戦闘シーンはやはり大変です。
「1週間の仕上げだ。このオレに…攻撃を当ててみろッ!!」
スーパーサイヤ人になったベジータは美鈴を指差しながら言った。その威圧感は今までのベジータの比ではない。
「し、師匠…それは…」
美鈴はスーパーサイヤ人の事に驚きを隠せていない様子だ。
「これはスーパーサイヤ人だ。オレはサイヤ人という種族で戦闘力を大幅に上げることができる」
「スーパー…サイヤ人?」
初めて守矢神社にきた時に確か神奈子が口に出していた気がする。
「さっきも言ったが…これが最後の仕上げだ。この1週間の修行の成果を見せてみろ」
「スーパーサイヤ人になった師匠に攻撃を当てろと…しかし随分と甘いですね。攻撃を当てるだけでいいんですか?」
美鈴はなぜベジータがそんな甘い条件を出したのかわからなかった。いくらパワーアップしたベジータといえ、今の自分なら攻撃を当てる事だけならいうほど難しいものではないと思っていたからだ。
「甘いのはキサマのほうだ…」
ベジータが気を高めながら鋭い目で美鈴を睨む。
「!!」
ベジータの気がどんどん上がっていく。今まではずっと気を押さえていたのだが、馬鹿なことを言ってる美鈴の意識を変えるために、あえて上げたのだ。
「あ…ああ…」
美鈴は目の前のベジータの圧倒的な力に気圧されて言葉が出ない。
「…何か勘違いしているようだから教えてやろう」
「オレが紅魔館に居ついていた10日間ほど、そしてこの1週間、合わせたら十数日だ。オレはキサマをみっちり鍛えた。無論オレは手を抜いていないしキサマも抜いていなかった」
黙って美鈴は聞いている。
「しかし…その程度で本当に強くなったつもりか?」
「そんな事は…」
「以前よりパワーアップした事は認めてやろう。気の扱い方もだいぶ上手くなった。たがオレからしたら蟻が羽蟻に変わった程度だ」
「蟻ですか…」
「ああ」
「……」
美鈴は少しムスッとした表情である。この顔は初めてベジータと戦った時以来の顔である。
「そう言われたくなかったら…かかってこい。いっとくが夜明けまでに攻撃を当てられなかったら早苗と戦う事は許さん。それにこれからの修行もせん、紅魔館へ帰ってもらう」
「わかりました。夜明けまでなんてかかりません。…はあぁぁぁぁぁ!!!」
美鈴も気の高めた。とても今までの美鈴とは思えない力だ。
「私も師匠に全ての力を見せていたわけではありません…すぐ終わらせてもらいます!」
美鈴は構える。重心を下にして、右腕を下げて左腕を上げている。ベジータにはどこか見覚えある構えだった。
「…さっさとこい」
「やあぁぁぁあ!!!」
美鈴はベジータに向かって攻撃を仕掛けにいった。
「……」
にとりの作った巨大な特訓施設の外に神奈子がいた。神奈子は中で2つの大きな力がぶつかり合っているのを感じていた。
「余程心配と見えるわね」
「…八雲紫か、何の用だ」
スキマの中から紫が現れた。扇子を口に当てていつものように薄く笑っている。
「中でベジータと紅魔館の門番…紅美鈴が戦っているようね。明日の対決のための最後の修行ってところかしら?」
「はぁ…なんでもお見通しなのか。相変わらず気持ち悪いな」
「やん、そんな事言っちゃダメよ」
「それより何のためにきた?これは美鈴の修行であってベジータはそれに付き合っているだけだぞ」
紫は神奈子と諏訪子にベジータがスーパーサイヤ人3なれるようにしてほしいとは頼んだが、美鈴は何も関係ない。
「それはどうかしら?…あの子、紅美鈴がベジータから学ぶ事はたくさんあると思うわ。しかしその逆も私はあると思うの」
「…というと?」
「ベジータも紅美鈴から学べる事もあるってことよ。戦闘の技術以外のことでね」
紫の言い方はいつも遠回りな言い方なので神奈子はよくわかっていない。
「もったいぶるな、一体それはなんだ?」
「私たちが知っても意味がないでしょ?…まぁ強いて言えば貴女達が言っている『戦闘のムラ』についてとかかしら」
「それをベジータが美鈴から学べると…?私にはそうは思えないな」
「まぁ『今』とは言わないわ。いずれあの子がベジータに良い影響を与えてくれればそれで良いわ」
「……」
沈黙が2人を包む。虫の鳴き声だけが森に響く。
「それを確かめるためにお前は此処へ来たということか。で?」
「え?」
「お前は美鈴の奴がベジータに良い影響とやらを与えることができると思うのか?」
真剣な顔をしながら紫は神奈子を見ていた。そしてしばらくしたらまたフフッと笑い出した。
