鈴に向かっていった。
しかし結果は同じ事だった。
「はッ!!!」
「かは…」
美鈴は先ほどのリプレイのような動きをしてフィニッシュは正拳突きを早苗に食らわせた。そして転がるように早苗は地面に倒れた。
なぜ急に美鈴が優勢になったかというと、普通このひどい雨の中で戦うとなると目に雨が入り視界が悪くなってしまう。もちろん早苗も例外ではなく、高速で動く美鈴を捉えるためにこの雨の中目を見開いて戦っていた。
そのため強い雨が目の中に入り、その痛みで普通のまばたき以外も目を瞑ってしまう隙ができていたのだ。しかし美鈴は…
「諏訪子、今の見たか?」
「うん。美鈴…“目を瞑って戦っていた”」
「やっと気付きやがったか」
そう、美鈴は“目を瞑って戦っていた”のだ。美鈴はベジータとの修行で目で見なくても〝気〟で相手の位置を正確に読み取ることが出来るようになっていた。だから目を瞑ったまま攻撃を避けたり、したり出来ていたのだ。
「なるほどな。まさに修行の成果が出たってわけか」
「ああ…今の美鈴はいつも通り戦えている。早苗がさっきまでの戦いをできていないだけだ」
「(このままだとこの勝負…美鈴に分がある…このままだとな)」
やむどころかどんどん激しくなる雨を見てベジータはそう思ったが、早苗の目を見て何処か言い知れぬ悪寒を感じていた。
「はぁ…はぁ…し、しぶとい…」
3回も全力のカウンターを食らわせたのに早苗はまだ立ち上がる。
「…………5分」
暴走したと思っていた早苗が急に話しだした。
「え…?」
「……美鈴さんの動きを私がじっくり観察し出して経った時間です。
…わざと攻撃を仕掛けてカウンターを食らったのもその観察のせいですね」
「わざと…?」
「そしてまた5分…これがなんだかわかりますか?」
そう言いながらパチッ…と目を閉じた。
「ごふ…!!?」
一瞬で早苗が目の前に現れ、美鈴の腹にパンチを食らわせていた。
「……“今から貴女が私に倒されるまでの時間です”」
ズガンッ!と蹴りを入れた後美鈴は空中に舞う。その美鈴に追撃を加えるべく早苗は飛んだ。
「んんッ…!」
美鈴は空中で受け身を取り向かってくる早苗のために構えた。そして2人は高速でパンチの打ち合いになった。
「当たらない…なんで…」
先ほどのように目を瞑って美鈴は攻撃していたが、全く当たらない。むしろ早苗の攻撃を食いっぱなしだ。なぜ当たらないか確認するために一度目を開いた。
「!!!」
美鈴は驚いた。その瞬間に隙ができ、早苗の蹴りで地面に吹っ飛ばされてしまった。
「ぐっ…早苗さん…貴女、まさか〝気〟を!」
「そういう事です…次、いきますよ。構えてください」
「く、くそっ」
「…もう何が何だかわかんないよ。神奈子、わかりやすく説明して?」
「ふむ…神といってもなんでもわかるわけではない。諏訪子、お前にわからんなら私にもわからんさ」
2人は完全にお手上げ状態だった。
「ベジータ〜どういう事〜?」
「………」
「あ、あの小娘……」
「ベジータ?」
「……美鈴が1日みっちり修行して会得した技を…早苗は5分足らずで完成させやがった」
「え?」
「目を瞑っていた美鈴と戦うことによって何かを感じ取りやがったんだ。そしてそれをすぐさま会得した」
「そんなことができるのか?」
「(出来る筈がないッ!全く〝気〟を使えない状態から数分で目を瞑り気を完全に読み取って戦うだと?ふざけやがって!)」
実は早苗はこの戦いまで全く気を使えないわけではなかった。この1週間で美鈴に少しだけ教わり、基本の基本くらいは出来るようになっていた。だがそれでも素人同然には変わりはない。
「さっきの戦いぶりもみるに…なるほど、早苗は〝天才型〟のようだな」
天才という一言で片付けることなど出来ないのだが、こう言葉で説明することしかできなかった。
「だがこれで条件は互角…美鈴、腹をくくらねえと負けるぞ」
鈍い音が響く。早苗の拳が美鈴の腹に突き刺さった音だ。
「〝気〟を読んで戦うというのはやっぱり難しいですね。これをずっと続けていたなんて…さすが美鈴さんです」
「あの時貴女に少しだけ〝気〟について習っておいてよかった。まさかこんなに早く使う時が来るなんて…」
「……」
美鈴は声を出せない状態になっていた。立っているのに意識があるのかないのかするわからない。
「本当に…本当に貴女は強かった。お二人の力がなければ絶対勝てなかったです」
