来月からは今のペースが無理になるんだろうなぁ
午後の修行を始めてもう何時間たったか覚えていない。辺りは真っ暗になっていて、その暗闇の中にベジータと美鈴がいた。
「はぁ…はぁ…」
美鈴は体力を使い切り、膝をつき、両手を地面につけていた。
「今日はここまでするぞ美鈴」
「いえ…もう少しお願いします!今すごく状態がいいんです!」
「フラフラのくせによく言いやがる。じゃあ最後にもう一回かかってこい!」
「はいッ!」
立ち上がった美鈴は再びベジータに向かった。
「……」
最後の一滴まで体力を使いきった美鈴は仰向けになって倒れていた。
「ふぅ…こんなもんか。 生きてるか?」
さすがのベジータもそろそろ疲れが見え始めた。基本的な体力も制限されているらしい。
「…………なん…とか…」
ボロ雑巾みたいになっている美鈴のそばにベジータが近づき、手をかざす。
ポォォォォォォォ…
「…あれ?体が動くように…」
美鈴は立ち上がった。手も足も先ほどより軽いようだ。
「オレの気を分けてやった。あのままだと守矢神社まで辿り着くのには1日はかかりそうだからな」
確かにあのままだと相当な時間を食っていたかもしれない。ベジータが抱えて連れて行くこともできたが、あいにくそんなにお人好しではない。
「じゃあ帰るぞ。…今日のメシも楽しみだ。と、その前にオレは行くところがある。お前は先に戻っていろ」
ヨダレが垂れそうになったが腕でちゃんと拭き取った。その後ベジータは美鈴より先に飛んでいった。
「やっぱり師匠は凄いなぁ…こんな長時間修行したのにアレだけしか疲れないなんて」
本来の力なら汗ひとつかかないと知ったら美鈴はどんな反応をするのだろうか。それ以前に力を封印していることすら美鈴はまだ知らない。
「…私は少しでも師匠に近づきたい。そのためにはどんな修行もやり遂げてみせる!」
拳をギュッと握りしめた後、美鈴は守矢神社に戻った。
あれから数日経つ。ベジータと美鈴の修業は明日が最後になる。ベジータは無性に夜風に当たりたくなり、神社の屋根に登った。今日は雲一つなくよく星が見える。
「何の用だ」
「よっこいせっと。やれやれ、また気付かれたか。ずっと周りに気を配ってるのか?」
出てきたのは神奈子だった。右手で杯を、左手で酒を持っている。
「どうだ一杯。星を見ながら呑む酒も格別だぞ?」
「いらん。明日も朝早くから修行をするつもりだ。そんなものを呑んだら起きるのが遅れるかもしれんからな」
「なんだ、つまらないな」
そう言いながら神奈子は酒を注ぎ、杯の中の酒を一口で呑み干す。
「くぅ〜!…で、どうだ?修行は順調か?」
美味しそうに酒を呑みながらベジータに聞く。
「まぁまぁってところだ。元々あいつは筋が良い。明後日の対決までにどこまで伸びるか見ものだな。 ただ…」
「ただ? 何かあるのか?」
「あいつの戦いは視覚に頼りすぎている」
神奈子は、ベジータの言った事が理解できないといった顔しながら首を横に傾げる。
「それがいけないことなのか?」
「いけないわけでは無い。しかし美鈴は他の奴にはできない〝気〟を操ることができる。気を使って相手を攻撃したり、防御したり、相手の〝気〟を探ったりなどだ」
「それは戦闘において美鈴が相手より有利になる〝長所〟だ。ここまでは良い。…問題は奴がその長所を上手く引き出せていないという事だ」
「ふむふむ」
「飛んだり気弾を撃ったりという当たり前のことはできている。しかし奴は戦闘中に敵の位置を〝気〟で探ったり、自分の中の〝気〟を高めて爆発的に戦闘力を上げたりすることができていない、ということだ」
