スペルカードルール?知らないですね…
涼しい風が吹いている。夕方になりかけ、暑く照っていた陽も弱くなっていた。早苗、神奈子、諏訪子は一足先に神社の前で戦いの準備をしていた。
「いよいよか…早苗、言っていた通りにこの対決には基本的にはお前と美鈴が1対1で戦う。しかし、もちろん我らはお前に力を借す。…くれぐれも無茶はするなよ」
神奈子は念のために早苗にもう一回説明した。
「任せてください!美鈴さんには悪いですが…守矢の力を示すためにも本気で勝ちにいきます!」
ニッコリ笑っている早苗。気負いというものは一切なく、むしろやる気に満ち溢れている。
「うーん…ホントは軽い気持ちで勝負なんて言ったんだけど…まさかこんな事になるなんてねぇ…」
まいったねーと頭をかきながら笑っている諏訪子。しかしもちろん心配している面もあるようだ。
「うむ、しかしここまできてやはりやめようとは言えんだろう。あの2人はやる気満々みたいだしな」
「そりゃわかってるよ。とにかく神奈子の言った通りに無茶だけはしないでね早苗」
はい!と早苗は返事をした。
「…きたな」
神奈子が見ている先には、こちらに真っ直ぐ飛んできているベジータの姿があった。
「……」
地面に降りてきたベジータは何も喋らずに腕組みをしている。
「美鈴は…一緒じゃないみたいだな」
「お待たせしました」
ベジータが到着してすぐに美鈴も現れた。
「きましたか…美鈴さん」
「(いつの間に…)」
神奈子はすぐ近くまで来ていた美鈴の気配を感じ取ることができなかった。
「(…中々面白いものが見れそうだ)さあ、役者も揃ったことだしそろそろ始めるとしよう」
「「はい!」」
美鈴も早苗も同時に返事をした。
「一応のルール確認だ。この戦いは殺し合いではない…なんてことは言わなくてもわかってるだろうが…」
「勝ち負けは、そうだな…攻撃を受け、10秒以内に立てなかった時、それと完全に気絶した時、それと自分で負けと認めた時、この3つにしようか」
10秒以内に立てなかった時というのは言うなればノックダウンした時ということである。しかし、ボクシングなどと違い、立ち上がるだけでよく、ファイティングポーズを取る必要はない。
「10秒以内に立てなかった時…ですか」
「まぁ多少厳しいルールではあるがこれもお前たちの身を守るためだ。理解してくれ」
ルールについて少し不満があったと思われる美鈴に、神奈子はちゃんと説明して納得させた。
「じゃあ暗くなる前に始めよっか。私たちは下がるよ」
そう言い神奈子と諏訪子は下がっていった。ベジータは下がる前に美鈴に近ずき一言かけた。
「お前はお前の戦いをしろ。オレにこの1週間は無駄だったと思わせるなよ」
それだけいってベジータも神奈子たちのところへ歩いていった。
「師匠…私は絶対勝ちます!」
目を瞑りながら小さな声で美鈴は勝利を誓った。
「美鈴さん…私もお二人の力をお借りして戦います。それが何を意味するか、わかりますよね」
「……」
「絶対に負けられないということです!」
先ほどまでニコニコしていた早苗だったが、その顔からは闘志しか感じられなくなった。
「…それは私も同じことです。私が負けるとそれは師匠が負けたのと同じ。だから私は絶対に負けられません!」
「フフフ…心地よい闘志だな2人共。若さを感じるな」
「なんか神奈子ババくさーい」
ニヤニヤしてる神奈子に向かって諏訪子は変なものを見る目でそう言った。
「う、うるさい!とりあえず始めるぞ!」
「じゃあ…始め!!!」
神奈子のデカイ掛け声と共に戦いは始まった。
「行きますよぅ!」
先に仕掛けたのは早苗だった。まずは美鈴と距離を置き、遠距離から弾幕で攻撃をした。
「ふっ、はっ」
美鈴は弾幕の1つ1つを見極め、素早い動きでかわしていく。
「いい動きですねぇ美鈴さん!じゃあこれはどうですか?」
「っ?」
「《秘法「九字刺し」》!」
美鈴の行動範囲にデカイ結界が出現した。その結界は美鈴を囲むように迫ってくる。
「(これは…まずいッ!)」
結界と結界通しがぶつかり、大爆発を起こした。美鈴は間一髪で攻撃をかわしたが、避けた先にまた弾幕が向かってきており、直撃した。
「がはッ…!」
隙だらけの瞬間に食らったのでダメージは大きかった。
「連続してこんなにすごい技を…すごい集中力ですね…」
