~火山~
火山帯にある巨大な魚の骨で出来た工房。その中に1人の妖怪が住んでいた。
「ふぁ~……なんか嫌な予感がする。殺生丸でも来るのかな?………逃げよう」
このよぼよぼの妖怪は刀々斎。見た目によらず犬夜叉の父・闘牙王の牙から鉄砕牙と天生牙を作った刀匠だ。刀々斎は嫌な予感を感じて、この場から去ろうとしていた。
「刀々斎」
「おわぁ!?儂はお前に刀を打たんぞ!……って龍牙王、お前さんか」
「あぁ……貴様に仕事を依頼しに来た」
「はぁ?お前さんはもう牙を多く持ってるだろうに……これ以上何を望む?」
刀々斎は冥加爺と同じ、闘牙王に仕えていた妖怪達の1人だ。
「守護の刀……そして人を禍より護る刀だ」
「はぁ?それならお前さんも持ってるだろう」
「あぁ、しかし人の身が扱うには強大過ぎるから我以外に使えん。だから人……正しい心を持つ人間だけが使える刀を打ってくれ」
「むぅ……分かった。何を素材にするかのぅ……お主の注文通りに作るなら相応の物がないと」
「素材なら此処にある」
刀々斎は龍牙王は口を開き、左側の上の牙をへし折った。
「なっ……なぁ~!!なんて事しやがんだ!!!半分とは言え狗妖怪の牙をへし折るなんて!その牙にはお前の力が何百年……いやお前さんなら何千年分の力が蓄積されてるだろうが!」
「純粋な狗妖怪ではないからな、牙はまた再生する。我が力の大元は宝玉だ、牙など大した物ではない」
「それでも、牙だけで親方様の半分以上の力を持ってるじゃねぇか……はぁ分かった。作ってやるよぉ……お前さんにはあの時」
刀々斎が何かを言おうとするが、龍牙王が睨みつける。それ以上言うなと言う目だ。
「ッ!すまん……それにしても誰が持つんだ?」
刀々斎は牙を受け取ると、作業に入る。
「犬夜叉だ」
「犬夜叉?……アイツには鉄砕牙が……ってなんでまたお前が持ってるんだ?」
「人間になったからな。もうアイツには使えん、だから代わりの物を用意してやろうと思ってな」
「はぁ?!」
龍牙王は刀々斎に事情を説明した。犬夜叉と桔梗の事、四魂の玉の事を。
「それにしても……全く親子だなぁ」
「なにが?」
「親方様も鉄砕牙を作る時、躊躇なく牙をへし折りやがったんだ……十六夜を護る為の力が欲しいってよ」
刀々斎は龍牙王を見る、その姿がかつての主・闘牙王の姿と重なった。
「……では頼んだぞ」
龍牙王はそう言うと、去って行った。
「親方様、ますます、アイツはあんたに似てきたぜ……はぁ、これも儂等の性じゃなぁ。儂等があの時…」
その呟きは金槌の音に打ち消されてしまった。
龍牙王は飛んでいると懐かしい匂いを感じた。
「殺生丸か」
「お久しぶりです、兄上」
それはもう一人の弟・殺生丸だった。
「やはり鉄砕牙は兄上の元に戻っていたか……兄上、鉄砕牙と叢雲牙を私に譲って頂きたい」
「まだ言っとるのか、お前は……親父と同じ戦バカめ」
「何と仰ろうが構いませぬ。ですが、その牙達こそ最強への道を開く力……何としても手に入れる」
その眼は唯、純粋に力を求める眼だ。父を超える為に力を求めている殺生丸。だがそれだけでは駄目だと龍牙王は知っていた。
「殺生丸、お前に守るべきものはあるか?」
「!?」
殺生丸は兄の言葉を聞いて驚いた。その言葉は正に最後に父が自分に聞いてきた言葉だ。
「守らねば生きていけぬ様な弱者は不要」
殺生丸はそう伝えた。彼にとっては力こそが総て、強者こそが絶対だ。
「……殺生丸、いつかお前にも出来るだろう。もしその時が来れば鉄砕牙は譲ろう」
龍牙王はそれだけ言うとその場から去った。