狗の長兄が行くD×D   作:始まりの0

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殺生丸 中編

 殺生丸が鉄砕牙と冥道残月破を扱い出し約半月。

 

 殺生丸は冥道残月破の冥道を広げる方法を探していた。彼はそれを知る人物に2人ほど心当たりがあった。1人は兄龍牙王である。しかし兄は自分の土地を留守にしており、帰るのはかなり先だと聞いた。なので、不本意であるがもう1人の元に向かっていた。

 

「殺生丸様、一体何処に向かわれておるのですか?」

 

 邪見はりんの乗った阿吽の手綱を引きながら殺生丸に尋ねる。殺生丸はそれに答える事なく空を見上げていた。

 

 すると空から白い巨大な妖怪が現れた。

 

「なっなんじゃあ!?」

 

 

「すごく大きい~」

 

 

「感心しとる場合か!?」

 

 邪見とりんのやり取りを他所に妖怪は光だすと女性の姿になり、彼等の前に降り立った。

 

「久しいな、殺生丸」

 

 女性は笑みを浮かべてそう言うが、当の殺生丸は心なしか嫌そうな顔をしていた。

 

「長男殿から聞いていたが、お前が人間の小娘を連れ歩いておるとはな。

 

 まぁよい……お前がこの母を訪ねてきた理由は分かっておる。天生牙の冥道を広げる為であろう?」

 

 

「……そうだ」

 

 殺生丸一行は、御母堂に連れられ天空城にやってくる。

 

「さて……私はお前の父上からこの冥道石を預けられた。まずは今のお前の力を見せて貰おう」

 

 御母堂がそう言うと、彼女の首元の冥道石な光だし巨大な犬が現れた。殺生丸は直ぐに天生牙を引き抜く。

 

「冥道残月破!」

 

 天生牙を振るうと三日月状の冥道が犬を切り裂いた。かに思えたが犬は全く無傷で、りんと阿吽、邪見を飲み込んで、殺生丸の開いた冥道へと飛び込んだ。

 

「おやおや、あの殺生丸が人間の小娘と小妖怪を助ける為に冥道に飛び込むとは……あやつも変わったものだ、そうは思わんか長男殿?」

 

 御母堂がそう言うと、自らが座る玉座の後ろに視線を向ける。

 

「全くだな……御母堂」

 

 玉座の後ろから龍牙王が出てきた。

 

「出雲から急に呼び戻されたと思ったら……これを見せる為に?」

 

 

「長男殿とて気になるであろう?」

 

 確かにと呟くと龍牙王は御母堂の冥道石に手を翳す。すると冥道石から彼等の前に殺生丸達の様子が映し出された。

 

 

 

 

 

 ~冥道~

 

 冥道犬に食われたりんと阿吽、邪見を救う為に、冥道に飛び込んだ。そして、癒しの天生牙を使い冥道犬を斬り伏せ助けた。

 

 阿吽、邪見は直ぐに意識を取り戻したが、りんは意識が戻らないままだ。

 

「邪見、りんと共に後を着いてこい」

 

 

「はっはい!」

 

 殺生丸は彼等を連れて冥道を進む。

 

 その途中、邪見はりんの変化に気付く。

 

「りん! りん! しっかりせんか!?」

 

 

「どうした邪見?」

 

 

「そっそれがりんが息を」

 

 普段、どんな事があっても表情を変えない殺生丸。しかしその邪見の言葉に動揺を隠せていない。

 

「直ぐにりんを下ろせ」

 

 殺生丸は直ぐに天生牙を抜く。

 

(あの世の使いが見えん……何故だ? 応えろ天生牙)

 

 天生牙は使い手があの世の使いを斬る事で、死者を甦らせる。だが今の殺生丸にはそれが見えない。

 

 次の瞬間、冥道の奥から何かが現れ、彼等を包み込み再び冥道の奥へと消えて行った。

 

「殺生丸様! りんが!」

 

 何かはりんだけを冥道の奥へと引き摺りこんだ様だ。

 

 彼等は直ぐにそれを追いかける。その途中、外の御母堂から道が開かれるが無視した。

 

『本当に可愛げのない。一体誰に似たのやら』

 

 

『まぁまぁ……(御母堂(母親)似だろうな)』

 

 

『長男殿、なんだその顔は……妾に似てると言いたいのか?』

 

 

『まぁ親子だし』

 

 

『妾はもう少し素直だぞ?』

 

 とやり取りがあったのだが、殺生丸が知る事はなかった。

 

 冥道の奥へと進むと、巨人がいた。そしてその周りには無数の亡者達の山があった。この巨人は冥道の主だ。そして冥道の主が大きな雄叫びを上げると、周囲の亡者達が冥道の深淵へと吸い込まれていった。

 

 殺生丸は直ぐに天生牙を引き抜くと走り出す。

 

(そこへは行かせん……!)