「爆発的に戦闘力を上げる…ベジータのようにか?」
神奈子は真っ先に『
「まぁ、後者は簡単にできるものではないかもしれん。それより前者だ。美鈴の奴、まだ明るい時には反応できていた攻撃も、空が暗くなり見えにくくなった時には反応がだいぶ遅れていた」
「なるほど。それが視覚に頼りすぎている、という事か。確かに暗くなれば反応が遅れるのは当然のことだ」
「ああ、奴には〝気〟で相手の位置を読み取ることができるはずだ。だがあいつはそれをしていない。相手より有利になれるはずの長所を自分で潰してしまっているということだ」
この事に関してはベジータもしょうがないと思っていた。
美鈴はベジータがくるまでは〝気〟を使うことのできる者と戦ったことはなかったし、師と呼べる者もいなかったので習うことはなかったのだ。
「じゃあ明日は?」
「ああ、美鈴には〝気〟を読み取ることができるようになってもらう。…幸い普通の時には〝気〟を探れるようだしな。だが戦闘中の場面で使えんようじゃ話にならん」
「なかなか大変そうだな…早苗との対決の日をもっと後にするか?」
簡単には出来そうにないと思った神奈子はベジータにそう提案した。
「一度言ったことは取り消さん。…こんなもの1日あれば十分だ」
聞いた瞬間、神奈子は酒をこぼしそうになった。
「い、1日!?それはいくらなんでも…」
「やるさ。あいつならできる」
星を見ながらそう言う。ベジータは美鈴が本当に成し遂げることができると確信している。
「フッ、さすがは師匠だな。 ほっ」
神奈子は酒を持ちながら立ち上がった。
「私はもう寝る。…お前も明日のために早く寝ろよ」
そう言い残し、下へジャンプした。
「師匠、か…」
そう呟いたベジータはそれ以上何も言うことなく下へ降りていった。
ーーー修業の場ーーー
「おはようございます師匠!昨日もぐっすり眠れましたよ!」
疲れからか美鈴は毎日ぐっすり眠れるようになっていた。やる気に満ち溢れている顔をしている。
「フン、常にそんな顔をしてやがれ。それより始めるぞ」
「はい!ではいきます!」
美鈴が構える。いつも通りベジータと組手をするつもりだ。
「待て。今日はこれを付けろ」
「…これは?」
美鈴は白い布をベジータから受け取った。
「これで目隠しをしながら戦えということですか…わかりました!」
「やけに素直だな」
「昨日寝る前に考えていました…師匠は私にスピードを合わせて戦ってくれている。しかし私の攻撃は当たらないし、師匠の攻撃には反応が遅れることがある…それはなぜかと」
急に美鈴が語り始めた。思ったより頭を働かせているようだ。
「…で、キサマの答えはなんだ?」
「それは私が 〝気〟をうまく探れていないから、という結論に至りました。目で捉えてからでは遅いのです!もっと…もっと前から〝気〟
で相手の動きを捉えることが大事なんです!」
「……」
ベジータは内心で感心していた。ただがむしゃらに戦っているように見えて頭ではしっかり考えている。改めて美鈴は戦いの才能があると感じた。
「フンッ!口で言うなら簡単だ!やれるもんならやってみるんだな!」
「はいッ!」
布で目隠しをした後、美鈴は組手をするべく構えた。
シュンッ!
シュンッ!
大体の位置は把握できているようだったが、大分大雑把な攻撃である。
「はぁッ!」
ドンッ!
「ぐっ…」
ベジータの蹴りが美鈴に当たる。
「かはっ…」
「急にくらったら受け身も取れんだろう。ダメージもいつもより多いはずだ」
「そ、そうですね…しかし私は」
ポーヒー!
「!!」シュンッ!
ドカーーン!
