~冥界 中央研究施設跡地~
研究施設は龍牙王と飛妖蛾の戦いで影も形も無く消えていた。
「お疲れ様です、龍牙王様」
「あぁ……アーシア、疲れた。さっさと帰るぞ……帰ったら風呂だ、それで飯食おう」
「はっはい……分かりました」
「良し、帰ろう」
「でっですがこの魂達を放置しておいては」
「此処は表層とは言え冥界だ。いずれ冥界の奥底に連れて行かれるだろうな………悪魔がどうなろうと我の知った事ではない」
「でっでは………今、倒れている者達は」
やって来たのは魔王達と眷族、リアス達だった。
「遠からず死ぬだろう………肉体と魂、両方なければ生命として成り立たん。魂が冥界の奥へ誘われ、肉体に戻らねば、活動も停止するだろうな。
さぁ帰るぞ……我は兎も角、冥界に生者であるお前等がいるのは本来規則違反だからな」
「兄貴の場合、規則を守った事がすくないと思うんだが……」
「夜叉、酷い。これでも我は調停者なんだぞ、世界を護るのが役目だ。規則は守ってる…………まぁ、時には破る事もあるけど………叢雲牙、冥道を開け」
【あぁ……いいだろう】
龍牙王に背負われた叢雲牙の宝玉が光り、目の前に冥道が開いた。
「あっ………あの」
アーシアは何かを言いたそうだ。龍牙王は彼女が何を言いたいのか理解していた、理解できたからこそ機嫌が悪い。
「嫌だぞ、幾らお前の頼みでも断る。
飛妖蛾を倒したのは、奴が魂を多く喰らう存在で、奴がもし地上に出れば多くの人間や妖怪に被害が出るからだ。まぁどちらにしろ、奴とは一族の誇りをかけて決着を付けないといけなかったから、奴と戦った事に関しては文句はない。
だが悪魔共の命を救えと言うのは別だ………調停者としての役目を終えた今、何故コイツ等を助けないとならんのだ」
龍牙王は飛妖蛾を倒した。それは闘牙王の子として、調停者として、土地神として動いただけだ。結果的に悪魔を救う事になったが、彼にそんな気など全くない。
「ですが、龍牙王さま……例え魔と言えど命は命です。命は奪うのは一瞬で事足りましょう……ですが産み育てる事は時間が掛かります。それは人も妖も同じ事です……そして命の重さは変わりません」
「だからかつてお前を奪った悪魔を救えというのか!?」
龍牙王は怒りのあまりに半分顔が変化し、凄まじい力が溢れる。その影響か、叢雲牙の開いた冥道が消えてしまった。
「龍牙王様………逆にお考えください」
「なに?」
「此処で龍牙王様が怒りを押し殺し、悪魔を救う事で多くの人間や妖怪を救う事になるのです」
アーシアは突然そう言い始めた、一体どう言う事なのだろう。
「悪魔は先の大戦でその数を多く減らし、
「そうだ………その所為で多くの者達が苦しんでいる。黒歌や白音もその被害者だ」
そう言い、魔王達を睨む龍牙王。それを受け、苦渋の表情を浮かべる。
「此度犠牲となった悪魔達は見た所、千は居ましょう。これだけの悪魔が死んだとなれば、これまで以上に地上の者達を襲う事になるでしょう」
「………はぁぁぁぁ」
それを聞くと、大きく息を吐き、毒気を吐き出した。そして腰の天生牙へと視線を向ける。
「………我は機嫌が悪い、お前の手料理を喰い、膝枕で眠らなければ直らんぞ」
「はい!がんばります!」
龍牙王がそう言うと、アーシアは笑顔で返す。
「天生牙……正直乗り気ではないが、これも地上で生きている者達の為だ。力を貸せ」
そう言うと、それに応える様に天生牙が震えている。天生牙を引き抜く、その刀身は光に包まれていた。そして天生牙が脈動を打つ。
龍牙王がその場から飛び上がると、魂達の中へと向かう。魂達の中へ来ると、周囲を見渡し遠く離れた魂まで全て捕捉した。すると天生牙の脈動がこれまで以上に強くなる。
―癒しの天生牙―
死者をただ1度のみ蘇生させる力と龍牙王の力をもって一度に数多の命を生き返らせた。眩い光が周囲を照らした。
光が収まると、龍牙王の周囲の魂達は消えていた。彼はアーシアや夜叉達の元へ降りてきた。
「帰るぞ……【冥道残月破】」
天生牙の刀身が黒く染まり、振るうと冥道が開かれる。
「此度の話し合いは中止だ………いずれ連絡をやる、それまでに我が地で問題を起こせば………次は貴様等滅ぼしに来る。覚えておけ」
龍牙王はそれだけ言うと、アーシアを抱え冥道へと飛び込んだ。夜叉は桔梗達もそれを追い冥道へと入る。
こうして此度の事件は終結した。
悪魔達は此度の事件で改めて龍牙王の危険を知った故に滅多に動く事はないだろう。