~夜叉達が進む一方~
「姉様、引っ付かないで下さい。尻尾引き抜きますよ」
「酷い!お姉ちゃんはそんな子に育てた覚えはないにゃ!」
瞳に涙を浮かべ、着物の袖で口元を隠しながらそう言う黒歌。そんな姉に対して、うんざりした様な顔をする白音。彼女達は徒歩で体育館の方へと向かっていた。
「一応、試合は始まっているんですよ?油断しててやられるとか、御主人様に顔向けできませんよ?」
「白音………私があんな奴等にやられると思ってるの?」
「そうは思いませんが………油断大敵ですよ」
「まぁ、それに関しては同感ね………あっ体育館が見えて来たわよ?」
「中に1、2、3………6人ですね」
「しかも何の罠も仕掛けずに堂々と待ってるなんて………完全に舐められてるわね」
黒歌と白音は猫魈と呼ばれる種族の生き残りであり、猫魈は猫又でありながら仙術を使用できる珍しい種族である。故に悪魔の駒が出来てから狙われていた一族だ。
仙術は自然のエネルギーを取り込む事で自分の力を飛躍的に上げ、肉体強化から、生命エネルギーの生産しそれを他者へ分け与える事まで出来き、習得すれば周囲の命の気配や気の流れを知る事が出来るので、隠れている者や罠などを感知できる。
「まぁ、罠もない様ですし、このまま入りますか?」
「そうね、折角待っていてくれたみたいだしね」
姉妹はそう言うと体育館の中へと入って行った。
体育館の中には姉妹が感知した通り、ライザーの眷族が6人待ち構えていた。
「よく来たな。妖怪共」
「此処まで堂々と待たれてるとねぇ…………取り敢えず自己紹介が必要ね。私は黒歌、見ての通り猫又よ」
「同じく猫又の白音です」
「其方が名乗ったのであれば此方も名乗ろう。私は
中華風の少女・雪蘭がそう名乗った。
「私はミラ。駒は
そう言って和服を着た少女・ミラが棍棒を見せながらそう言った。
「
「同じく
「「バラバラにしてあげる!」」
双子の姉妹イルとネルがそう言いながら、手に持つチェーンソーのエンジンを作動させた。
「私はニィにゃ~」
「リィにゃ~」
「「同じ猫又にゃ!」」
セーラー服を着た水色髪と赤髪の少女がそう名乗った。どうやら、猫又らしい。
両者が自己紹介を済ませ、互いに殺気立ち始める。
「戦う前に1つ言っておきます。降参して下さい、貴方達は私と姉様には勝てません」
「そうね。大人しく去りなさいな。特のそっちの猫又ちゃん達………同じ猫又としては争いたくないわ」
白音と黒歌が彼女達にそう告げた。
「ふざけているのか?………戦わずしてその様な事を言うなどと!」
「あの神といい、お前達といい、一体何様のつもりだ!!」
「「ふざけないでよ!」」
「口だけなら何とも言えるにゃ!」
「お前達も、あの神も、きっと口だけにゃ!」
彼女達はそう言う。しかも此処にいない龍牙王の事まで引合いに出した。
「そうですか、残念です。ならもう1つだけ……………………………………」
白音はそう言うと、頭に猫耳が、スカートの下から3本の尾が現れた。
「あの方の事まで侮辱したんです。少し痛い目に合って貰います」
「「「「「「はっ?」」」」」」
白音の発言に唖然とするライザーの眷族達。自分達が下に見られていると思い激昂しようとする。
「「「「「ふz」」」」」
「ぐぅ!?」
雪蘭、イル、ネル、ニィ、リィが叫ぼうとした瞬間、苦悶の声が聞こえた。彼女達がミラの方を見てみると、そこにはミラにボディーブローを入れている黒歌に似た白い猫耳の女性の姿が在った。
「いっ何時の間に?!」
「まっ………まった……く………見えな………かっ………た」
ミラは鳩尾を殴られた為に、肺の中の空気が全て吐き出された様で、途切れ途切れにそう言う。
「きっ貴様、一体誰だ?!」
「白音です………さっきも言いました」
「「「「「なっ?!」」」」」
黒歌以外の全員が驚いた、先程の白音と今、ミラに拳を叩き込んでいる白音の姿はあまりにも違い過ぎる。具体的には、緩やかな丘が大きな山になっている。即ち、出る所は出て、引っ込む所は引っ込んでいる…………もっと分かり易く言うとボン・キュ・ボンである。
