だんだんと暖かくなってきましたね。
「め、美鈴さーん!?」
美鈴は強盗を追うべく、一目散に走っていった。
「ハァ…ハァ…へへッ、ここまで逃げれば誰も…!」
強盗は走っている途中で誰も追ってきてないか振り向いてみた。そしたら信じられないものを目撃した。
「待ちなさいッ!!!!!」
「なッ!?」
スラッとした体型の女性が物凄いスピードで追いかけてきた。かなりの速さなのでこのままではすぐ追いつかれてしまう。
「な、何なんだあいつは!!人間のスピードじゃねえぞ!!」
このままじゃ追いつかれるの思った強盗は細い路地に入っていった。
「!!」
「なるほど考えますね…でも!」
美鈴は目を瞑った。そして強盗の気を探った。
「…あっちですか。では先回りです!」
気を探ったことによって相手の位置を正確に把握した美鈴は、恐らく相手が向かうであろう場所を予測し、そこへ先回りした。
「よし!ここを抜ければもう大丈夫のはず…!」
大きな直線を走っていたら何かが仁王立ちしている姿が見えた。
「!!?」
「やっと追いつきましたよ…!」
そこには美鈴が腕組みしながら立っていた。
「お前…なんで…」
「先回りしたんですよ!どうせこの先の森へでも逃げ込もうとすると思って!」
「さあ!盗った荷物を返しなさい!素直に返せば痛い目に遭わないで済みますよ!」
「ケッ!女1人に何ができるってんだ!」
男は懐からナイフを取り出して美鈴に向けた。
「…素人がそんなもの振り回したって私には届きませんよ。最後の忠告です。ナイフを捨てて荷物を返しなさい!」
「誰がてめえの言うことなんて聞くかよ!死にたくなけりゃとっとと消えろ!」
「……馬の耳に念仏、ですね」
「なら…かかってきなさい!」
左手をクイクイっと動かして相手を挑発した。
「なめんじゃねえぞー!!!」
男はナイフで美鈴に斬りかかってきた。しかし美鈴は動じずにナイフを躱していく。
「フンッ!」
「がはッ…!」
美鈴の正拳突きが隙だらけの男の腹部に突き刺さった。男は膝から崩れ落ち、腹を押さえながら倒れた。
「…手加減しました。貴方ではどうやっても私には勝てません」
「美鈴さーん!!!」
大荷物を抱えながら早苗が走ってきた。
「早苗さん!」
「はぁ…疲れましたよ。強盗は…倒したみたいですね!流石です!」
腹を押さえながら倒れている強盗をみて早苗はそう言った。
「こんな事は許されないですからね」
そう言いながら強盗が落とした荷物を拾い上げる。しかしその瞬間!
「…クソガァァ!!!」
強盗が最後の力の振り絞り、美鈴に向かってナイフを放り投げた。
「!!」
「美鈴さんッ!」
ナイフの切っ先は美鈴の左目めがけて飛んでいった。しかし美鈴はそのナイフを左手の人差し指と中指を使って受け止めた。
「なんだと…!」
「ここだッ!」
受け止めたあと一瞬で間合いを詰め、首の後ろをチョップした。強盗は泡を吹きながら気絶した。
「こんなもの…ウチのメイド長と比べたら止まっているも同然ですよ。…これに懲りたら2度とこんな事はしない事ですね!」
今の光景を見た人々は唖然としていた。しかしすぐ歓声が起こった。
「す、すげぇ…すげぇぞ姉ちゃん!」
「カッコよかったわよー!」
「正義の味方だー!」
拍手の嵐が美鈴を包み込む。あちこちから美鈴を称える声が聞こえ、美鈴はそれに少し動揺していた。
「美鈴さん!凄かったですよ!」
「い、いや…私は当然の事をしただけで…」
美鈴は顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。
「はやく荷物を返しに行きましょう!わ、私は先に行ってますね!」
歓声に耐えられなくなった美鈴は急いで団子屋に向かった。
「ま、またこの荷物を1人で持っていかないといけないんですか…皆さん、この人のことは頼みました!」
倒れている強盗を他の人に任せ、大荷物を持って早苗も団子屋に向かった。
「本当にありがとうございました!何かお礼を…」
「いえいえ!私が勝手にやった事なので!」
美鈴は取り返した荷物を団子屋にいたお客さんに返した。
「はぁ…はぁ…はぁ…流石にこの荷物で往復はキツイですね…」
「あ、早苗さん…すいません!」
「ど、どうって事ないですよ!でもそろそろ帰らないといけないですね…」
「そうですね。」
「お団子はまた今度ですねー」
実は美鈴が強盗を追いかけようとした時に、テーブルを飛び越えていったのでその勢いで団子が全て地面に落ちてしまったのだ。早苗は1つ食べたのだが結局美鈴は1つも食べられなかったのだ。