「当然よ、彼女は彼に似ているもの」
彼?と神奈子は聞き返す。
「それは誰だ?」
「フフ…誰かしらね」
意味深な笑みを浮かべた後、紫はふわぁ…と欠伸をした。
「 もう眠くなっちゃった。私はそろそろ帰るわね。」
「もう帰るのか?2人の修行が終わるまで待たないのか?」
神奈子がそう言っている途中に、紫は目をこすりながらスキマを開いた。
「あと何時間かかるかわからないもの。貴女も明日のためにはやく寝たほうがいいわよ」
「ちょ、ちょっと待」
「じゃ、またね〜」
神奈子の声を上書きする様に挨拶をし、紫はスキマでその場から消え去った。神奈子の大きなため息が静かな森に響く。
「そう、あの子は似ているわ…だからベジータに大きな影響を与えてくれると信じてる」
「彼…孫悟空のように」
「ハァ…ハァ…クソッ!」
美鈴が真っ直ぐベジータに殴りかかる。このような光景をベジータも何百回もみていた。あれから何時間も経ったが、美鈴の攻撃がベジータに届く様子はない。
「はぁッ!」
「ガハッ!」
ベジータは美鈴の後ろに回り込み、背中を思いっきり蹴った。美鈴は回転しながら壁へ激突した。少し血を吐き、苦しんでいる。
「フン…やはりこの程度か。以前にも言ったがキサマはやはり『期待はずれ』だな」
「……くッ…」
美鈴は起き上がった。すでにかなりのダメージを食らっているが、諦める気配はない。
「やめるならやめていいぞ。向かってくるなら手加減はせん。…どうする?」
ベジータの気は先ほどと比べて全く落ちていない。むしろ戦うにつれて高まってきている。
「や…やめるもんか…絶対に!」
「フン!潰さないように蟻を踏むのは力の加減が難しいな。まぁいい、潰れてしまえばキサマがその程度だったというだけだ」
「い、言わせておけば…はあぁぁぁぁ!!!」
美鈴は連続気弾を撃った。いわゆるグミ撃ちである。しかしベジータは動じずにスッと右手を出す。
「『ビッグ・バン・アタック』」
「!?」
ベジータのビックバンアタックは大きさこそ小さいものの高密度な技であり、美鈴の気弾を簡単に貫いた。そして。
「(し、死ぬ…!)」
ドーム内で大爆発した。美鈴に当たる寸前でベジータが自ら爆発させたので直接当たってはいないが物凄いダメージである事は違いない。
美鈴は倒れ込んでいて全く動かなくなった。
スーパーサイヤ人を解いたベジータが美鈴の元まで近寄る。そしてもうこれ以上は無理だと確信した。
「(…ここまでか、とりあえず…)」
「なにッ!?」
仙豆を取り出そうとしていたベジータの足首を美鈴が掴んだ。ベジータはすぐ様その手を払いのけ距離をとった。
「(こいつ…!)」
「…まだですよ…まだ終わってない…終わらせないッ!」
だがどう見ても美鈴は満身創痍である。
「フッ、中々しぶといな。だが…」
「そんな状態であろうがオレは一切手加減はせん!」
再びスーパーサイヤ人になったベジータ。
「次が私の正真正銘最後の攻撃です…この拳に…全てをかける!」
「やあぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
美鈴の気がどんどん高まる。
「(この力…なるほど、肉体的にも精神的にも追い込まれた美鈴の本当の力というべきか)」
「面白い……だが」
「くっ…!」
気を高めている途中の美鈴にベジータのパンチが繰り出される。
「…隙だらけだ。どんなに気を高めようが攻撃する前にやられては意味がない…これからは…」
「また…捕まえましたよ…!」
「なにィ!」
パンチを食らい倒れこむかと思った美鈴がベジータの右腕を思いっきり掴んだ。
「(こいつ…ただ気を高めていただけじゃなく、自分の腹が隙だらけとオレに思わせてそこへ攻撃させるように誘導しやがったのかッ!)」
その通りである。そして美鈴はベジータのパンチを食らう瞬間に気を腹部の方に集め、防御したのだ。
「残りの力は…拳にッ!!!」
「終わりだァァァ!!!」
残りの力を全て込められた右の拳で、ベジータのアゴを狙った。
「くっ…なめるなよーっ!」
ベジータも瞬時に左手でガードした。
「(勝つ!絶対に勝つ!私は…私はッ!二度と負けられないんだ!!)」
「『龍拳』!!!」
はい、第26話でした。
『潰さないように蟻を踏むのは力の加減が難しい』というのは他の漫画で出てきた好きなセリフです。かっこいいセリフなので使っちゃいました。
ではここで終わります。お疲れ様でした。