「痛てて…」
急な出来事だったので美鈴は反応が遅れてしまった。直接気弾に当たることはなかったが、避けた先の木に頭をぶつけてしまった。
「話の途中には攻撃しないと思ったか?」
「急にスパルタですね…望むところです!」
ベジータと美鈴の修業は続いていく。
「美鈴さんたち遅いですね〜。もう昼過ぎなのに」
早苗は美鈴とベジータのために作っていた昼食を見ながらそう呟く。ベジータの分はとても昼食とは思えない量である。
「修業最終日だからね〜気合入ってるんじゃない?」
トコトコとやってきた諏訪子が言った。
「んー、でもお腹が減ったら力が出ないかもしれないですし…私オニギリにしてお二人に持っていきます!」
早苗はそう言った後オニギリを作るために手を洗った。
「やめておけ。修業の邪魔になるやもしれん」
「あ、神奈子様…」
「腹が減ったら自分達で帰ってくるだろう。余計な真似はしないで待っておこう」
「…わかりました」
「お二人とも…頑張ってください!」
あれから数時間後、ベジータと美鈴は朝からずっとぶっ続けで修業をしていた。集中力が異常に高まった美鈴はベジータの動きが見えるようになっていた。天才的な速さである。
「(見える…師匠の動きがよく見える!)」
「…美鈴、目隠しを取れ」
「え?」
言われた通りに美鈴は目隠しをとった。辺りはもう暗くなり始めていた。
「え?もうこんなに暗く!?…まだお昼くらいかと思ってました…」
「そんな事だろうと思ったぜ。とりあえず一旦終了だ。神社へ帰るぞ」
「え?そんなこれからですよ!暗くなってきたからこそ今までの修業の成果を出せるんです!」
シュババと空に正拳突きをする美鈴。まだまだやる気のようだ。
「オレの言うことが聞けないのか?」
「でも対決は明日だし…限界までやりたいんです!」
「……」
ベジータは真剣な目で美鈴を見る。
「…わかりました!帰りましょう!」
美鈴はベジータの言う通りにした。意味もなくベジータが早めに修業を切り上げるわけないと思ったからだ」
「オレはまた行くところがある…先に帰っていろ」
そう言ってベジータは飛んでいった。
「師匠…何を考えているんだろう…」
美鈴が守矢神社に帰った後、少し時間をおいてベジータが帰ってきた。夕食を済まし、風呂に入り、後は明日のために寝るだけというとこまできた。
その頃、美鈴は縁側で星を眺めていた。
「…明日のためにこの1週間頑張ってきたんだ。絶対…絶対に勝つ!」
そう意気込んでた途中にベジータがやってきた。
「おい美鈴、ちょっとこい」
「あ、師匠」
ベジータに言われるまま美鈴はいつも修業をしている場所までついてきた。
「あの師匠…一体何を?」
「これを食え」
「…これは?」
ベジータが美鈴に渡したものは〝仙豆〟と呼ばれる豆であった。形はそらまめによく似ている。
ベジータは『精神と時の部屋』に入る前にカリン様のところへ行き、頼んで5粒ほど貰ったのだ。
「いいから食え」
「わかりました…」
美鈴は仙豆を恐る恐る口へ運ぶ。
「こ、これは!!」
仙豆を食べた美鈴はかなり驚いていた。それは体力や気が自分の限界値ギリギリまで回復していたからだ。
「フンッ、驚いただろう。これは仙豆といって体力や気が回復するものだ」
「こんなものが存在するなんて…」
「準備は出来たな」
「え?」
ベジータは徐に持っていたリモコンのようなもののスイッチを押す。すると。
「!!?」
美鈴は言葉が出なかった。スイッチを押したら、地面が割れ、木がなぎ倒され、鉄の壁のようなものが出てきた。その壁は何十mの高さにもなり、屋根もできて空を覆った。
結果的にそれはドーム状の特訓施設のようなものになった。
「ま、魔法だ…ぱ、ぱ、パチュリー様の仕業ですか…?」
「魔法?何を言っている。これはあの河童に作らせただけだ」
ベジータは少し前ににとりの元へ行き、これを4、5日で作るように言ったのだ。
もちろんにとりは無理だと言ったのだが、無理ならキサマを消しとばすと脅され、作るしかなかったのだ。
「あの野郎…なかなかいいものを作りやがる。 さぁ中に入るぞ」
「は、はい…」
入ったら中は真っ暗だった。外よりも暗い状態である。
パチっ!
そう思っていると照明がついた。辺りを見渡すとかなり広く、頑丈な作りになっていることがわかった。
「すごい…にとりさんこんなのを作れるなんて」
「…美鈴」
はい?と言いながら美鈴は振り向いた。すると───
「はああああああッ!!!!!」
「えっ!?」
ベジータの気がみるみる膨れ上がる。
「なっ………!?」
「………」
ベジータはスーパーサイヤ人になって美鈴を指差した。
「1週間の仕上げだ。このオレに…攻撃を当ててみろッ!」
はい、第25話でした。
4、5日の間にとりは一睡もしないまま完成させたようです。そしてその後静かに息を引き取ったそうな…(嘘です!全て嘘です!)
ではここで終わります。お疲れ様でした。