「この程度、仙術を使えば余裕です」
「仙術?」
「「まさか猫魈かにゃ?!」」
ニィ、リィだけがどうやら2人が猫魈だと理解した様だが、他の者達は分かっていない様で、仙術がその様な物かも知らない様だ。
「その通りよ。私達は猫魈の生き残りよ」
ニィとリィはそれを聞いた瞬間、顔が青ざめ、冷汗が流れ始めた。
「猫……魈だ…か…何だか知らないけど!」
白音に殴られ苦しんでいたミラだが、何とか息を整えた様だ。
「舐めるn「遅い…はっ!」がっ!?」
膝蹴りで反撃するの為に足を動かそうとしたした瞬間、白音は一度拳をミラの身体から離し、掌を彼女の胸に当てた。その瞬間、ミラの身体が大きく後方に吹き飛んでしまった。
「ぐっ!……かはぁ!」
ミラはそのまま、壁に激突する。壁が陥没すると共に、彼女の身体は壁にめり込んだ。どうやらミラは気を失っているらしく、既に動かない。やがて彼女の身体が光に包まれると、このステージより退場した。
『らっライザー様の兵士1名脱落』
そうアナウンスが鳴り響き、場が沈黙した。
「てっ…」
「撤退にゃ!」
ニィとリィがそう叫ぶと、雪蘭、イル、ネルの腕を掴んで体育館から出ていった。
「ちょっと2人とも!?」
「敵を前に逃亡なんて」
「ありえないよ!」
引っ張られている3人がそう言うが、ニィとリィは止まらない。
「駄目にゃ!」
「あれは危険にゃ!」
「どういう事?確かに見えないほど早かったけど、全員で掛かれば」
雪蘭は残った5人でかかれば何とかなると考えて居る、イルとネルも同意見の様だ。
「無理にゃ!私達猫又の一族の中には決して喧嘩を売っちゃ駄目な一族が2ついるにゃ!」
「1つは豹猫族、凶暴で力も強く、一時は西国でその名を轟かせたにゃ。そしてもう1つは猫魈にゃ!」
「それってあいつ等の………」
「猫魈は豹猫族とは正反対に大人しい一族だけど、特異な力を持っているにゃ。それこそが仙術にゃ………風の噂で滅んだって聞いてたけどにゃ」
「真面に戦っても勝てないにゃ!」
『その通りよ、お嬢ちゃん達』
声が響くと共に彼女達の前方に青い炎の壁が出現する。彼女達は何とか、炎の壁に当たる前に停止する事ができた。
「罠!?」
「くっ!」
直ぐに逃げようとするが、右も左も後ろも既に炎の壁で塞がれてしまった。
「囲まれた?!」
『終わりね』
「くっ!こんな事でやられる訳には……」
『もう終わりです』
「何処だ?!どこにいる?!」
『『上です(にゃん)』』
5人が上を見上げると、そこには空に浮いている白音と黒歌がいた。
「そろそろ時間が差し迫っているので」
「終わらせて貰うにゃん」
白音、黒歌、血を別けた姉妹が敵を倒す為にその力を合わせる。2人は手を雪蘭達に向かって翳す。
「魔に属する悪魔にとっては少し痛いかも知れませんが………運がなかったと思って諦めて下さい」
「死なない様には加減するから安心しなさい」
2人の手から白い炎が出現し、それが雪蘭達に向かい放たれる。
仙術の力は周囲の気を取り込むだけではない、邪気を払い、浄化する力を持っている。つまり闇に属する悪魔にとっては致命的な力だ。
それは一瞬だった、雪蘭達の視界が真っ白になった瞬間、凄まじい熱と共に彼女達の意識は強制的に失われた。
「ん~終わったにゃ~」
炎が消え、その場には既に雪蘭達の姿はなかった。
「姉様、早く合流しましょう」
「白音~お姉ちゃん、疲れたから白音成分を補給したいにゃ~」
そう言いながら、白音に抱き着こうとする黒歌。だが白音はそれを避けた。回避された故に黒歌は地面とキスする羽目になった。
「いったぁ~」
「先に行きますよ」
「えっ?ちょw本気で私を置いて行くつもり!?」
「来ないなら置いて行きますよ、姉様」
「ちょっと待っててばぁ!」
先に行ってしまった白音を追い掛ける黒歌。
彼女達は夜叉達と合流する為に、先へと進んだ。