~空~
―ん~久々の空は気持ちが良いね……
龍牙王は龍へと変化して、空を翔け自分の土地へと向かっていた。
そして駒王の地のやってきた。どうやら現在の駒王は曇りの様で、上空から街の様子は見えない。なので、自分の力を使い雲を吹き飛ばした。
これでやっと見通しが良くなった。現在時刻は分からないが、空には月と星が輝いている。夜であるのは確実だ。龍牙王は見通しの良くなった空から街の方を見降ろしてみた。
約50年、眠っていたので街並みは多少変わっている……だけど、街……家の光は何時の時代も変わらない。龍牙王は懐かしそうに、街を見ながら龍王神社へと向かう。
~龍王神社~
現在、龍王神社では慌ただしく人々が動いていた。
「ほれっ!早く産湯の用意を!」
「はい!」
「後、清潔な布を大量に!」
「はい!」
その理由は、この神社で子供が生まれようとしていたからである。老巫女が若い巫女達に指示を出す。
「おっお婆様、僕も手伝いを」
「えぇい!婿殿は奏の近くに居らんか!」
婿らしい男性にそう言い、陣痛で苦しんでいる女性の傍に行かせた。
(むぅ……長い、儂や娘の出産の時に比べて長い。万が一にも、奏が死ぬ様な事になれば……)
出産に掛かっている時間が長い……それは母子共に危険な事を意味する。しかしこの神社は街から外れた場所に在り、病院に行くにしても百段以上在る階段を下りなければならない。此処に居るのは巫女達と婿である男性のみ、今にも産まれそうな妊婦を抱えて階段を下りる訳にもいかない。
老巫女は助産師の資格も持っている……昔でいう産婆である。なので神社で出産しようと考えたが、それが裏目に出た様だ。
【グオォォォォォォォォォォ】
「!……この声は」
老巫女はこの声に聞き覚えがあった。それは今となっては遠き日の記憶であるが、鮮明に覚えていた。自分はかつて、この声の主と共に生活していたのだから。
老巫女は急いで外に出た。そして空を見上げる。
「おっ………おぉぉぉぉぉぉぉ」
空一面を覆う程、巨大な光を放つ龍がいた。龍は此方の方向をみると、神社へと降りてくる。降りてくる途中で龍は小さくなり始め、やがて人と同じ位の大きさとなり、ゆっくりと神社の境内へと着地した。
光が収まると、そこには少年が立っていた。以前と変わらぬ、白銀の髪、3本の尾、幼い顔つきで在りながらその身から強大な力と覇気を放っている。
「ん~……はぁ……気持ち良かった」
「あぁぁぁぁ……神さま」
「ん?……スンスン、この匂い……お前は……陽菜か?」
「はい、御懐かしい……アレから約50年、本当にお久しぶりでございます。龍王様」
どうやらこの老巫女……かつて幼き頃に龍牙王と共にいた陽菜だった。
「50年か……お前も皺くちゃになったなぁ」
『あぁぁぁぁ!痛い!痛い!』
「なっなんだ?」
「実は、孫の子供が生まれそうになっているのです。ですが出産に時間が掛かり過ぎておりまして」
「それは一大事だな。我が目覚めた日に、産まれようとは……だが時間が掛かり過ぎとは母子共に心配だ」
龍牙王は老巫女・陽菜と共に神殿へと向かった。
~それから数十分後~
「おぎゃあ!おぎゃあ!おぎゃあ!」
元気な男の子が産まれた。
龍牙王はその男の子を見て驚いた。龍牙王の一族……つまりは闘牙王の血を継いでいる証。龍牙王・殺生丸・犬夜叉も受け継いだその特徴的な白銀の髪と金色の瞳……目の前で産まれたばかり赤ん坊も、白銀の髪と金色の瞳をしていた。
だがそれだけではなかった……それは恐らく龍牙王だけのみが気付いた。この赤子の匂い……正確にはその魂の匂いを龍牙王が知っていた。
―あぁ……まさかまた……お前に会う事があろうとは―
龍牙王は陽菜に産まれた赤子を渡された。是非、抱いてやってほしいと言われたのだ。龍牙王は慣れた手つきで、赤ん坊をその腕に抱いた。これまで、龍王神社、龍神神社で産まれた子供達を世話している彼にとっては赤子を抱くなど慣れている。
先程まで泣いていた筈の赤子は泣きやみ、龍牙王の腕の中で安心して眠っている。
―あぁ……世界よ、この子に祝福を。お前が産まれてきた……ならば彼女も同じ時代に産まれるだろう。いずれ会えるだろう……だから今は―
「ゆっくりとお休み、犬夜叉」