「お姉ちゃん〜これあげる〜」
「え?」
荷物を返した人の娘さんであろうか。その子から美鈴は1本の団子を差し出された。
「でも…いいんですか?」
「うん!にもつとりかえしてくれてありがとー!」
「…こちらこそありがとうございます!」
そう言いながら美鈴は女の子から団子を受け取った。
「こっちのお姉ちゃんにもあげるー!」
「え?私もいいんですか!?ありがとうございます!!」
早苗にも団子を渡した女の子はお母さんの元へ帰っていった。
「いい事をした後は気持ちがいいですね〜!」
「そうですね!」
「何かのために戦う美鈴さん…ホントにカッコよかったです!」
「そんな事…」
美鈴はまだ恥ずかしがっている。
「…でも、今度の勝負は負けませんよ!」
「私こそ…負けませんよ!」
お互いに意気込んだ後に2人は笑った。そして帰る前に貰った団子を食べるのであった。
美鈴達が団子を食べる少し前、文はベジータに取材をするため、お弁当と水筒を渡した。そしてベジータは一目散に食べ始めた。
「よし!では食事中に失礼ですが…まずベジータさんは何処から来たんですか?」
「……」
「あの…ベジータさん?」
「……」
「(ダメだ…食べ終わるのを待つしかないわ…)」
食事中のベジータに何を言っても無駄だと思った文はベジータが食べ終わるのを待つことにした。
水筒の中のお茶までベジータは綺麗に飲み干した。
「ふう…まあ腹の足しにはなったな」
「結構あったのにすぐ食べ終わりましたね」
「このくらい間食としても少なかったがな」
「そ、そうですか…おほん!では質問タイムと洒落込みましょう!」
文はペンのメモ帳を持って張り切っている。
「まずはベジータさんは何処から来たのですか?」
「他の世界だ」
「ということはベジータさんは外来人、ということですか?」
「だろうな」
文はメモ書きしながらなるほど!と相槌しながら聞いている。
「この幻想郷にはどうやってきたのですか?」
「知らん。変な空間に入ったらそれがここだった。それだけだ」
ベジータの受け答えは少々雑であるが、文はそれでも気にせず続ける。
「帰りたい、とは思わないのですか?」
「帰りたい…か。 今のまま帰ってもオレはオレのライバルを倒すことはできないだろう。奴を超えるまで…オレは元の世界に帰ることはできん」
「ライバル…ですか?本当にあなたより強い人が存在するんですか?」
「ああ…肉体的な強さも、心の強さも…な」
「随分とその人を認めているんですね」
「フンッ、気にくわない奴だがな!」
そう言うとベジータはスタっと立ち上がった。
「オレもまた修行に戻る。じゃあな」
「ちょっと待ってください!」
「最後に1つだけ…あなたはその〝ライバル〟とやらを超える自信はあるのですか?」
飛び立とうとしているベジータを止め、文は言った。
「…カカロットなど1つの壁でしか無い!覚えとけ、オレは全世界で1番強くなる男だッ!!!」
そう言い切った後ベジータは飛んでいった。
「全世界で1番強く…ですか」
「覚えておきますよ…メモ帳ではなく、心に刻んでおきます!」
そう言って文はパタンとメモ帳を閉じた。
ベジータは文と別れた後、最初に美鈴と修行していた所へ来た。
「……」
ベジータは目を閉じて瞑想している。
〈地球もろとも宇宙のチリになれーーーっ!!!〉
〈オレは…超ベジータだ…!!!〉
〈キサマはオレの更に上をゆく天才だ…!いつまで経ってもその差は変わらなかった…!〉
〈さらばだ…ブルマ…トランクス…そして…カカロット…〉
〈キサマなんぞにやられてたまるか…!オレは戦闘民族サイヤ人の王子ッ!ベジータだァァァ!!!〉
今までの戦いを振り返るベジータ。どの戦いも死闘であった。とても心にゆとりをもつことなどできなかった。
でも…いまならできる気がする。そうベジータは思い始めていた。
「…きたか」
「師匠…修行を始めましょう!
目を開けるとそこには買い物から帰ってきていた美鈴が立っていた。
「フン、気持ちの切り替えはできたようだな…!」
「はい。…時間をかけてしまってすいません!」
「気にするな…それより、時間が惜しい…さっさと始めるぞ!」
「はい!」
再びベジータと美鈴の修行が始まった。
はい、第24話でした。
地面に落ちた団子をみて絶望する早苗を想像したら笑えました。
ではここで終わります。お疲れ様でした。