城下町のダンデライオン~王の剣~   作:空音スチーマー。

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大変長らくおまたせしました!

私事ながら最近色々立て込んでおりまして…




第65話【それぞれの想い】

「ーーああ、それでしたら俺は大丈夫ですよ。適当に自分で時間を潰しますし。奏の相手をしてあげてください。たぶん楽しみにしてると思うので」

 

数日後に迫る修と奏の誕生日を前に、修とその事について話していた。

 

もちろん今回もいつも通り2人を連れて出掛けようと思っていたのだが、修に断られてしまった。

 

「…むしろ兄さんとの時間を邪魔したら後が怖いですし…」

 

そう言って遠い目をする修。

 

「うーん、そうか?なら奏と2人で出掛ける事にするよ」

「はい、そうしてあげてください!」

「でも、せっかくだしなぁ…」

「なら今度また別の日に飯でも連れてってください。俺はそれでいいですよ!」

「そうか?わかった!いいよ!」

 

こうして、当日は俺と奏の2人で出掛けることになったのだがーー

 

ーーーーーーー

 

誕生日当日、いつも通り何気ない朝だった。

 

リビングで光とテレビを見ている。

 

葵はキッチンで洗い物をしているが、他の皆はまだ起きてきていない。

 

光はこの後、午前中だけアイドルの仕事の為、早起きしている。

 

俺は奏の準備待ちだ。

 

その時に毎週恒例の時期国王選挙の世論調査の結果が流れた。

 

変わらず、俺も葵もトップ3に食い込んでいる。

 

 

「ーーそういえば、しょうちゃんって王様になる気ないんだよね?」

「ん?そうだな。まあ、ないかなー」

「なんで?」

「んーなんでってそりゃあ…俺なんかよりも相応しい子達がいるからなぁ」

 

そう言って光の頭を撫でる。

 

「えへへ!でも、たぶん皆しょうちゃんがなると思ってるよ?」

「そうは言われてもなぁ…。やっぱり俺には無理かなぁ…。そもそも俺にはそんな資格ないし…」

 

その時、リビングの扉が開かれ、

 

「…?奏?準備できたのか?」

 

黙ったままずっと下を向く奏が立っていた。

 

「…何よ王になる気ないって…資格がないってどういうことよ…!」

 

俯いたままの放たれた奏の言葉は震えていた。

 

「…奏…。年末にも言ったけどそのままの意味だよ。俺には国王になる資格はないよ…」

「どうして?」

「…それは…」

「なんで言えないの?」

「ーー!?」

「あ、私そろそろ時間だ!行かないと!お昼過ぎには帰るからーー」

 

有無を言わさず問い詰めてくる奏。

 

光もいたたまれなくなったのか、急ぎ足で出掛けていった。

 

「ま、まあ奏!いまからお出掛けするんでしょ?」

「姉さんは黙ってて!」

「国王には俺なんかより奏達がずっと相応しいんだよ…。ほら奏の場合は政治とか色んな勉強頑張ってるんだろ?」

「ーー!?…くせに…」

「え?」

「奏!?」

 

俺には聞き取れなかったが、葵には聞こえたらしく慌てて奏を止めようとするも、制止を無視して奏が怒鳴った。

 

「ずっと家に居なかったくせに!わかってるような事言わなーー」

「!?」

 

奏が言い切る前に葵が奏の頬をぶった。

 

「謝りなさい奏!あなた自分が何を言ったのかわかってるの!?」

「ーー!?…どうせまた姉さんだけ全部知ってるんでしょ!いつもいつも姉さんばっかり!」

 

そう言って奏は家を飛び出していった。

 

「…奏。…葵も、別にぶつ程の事でもなかったろ」

「…うん。でも翔君が悪く言われてると思ったら無意識に…。奏もわかってるはずなのに…。どうしよう私…」

 

我に帰り動揺する葵。

 

「俺達は家族だ。喧嘩もするし、すぐに仲直りできるよ」

 

そう言って葵の頭を撫でる。

 

とは、言ってもその喧嘩の原因が俺であってはよろしくない。

 

「…奏には全部話しとこうと思う。6年前なにがあったのか、俺がなんで王になる気がないのかを…」

「ーー!?」

「奏ももう子供じゃない。俺達が思ってるほど弱い子じゃないよ…。まあそれで嫌われたり怖がられたりしたらへこむけどな…」

 

ははっと笑いながらリビングから出て玄関へ向かうと、

 

「どうしたの?なんか荒れてたみたいだけど?」

「お兄様…喧嘩?」

 

騒ぎを聞き付けて不安そうな茜と涙目の栞が階段から降りてきた。

 

「心配しなくても大丈夫だよ。さ、2人とも今日は修と奏の誕生日だ!俺はいまから奏と出掛けてくるから準備頼むよ!」

 

そう言って2人の頭を撫でて誤魔化す。

 

