~龍王神社 神殿~
人間態の叢雲牙に連れてこられた巫女を見て龍牙王は眼を細める。
「御初にお目に掛かります。偉大なる龍神様、私は姫島朱乃と申します……此度は挨拶に伺いました。悪魔としてではなく、巫女として、人間としてです」
リアス・グレモリーの眷族、姫島朱乃が来たのだ。本来なら接触は禁じられていた筈だが、今の彼女にはどうしても気にかかる事があった。
突然の事に夜叉と桔梗は龍牙王を見る。
「構わん……姫島朱乃よ、入って来るがいい。おっとその前に」
龍牙王が手を振る。すると何かが変化した。
「悪魔のこの身を気遣って下さったこと、深く感謝致します」
龍牙王が行ったのは、普段満ちている神気を少し弱めたのだ。転生悪魔と言えど悪魔は悪魔。神聖な場所などに居ると言うのは、毒ガスが充満している部屋に何の装備もなく入る様なものだからだ。
夜叉と桔梗は龍牙王のこの気遣いが気になった。普段は悪魔と聞くだけで殺気立つのに、彼女に対して氏子に接する様な対応をしている。
龍牙王に言われ、朱乃は神殿へと入って来る。
「叢雲牙、助かった。後は買い物に戻ってくれ」
「あぁ」
叢雲牙はそう言われると買い物へと戻っていった。
「さて……こうして会うのは十数年ぶりか」
龍牙王の言葉に場に居る全員が驚いた。どうやら、彼女とは面識があるらしい。とは言うものの朱乃本人はそれを知らなかったらしい。
「それにしても朱璃に良く似ている。と言うか、瓜二つだな」
「母を知っているのですか?」
「あぁ……朱璃、そしてお前の父親バラキエルは我の元に尋ねてきたからな。幼いお前を連れてな……蓬莱郷へと案内して欲しいと。
アーシアは知らんか………かつてある巫女が造った人と妖怪が共存する蓬莱島、しかしその島は50年に一度、結界が緩み余分な奴等がやってくるからな。
我も人と妖怪達の共存には賛成していた。故に蓬莱島の巫女と協力し、新たな楽園……蓬莱郷を創造した。そこでは妖怪と人間の子供達……俗に言う半妖が多く暮らしている。今では天使や堕天使、エルフとかも共存している。
さて、我が名前だったか。いずれ知る事だ………我は龍牙王。敢えてこの地では龍王と名乗っている」
「やはり……貴方様はあの………では貴方様の力を懐かしく感じたのは」
「少しの間、お前は蓬莱郷で暮らしていたんでな。その時によく我の尾に抱き着いて眠っていたな、いや懐かしい」
その様な驚くべき真実をさらっと言う龍牙王。勿論他の者達は唖然としている。
「それでバラキエルは元気か?」
「ッ!………私に父は居りません。あの様な……
それを聞いた者達は気まずくて黙ってしまっているが、龍牙王はきょとんとした表情で朱乃を見ている。
「ぇ~と…………ぁ~(死んだ事になってるの?あれ?バラキエル、話してないのかな?言うべきか……いや、バラキエルに聞いてからにするか)。
そっそうか………親子の関係を我が口を出す事もあるまい。まぁ何か在れば何時でも訪ねて来ると良い。お前であれば構わん……悪魔のあの小娘が来たら切り殺している所だがな」
それから朱乃は直ぐに帰った。どうやら本当に龍牙王の力の懐かしさを確かめに来ただけらしい。
「まさかあの姫島先輩と龍牙王様にその様な関係が在ったとは……」
「あの小さかった子供が今やあんな美人になるとは……人間と言うのは成長が早いな。そう考えてみれば夜叉と桔梗も変わったな。
寝小便ばかりしてた夜叉がこんな立派に………桔梗も美人になったし……育ててきた我からすればくるものがあるな。
フフフ………さて、気を取り直してと。夜叉、桔梗」
龍牙王は今までの個人としての顔から、土地神としての顔へと変わる。
「我の代理として悪魔共に接触しろ………『この我が魔王共と同じ座について話し合いをしてやると伝えろ。これに応じぬ様なら………地獄の龍が暴れる事になるとな』」
「「はい」」
「龍牙王さま……」
「アーシア、これはこの地に生きる氏子達の為でもある。個人的に怨んでいるが、それを仕事にまで持ち出さんさ………我が眷族達よ!」
龍牙王の声でこの地にいる総ての眷族達が集まった。
「聞いていたな………我は悪魔と接触する。警戒を怠るな!魔王共が来る、そうなればそれに乗って入ってくる輩もいる可能性が高い。
此度の話し合い次第では……悪魔共を追い出すことになる。そうなれば我は全力を出す……しかし我だけでは守れぬ事もある。この地を護る為にもお前達の力を貸してほしい」
「「「「御身に忠誠を誓い、この地と共に生きると決めた時より我等が命は、魂は貴方様の物です!どうかこの身、力をお好きにお使いください!」」」」
陽牙達がそう言うと他の眷族達がそれに同意する声を上げる。
「ではこれより各自、自分の場所へと戻り備えよ!」
「「「「「承知!!!」」」」」
眷族達はそう言うと、再びその場から消えた。
「ふぅ………一先ずはこれでいい。
夜叉、桔梗、スマンがこれから少し忙しくなるぞ」
「あぁ!構わねぇぜ!」
「構いません」
「アーシア……今回の話し合いはお前にも出て貰おう。勿論、この龍牙王の巫女としてな」
「はい!」
龍牙王は動き出した。
魔王達との会談……これがこの地にとって、悪魔達にとって何を齎す事になるのか……。
~龍牙王と朱乃との関係~
・未だ姫島 朱乃が1歳くらいの時に、父・バラキエル、母・朱乃が混血の我が子をどう育てるかを悩んでいた時、バラキエルが友人の龍牙王に蓬莱郷の伝説が在ったのを思い出し、龍眠から目覚めたばかりの龍牙王を尋ねていた。
・蓬莱郷では多くの混血達が暮らしていたので、一時的にはバラキエル家族が蓬莱郷で暮らしていた。その時には朱乃は龍牙王の尾で寝た事もあるらしい。