「もう動けないでしょうけど…とどめを刺させてもらいます」
「早苗ッ!?」
「よせ早苗ッ!!!勝負はもう…」
2人が止めようとするがまたもやベジータがその2人を止める。
「美鈴は立っている。意識もかろうじてあるだろう。だから勝負を止めることは許さん」
ギリッと歯を食いしばって神奈子はベジータの肩をドンッ!と押した。
「いい加減にしろ!!!今の早苗は手加減などできん!!!今度こそ本当に死ぬぞ!!!」
薄情ともいえるベジータの態度に激昂し、神奈子は声を荒らげる。しかしベジータはそれを胃にも介さずに、ただ前だけ見つめていた。
「黙って見ていろ」
「いつまでだ…?美鈴が死ぬまでか!?こんな戦いで弟子を命の危機に晒そうとするな!貴様は間違っているぞベジータ!」
「……〝誇り〟を馬鹿にするのなら、オレは誰であろうが殺す」
「自身の〝誇り〟のために美鈴を見殺しにするのか!」
「神奈子!落ち着いて!」
「はぁ…!はぁ…!」
ここまで神奈子が取り乱したところを見るのは長年一緒にいる諏訪子すら初めてのことだった。
「…神奈子」
「なんだ!」
「誰が〝オレの誇り〟なんて言った?」
「…なんだと?」
「見ろ」
ベジータが見つめているところを神奈子も見る。するとそこには先ほどまで死んだ魚のような目をした美鈴ではなく、強く、光の灯った目をしている美鈴がいた。
「美鈴……」
「オレが言ったのは…〝美鈴の誇り〟の事だ。あいつはまだ戦える。…だからあいつの邪魔をして〝誇り〟と〝プライド〟を傷つけるようなことは許さん」
「……」
「ベジータ…」
「次の一撃で決まる。…よく見ておけ」
雨はいつの間にかやんでいた。まるで2人の決着を見届けようとするように。
「早苗さん…次が私の正真正銘最後の一撃になります」
「奇遇ですね美鈴さん…私もですよ」
戦いが始まる前みたいに2人はニヤッと笑った。2人の中で巡る感情があるのだろうか。
「さっき美鈴さん言ってましたよね。『今のが貴女の最高の技なら私の勝ちです』と。その通りですよ。でも…」
スッと右手をあげると、早苗の頭上に先ほどとは比べ物にならないくらいの大きさの星が出てきた。
「…威力は桁違いですよ」
先ほどはいくつかにまとめて撃ったのだが、これから撃つのはその全てを1つにまとめて破壊力を増したものである。
「すごいですね早苗さんは。そんなすごい技を編み出して…私なんか師匠の真似しかできない」
美鈴は右手を早苗に向かって出した。
「でもこれが…私の〝秘策〟であり〝最後の技〟です」
美鈴の気が高まる。今日1番、いや美鈴の今までの生涯の中で1番だろう。
「「いきますッ!!!」」
2人の声が重なり合った。技を同時に撃ってその威力で勝負を決するつもりだ。
「はああああああッ!!!これで終わりだッ!!!」
「《奇跡「白昼の客星」》!!!!!」
ドでかい星から早苗が全ての力を注ぎ込んだレーザーが放たれた。
「負けない…!絶対に勝つんだ!!!」
「『ビッグ・バン・アタック』!!!!!」
早苗と同じように全ての力を注ぎ込んだ一撃が放たれた。
「美鈴……」
そして2人の技はぶつかり合い…
「やあぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」
「はあぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」
勝負はついた。
「ケホッケホッ!…勝ったのは…?」
爆風の中神奈子は目を凝らした。
「………」
「………」
「2人とも…立ってる?」
諏訪子がそう言った刹那。
「うっ……」
ガクッと美鈴が片膝をついた。
「早苗の勝ち…?」
「やっぱり美鈴さんは強い…ですね」
「お二人共…すみま…せ………ん…」
バタンと早苗が倒れた。まるでこの事を言うためだけに立っていたかのように満足そうだった。
倒れた早苗を見た美鈴は最後の力を振り絞り立ち上がった。そしてベジータに向かってニコッと笑った。
「私…勝っちゃいました…!」
「フンッ……神奈子、結果はどうした?」
「…ああ、そうだな。この勝負」
「紅美鈴の勝ちだ!!!」
はい、第30話でした。
早苗戦はっていうか守矢編はこの半分くらいの内容で終わらせるつもりだったのですが、結構長くなっちゃいました。
ではここで終わります。お疲れ様でした。