「うん!任せて!栞行こ!」

「うん!いってらっしゃいお兄様!」

「ああ、いってきます!」

「翔ちゃん、かなちゃんの事よろしくね」

「…ああ、わかってるよ」

 

去り際に何か気づいていた茜にそっとそう言われ、家を出た。

 

 

ずっと家に居なかったくせに、か…。

 

奏の言葉は痛いほど心に刺さった。

 

確かに6年も家に居なかったんだ…俺の知らない皆がいても不思議じゃない。

 

連絡もとらず、それだけ長い間、俺は皆を見てあげれなかったんだ。

 

奏が怒る理由もわかるし、許してもらえる事でもない。

 

それに葵が手をあげて怒鳴るなんて珍しい。

 

その行為をさせてしまったのも、2人を喧嘩させてしまったのも、2人を泣かせてしまったのも、俺の弱さが招いた結果だ…。

 

情けない…。

 

そう思いながら奏を探しに跡を追ったーー

 

ーーーーーーーー

 

ーーやってしまった…。

 

 

家を飛び出した後、しばらく走った。

 

お兄ちゃんから、姉さんから、現実から逃げるように…。

 

そして、公園のベンチで1人後悔の念に駆られていた。

 

どうしてあんな事言ってしまったんだろう…。

 

思ったとしても口にしてはいけなかった。

 

姉さんが怒ったのも当然だ。

 

けど、それ以上に、

 

 

悔しかった

 

 

私が勉強してここまで努力してきたのは自分が王様になる為じゃない。

 

お兄ちゃんが王様になった時に支えれるように…。

 

ただそれだけ…。

 

ただ認めて欲しかった…。

 

 

「はあ…。よりによって誕生日なんかに、何してるんだろ私…」

 

ため息をつく。

 

その時、

 

「あら?奏様?」

「シヴァさん!」

 

シヴァさんと出会ったーー

 

 

「ーーなるほど。それでお1人でこの様なところに…」

「…はい」

 

何やら妹さんのリヴァさんとはぐれてしまいました偶然通り掛かったシヴァさんに事情を全て話した。

 

「私はお兄様の力になりたくて今まで努力してきたのに…。元々何でも出来るお兄様とお姉様には敵わないし、どうせ私の気持ちも理解してはもらえないんですよ…」

「…本当にそうでしょうか?」

「え?」

 

「残念ながらまだお会いしたことがないので葵様の事はわかりませんが、少なくともマスターはどちらかと言えば凡人ですよ。確かにマスターは強いですが私達王の剣のメンバーそれぞれ得意分野では私達の敵ではありません。しかし、それでもマスターは私達より強い。なぜだと思います?」

「…特殊能力があるから、ですか?」

「そうですね。確かにそれもありますけど、今は正解ではありません。マスターの強さたる所以は集中力にあります」

「集中力?」

 

「はい。マスターの集中力は最早常人の域ではありません。私がどれだけ高速で斬りかかろうと、ラムがどれだけ高速な突きをはなとうと、イフがどれだけ正確に矢を射ろうとマスターには当たりません。マスターの集中力で全て見切られてしまいます。マスターが何でもそつなくこなせるのはその集中力があってこそ。集中して取り組む事で物事のコツや本質を見極めているんですよ」

「そんなことって…!?」

 

言葉にすると簡単に思えるけど、

 

ただ人が集中すると言ってもたかが知れている。

 

まず今の話と同じ事など出来やしないだろう。

 

「でもそれだと余計凡人ではないんじゃ…」

「それが産まれ持った才能でしたらね…。マスターのあれは私達の想像もつかない程の努力の結果です。自分の人生をかけてまで努力して身につけたマスターだけの力。マスターがそこまでするのは国民や本来マスターを守る立場に私達まで、そしてなにより奏様達家族を守る為、ただそれだけなんですよ。相当な意思と覚悟がないとそこまで出来るものではありません」

「…お兄ちゃんが、そこまで…!?」

 

お兄ちゃんが私達の為に努力してきてくれていた事は知っていた。

 

けど、それがそんなにも凄いことだったなんて…。

 

わかった気になっていたのは私だった。

 

「シヴァさん、ありがとうございます。貴重なお話が聞けました」

「…いえ、お力になれたのならよかったです。奏様は、マスターの考えていることがわからないと仰っていましたが、ご一緒している私達もマスターのお考えは把握しかねますし、ましてや、双子の妹の考えていることですら全てわからないんですよ?」

 

ふふ、と笑うシヴァさんにつられて自分も笑みが溢れる。

「やっと笑顔になられましたね」

「え?」

「先日の警護任務の際にマスターが話してました。奏様は普段の作り笑いではなく、素の笑顔がとても魅力的で可愛いと」

「なっ!?あの人はほんとに…!//////」

 

よくもまぁ平気でそんな恥ずかしい事を…!