 

 殺生丸は冥道の主を天生牙で両断する。生きている者を斬る事は出来ないが、あの世の存在なら斬る事はできる。

 

 冥道の主は斬られた事で消滅し、りんは放り出されるが直ぐに殺生丸が受け止めた。

 

 そのまま、彼はゆっくりと亡者達の山の間へと降り立った。

 

「りん」

 

 殺生丸はりんに声をかけるが、返答はない。

 

「りん……起きろ」

 

 彼はりんを抱えている腕から伝わってくる……彼女の温もりが失われていくのを。

 

 邪見と阿吽も近くに来てその現実を目の当たりにする。邪見は涙を流し、阿吽は哀しそうに鳴いている。

 

(救えんのか……?)

 

 殺生丸は天生牙を手放すと、地面に突き刺さる。

 

(救えんのか? 天生牙、こんな物の為にお前を死なせてしまった。

 

 りんの命と引き換えに得る物など……何もない!)

 

 殺生丸の中に芽生えた哀しみ……天生牙はそれに応えるかの様に暖かな光を放ち始める。

 

 それに反応し、周囲の亡者達が光に集まり始めた。それはまるで、天生牙にすがっているかの様だ。

 

「お前達も救われたいのか……」

 

 殺生丸はしっかりとりんを抱えると、再び天生牙を手にする。

 

 天生牙を構えると、天生牙から光が溢れ出し周囲の亡者達をその力で浄化していく。

 

 この瞬間、冥界は天生牙の光で包まれた。

 

 

 

 ~天空城~

 

 御母堂と龍牙王は天生牙により冥界の死人達が浄化された事を確認すると

 

『冥道残月破!』

 

 殺生丸の声と共に真円に近付いた巨大な冥道が開き、そこから殺生丸達が出てきた。

 

 それから少し落ち着くと、再び邪見が涙を流し始めた。

 

「どうした、殺生丸。浮かない顔をして……お前の望み通り天生牙は成長し、冥道は真円に近付いたのだ。少しは喜んだらどうだ?」

 

 

「知っていたのか、りんがこうなる事を」

 

 殺生丸が御母堂に尋ねる。

 

「妖怪ならいざ知らず人間が冥道に耐えられると思っていたか? 

 

 それに殺生丸よ、お前は一度その小娘を天生牙で甦らせているな?」

 

 

「そうだ……」

 

 

「天生牙で命を救えるのは一度きりだ」

 

 その言葉に驚きを隠せない殺生丸。

 

「当然であろう。本来、命とは1つしかないもの。お前の都合で何度も呼び戻せる程、軽々しい物ではない。

 

 それとも殺生丸、お前は神にでもなったつもりか? 天生牙さえあれば死しても呼び戻せると、死など恐れるに足らぬと」

 

 殺生丸の心の何処かにあった天生牙さえあれば命を呼び戻せると言う慢心、それがこの度のりんの死に繋がった。

 

「お前は知らねばならなかった!

 

 愛する者を護ろうとする心と、同時にそれを失う哀しみと恐れを!」

 

 

(哀しみと……恐れ……)

 

 殺生丸は長い時の中、哀しみや恐れを感じた事はなかった。だが今この時、たった1人の人間の娘の命が殺生丸の心に哀しみと恐れを刻み込んだ。

 

「父上はこうも言っていた。

 

天生牙は癒やしの刀。たとえ武器として振るう時も、命の重さを知り、慈悲の心を持って、敵を葬らねばならぬ。

 

それが百の命を救い、敵を冥道に送る天生牙を持つ者の資格だと」

 

 

「(殺生丸様が慈悲の心を知るためにりんは死なねばならなかったのか)ぅう~」

 

 

「どうした小妖怪?」

 

 

「邪見と申します……殺生丸様はどんな時も涙を見せないご気性故、私が代わりに」

 

 と邪見が言った。

 

「ほぅ……悲しいか殺生丸?」

 

 御母堂は真っ直ぐ殺生丸を見る。

 

「悲しかろう殺生丸」

 

 今まで黙っていた龍牙王が話し始めた。

 

「まぁ、お前は顔には出さんからな……だが忘れるな、我等と違い人間の命は儚い……ほんの少しの傷で死んでしまうし、例え元気でも次の日にはぽっくりなんて事は良くある事だ。

 

 だから、お前がこの子を護ると言うならしっかりと護ってやれ。どんな事があっても後悔のない様にな。

 

 これは兄としての助言だ」

 

 龍牙王はそう言うとりんの方へと手を翳す。するとりんの懐が光出す。りんの懐からその光が出てくる。どうやらそれは以前に龍牙王がりんを怖がらせた侘びとして渡した御守りだった。

 

「万が一と思って渡しておいて正解だった」

 

 光は段々と強くなり、りんの身体を包み込んだ。

 

「……んぅ……こほっこほっ」

 

 光が消えると、りんが息を吹き返した。

 

「あっ……せっしょう……まるさま?」

 

 

「もう大丈夫だ」

 

 殺生丸はりんの頬に手を添えそう言う。心なしかその声は嬉しそうだ。

 

「全く……人間の小娘にこの騒ぎとは……変な所が父親に似てしまった」

 

 

「まぁまぁ……殺生丸も成長したと言う事だろう。今の殺生丸を見たら親父は何と言うかな?」

 

 

「さて……なぁ」

 

 

「さてと……我は戻るとしよう。あまり遅くなるとアイツ等がうるさいからな」

 

 龍牙王はそう言うと殺生丸とりんの姿を見つつもその場を去った。


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