「ん〜最初の一発ももちろん当てるつもりだったんですけどね。やはり発生が遅いのが玉に瑕ですね」
美鈴と違い早苗は余裕そうな顔をしている。自信家な早苗は自分が負けるとはこれっぽっちも思っていない。
「随分と余裕ですね…じゃあ次はこちらから行きますよ!」
「《彩符「彩雨」》」
早苗のように大量の弾幕で美鈴は攻撃した。しかし早苗は余裕で弾幕を避ける。
「じゃあこれで…!」
地面に向かって力強い気弾を放つ。周りには土煙が舞い、相手の姿をまともに目で確認することはできない。
「今だッ!」
美鈴はこれを狙っていた。目で見えなくても美鈴には〝気〟で相手の位置を正確に読み取ることができるようになっていた。
「……」サ
「!!」
「くっ…!」
しかし美鈴の作戦は思うようにいかなかった。早苗は土煙が舞うと、無理に突っ込まずに美鈴とは逆方向へ下がっていったのだ。
「ほっと、…美鈴さん、悪いですけどこの戦いでは貴女の思うような戦いはさせませんよ。ましてや肉弾戦なんてね」
「……」
早苗はこの戦いで1つ作戦を立てていた。その作戦というのは徹底的に遠距離から攻撃する、というものだった。
肉弾戦が得意な美鈴に、肉弾戦が得意ではない、むしろ苦手な早苗が勝負に挑むと勝ち負けは見えている。だから早苗は美鈴とは距離を取り、得意な遠距離攻撃で肉弾戦を避けているのだ。
「じゃあそろそろ決めますよ!お夕飯も作らなきゃいけないですからね!」
そう言うと早苗は右手をスッと挙げた。
「さぁ行くぞ!」
「うん!」
神奈子と諏訪子の気が高まる。そして同時に早苗の気もどんどん上がっていく。
「…なるほど、これがキサマらの言う〝協力〟というやつか」
神奈子と諏訪子から早苗にどんどん力が送られる。先ほどの早苗とはまるで別人のようだ。
「早苗さんの気…ただ大きいだけじゃない。神奈子さんと諏訪子さんの気も混じっている…!」
そう、今の早苗には3人分の気が混じっている。文字通り“別人”である。
「さぁいきます!《奇跡「白昼の客星」》!!!」
「…これは」
早苗の頭上にはキラキラと光る何か出現した。
「夕方なのに…星?」
「はああッ!!!」
「!!?」
早苗が右手を振り下ろすと、その星からレーザーが飛んできた。構えていた美鈴もかわすのでいっぱいいっぱいだ。
「この速さッ…威力ッ…師匠より…!」
「…終わりです」
1つのレーザーでもかわすのがやっとだったのに、4つの星からそれそれ4つのレーザーが美鈴目掛けて飛んでいった。
「なッ…!?」
「美鈴さん、終わりですッ!」
すごい音と煙が舞う。
「…相変わらず物凄い威力だな」
「うん…美鈴は…」
力を送り切った神奈子と諏訪子には少し疲れが見えていた。2人は今の一撃で勝負は決したと思っていた。いや、その2人どころか技を放った早苗ですらそう思った。
「私が見てくる」
神奈子が美鈴の様子を見にいくために一歩前に出た。するとパッとベジータの右手が神奈子を遮った。
「…なんのつもりだ?ベジータ」
「それはこっちの台詞だ。…勝負の邪魔をする事はオレが許さん」
そう言って右手を引っ込めた。そして先ほどのように腕組みしてまっすぐ前を見ている。
「まさか…!」
神奈子も前を見る。早苗の一撃によって舞っている土煙が晴れてきた。
「……」
「…美鈴さん」
美鈴は技を受けたところから一歩も動いていなかった。かなりのダメージを負いながらも、右腕と左腕をクロスしながら早苗をジッと睨んでいる。
「あの野郎…一回見ただけで覚えやがったのか」
普通に防御しただけなら勝負は決まっていただろう。早苗の一撃はそれほど凄まじいものだった。しかし、美鈴はかつてベジータが紅魔館で使った〝バリアー〟を参考にし、自分の技として昇華していた。
しかしバリアーを使ったとはいえ、最終的には壊れてしまったので多少のダメージしか軽減できなかった。美鈴はすでに満身創痍なのだが、勝ち誇った顔をしてこう言った。
「早苗さん、今のが貴女の最高の技なら私の勝ちです」
ピクっと反応した早苗。真剣な顔をしていたがすぐにニヤッと笑った。
「それはどうですかね…でもこれだけは言えますよ美鈴さん」
「貴女に〝奇跡〟は起こらないんですよ!!!」
はい、第28話でした。
早苗強すぎィ!と思う方へ、神は強いんです。決してストーリーの都合とかじゃないです。……嘘です、本当にすいませんでした。
ではここで終わります。お疲れ様でした。