 

「それと怒った時の黒い笑みは恐ろしいから気をつけろと…」

 

はい死刑。

 

またO・H・A・N・A・S・I が必要なようね。

 

ふふふ。

 

 

それでも、お兄ちゃんが私や私達の事をそこまで思ってくれてたり、話したりしていてくれたのは嬉しかったな…。

 

だから今回は許してあげよう。

 

その時、

 

「ーーやっと見つけた!」

「え!?」

 

背後から声がして振り返るとそこには、

 

「お兄ちゃん!?」

「おう!迎えに来たぞ!」

「はじめまして奏ちゃん!私はリヴァ!お姉ちゃんがお世話になりました!」

「いなくなったのはあなたでしょ…」

 

お兄ちゃんとリヴァさんが立っていた。

 

 

「奏でが世話になったねシヴァ」

「いえ、少しお話をしていただですよ。では私達はこれでーー」

 

そう言って私達にお辞儀をしてリヴァさんを連れて立ち去ろうとするシヴァさん。

 

「シヴァさん!本当にありがとうございました!良ければ今度ゆっくりお茶しに行きませんか?」

「ええ、喜んで。楽しみにしておきますね」

 

「よかったな奏」

 

そう言って私の頭を撫でてくれるお兄ちゃん。

 

「うん!」

 

 

そして、お兄ちゃんは真剣な顔つきになり、

 

「…奏、話がある…」

「…うん」

 

それから全てを聞いた。

 

6年前何があったのか、お兄ちゃんが犯した罪をーー

 

「ーー俺は人を殺した。理由はどうあれその事実は変わらない。それが俺に資格がないという理由。そして、俺に王になる気がないのは、王になると守られる立場になってしまうから。王は何があっても最後まで国を導かなくちゃならない。けど俺はそんな王や国民や奏、家族を守りたいんだよ。だからその為には国王は狭すぎる」

 

全てを知った私は、許せなかった…。

 

お兄ちゃんや姉さん、修ちゃんまでも私達兄弟に黙っていた。

 

その事が許せないんじゃない。

 

そんなツラい事実も何も知らずに、1人ムキになったあげく、お兄ちゃんに酷いことを言った自分に無性に腹がたった。

 

 

「ごめんな、奏。いままで黙ってて…」

「ううん。私の方こそごめんなさい。あんな酷いこと言っちゃって…」

「いいよ、事実だし…」

「じゃあどうしてそんな不安そうな顔してるの?」

「いや、俺が人殺しだと知って嫌われたり怖がられたりするんじゃないかと…」

 

そう言って気まずそうに頬をかくお兄ちゃん。

 

はぁ…何を言い出すかと思えば…。

 

「そんなわけないでしょ!私達は家族よ!何があっても家族の味方!それをいつも体現してるのはお兄ちゃんでしょ?」

「そうだけど…」

「だったら何も気にしなくていいの!そりゃ驚きはしたけど、お兄ちゃんはお兄ちゃんでしょ?それは変わらないわ!お兄ちゃんが王様になりたくないのはわかったわ。なら私が王様になってお兄ちゃんをこき使ってやるんだから!」

「ははっ、程々に頼むよ」

 

「まあ?お兄ちゃんは修ちゃんを王様にしたいんでしょうけど?」

「え!?なんでそれを…!?」

「だって年末のゲームでポイント譲渡してたでしょ?あれは最下位への情けだけじゃないんでしょ?」

「そ、それは…」

「まあいいわ。理由は聞かない。…けど私は負けるつもりはないわよ!姉さんにも修ちゃんにも!私が王様になったらなったでやりたい事がないわけじゃなかったの!これで迷いなく国王選挙に挑めるわ!」

「そうか。一応言っておくけど、俺は皆の味方だよ。だから頑張れ!」

「ええ!…けど1つだけ約束して。王様じゃなく私達を守る立場になろうとしてくれているのはわかったけど、自分1人を犠牲にしてまたどこかへ行くような真似は絶対にしないで…。もうあんな思いはしたくないの…。だからお願い。せめて一言、相談だけでもーー」

「ーーわかったよ。ごめんな奏。色々心配かけたね」

 

私の言葉を遮りつつ、お兄ちゃんは私を抱きしめ私の頭を撫でた。

 

「…うぅ、ばかぁぁあ!」

 

いままで抑えていた感情が一気に解けた気がした…。

 

 

ーーーーーー

 

「ーーそういえば、お兄ちゃんありがとう!」

 

あれからしばらくして、泣きやんだ奏と一緒に当初の目的通り街に繰り出すことにした。

 

「え?なにが?」

「さっき、私を探しに来てくれたんでしょ?」

「あー。当たり前だ!大切な妹をほおっておけるか!」

「ふふっ、そっか!そういう所、大好きだよお兄ちゃん!」

 

珍しく外で甘えて腕を組んでくる奏。

 

「もちろん人が来たら離しますよお兄様!」

 

抜け目のない子だ。

 

けど、そこが可愛くもあるんだよなーー

 




次回は待ちに待った奏とお出かけ回です!

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